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[結城という内科医。直接治療での関わりはないが、その名前と所属、新米らしいという事、そして簡単な人となりくらいは知っていた。
そもそも、病院内で全く知らない人間というのは、職員でも患者でもそう多くはない]
いい天気。……そうですね、確かに。
こんなに静かだから。
雨ではないとは、思っていましたが。
そうですね。いい天気です。
[結城の言葉で初めて気が付いたというように、閉じられた窓の方を見た。通る声質だがマフラーで些か篭った声で、ぽつりぽつりと]
[風に紛れる歌声に、ふんふんと鼻歌で後を追いながら、老婆の時間はゆっくりと過ぎていく。その間にも皺に紛れるような黒いまなざしは一針一針進む手元に注がれていた。黒い布は形を変え、布を寄せては膨らまし、そうして少しずつ洋装の一部へと変わっていく。]
あんたには、 黒いびろうど の
スカートがいいね
こんな風にも飛ばない 重ぉい スカートさね
あの子の歌は 飛んでいいんだよぉ
そうじゃないとあたしにゃ聞こえなくなっちまうからねぇ
[もう一針、皺を寄せた。波打つ光沢の天鵞絨、海原の輝きとは違う柔らかなきらめきを眼に写し]
――おや。
いつの間にやら、終わっちまってたみたいだ。
[歌声のかけた潮風に耳を傾けた。]
ラウンジ
[廊下を進みやってきたのは、緑と青が一緒に見えるラウンジだった。両方とも好きな色だし、何より此処にいる人の空気も、なんとなく好きだった]
おばあちゃん、元気してた?
[踊るような足取りは椅子の前で止まり、ぼたんの前へと膝を抱えるようにしてしゃがみこんだ]
[此方もまた、全員ではないにしろ入院患者の顔と名前程度であれば、担当でなくとも把握していた。
特に目前の患者は著名人だ。尤も、芸術に疎い己は彼がどんな絵を描いているのかまでは、知らないけれど。
ありきたりな言葉へ返って来た彼の言葉に、軽く首を捻る。
さも今天気に気づいた、というような。興味が無い、とも取れるかもしれない。
これが芸術家なんだなと、妙に感心してしまう。]
……、……深いなあ。
――あ、良かったら中庭に散歩にでも、出てみますか?
僕で良ければ、車椅子でお連れしますよ。
[自分は丁度、休憩時間だ。気分転換にでもなれば、と。
常と変わらず、お節介かもしれない一言を告げてみる。]
おや。 おやおや。
おやまあ。
[軽やかな足取りで現れた女子学生を、そう広くはない視界に入れると、皺の刻まれた顔に一層の皺を寄せて笑んだ。]
奈緒ちゃん。奈緒ちゃんじゃないか。
おかえりよう。
あたしったら てっきり
奈緒ちゃんにゃあもう会えないと思ってたよォ。
[問いかけに直接答えるまでもなく、その顔に浮かんだ笑みは頬にさっと色を走らせて、老人特有の白さはあれど元気であると示していた。]
へへ、おばあちゃんにまた会いたくて
…来ちゃった
[笑顔も、顔色も、悪くない。
元気だと分かれば、それを見る少女の気分も上向いて]
もう会えないはないよぉ
これからは毎日、会えるよ!
[それは見舞いではなく、入院だという言葉。
一見元気そうに見えるのに、少女の身体はそのセーラー服の下にいくつもの傷跡を隠していた。
ほら、今だって。
まくりあがったスカートの裾から、腿に走る縫い跡がうっすらと顔を覗かせている]
……なら。
落とし穴かも、しれませんね。
[独り言のように、直ちに霧散するような淡い言葉を、短く一つだけ落とし]
……
そうですね。もし、宜しければ。
散歩に出てきたつもりでは、ありましたから。
[結城が提案するのを聞くと、少し考えるような間を置いてから、頷いた]
[音羽――オトハの声は、庭だけでなく、建物の中からもよく聞こえてくる。
それはこの病院に来る人を出迎えているようであり、出て行く人を――魂を、祝福するようでもあった]
………
[職員以外に顔見知りと認識されるのは、あまり嬉しいことではなかった。
そして何より、「また」という挨拶が、男は何よりも嫌いだった*]
――え、?
