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私に?
[最初に読んでほしいと言われて。
いいのだろうか、と封筒に落としていた顔を上げて。
続けられた言葉に、とくん、とひとつ、心が跳ねた。]
……ありがとう、読んでみるね。
[応えてそっと、封筒を受け取る。
自分のことを思いながら、の意味は読んでみないとわからない。
わからないのに、その言葉に心臓が勝手に反応するから恥ずかしくて。
少しの間、俯いて彼の顔を見ることが出来なかった。]
[その物語は、私の好きなハッピーエンドのファンタジー。
あの雪の世界で起きた、不思議な出来ごとをモチーフにした、王道の冒険譚。
読み終わった後、彼から、幼馴染と結ばれる主人公は彼で、相手は私だと聞いた。
『虹の鍵と青空の螺子』というその物語は今も、当時、家の本棚に唯一あった『雪の花と氷の剣』の隣に大切に並べてられいる。**]
[あの雪の街は夢か幻か、そんな気持ちでいたけれど]
帽子屋さん。
[演奏する人へ向けるには不似合いな単語が*口から零れる*]
[夢中になって一曲弾き終え、は、と短く息を吐く。
久しぶりに感じた想いが何なのか、上手く言葉に出来ずにいたら、いつもよりも拍手が大きく返ってきて]
……へ?
[うっかり惚けた声が出た。
けれど、それはいつもより嬉しく思えたから、ふかぶか、頭を下げて]
さて、今度こそ飯食ってバイト……。
[アンコールにまた今度、と拝んで返し、相棒をしまって。
ふ、と視線を感じた気がして顔を上げた]
……あ、れ?
[帽子屋さん、という呼びかけは届いていなかったから、気がついたのは今初めてだったけど]
……えーと…………三輪さん?
[見覚えの在る姿に、惚けた声が、上がった。**]
[病院からモミジの部屋に帰り、すぐに一人には出来なくて、結局上がり込むことになって…本棚に自分の本があるのを見つけた時は盛大に照れた。
渡した物語はその本の続編だったから、好都合と言えば好都合だったのだけれど]
あの世界は、ほんとに印象強かったからね。出逢ったみんなもなんか個性的だったし。
[登場人物の中に、雪降る世界で出逢った人達の特徴や名前が混ぜ込まれていることは、モミジもすぐに気付いたろうから、そう言って]
この、幼馴染みのヒロインは、モミジさんだよ。判ると、思うけど。
……まさか自分が主人公のモデルになってる小説とか、書く事になるって思わなかったな。
[ヒーローなんて柄じゃないからね、と、巫山戯てみせたけど多分、内心は、やたらと紅くなった顔で判ってしまったろう。
まあそもそも、教え合ったメールや電話での会話では飽き足らず、嫌がられてなさそうなのをいいことに、モミジの風邪が治った後も毎日のように部屋に尋ねていく(ちなみに家事のお手伝い付きである)行動自体で、色々バレバレだった]
そうだ、三輪さんと箔源くん、町で見かけたよ。今度一緒に会いに行こうか?
[デートの誘いに言い訳めいた理由づけが入るあたり、この時点ではまだ自信が無かったわけだが]
― 後日 ―
宝くじ下さい。
[実際にオトハのいる宝くじ売り場に現れた時には、二人で腕を組めるくらいにはなっていたろうか?]
え?100枚?ちょ、いや、まだ稿料入ってないしっ!それは無理ですから!
せめて50枚に...
[そんなすったもんだもあったりしたわけだけれど、それもまた楽しい思い出の一つに加えられていく]
― 後日 ―
すごく綺麗な曲だね、歌詞もなんか染みるなあ。
[バクの演奏を聴きに行った時は、盛大な拍手の後に、そう心からの感想を伝えた]
今度、ちょっと小説の中に使う歌とか、考えるの手伝ってくれないかな?
こう、旋律に乗せる歌って、俺慣れてなくて、感じ出すのが大変なんだよ。
[二作目を書き上げて、スランプの間も見捨てずにいてくれた編集者に渡したら、速攻で次作の依頼が来たので、今はそのアイディアを練るのに忙しくて、そんなことを願ってみる]
[もう前と同じスランプに嵌まる事はないだろう、と、確信していた]
「たからもの」を見つけたからね。
[嬉しそうに言う時の瞳は、いつも、モミジの笑顔に向けられている*]
[雪色に閉ざされた空間での一件の後。
最初にやったのは、昔のバンド仲間へのメールと、それから、実家への電話だった。
父には怒鳴られた。そらもう怒鳴られた。
勢い余って怒鳴り返した。
……同居人が留守にしてて、ほんとに良かった、とは後で思った事なのは余談として]
……とりあえず、さ。
今年は、ばーちゃんちの集まり、顔出す。
他の連中、みんな、これそうなんだろ?
