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え?いや...
[弁償します、という言葉に、目をぱちくりと瞬く。
ぶつかったのが相手のせいとは全く思っていなかったし、そもそも鞄を落としたのは自分の不注意だ。
と、口にしようとして]
[同じ人ですか、という問い掛けは、彼女も多分何が現実なのか解らなくなっている証拠のように思える。
曖昧に笑う顔も、なんだか不安そうで]
[頭を落ち着かせようと、大きく息を吸った]
なんだかまだ判らないけど、とりあえず、一緒になんかに巻き込まれたのは確かみたいだから、せめて自己紹介くらいはしときます。
冬木雪人、25歳。
えーと...いちおうモノカキ、です。
[最後の言葉に苦笑が混じるのは、名前だけで解ってもらえるほど有名じゃないと自分でも知っているのと、今の自分が小説家と名乗れるのか微妙だからだ]
とりあえずじっとしてても寒いだけだし...他に人がいないか、探してみますか?
[『たからもの』という言葉には見当もつかなかったので、雪のちらつく空を見上げて、そう提案してみる。
そういえば、新人賞を貰った小説は雪に閉ざされた国の物語だったよなあ、とか、どうでもいいことが頭を過る。ちなみにタイトルは『雪の花と氷の剣』という......当時は正統派ファンタジーという評価だった]
[正統派というのは、要は何の捻りもない、という意味でもあって...そこが今のスランプの原因のひとつでもあるわけだけれど]
(......俺の脳がこんな突拍子も無い幻覚思いつけるなら逆に嬉しいかも......)
[そんな考えが浮かんで、ひっそり落ち込んだ**]
[名前と年齢を一緒に名乗ってしまうのは、良く年齢不詳呼ばわりされるからだったが、相手の名乗りを受けて、ちょっとしまったという顔になった。
結果的に女性に年齢聞くのと同じになってしまったようだ。
とはいえ、それを今更謝るのも却って気まずい]
七咲さんですね、とりあえずよろしくお願いします、でいいのかな。
[だから気にしないふりで笑っておいた]
や、別に凄くないです。あんま売れてないし。
ペンネームはつけてないんです。ほら、俺の名前、割と覚えやすいから。
[冬に、雪、賞をとった小説を出版する時、小説のタイトルとも被ってるからそのまま行きましょうと編集者に言われて結局そうしたのだ。
ある意味何も考えなかった結果とも言える]
そうですね、なんか...さっきまでとは周りの様子も違うし。
[出て来たはずのファミレスの方向を見ても、それらしい灯りが見えない。全然違う街に来てしまったという雰囲気だ]
あっちが駅、かな?
[遠く駅舎らしいものが見える、人の気配もするような気がした]
駅前なら入れる店とかあるかもしれないですね、行ってみますか?*
[覚えやすい名前は忘れられやすくもあって、実を言えばファンレターやファンメールですら『冬花雪人様』だの『冬木雪花様』だのという宛名で来ることもままあった。
ちなみに後者を書いてくる相手は大抵性別も間違えているというオマケつき。
そんな手紙やメールにしても、最近は、とんとご無沙汰ではあったが]
難しい話は、頭悪いんで書けないんです。
ファンタジーなんて、読みます?
[読んでみたい、は社交辞令だとしても、話のとっかかりとしては悪く無い。ので、そんな風に乗っかりながら、駅と思われる方へと一緒に歩き出す]
...やっぱりなんか普通じゃないなあ。
[途中の道に通行人や走る車が全然居ない]
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