[虚をつくかの言葉に思わず聞き返してしまった。
まさか、かの芸術家がジョークに長けていたとは知らなかった、らしい。
妙な間を挟んでしまったものの、快諾を受けると嬉しそうに微笑んだ。]
良し、じゃあ…、少し待っててくださいね。
[そう残し、手近なナースセンターで車椅子を借りてくる。
――気分転換したかったのは、彼ではない、自分だ。死に満ちた空間から、今は少しでも、逃れていたかった。
カラカラと車椅子を押しながら柏木の横へと付ける。拒絶されなければその手から杖を受け取り、そっと腰を支えて介助を行うだろう。]
あァらあ
こんな干からびた婆さんに会ったってねぇ
[会いたくて、の言葉に、弓なりに細めていた眼はくちゃりと皺の中へ、笑みの中へ沈んでいく。
見舞いに来たのだと思うばかりに生まれた笑みは、次いだ言葉に薄まり]
……あらまぁ。
[今度は皺を寄せ集めた布のような笑みではなく、にこりと曲線を描き出す表情をして]
そうだったの、奈緒ちゃん。
それじゃ毎日奈緒ちゃんの可愛い笑顔が見れちまうってわけだねェ。
婆ちゃん喜びすぎて 長生きしちゃうよ。
――ああ、でも。
そんなサービスぁ、婆ちゃんじゃなくて
かっこいいお兄ちゃんにしてあげなきゃあね
[んふふ、と鼻にかかった笑い声をさせながら、指先に携えた針をふるって捲れたスカートを指す。覗いた縫い痕は年頃の少女が背負うには、その痛ましさが重いよう。]
[食器を下げに来た看護師に頼んで、カーテンは開けたままにしてもらった。冷たい風は窓を鳴らし、遠くに見える海は時折白波を立てる。]
…お母さん、今日はこれないんだって。
[羊の縫いぐるみを抱きしめて、千夏乃は独りごちた。]
[マフラーに覆われた口元は、サングラスに覆われた瞳と共に、その表情を遮り隠す。笑い声が零れる事もなく、男はただ惑った結城に顔を向けていて]
宜しくお願いします。
[それから、ナースセンターに行くその姿を見送った。彼が戻ってくるまでの間、男は黙って窓の外を眺めていた。結城が戻れば手に持った松葉杖を渡し、小柄な身を任せて、車椅子に腰を下ろし]
仕方ないよね。ヒャッカテンは、ハンボウキだもの。
[千夏乃の母親は、都心にある百貨店で働いていて、特にこの時期は大忙し。覚えている限り、クリスマスにも正月にも、母と共に過ごしたことはない。
ハンボウキ、というのはどんな字を書くんだっけ、と、しばし首を傾げる。残念ながら思い出せなかったが、ボウ、というのは忙しい、という字だったような、気がする。]
そのかわり、明後日にはお父さんが、ハルちゃんと一緒に来てくれる、って。
[千夏乃の家族は両親と、ハルカという名の、九つ年下の小さな弟。
父親も平日休日の区別のない美容関係の仕事をしているから、なかなか全員揃って過ごすことはできなかった。慣れているとはいえ、やはり少し寂しいと、千夏乃は思うのであった。
それでも、千夏乃が入院してからは両親が時々平日に休みを揃えて、家族で過ごす時間を作ってくれるようになった。それが、何よりの楽しみだった。]
そうだよ、一緒に長生きしよ!
[ほおづえをついて、にこり、と首を傾げて見せた。けれど、ぼたんにスカートを示されれば、顔をあげ慌てて裾をなでつけた]
や…やだな、おばあちゃん
サービスはおばあちゃんだからだよ…
[へへ、と眉を下げて笑い声をあげる。
立ち上がり、上着の裾も撫で付けながら]
新しい子、作ってるの?
つまんないな、今日は。
[ふわふわの毛の中に、顔をうずめる。
個室の並ぶ東病棟は、しんと静まり返っていて、時々、廊下を歩く見舞い客や看護師たちの足音が響くだけ。]
中庭
[思わず聞き返してしまった言葉への反応は無かったけれど、気に留める事も無く車椅子を借りに出た。
松葉杖を受け取り車椅子に彼を乗せると、ゆっくりと椅子を押しながら廊下の中央を進んでいく。
時折、顔見知りの患者や看護師に声を掛けられ幾許かの言葉を交わした。ありきたりな、挨拶程度に。
通用口から中庭へ、スロープを伝いそっと降りていけば、澄んだ空気と木々のせせらぎ、やわらかな陽光が迎えてくれる。
直接日光に触れるのは、負担が掛かるかもしれない。
木陰まで車椅子を押し、軽く身を屈めて柏木のサングラスを窺った。]
……疲れてませんか?柏木さん。
普段、余り外には出られてませんよね?