[怒鳴り合いが一段落した……というか、鈍い打撃音の後、交代で出た母に向けて、告げる]
ん、ちょっとあってさ、真白と連絡とる機会あって。
んで、聞いた。
……全員揃うって時に、俺がいかない訳にはいかねーじゃん。
[なんて、冗談めかして笑って、それから]
んで、さ。
その後、もっかい、話聞いてほしいんだ。
俺がやりたい事の話、もーいっかい。
[それでも納得してもらえないなら、本気の縁切りも覚悟の上で告げた言葉に。
母はあっさり、わかったわ、と返してきて。
その後はまあ、近況について色々根掘り葉掘りされて。
同居人不在でよかった、と二度思う事になったのはまた、余談。*]
[出したメールに返った返信は、ひとつ。
後の二つは、届く先がなくなっていた。
そして返って来たひとつには]
……まっさか、だったよなぁ。
[一番最初に、受験だからと離れて行ったベース弾き。
彼からの返信には、色々あって、また音楽を始めようとして、でも行き詰っているのだという愚痴が綴られていた。
だったら、とまた一緒にやるか、と水を向けた。
まあ、こっちも停滞中だけど、という但し書きもついてはいたけれど]
[そんなメールを返した後、唐突に同居人に泣きつかれた。
この所、バンド内の擦れ違いが酷い、と相談は受けていたけれど。
どうやらそれは、解散という形に落ちついてしまったようで]
……んで、どーするんよ?
『どーするもこーするも。
ドラムとキーボードだけじゃ……』
[言いかけられた言葉はぴたりと止まり。
じい、とお互いを見るだけの空白が生じた]
『……なー。
バっくんはさぁ……』
[言いかけた言葉を遮ったのは、メールの着信。
ちょい待ち、と手で制しつつ開いたそれに綴られていたのは──]
[そんなこんなで、昔の仲間と、最近の知り合いと。
一緒に動き出せそうな取っ掛かりを掴んで、色々と動き出したある日。
いつものように、駅前で路上演奏に勤しんでいた]
曇り空の下彷徨い歩いて
いつも 空回りして
愛想笑いだけ巧くなっていく
自分に呆れてた
ひらり 雪の落ちる街
つめたく冷えていく
だけど諦めないなら
この 熱は消えない
[歌うのは、雪色の街から帰って来た後に書き上げた歌]
ふわり 雪の舞い落ちてくこの街
一人彷徨い歩く
今は迷うだけでもそう いつかは
たどり着いてみせるさ
そう どんなに険しい道でも
立ち止まりはしない
前に進むだけしかできない
それが自分だからさ
[歌うだけ歌い切って。
いつもより多い拍手に面食らっていたら、その主は]
……つか、冬木さん、持ち上げすぎっす。
[いつか、あの街で出会ったひとの一人。
思わず突っ込み飛ばした後の頼まれ事に、きょとん、と瞬いた]
……あー……時間、取れそうならいいですけど。
んでも、俺ので構わないんですかー?
