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― 病院の屋上 ―
潮風、きっついなあ
[風に靡く髪をうるさそうに払う。風は冷たく、それでも此処から見える景色は]
シキ、あんたもここからの眺め、好きだった?
[素晴らしく。
妹に会うことのなかった姉は、けして妹が見ることのなかった景色を、眩しそうに眺めていた]
531号室
[病棟の一室。その窓は暗い緑のカーテンで閉め切られ、其処から海が見える事はなかった。ただ、気配ばかりは何処かから滲み侵入してきているようだった。
それを拾うかのように、窓際にある机には花瓶ではなく丸い金魚鉢が置かれ、中には水の代わりに色取り取りの貝殻が半ば程まで詰め込まれていた]
……
[その窓際に、顔を向ける者が一人あった。ベッドの端に腰掛けたその者は、入院着の上に黒いカーディガンを羽織り、更に薄い緑のマフラーを口の上まで巻いていた。更には濃い緑の帽子を被り]
[サングラスをかけて、目元を覆っていた。
漆黒のレンズはその瞳を完全に覆い隠していた。間近で覗き込みでもしなければ、窺える事はないだろう。
その姿は小柄で、一見少年とも思える様だったが、帽子の端から零れる黒い髪には白が混じっていた]
…… ああ、
[吐息めいた声を漏らし、頭を振るように――男は窓際から顔を逸らした。次にベッドの周囲を、壁一面を、順に見ていった。
ベッドの周囲にはイーゼルが幾つも立てられていた。乗せられたキャンバスに描かれた絵は様々だったが、全て過ぎる程に色鮮やかだという点と、全て人を描いた物であるという点が共通していた。
ベッドのサイドテーブルや床には点々と、白いキャンバスや種々の画材が置かれていて]
[壁には額縁に入れられた絵が幾つかと、紙に描かれた絵が数多く、飾られていた。それらもまた、同じ共通点を持っていた。
極彩色。人の姿。
描かれた人々は、皆、目がなかった。そして皆、笑っていた]
……、ああ。
[それらを一瞥してから、男はベッドのシーツに潜り込んだ。帽子を顔の上に置き――やがて、静かな寝息を*立て始めた*]
病院表口
また、来ちゃった
[友達の家に来たみたいな、そんな軽い口調で少女は笑った。薄青のマフラーを取れば、その首はいかにも寒々しく。出迎えた顔見知りの看護士に無理やり巻きなおされた]
うん…風、強いもんね
[おとなしく頷いて、緑色のトランクを引いてエレベーターへと向かう]
うん、うん
今度はそう…どれくらいかな。聞いてないや
[トランク曳いて、学校行って。
またね、って手を振って。
学生鞄は肩にかけてそのまま病院へ来た]
トランクがおっきい?