[慌てた仕草で居住まいを正す奈緒を、やはりくぐもったような声で笑った。笑うたび、声を発するたび、幾層もの皺の奥から揺れるような、表情はそんな綻び方をした。
孫に対するような口調は、実質、彼女自身がそう思っていたからに他ならない。]
ふふ、うふふ
奈緒ちゃんったら。
[誤魔化すような彼女を揶揄する声音で呟き、話題に合わせてセルロイドの人形を膝上に招く。問いかけには緩やかに首を振った。
関節の自由に動くことのない古びた人形は、るりんとした眼を奈緒にそっと向け]
この子は 一番のお姉さんさ。婆ちゃんみたいに年取った、ちいちゃな女の子さよ。
ずうっと昔から この子を持ってるからねえ。
新しいお召し物用意してあげなきゃ、そろそろ怒り出しそうなんだ。
あたしより後に生まれた子供の方が、ずっと可愛い服を着てる――ってぇ、
この子ったら 最近へそを曲げててねえ。まったく困っちまうよ。
[笑みの名残で震う声のまま、随分長くそばに置いてきた人形の髪を撫でつけた。]
んー…
[誤魔化しから出た真。ぼたんが抱える人形をじい、と見つめた]
そう、だね。女の子はいつでも可愛くいたいしね
[そうっと人形の頭へ手を伸ばす。ぼたんの手に触れないように、髪の先を撫でようと。
もし触れたならば
ぴく、と手が震えたのが、伝わってしまうかもしれない。
家族よりも屈託ない笑みを向ける相手でも、老いは、死は
身近ゆえに少女にとって恐ろしいものだった**]
[すれ違う人々には会釈や短い挨拶を向けながら、廊下を通り、中庭へと運ばれていく。肘掛けに乗せた手は、時折サングラスを押し上げ、マフラーの端を弄り。
目的地に着き、木陰まで来ると、緑と白の色と気配に満ちた周囲を仰ぎ見るように一望し]
……、いえ。
[結城に覗き込まれれば、ふと帽子の鍔を――元々深いそれを――引き下げるようにして]
大丈夫です。
あまり外に出ないのは、元からでしたし。
体力がないのも、元からですが。
……いい天気ですね。
[答えて後、頭上で揺れる葉と枝を見上げ]
(…歌…?)
[一二三は開いた窓から流れ込む歌声に耳を傾ける。誰のものかは分からない。でもどこか心に染みる、優しい歌声であった。]
(…良い…声じゃないか…ふふっ…)
[出歩くことが自由とはいえ、彼女に許された範囲は病院という檻の中のみであった。
直ぐに興味という興味は消費し尽くされてしまう。
変わりのない日々に、しかし緩やかに死に向かいつつある日々に、一二三はうんざりしていた。]
そうだ、お散歩、しようか。
[普段はあまり部屋から出ることもない千夏乃であったが、比較的体調の良い今日、縫いぐるみしか話し相手がいないのではやはり退屈だ。
ベッドから注意深く降りて、厚手のタイツを履き、黒いカーディガンの上から、母からお下がりにもらった茜色のオーバーを羽織った。少し大人っぽく見えるから、千夏乃はこのオーバーがお気に入りだった。
それから、羊を胸に抱いて、そっと病室の扉を開ける。]
見つかったら、おこられちゃうかな。
[口うるさい看護師たちには気づかれないようそっと足音を忍ばせて、千夏乃はエレベータ・ホールへと向かう。
その途中、中庭の方から歌が聞こえたような*気がした*。]
[何気ない所作だった。
背後から彼の顔を覗き込むように窺い見たのは、表情を、というよりも顔色を窺おうとした動作だったかも知れない。
けれど、それを拒絶するようにより目深く鍔を下げる柏木に気づき、自己の失態に気づく。]
ああ、すみません。つい、癖で……、
[眼元や頭部を隠している患者も少なくは無い。それは、病状により見せたくないという理由があるからだと悟っている。
しかも柏木は著名人だ。配慮が欠けていた事を、今更ながらに詫びて]
体力は食事やリハビリでも作れますけど、心の洗濯、っていうのかな……、そういうのって、屋外じゃないと出来ないような気も、するんですよね。
医者の言うセリフじゃ無いですけど、はは。
[視線を交える事無く、そう告げて頭を掻いた。]
[伸ばされた奈緒の手が化学繊維の髪に触れる。
人形の髪を上下に梳るように撫でていた指先が、水分を失い、針だこができ、
そして年月を蓄積してきた指先が、瑞々しい十代の女の子に触れた。]
[おや――。と、声に出さぬまま、皺に埋もれる眼が僅か大きくなった。
条件反射のような、怯えのような、触れるを厭うような若い震えを看過することはなかった。しかし、それを幾重にも刻まれた歳月の中に隠す術を――奈緒が厭うたものによって隠す方法を、老いたからこそ知っていた。]
……そうさねェ。
だから、婆ちゃんも可愛い女の子でいたいのさ。
だから
今度、外出できたら、
くれぇぷ を食べにいこうって、思ってるんだよ。
うふふ。 内緒だよ。
甘いものはやめときなさいって言われちまったからね。
[わざとらしく周囲を見渡す素振りを付け加え
老婆――田中ぼたんは、笑い声を漏らした。それは彼女が思っていた以上に、一音一音のはっきりした*笑声だった*]
いえ、気にしないで下さい。
いいんです。貴方は違いますから。
違う。多分。……、いいんです。
[結城が謝罪するのを聞けば、其方に顔を向ける事はなくも、代わりに緩く頭を横に振って。零した言葉は、半ば独りごちるよう]
心の、……
先生。
[続けられた話に、ふと一際はっきりと呼びかけ]
先生は、人の心は何色だと思いますか?
