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[>>136情報屋として殆ど機能して見せてはいないものの、極稀にこちらを頼る人間がいる。
幾つかの取り引きをした事のある変人の一人に、僅かに肩を竦めた。]
ソりゃ、失礼。
まア、こんなゴミ溜めノ中じゃ、気にしてモ変わりゃネェと思うガ。
ドロテア……ドロテア、ね。
どっかデ聞いた名ダナ――
[似て非なる言葉の訛りで、記憶を探り、到る答えに一つ瞬いた。]
ああ、思い出した。
話題の『イケニエ』ダロウ?確か――…
[この街のどこでだったか、神にか何にか、捧ぐ供物になろうとする人間がいること、それはそれなりには有名な話。
知りうる限りの知識を口に、けれど胸糞悪い話のため、話は早く切りたいと、情報料など請求することなくひらりと手を振り。]
俺はンなモンに縋るような弱い人間にゃ興味ねェガ……そいつがバカンスの種カイ?
殺スなんてタダの手間ダト思うゼ?
[おじさんが間合いを広げて、剣の構えを緩めた。
戦意は消えたかな?この格好はお腹が空くから、あまり好きじゃない。床を壊した腕を胸元に置き、いつもの身体に戻す。]
復讐…、にいさまを誰かが殺したら、そういう気持ちになるかも。
でも、僕はおじさんの大事な人を殺していない、と思うよ。
だって、その人のそばには、きっとおじさんもいたと思うしね。大事な人を一人にしたりしないよね。
[ゆっくり立ち上がって、外套についた埃を手で払い落とす。]
残念ながら神とやらに会ったことはないわね。
ま、地上人からすれば同じじゃない?
神の遣いだろうと決して手の届かぬ場所の住人だろうと。
[淡々と答える男に目を細め]
物好き――ね。ま、好きで降りてる訳じゃないけど。
[銃声に、微かに弓を握る左手を緊張させつつ、溜息混じりに答える]
ゴミ溜めもたまには掃除しなくちゃ、どんどんゴミが溜まる一方でしょ?
嫌々ながらでも手を突っ込まないと。
[たった今片付けたゴミは、既にただの物体と化している。
血肉は貴重な資源となるかもしれないが、廃棄物の処理など知ったことではない]
いいや、彼女は一人だったんだよ。
だから私は下手人の顔も知らない。
[刃は向けたまま、睥睨するように細めた目で]
ここで君を私が殺したら、君の兄は怒るだろうか。
ゴミ掃除か。
なるほど、崇高な使命だな。
こうなってしまった以上、神の手でも借りなければ、地上は片付くまい……。
[娘が持つ弓に視線を向けながら、銃口に軽く一息を吹きかけた。
胸元のホルダーに戻して]
だが。
娘さん一人には、少々荷が重い仕事ではないかね?
[軽く揶揄する風]
レディに物騒な肩書言う、良くないヨ?
せめて賞金稼ぎと言て欲しいネ。
[女が気にするのはあくまで其処。
彼女が殺しを稼業にしていることは、
隠すまでもなく吐き溜めの街では知られている]
ん、情報ありがとネ。
信仰心の犠牲になた可哀想な娘ネ。
[礼は言うものの、掴みたい情報は他にある]
ドロテア、誰かが守てるとか、ないカ?
宗教団体、家族、その他……
何でも、何か情報あるなら買うヨ?
[ドロテアを殺しにいくとでも言いたげな程に
彼女に関する情報を求めた。
懸念材料を無くすため。不要な警戒を解くため。
不安感が消えねば、仕事に集中できない]
それはどうも?
[崇高、の言葉に唇の端を持ち上げて返し]
フン、荷が重いですって?
天を翔ける翼と浄化の弓持つこのあたしに、地上人の抹殺がどれだけ容易いか――
[足先で彫刻を蹴り、身を宙へ。
手にした弓矢を番えれば、キリリと弦の鳴る音と共に、金色の光が迸る]
――確かめてみる?
[鏃を銃を仕舞った男の額へ向け、躊躇なく右手を離した]
一人だったんだ、おじさんが悪いよ。
大事な人は一緒にいないと…
[続いた質問には、しばし沈黙する。
にいさまは僕を宝物と言い、そのくせ一人にする。大切な人はずっとそばにいるはずなのに…]
分からない…、難しい事は分からないよ。もっとも、にいさまは僕が殺される事を想像していないと思うけど。
それより、僕、機嫌が悪い。僕に刃物を向けるのやめてくれない?