うーん、ゲームは飽きるから今度は本にしてみたんだ
[笑い声交じりの会話。顔見知りの警備員にもやはり手を振って。少女――と呼ぶには背の高い、それでも女ではない彼女は、スカートを翻して病室へと*向かう*]
[女は一人、柵に背中を預けて煙草をふかしていた。
職員に見つかって追い出されるまで、その足元には吸殻がひとつ、ふたつ、*増えていく*]
314号室・小児科病棟
…退屈。
[白いカーテンに囲まれたベッドの上。
北風が窓を揺らす音を数えるのにも飽きて、糸井千夏乃は長く垂らした三つ編みの先をくるくるともてあそびながら、小さな溜息をついた。]
[最初は検査だけのはずだった。
一泊が一週間に、一週間がひと月になり、気がつけばもう半年が過ぎようとしている。]
『大丈夫よ。もうすぐ、帰れるから』
[両親も主治医も看護師たちも、そう繰り返すだけ。
困ったものだ。もう十四になるというのに、まだ子供扱いしかしてもらえない。
薬の量は日毎に増え、身体が徐々に弱っていく。それは目に見える変化だったし、何より、自分自身がひしひしとそれを感じる。それでも、大人たちは千夏乃が何も知らない子供なのだと信じている。…いや、そう思いたいだけ、なのかも*知れない*。]
――ラウンジ――
[緑の隙間から海を覗き見ることのできるラウンジが、そこにはあった。
潮風は木々の隙間を通り、ガラスに吹き付ける。硝子戸を開けばその風を一身に受けることはできたが、ラウンジの椅子に座る老婆はすっかり腰を落ち着けていた。病棟にて割り振られた部屋よりもよほど居心地がいいか、彼女は鼻歌交じりに古びた指で持つ針を遊ばせていた。]
ン、ン――…… あぁおい、 目をした
おにんぎょ は、
[節をつけて動かす針の脇にあるセルロイド人形は、さして青くもない目をじっとガラス向こうに投げていた。
老婆の気まぐれな歌は途切れ、同じ個所を繰り返し、行き着く先も見当たらない轍の中で円を描く。
ふと潮風以外に鼓膜に触れる声を聴き、老婆は手を止めた。黒い布に縫い止まった針をそのままに、陽光反射する海へ目を細め]
きっと、
ウミを見過ぎちゃったからだぁねえ**
─ 病室 ─
[ほぼ白一色の部屋。
壮年と初老の半ばあたりのような男は微睡んでいる。
ベッドの上、男の枕の横の方には、装丁も頁もうっすらセピア色になった一冊の本がある。]**
とある病室
[医療機器がかすかな電子音を奏でる中、目前の女性は患者の手を握り締めて嗚咽を堪えていた。
死亡確認。脈を取り、瞳孔を確認する。
薄く唇を開いて言葉を発しようとした瞬間、胸の奥が圧迫されるような苦しさを、覚えた。]
――ご臨終、…です。
[寝台に横たわる人物が、患者から、遺体へと変化したことを告げると、女性は震えながら泣き崩れた。
額に薄らと浮く脂汗を拭う暇無くペンライトをポケットへ戻す。
重苦しい空気が肌へと纏わりつく中、新米の医師は病室を後にした。
その足取りは、酷く重かった。]
─ 屋上 ─
おや、先客が居たんだね…
[紫煙を燻らせながら、ゆるりと柵にもたれ掛かって居る女性を見つけ彼女は微笑んだ。]
病院とはどうも堅っ苦しくてしょうがないねぇ…煙草ぐらい好きに吸わせてくれればいいのに…
[彼女は誰に言うでもなく、一人呟くように。そして煙草入れから一本取り出すとゆっくりと火を付けた。]
ああ、堪らないねぇ…
[煙草は医者に止められていた。それもその筈、彼女は昨年の夏に片肺を摘出していたのである。
__病名は、肺癌。
それ以来、彼女は一切の喫煙を禁止されている。…いや、正確には禁止されていた。]
まあ、今更後悔なんざしちゃいないがね…
[自嘲とも取れる笑みを浮かべながら、彼女はゆっくりと紫煙を*燻らせた*]
廊下
[無機質な自己の靴音が廊下に木霊する。
まただ、また…、死んだ。
自分が受け持つ患者ばかり…、術後の容態は落ち着いているのに月日が経過すると共に病状が悪化し、手を尽くしても帰らぬ人となる。これでもう4度目だった。
悔しい、とも、哀しい、ともつかぬこの感情を抱えるまま、次第に早足で人気のない廊下の窓辺で蟀谷を押えて深呼吸する。]
……もう、――…、
[限界だ、そう口に出そうとした言葉は直前で、掻き消えた。
音として発する事すら許されないと感じた、からかもしれない。]
[緩く視線を持ち上げて窓の向こうをじっと、見つめる。
きらきらと瞬く海面を眺めることで、不思議と胸の苦しさが緩和されていくようで、ちいさく安堵の吐息を*漏らした*]
[…そういえば、こうして海を眺めるなんて、いつ以来だったろうか。一二三は潮風に吹かれながら、ぼうっと思い出す。
しかしどう頭を捻っても、思い出されることは仕事、仕事、仕事。それも取引先に頭を下げる、嫌な思い出だけしか蘇ってこなかった。]
…ははっ、なんてこったい…意外にあたしの人生って、薄っぺらいんだね…
[一二三はくっくっ、と口の端から煙と共に息を吐き出し、眼前に広がる海原を*見渡した*]
今日は隣、静かだな。
ね?昨日は騒がしかったよね?
