― アン・シティ/大通り ―
[夕日に追われるように歩く。
向かう先はターミナル駅]
ハロー
どう? 『大福』は撒けた?
[スマホの呼び出しに応えると、一声目にそう訪ねる]
あら、撒く前に?
そう? ……ザ・オーナーかスリーピングキャットが動いたかしらね。手間が省けて良かったけど。
[口元に隠しきれない笑みが浮かぶ]
大丈夫よ。
しばらくは時間稼げるでしょう。後処理お願いね。
[ちゅ、と。スマホに向かって投げキッスすると、通話をオフ]
― 夜行列車 ―
[トゥ・シティへ向かう夜行列車。
個室の窓から外を覗く]
永遠に追い続けるのかしらね……こうやって。
[視線の先には遠く、ミル・シティがある。
それは鳩の帰巣本能のように、ぴたりと、わかるのだ]
[鼻歌、スマホの着信音と同じ、有名なアリア。
女の腕には、その細さに似合わない男物の時計。常から綺麗な物が好きと豪語する女の趣味とも違う、無骨な傷だらけのそれ。
無意識に指で文字盤のガラスを撫でながら、女は歌う、上機嫌に]
[明け方]
……『悪党のために警察があるなんて思い上がり』
[窓のそとに飛ぶ影をみて、呟く。
それは、旅する鳥だったか、餌を求めて彷徨う鳥だったか、白かったか、黒かったか、解らなかった。
行く先を見れば、ドゥ・シティが見えてきた*]
それとも。
[列車移動を好む自分をお呼びだろうか。
だとすればそれは十分に警戒に値する]
プロフェッサーがやっているってことも、ありえるけどね。
[どちらにしても、暗号は流れた。
わかるものには解るだろうし、知りたい者は知ろうとするだろう]
呼ばれているなら、行かなくちゃね。
[仲間であれば向かうのは当然のことだ。
観光客然とした大きな鞄はお気に入りのブランド品。スマホを取り出すとアドレスを開きながら、改札をくぐる]
― 古いホテルの一室 ―
[ホテルスタッフの格好をして、廊下を歩く。
持参するのは大福だ。駅の観光案内所で大福の有名なお店をきいて、寄ってきた。
すでに、みんな揃っているのか。
それとも誰もいないのか。
それを調べる時間はなかったが、あまり遅れる訳にもいかない。ドアをノックする]
お客様、サービスです。
あら、遅かったかしら?
[既に届けられたらしい大福を見て瞬きをすれば、ウミの期待を裏切ったことは伝わるだろう]
女は化けるものよ。
どんな姿にも、どんなものにも。
[途切れて終わった言葉に口角をつり上げて笑う。
招かれるままに部屋に入り込んだ]
囮。
……おじいさまが?
[協力するべき。
そんな台詞に形だけ頷いていたが、続いた言葉には、さすがに相手の顔をまじまじと見てしまった]
一体どういう風の吹き回し?
まだ、囮にするべき相手はいるのではなくて?
[一歩、相手へと歩み寄る]
確かに……
[潜入も、格闘も、この老人よりは自分の方が優れているのかもしれない。囮になるということが、イコール捕まって終わるという事でもないかもしれない]
けれど、この男はスリーピングキャッツ。
いつでも寝ている、否、寝たふりの上手な大悪党]
おじいさま。
警察でなにかやることでも?
[僅かに目を細めて、首を傾ぐ]