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[狭い路地裏の木間から見える高い隙間、ふと顔を上げれば赤黒く曇る空に、遠い羽ばたきを見つけ。]
人間、じゃネェやつか。
……まア、さして珍しくもネェか。
[ふん、と息を吐いて。
ひび割れたコンクリートを踏みしめ、ゆっくりとした歩みを止める事は無く**]
― 路地 ―
[一度店へと戻れば、仕事用の道具を詰めた荷を抱え、再び外へ。
頼まれ事は、明確な依頼で無くとも一応は調べておくかと、話題の場所へと足を向ける。]
……あン?
[通り抜ける路地の影に、見知らぬ黒い帽子>>3。
眠っているようではあるが、無造作にもほどがある。
死体にも見えないと、殺気を向けるではなく単に睨みつけるも、眠っているのならば気付かれないか、あるいは。]
旅人カ……命知らずカ、自信家カ。
この辺りハ物騒モ多い、気をつけることダナ。
[目深な帽子が上がる事はあっただろうか。
今は仕事を優先するも、何か返る声があれば話くらいはしただろう。]
― イケニエの祭壇近く ―
[祈る弱者に、単なる野次馬に、あるいは宗教じみた白装束に。
その周囲には、普段とは比べ物にならないほどの多くがざわめいているか。とはいえ、人気さえ疎らな常よりも、というだけで然程多いとも言えない人数。
その中に情報屋は紛れ、周囲から聞こえる声を拾う。]
……バカバカし過ぎテ反吐が出るゼ。
[ぽつりと落とすのは、あまりに滑稽なイケニエと宗教論について。
一度その近辺から離れると、まだ高さをある程度保つビルの階段を登る。
天井がすっかり消えた最上階、真上は羽ばたきが在れば直ぐに見つけられる、赤く濁る空。
粗末ながらも多少の効果を期待できる集音器と双眼鏡を構え、祭壇を伺って]
……ハハッ、あのネーさんは派手だねエ。
[飛び散る飛沫に染まった白に、苦笑した。]
― 祭壇近くのビル最上階 ―
[望遠鏡に覗く鮮やかな手際に、小さく小さく口笛を鳴らす。]
ネーさん流石、伊達に女だてらアンナ商売してネェナ。
ヤルゥ。
[人の多い箇所を通る時には見失いそうになるも、触れ合い離れ、崩れ落ちなかった方だと分かれば視線が追いつくのは容易だった。]
このまま、マジで白装束全滅させンじゃネェ?
[一人の賞金稼ぎが大量に殺しまわるのを、こちらは蚊帳の外から、愉しげに見物するのみ。]
……良い子?
[突如間近に響いた女の声に、肩が驚き跳ねになるのを堪える。
硬い声で一つの単語だけを繰り返し、出来るだけゆっくりと振り返ろうとする。
その顔を確認する事ができれば、相手が顔を見知る人物ある事を知れるだろう。
最も、相手がこちらを覚えているかどうかは分からない程度の関係性ではあるが。]
クナイか。そりゃおっかネェが……
覗き見が俺ノ仕事なんでネ。
ネーさんだって、覗き見にここニ居るんジャないのカイ?
[風がもう一度吹けば、女の身体から、甘い香がふわり漂ってくるのだろう。
嗅ぎ慣れない蠱惑的な甘さが。]
へエ……仕事、ネエ?
[相手は娼婦ではなかったか、それは一面かと。
探りいぶかしむ感情を隠すこと無く、三白眼は女を見やる。
問いかけには、一つ鼻を鳴らすような頷きを。]
見慣れない顔カ、確かに最近多いナ。
理由ハ……しらネェガ。
そこの『儀式』以外に理由ガあるとすれば……
得体の知れない何かガ起こっているのカモな?
[からかうような声音は、そこに興味が無いからだ。
自分に降りかかる火の粉なら、自らの手で振り払えばいいだけだと、思っているから。]
知るカ。良い女に興味はネェナ。
[女の嘲笑が鼻に付き、素っ気無い言葉を返す。
ウィンクを向けられ顰めた眉は、帽子の下に隠れるか。
『情報屋でも』の言い方に内心イラつきもあったが、ほぼ休業中のわが身を思えば、それも拙く隠して。]
じゃあネーさんも、アッチのネーさんみたく、余所者を捻って行ってみるカイ?
[ゆるく視線を向ける地上、サーディの通った後には幾つもの動かぬモノが残される。]
ふぅン……?
苦手なくせニ、気配を消すノは上手いノナ?
[女らしさばかりの指先を眺め、先ほどの彼女の登場を思い出して問う。]
ジャ、そう言うネーさんは、一体何ガ得意なんダイ?
……坊や、ネェ?
[冗談には肩を竦めるだけ。
手を振る先に見える姿を、横目に確認しながら、この女も気配を探る事は出来ていると、先からのやり取りも含め内心警戒すべき人間に格上げて。]
こんなボロビルの上で仕事タァ、お気の毒ニ。
[別れの挨拶は同じように翻す、こちらは合皮の指ぬきグローブをはめた手。
視線を上げれば、白い羽ばたきが見えて。
それはまるで、もしかしたら正しくも、祭壇での儀式を待つ天の使いのようでもあった。
赤黒い曇天に映える、白。
ここからならば、声を張り上げれば届く程度の距離か、けれどそんな事をする理由も無く。
一つの荷物を抱え、半分瓦礫に埋まる階段を降りていく。]
……おうオゥ、こリャまた、ド派手な演出デ。
[爆発音が聞こえるのは、ビルから出る頃合か。
ざわめく群集の端、弾かれない程度の隙間に入り、悲鳴向く方へと視界を絞る視線を向ける。
暴動だ、だの、神がお怒りに、だの、どうでもいい叫びが使徒たちの合間に、波のように伝染していくのを眺め。]
巻き込まれナイ程度に見物したら帰るカ。
[布袋を肩に背負い、一つ息を吐く。]
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