[むくれた表情で、相手に言う。]
……ふむ。
有翼人の力は、人間のそれを上回っていると考えたほうがよさそうだな。
[金色の光を見据えながら口の中で呟く。
光が放たれると同時、男の死体を突き飛ばして地に伏せた。帽子を手で抑える]
死んでしまっては、確かめられたかどうかがわからなくなってしまうと思うのだが……まったく。
[腰に提げていた閃光弾を、虚空へと投げる。
瞼を閉じていても、目が灼けるかと思われるほどの光――]
[一度は整然と組み上げられた情報は砂上の楼閣のように、容が直ぐに崩れている。それでも尚、元の容の輪郭を僅かなりと留めてはいる。]
難しいことは分からない、か。
幸せな生き方だ。
[非難されても、刃は向けたまま]
[その目前に、衝撃を受けた天井が落ちる。]
一人で居る事が危険でも何でもない、そんな時もあった事も、知らないのだろうね。
さっさと兄のところへ帰ることだ。
それで兄にでも慰めて貰うがいい。
[塵埃の中に*姿を消す。*]
[ぽつり]
[艶やかな光沢を持つ黒の液体が、
頬に印を付けるように落ちた。]
[黒い雨、――曇天の空から零れる雨と蒸気、芯熱の開放――]
[男は銃を持っていた。
一撃で仕留められなければ全力退避するつもりで、矢を放つと同時後退かつ上昇していたが]
――くっ
[突き飛ばされた死体。
やり損なったと思う同時、目を灼くほどの閃光が放たれる。
目を閉じ右腕で覆う動作も間に合わず。
上下感覚のみを頼りに、只管高く高く翼を打って舞い上がる]
ま、運が悪かたネ、彼女。
でも私がそれから救てやるから、オールOKヨ。
直ぐ楽にしてやるマス。
[カウコからの詫びには気にしてないといった風に
手を振り、ぶっきら棒にコインを彼の手元へと放った]
それだけ有名人なら、きと情報ダダ漏れネ。
追加で情報入たら、すぐ教えるとイイヨ。
[そう告げると、再びトボトボと歩きだした]
―路地―
[翼の音を聞きながら、目を瞑ったままその場からかけ出した。
どこか細まったところに飛び込んで、そしてようやく息を吐く]
……末恐ろしい。
いずれ決着をつけねばならぬというなら……。
[爆弾も銃弾も使えばなくなる。銃弾ならば行き倒れから巻き上げることもできるだろうが、爆弾はそうもいくまい。
溜息は知らず深くなった*]
[土埃に消えたおじさんを見て、機嫌はますます悪くなる。]
なんなのさ。あの人嫌いだ、人殺しだし。
慰めてもらうって、美味しいの?
あの人は味のないものばかり言うから、嫌いだ。次に会った時、お腹が空いていたら、生きたまま食べてやる!
[普段はやらない、残忍な捕食を思い浮かべ、それでも機嫌が戻らないまま外に出た。**]
―ビル街上空―
はあ、はあ……。
[久し振りの本気の飛翔に息が切れていた。
白く霞む視界に何度も目をしばたかせつつ、無理矢理にでも息を整える。
追撃はなく、視力が回復したなら既に黒い帽子の姿がないこともわかる]
まさか、あれで避けられるとは……。
しかも、こんな武器があるとはね。
[警戒の意識を強くする。
既にビルよりも高い位置に居るから、多くの者に姿を晒すことになっているかもしれない。
それでも視力が不完全なまま崩れかけのビルの間を飛ぶ訳にはいかなかった]
―砂塵の街―
[粘りつく黒の雫は、
マティウスの頬の上から容易に垂れ落ちず。
拭いもしない彼の様子に、男は憮然として]
お前が生きてる ッてことは うん
あれもまだ… か
[実験体たる彼の首へ二重に残る吊縄の痕に
五指の爪を立て――みちりと喰い込ませた。]
…切るんじゃなかった、
お前の縄を
………?
ぐっ…う……
[気管が圧迫され、摑まれた皮膚が白くなる。軽業師の指へ、脈拍がダイレクトに伝わるだろう。「容易く」首を掻っ切る事も出来る程に、抵抗はない。]
[軽業師の指下で、マティアスの動脈が蠢く。
爪の間へ血が染むほどに掴めば鼓動が混ざる。
己が指の骨が軋む。彼我の境が曖昧になる。]
いつから、彷徨ってた…?
[抵抗の無さは男の意に介するところでなく。
やがて――其処からみじかく濡れた音がして、
軽業師の五指が、旧友の首の皮膚を破り
第一関節までぐじゅりと深く潜り込む。]
かっ……
[押し潰した呼気が漏れる。ぐじゅと湿った音と痛みの次には、零れ落ちる自らの熱い液体。血が、軽業師の指を濡らし、男の胸元へ、つぅと流れ落ちてゆく。]
覚え…っ……てな、い……
…がはっ……
[思考の明滅、ー喰らい昏いクライくらい暗い―]
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