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裏切るわけには――か。
ああ。そんな言葉の端に安心してしまうな。
[まだ芯までは冷えない身。洟を啜る頻度は低い。
蛇遣いはウルスラと、小屋を出てきたビャルネへと
どこか遠い国の香りがする俗な会釈を一つ向けた。]
言っただろう、先生。ひとを感じてまわっていると。
調べるというほどには理詰めの頭をしてないのでね。
…戸口を騒がせてすまんな、白髪頭。
今は寒さより…あの火が気がかりでならんよ。
信頼、か。その言葉は…今でも眩しいな。
あたしが流れきた街では、それさえ打算だったから。
[瞼を伏せて、毛皮に包む大蛇へ片手を添える。]
…ああ。相棒があたしに"従う"のは
笛を吹いてるときだけだ。それ以外は――
すきで傍に居てくれてると、いい。
[く、と柔く抱いて頷く。
次いで、ウルスラの言う"あの事"に顔を上げて促し]
[ビャルネの吐息が、目の前を流れる。
涙に視界が歪んだわけではない、と自らに確かめて
浅く俯き…はじまったのか、との声にたぶんなと添え]
…目をそらすな、と何かが言う。
…他に見るべきがある、と他方で言う。
気がかりなのは、変わらん。
ドロテアの望みを思えば――見送れんよ。
[やがて去り行くヘイノの背には、またなとだけ告げた]
…ああ。有難うだ。
[――相棒の、旨い餌。
夏には事欠かぬものの、冬は覚めれば無く…飢える。
凍えぬよう目覚めぬよう人肌で温め続ける蛇遣いは、
獣医の言葉に感謝しながら、遠い雪解けを想った。]
…この地には、それがある。あたしも知ってる。
利用――ひとの心を?
[ひとつ瞬いて、ウルスラが明かす話を傾聴する]
するものらしい、というのは…誰とした話だろう。
聞かせてくれるといいが――先生。
―― ビャルネの小屋前 ――
[気づけば、いつしか村のほとんどの人々が
外へ出て――葬列めく儀礼へ視線を向けていた。
容疑を向けられる他の者の姿も、そこにはあって。
…逸れかけた意識は、ビャルネの呟きにか戻って]
…?
狼使いに、味方する――…
あんたが、書物へ希望ある知識を求めている
ところだろうと思って訪ねてみたんだが。
ふむ…随分と、剣呑な話を聞いてしまったな…
…カウコと、か。
その類の話は――奴らに知恵を付けてしまいそうで
あたしは確とは誰にも言い出せなかったな。ふむ…
[ウルスラから聞かされる内容を、先のビャルネの
あやふやな話と重ね合わせながら、思案げにする。]
ああ、書物でなく長老さまの仰せか。
…あんたしかテントにいなかったとき、か。
[随分早いうちからテントの中で顔を合わせていた
ビャルネの、手元から杖先へと視線を辿らせ―――]
…ほんとうなら…あぶない橋を、渡るものだな。
[僅かに感想を添えて、身震いの後に小屋へと戻る
ビャルネへとやはり常の如く俗な会釈で見送った。]
ああ。
…書物のほうは、また改めてだろうかな。
――眠れるようなら、少し眠っておけよ。
[小屋の主が戻った後は、ウルスラとふたり。
残されるままに、蛇遣いは彼女と顔を見合わせる。]
…ここでもう、先の"信頼"の話になるわけか。
皆に話すか、自身が信用する者にのみ話すか。
口を噤むにしても、期間を含めまた難しい――
狼使いに加担する者が、いたとして。
それは裏切りだ…我々への。そんなことが…
[険しくする、眼差し。
遠ざかった灯りの列を、ウルスラと共に*見遣った*]
[訪れた静寂が、耳鳴りを呼ぶ。
先の言葉通り雪原の方角を見遣ることはなく、
人知れず奥歯を噛んで…蛇遣いは足を止めた。
別れたばかりのウルスラを振り返ると、彼女の唇が
長老の孫娘たるその人の名を紡ぐかたちが見えた。]
……
こんなふうに、…
また日を違えて違う誰かの名を呼ぶのだな。
…正体の如何に、かかわらず。
[言ちて、さくり。雪に足をとられながらも歩む。]
[失意の長老は、テントへと戻ってくるだろうか。
ビャルネから聞かされた話を思い起こしながら、
蛇遣いはテントへと手足をかじかませ向かった。]
…――
[テントの前に佇む儘のアルマウェルを見つけると、
彼の目前まで歩み寄り――黙して強く*見上げた*。]
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