先生には、怖いものはありますか?
[そう、二つの問いを紡いだ。マフラーの端を摘み、その辺りに視線を落とすようにしながら]
……、……違う、……?
――なに、と……?
[「気にするな」という言葉よりも、「違いますから」という言葉への違和感に、表情を曇らせた。
「違う」という事は、何かと比較されたのだろうけれど、その比較対象が、わからない。
真意を知りたくて思わず腰を屈めた瞬間、今度ははっきりとした意志で紡がれる言葉に、引き寄せられる。]
人の心の、色……、怖い、もの。
[変化球のような問いだった。確かめるように紡ぐ響きは次第に、医師としての自分の声音とは異なり、素の低さが混じってしまっていたかも知れずに]
人のこころは無色透明だって、昔読んだなにかの本に書いてあった気が、しますね。
相対するこころの色を汲み取って、赤になったり、青になったり変化する、という。
怖いもの、は……、うーん、……ありますね。
[後者へは言葉を濁してしまうものの、努めて平静を保った声音にはなったか。かすかに俯いたまま]
[視界の端、お下げ髪の小児科患者の姿を見止めれば、軽く手を振り挨拶するだけの余裕はまだ、存在している。]
……人の心は。
極彩色なんだと、思います。
この世界のように。この世界の言葉のように。
[結城の返答を聞くと、一度頷いてからぽつりと零した。
男には、本来無色なる音も、匂いも、色付いたように感じられる。男には世界は酷く鮮やかに見えていた。今はサングラス越しであれ]
そうですか。……そうですね。
私も、怖いものはあります。
怖いものがあります。どうしようもなく。
それは此処まで来ても、逃げられていないんです。
[もう一つの返答には、両手を肘掛けに戻しながら。詳細を質す事はなく、言葉を重ねた]
このまま足がなくなっても、きっと変わらない。
足には何も関係がない事ですから。
[結城が現れた少女に挨拶をすれば、男もその気配に気付き、其方を向いて会釈をした]
今日は。
303号室
[孝治は窓をみつめていた。景色ではなく、窓を。
そして徐に視線を戻し、一人呟く]
…あと、何日だろうな。
[自分にとっては普通のことだと思っていた。
ただ、…はもう。
自分は駄目なのだろうな、となんとなく思っていた。]
ああ、確かに。
無色でぱっと色がつく、っていうよりも、元々どんな色も持っている、っていう解釈の方が、しっくりきます。
[「世界」「言語」、その喩えは心の奥にストンと降り、彼の言葉に酷く共感できた。と同時に、自分と柏木では、世界の見え方が異なるのかも知れない、とも感じていた。]
柏木さんは画家さんだから、……より美しく、感じ取れるのかもしれませんね。
[色彩感覚豊かな彼にもまた、怖いものが存在する。
追われているイメージを、何処と無く察した。
軽く伏した視線の奥に、柏木の足を映し出す。切断の予定がある事を院内で知らぬ医師は、居ないだろう。
足を失う事が怖いのだろうか、とも一瞬考えたけれど…物理的なもの、ではない、何かに柏木は追われているようだった。]
僕のも、……柏木さんと似たようなものですよ。
……内容を口にしたら、笑われそうですけれど。
どうしたら、……『それ』を、怖いと思わなくなれますかね…?
[彼と自分、全く異なるものに追われているのかもしれないけれど。
ぽつり、抑揚の無い音階で最後の言葉を*呟いた*]
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