[沢渡千夏乃は、枕元の羊の縫いぐるみに話しかけた。
小学校に上がった年、両親から誕生日に貰った縫いぐるみ。まんまるでふわふわの羊は、今でも抱えていないと眠れないほどの、彼女のお気に入りだ。]
『千夏乃ちゃん。お昼ですよう。
今日のデザートは小児科名物、こだわり卵のとろけるプリン!』
[病室の扉ががらりと開いて、顔を覗かせたのは小児科の新人看護師。いつも元気で、患児たちからはおねえさん、と慕われている。]
わあ。ほんと?やったあ。
[味気ない病院食では、デザートが何よりの楽しみだ。
幸い今日は体調も良いから、そのやわらかな甘味を存分に楽しめる。]
…ねえ、おねえさん。
お隣、昨日はずいぶん騒がしかったけど、何かあったの?
[千夏乃がぽつりともらした一言に、新人看護師は一瞬、視線を泳がせた。]
『……おとなり?
ああ、何でもないのよ。心配することないわ。ちょっとだけ、具合がよくなくてね、でもすぐに先生がきてくれたし、もう、大丈夫』
[彼女の笑顔は少し、ひきつっている。
嘘が下手だな、と、千夏乃は思ったが、それは顔には*出さずに*。]
―病室―
[窓から海を眺める。…静かだ。特に代わりのない一日。
将来の女子バレーボール界を背負って立つと言われ、
インターハイでチームを牽引し準優勝を経験して、いよいよこれからという時期、風邪を引いて暫く寝込み、
熱がなかなか下がらなかったので意を決して病院に行ってみたら、
急性骨髄性白血病と診断され、即入院。]
早くコートに、戻りたい…。
[海を眺めながらそう呟いた。]
[扉の開いた音に、慌てて吸殻を踏み消した。携帯灰皿を持っていることを思い出したのは今。遅すぎる、が]
……お仲間か、いや
患者、ですか
[潮風のせいではなく、薄暗い顔色。うまそうに煙草を銜える時は表情が明るく見えた。
彼女の呟きには応えず、やはりただ、海を眺めている*]
[ふと、先客の足元に転がる吸殻に目が向かう。それは然程吸われてはいなかった。]
……。
(…これはお邪魔したかねぇ。)
[ 一二三は少し申し訳なさそうに目線を下げる。
先客の女性はこの病院の住人かどうかまでは分からない。しかし一服の時間を奪ってしまったのは事実だった。
一二三は少し罰の悪そうに、燻らす煙草を携帯灰皿に押し付け、病室へと*戻って行った*]
中庭
[遠く向こうより、海の香がする。
ここからは見えないけれど、きっと高い所に行けば知る事が出来るのだろう。
その色は果たして、煌いているのか、それとも鉛の色をしているのか。
無意識のうちに、潮風を胸に吸い込み。
喉を震わせて、音を紡ぐ。
それは幼い頃より繰り返し歌い身体に染み付いた、神を称える為の歌。]
[その歌声は、誰かに聞かせる為のものだろうか。
分からない。
ただの自己満足なのだろうか。
分からない。
それでも彼女は、毎日この場所へと通う。
少し前まで自分自身も入院していた病院へ。
子供にせがまれ、老人に頼まれ、あるいは今こうしてるように誰に言われずとも。]
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