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帰りたい。どうだろう。
どこかへ行こうとはしていた筈なんだよ。
どこへ行こうとしていたのか、思い出せなくてね。
帰ろうとしていた、のかな?
[ソラの問いに、取りこぼされたチョークを目で追いつつ、疑問形で返し]
帽子屋じゃないよ。
だからさ……言ってるじゃないか。
オレ、駿河の羊羹問屋の若旦那だって……。
……フユキさんは道がわかるといいね。
[なぜかよわよわしく告げて、視線は広間の入り口を*向いたまま*]
あたしが連れて行ってあげましょうか?
[フユキの目を見つめて、ふっと笑う。
白墨に汚れたままの指先を、男の口角に押し当てて、ぐっと横に引いた]
どこへ。
[自嘲するような笑みを浮かべ、窓際へ*近づいた*]
ああ。わかるといい、のかな。
[レンの弱い言葉に、こちらも曖昧に答え。ソラに見つめられると少し黙り――口角に押し当て引かれた指先に、幾分驚いたように瞬く]
……
[その跡に、軽く指先で触れ]
……どこに?
[空に問いかけるように独りごち。
卓の傍に正座して、束からノートと筆入れを、筆入れから一本の鉛筆を取り出し]
[ぱちり、と目を覚ます。
そこは、日本家屋の広間]
……ああ、夢。
[それは羊羹の原材料を読み上げていた時
最後に書かれていた文字。
ふと周囲に顔を向ける。
見慣れた黒板、ゆらめく蝋燭が並ぶ戸棚
目の前に餅肌の姿が見えれば]
おはよう。
[お茶を入れ、*飲み始める*]
[三人のやりとりを聞きながら、蝋燭を眺めたまま考え事をしています]
これ、吹き消したらどうなるのかな。
お誕生ケーキの蝋燭と同じ。
[トッピングがあると切り分けられないというリウの言葉をなぜか思い出しました]
・・・消さないとケーキは切り分けられない。
[ぽつりと呟いて、黒板の赤い文字を見ています]
血文字みたい。
[暫し解読を試みて、あきらめたように首を横に振りました。
フユキの視線を追って窓の外に目を遣ると]
煙。火事?
[窓を少し開けて確認するように顔を出しただけで、すぐ閉めました*]
センセー! センセー!
全く何処へ行ったんですか…。
[がさがさ。
夕暮れ時の森をさまよう]
あ、あそこに家の明かりが!
すみませーん! 大沢家政婦紹介のものですが…
[なぜか手に羊羹の載った皿を持ったまま、
日本家屋の扉を叩いた。]
羊羹が8切。一人1個だと余るよ?
[羊羹をひとつ取り、レンが指差した方向を見てにこりと笑います]
みんなで駿河に行って、羊羹作りの職人さんにでも弟子入りするの?
作った端からつまみ食いしたら破門になっちゃう。
…うん、やっぱり私は行かない。
お母さんが帰ってきた時に、私が居なくなってたら困ると思うから。
[少し悲しそうな顔で言いました*]
[勝手に扉を開けて中に入る。
なんとなく此処に来たような記憶がした。]
ところで私は、何故羊羹を持っているのでしょう?
[手には大事そうに持つ、皿に入った羊羹が一切れ。]
駿河不人気だ!
──そっか。行かなくていいのか。
[なぜか嬉しそうににこにこと笑いながら、栗蒸し羊羹を取り出して並べる]
ささ、食べて食べて。
羊羹は美味しいんだから。
[辺りを見回して、満面の笑み。
懐の中の羊羹は、あと*(06)本*]
―屋外―
[いつの間にやら、二人がいたはずの場所にしゃがみ込み、恋するような面持ちで地面を見つめている]
どこに行っちゃったんだろう?
[蝋燭も線香も死臭も、*跡形もない*]
[中に入ってきたテンマに気づけばふかぶかとお辞儀]
いらっしゃいませ、家政婦さん。
……食べるため?
[羊羹の乗った皿を不思議そうに見やる]
[深々とお辞儀をするリウに気付くと、此方も深々とお辞儀をし]
いらっしゃいました。えーと、若女将?
[ふとそんな言葉が頭を過ぎり]
やはり食べるためでしょうかねぇ。
でも一体何処で手に入れたのやら…。
[センセーに食べさせるため?