[こてり、と首を傾げて問う。
本とはあんまり縁がない自分ではあったけれど。
偶然、同居人の本棚に冬木の作品を見つけて。
借りて読んだ後、自分でも買った、というのは幾つ目かの余談]
あ、そーだ。
今度、ライブやるんですよ。
よかったら、聴きに来てくださいねー。
勿論、七咲さんも一緒に。
[にぱ、と笑って宣伝一つ。
もし冬木が来たら、同居人は違う意味で舞い上がるだろうなー、なんて。
ちょっと思いながらの笑みは、悪戯っ子のそれだった。*]
…そろそろ、かな。
[部屋にスズランを飾りながら、小さく微笑む。
あれ以来、冬木は殆ど毎日と言ってもいいくらいの頻度で、顔を見せに来てくれている。
もうすっかり風邪も治って元気になったのに、休んでてって、作ってくれるご飯はどれも、とても美味しくて。
改めて、部屋を見回す。
新築ではない1DKのアパート。
一般的な女性の部屋と比べると、かなり質素で、だから散らかっていた訳ではないけれど、今にして思えばやっぱり、綺麗に掃除した状態の部屋を見て欲しかったなって思う。]
[病室で彼から渡された物語のヒロインと現実は全然違う。
モデルは私だと言われて、確かに所々、設定とか特徴は似ていると思ったけれど、正直かなり美化されているように思った。
でも、「美化し過ぎだよ。」って笑ったら、真剣に否定されて。
自分が主人公なことは、柄じゃないなんて言う癖に。
紅い顔で、そんな風に言われて、どう対応していいかわからなくなって、あの時はお互い黙り込んでしまって。]
もう、いい大人なのに。
[思い出して、また笑う。
彼の目を通した見た私は、私が考えていた私と全然違うのかもしれない。
同じように、私が見た彼も。
そして、それは悪い事じゃなくて。
少しずつこうやって、お互いを知っていって。
いつか本当にあの物語のように───。]
[インターホンがなる。
スリッパを鳴らして駆けて、ガチャリとドアを開ける。
立って居る彼を見上げて、いつものように。
私はふわりと笑いかけた。]
*いらっしゃい。*
-後日:喫茶店-
……管理本部、ですか?
[営業担当に問う。
契約終了の予定で進んでいた仕事に、ストップが掛かったと言う。
聞けば、現部署である財務経理部のひとつ上の部署が、引き抜きたいと申し出ているらしい。
どうですか、と意思を確認されるのは、担当が現部署であったことを知っているから。
今回の契約終了は表向きは業務減少による人手過多であったが、本当は私が上司の不興を買ったことにある。
具体的には、たび重なる食事の誘いを断り続けた結果。
そして、こういう会社は法律がどうであれ、未だに多い。]
…少し、考えさせて下さい。
[応えて、席を立つ。
次が決まっていないのだから、首を縦に振って、続ければいいとは思う。
ビジネスライクに。
けれど、このまま、気持ちの無いままでは駄目な気がして。
どこかに、本当に必要として信頼してくれる、信頼出来る、そんな場所があるような気がして。
そんな"甘い"考え、ずっと、しないよう生きてきたけれど。]
……ええ、今、流れてる曲。
綺麗だなって。
[買った花を受け取りながら、駅を見遣る。
通りかかった宝くじ売り場は行列だった。**」
[そんな風に話して連絡先も交換した後ライブに誘われた]
へえ、ライブか。うん、是非行かせてもらう。
モミジさんも一緒に行くよね?
[にこりと、隣のモミジに笑いかける]
楽しみにしてるよ。
[きっとリア充全開だなあ、と思われただろうが、現状気にする訳がなかった*]
よしゃ、んじゃ、ますます気合入れてやんないとなっ!
[あの街で関わりを持った人に聴いてもらえるのは、家族や親戚に聴いてもらえるのとはまた違った嬉しさがある。
だから、それはそれでいい……のだが]
(……つか、すっかりリア充だよなあ)
[傍らの紅葉に話しかける様子に、つい、こんな思考が過ったのは赦されろ。
なんて過るのは止められなかった。**]
[それからまた、色々あって。
色々曰くのあるメンバーで結成されたバンドでの初ライブの日がやって来る]
……えーっと。
それで、次の一曲行く前に。
[不意打ち的に始めた一曲目のあと。
一通り挨拶やらなんやらを終えた所で、表情を改めた]
俺、こうやって歌えるようになる前、色々ヤバってて。
……一歩間違ったら、人生終わってたかも知んないんだよね。
そんなぎりぎりの状態ん時、引っ張ってくれた人がいた。
俺がここにこうやって立ててるのは、ある意味その人のおかげで……。
[とつとつと語る。
あの時、雪色の街にいた面々であれば、話しているのが誰の事かは察しがつくだろう]
……だから。
この一歩を踏み出させてくれた感謝を、ここで叫んどきたい。
[直接届かないのはわかってるけど、言わずにはいられないから]
……随原さん、ありがとーございましたっ!
[全力で叫んで、深々頭下げて。
上げると同時に、次の曲の最初のフレーズを掻き鳴らす]
……ってぇわけで!
今夜はいろんな人への感謝、全力で込めて歌い倒すからっ!
最後まで、お付き合い、よろしくっ!