いや、センセーは犬だから甘いものは
控えていただかないと]
[レンの笑顔に府に落ちないものを感じながらも、出された羊羹を食べています。
黒板の赤い文字をじっと見てぽんと手を叩くと]
リウは 消えてしまった
帽子屋に てもとを
見てもらいなよ アジツケノリ
・・・かな。
[帽子屋と味付け海苔の相関性を説明できずにいます]
[地面を見つめているソラの後ろにゆっくりと近づき]
お姉ちゃん、捜し物?
手伝うよ。大事な物なの?
[ソラに倣って地面に目を*遣りました*]
羊羹は食べるために有るねー。
美味しいものだよ。
何か、探してるの?
意外と近くにあるかもしれないよ。
青い鳥みたいに。目が覚めたらすぐ隣に。
[美味しそうに羊羹を*ぱくり*]
本当?ありがとう。
探しているのは、そうね……。
[手近の薄い石を手にして、地面を掘り起こし始めた]
『居場所』かなぁ。
[やがて、石は硬いものを掘り当てる。
土を払うと現れるのは*赤いフレーム*]
蝋燭を消したら……
その分暗くなるんじゃないかな?
[顔を上げる。ルリの疑問に、当たり前とも聞こえる言葉を。羊羹の切れ端を一つ摘み]
駿河、か。
羊羹は美味しいね。
魚も美味しいかな。
肉はどうだろう。
蝋燭の火は消えるものだからね。
消えてもたいした事にはならないのかも
しれない かな。
[男の言葉は、独り言のように、単語の羅列のように、何かの切れ端のように。どこか、曖昧で]
ないね。何も。
私はどこに行こうとしていたんだったかな。
私は何を目的としていたのだろう。
私は何がわからないのだろう。
わからなすぎてわからないね。
ただ私が私だろうという事はわかるんだよ。
それさえも、不確かだけれど。
ああ、でも、一つ確かなのは――
[どこを見るでもなく、ぼんやりと。
眼鏡のブリッジを指先で押さえ]
駿河伏見屋の羊羹は天下一品だよ。
魚もおいしいし……肉は、どうだろう?
居場所はここじゃダメか……な?
[正座していた足をだらりとのばす]
醒める。醒めたら否応なしに朝が始まるんだ。
夢なんか覚えている暇が無いくらいに。
まあ、魚でもいいね。
醒める。
醒めてしまう、か。醒められる、か。
[開いたままのノートの頁に、視線を下ろす。
先刻書き入れた何らかは、一つ残らず消えていた]
血。
[やがてリウの身体が丸々現れると、じわじわと血が溢れ出た。
自身の跪いていた足元、スカートの裾に染み込んでいく様を、興味深げに観察している]
さかな。小田原の蒲鉾なんてのも有名だけどね。お茶も有名。
一番美味しいのは羊羹なのになぁー。
ソラさんもフユキさんも、頑張るんだね。
[リラックスした様子で]
[地面を掘る音をしばらく聞いていたが、やがておもむろに立ち上がると窓の方に向かい。庭の様子を見、見下ろして]
……ああ。
[小さく、息を吐く]
蝋燭を消すと暗くなるだけ?試してみるから。
[広間にて。
蝋燭を2本手に取り吹き消そうとしています。
それは「レン」と「ソラ」と書かれていたかも知れません]
若女将?
[そうだったような気もするし、違ったような気も]
……きっと、羊羹屋。
世界各国の羊羹が、取り揃えてある。
[なぜかうっとりした目]
そう。存在は、留まることは、できない。
だから、不確定。
世界は、願望。
地球は、七回半。
羊羹は、虎屋。
全ては流れ、移ろい、去っていく。
[立ち上がると、ソラの掘った土やリウや血。
リウの影に暗い色のスーツの端が目に映る。
ルリの目に入るかもしれないけれど、止めることもなく]
女将の細腕繁盛記がバイブル……偽者?
[片眉を一瞬ぴくりと上げる]
電気も消して、蝋燭も消したら、ソラさんの言うように、あの杉が蝋燭みたいに見えるだろうね。
[濃くなった闇の中、遊びに飽きた子どものように突然立ち上がり、窓へ近づく。
背伸びをして広間を覗き込んだ]
おたんじょうびおめでとう。
[窓枠に腕を乗せ、くすくすと笑う]
[窓の外の燭光に目を細め]
ここに居てもお母さん帰ってこないかも知れないし、
本当のお母さんなら、私がどこかに行っても捜しに来てくれるはず。
駿河でも、どこでも。
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