[宣言に重なるのは、仲間たちの織りなすおと。
そこに、自分の音を重ねて、紡ぎ合わせる。
始めたばっかりの頃、ひたすら楽しかった記憶。
それとよく似た、でも、それとは違う感覚に浸りつつ。
望む先への改めての一歩目を踏み出した。**]
-後日談おまけ:駅前-
…あ、この歌、結人くんだったんだ。
[冬木に連れて来られた路上ライブ。
人だかりの中央に居る結人を見て、呟く。]
こんにちは。
ううん、私も凄く素敵な歌だと思ったよ。
[ライブが終わり、掃けて行く人々の中、結人に話しかけた冬木の後を追うように、同意を示す。
その後、冬木が結人に依頼していることは仕事のことなので、口を挟まず。
二人からライブに誘われれば、勿論、と応えて、微笑んだ。*]
-後日談おまけ2:宝くじ売り場-
…時給□□□□円…
[くじを買う冬木の隣、求人募集の張り紙を眺める。
個人的にこの手の夢に手を出さないのは職業柄というか、そんな余裕はないから、というのも大きい。]
…100枚?
[隣で、聞こえた声に振りかえる。
乙葉はあの街で見たまま、特に変わってないように思えた。]
大丈夫だった?
[50枚で許して?もらったらしい冬木に苦笑する。]
私も、1枚だけ、買ってみようかな。
乙葉さん、1枚だけでも買える?
[尋ねて、鞄から財布を取り出した。*]
[バクに招かれたライブは、十二分に楽しんだ。
いきなり叫ばれた随原の名に目を丸くしたりはしたものの、何となく気持ちは解ったので、モミジと二人、顔を見合わせて笑ったりもして]
ライブ成功おめでとう!すごく楽しかったよ。
随原さんにも、いつか君の曲が届くといいねえ。
[ライブ後には楽屋にバクを尋ねて、そんな風に笑顔で伝える。
その時バクに紹介されたバンド仲間の一人が、やたらに舞い上がった表情でサインを求めて来たので驚いたが]
えー?俺の方がみんなのサインを貰っておきたいくらいだよ。あ、そうだ、交換にしよう!
[バンドが有名になったら、すごいプレミアがつきそうじゃないか?と言いながら、結局、その日のプログラムに全員のサインを貰って帰った]
[そして、ネットの動画サイトにアップされた、その夜のライブ映像が、再生回数上位に食い込み始めた頃]
こんにちは。
[モミジと一緒に、そのペットショップに訪れたのは、偶然だった。
どうしても彼女に会わせろ、と煩い姉妹に根負けして、モミジに頼み込んで姉妹達が集まった実家へ顔見せに連れて行ったその帰り、長姉が「超シブくてイケメンのオーナーがいるペットショップがあるのよ!」と力説していた店を見かけて、前々からの計画を実行するのに丁度いいと思い立ったのだ]
小型犬を…て、え?随原さん?
[目を見張って、それからしみじみ納得した]
超シブくてイケメンかあ......確かに。
あ、お久しぶりです。お元気でしたか?
会えて良かった。
[あれ以来、どうしてるか気になってたんです、と屈託無く笑顔を見せる*]
[あの日からの男の生活は変わったようで然程変わっていない。
店の仔達の世話をして、接客をして、経営に頭を悩ませる。
ただそこに、忘れない目標が加わっただけだ]
[そんなある日のこと]
いらっしゃいませ───
[カラン、と店の扉が来客を告げる音に男は振り返る。
接客用のスマイルというものも上手く出来ないため、いつも通りの無表情で出迎えることになったのだが、その瞳が僅かに見開いた]
……冬木さん。
お久しぶり。
…まぁ、それなりには。
[見開いた瞳が元に戻ると同時、口端に僅かばかり笑みが乗る]
そちらは……順調、かな。
[傍らに居る人へも一度瞳を向けて、確認するように呟いた]
…それで、今日は、小型犬を?
[入ってきた時に口にしていた言葉は届いている。
問いながら、小型犬の仔のブースへと二人を案内した*]
はい、それなりに。
[向けられた随原の視線と、僅かに見えた笑みに頷いて返す]
ええ、小型犬を探しに来たんですけど、ちょっとその前に……随原さんスマホ持ってますよね?
[丁度良かったとばかりに、自分のスマホを取り出して]
是非見てもらいたい動画があって、えーと、もし時間なければ開始五分あたりを見てもらえば。
バクくん…箔源くんのバンドですよ。
[小説に協力してもらう約束のおかげで最近はバクという愛称の方で呼ぶようになった青年の、一番伝えたかったであろうメッセージを届ける為に、許可が得られれば、ライブ映像のURLを転送する]
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