情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
おれは。まあ、……
… なんだっていいですけど。
[独り言じみた口調は、どうやら裏も表もかわらず]
ところで… "書生さん"。
[表の名前を口にされた男は、
少々遠回りに──相手を呼称で呼んだ]
いん、が。
─…じゃあ。
これは、もしかしたら。
チャンス、なのか。
[ぼそりと響く、小さな声。
常の耳ならば届かぬほどの小さな声を、常ならぬ耳が拾う。]
……えっ
だって、きみ。
ユージー……
[言いかけた言葉が、舌先で凍る。
丁寧に、静かに、言葉の先の感情を見せない物言いに
─── 記憶 が ]
僕、……は。
[分からない。][殺してやる。]
[コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル]
………、…?
[ぐらりと頭が揺れた。]
……チャンス…。
[聞こえた単語を、復唱しながら、
かくり、と、男は首を横に傾ぐ。]
……、
…さあ…、
どうなんでしょうかね。
[ぼそぼそと──感慨もなく口の中呟くのは疑問。]
… そうじゃないかもしれませんし、
そうともいえるかもしれません。
[男の言葉は曖昧に続く]
書生さんは…、
なんか、
やりたいこと、あるんですか。
[質問の言葉はどうでもいいことを尋ねるような調子でもあり]
……
[そうして返事が返るよりまえ、
名乗った名前を呼ぶ声に一瞬の間をあけ]
…── はい。
[応じるより、そうです。と、肯定するような声で、
男は、相手に返事をひとつ返した。]
だって。
今度は──…今度、は。
[言葉の先、思考がすり抜ける。
酷い頭痛を堪える表情で、額に指先を当てた。]
──チャンス、だ。
[そうすれば][──消えてしまえ]
──やりたいこと。
[そんなこと。決まってる。
次は──ツギハ。あんな、風に。]
……嫌だ。いやだ。イヤだ、イヤダ。
イや だ………
[聞きたくない。][音]
やりたいこと、なんて…決まって、る。
[指先が震えた。]
…………。
[青年の声をした──特定のモノにしか聞こえない、
その呟きを、男は、黙って聞いている。]
…………
[特に途切れた先を促す言葉はないまま、ただ、答えにあわせて、ちら、と青年に投げる視線だけが男がその声を聞いている証拠だった。]
さあ。
[繰り返される拒絶の意思もつ言葉には、
やはり瞬きを返す。同じじゃないのか。と、
問いに、かく。と首を傾いだ。]
…… どうでしょう?
[よくわからない。と、男の声には熱がない。]
だって…。
[だって、と。
かつてもこのように、語ったことがなかったか。
返るのは沈黙、けれど言葉が届いていることは識っている。
──以前から。]
僕たちは…
[死んだ][殺された]
[──……が、死ねば良かったのに]
『また』殺されるために─…目覚めたわけじゃ、ない。
[言葉にすると、更に寒いようにぶるりと震えた。
そうして、熱のないもうひとつのモノへと視線を向ける。]
あんたさんよりゃ、
おれのが、長生きしてると思いますが──、
そいでも、わかんねえってことはあるみたいでね。
[ぽつぽつと、男は、自分のペースを保ちながら話す。]
たとえば、まあ、
…人様の心ンなかとか。
[呟きながら、足先に視線を落とし]
[視線を落とした先の足。ちろ、と陽炎じみて影がゆれて、]
…なんだって、こんなことになってるのかとかです。
[男の靴が透けて、その下の床板が見通せた。]
人の、心の中…?
[意表を突かれた風で、ふと口を噤む。
朴訥と語る口調、つられたように同じく足元に視線を落とした。]
──…ああ。
[自覚してしまえば脆いもの。
差し伸べた手の甲を透かせば、その向こうに相棒の姿が見えた。]
…まあ。
あんま、おれも、
殺されたくはないです。
[こちらを見る視線にそう答えるも、
やはり声に熱はない。]
人に殺されると、…こう。
無闇と、痛いんで。
[かく。と首を前に出して、
片手で、こり。と骨ばった首の背を押さえた。]
あは。
あはは。ははっ…。
僕たちにも、痛みはあるのかなあ。
あるのかな、隠?
もっと、もっともっと痛くて苦しいことが…?
[そして][冷たくて]
[────…かった]
──…陽(ヤン)
また、そう呼んではくれないのかい?
こんな村…こんな場所。
[思い出も。大切な……も。]
[これは、──チャンスだ。]
──すべて消えて、なくなってしまえばいい。
[呪詛のように、声が低く響く。
そうして、音を、全てを閉ざすように*目をとじた*]
………さあ。痛いか試す気にゃあんまならんです。
[男は、瞬きをし、青年の唇に浮かぶ、
仄暗い笑みを見ている。]
……
まあ。
[たぶん。と、その笑みから視線を避けるように、
床へと落とした男は、先を続けて]
あんたが、
もう──全部、消しちまいたい。ってンなら、
まあ。
[未練のあるもんもないですし。と、男は言い]
お手伝いくらいは……しますよ。
… 陽(ヤン)さん。
[生前と同じ──死人のような陰気な声で、
青年の名前を呼んだ**。]
─────…。
[少しの間。
黙ってその明かりを見つめる。
その瞳に色はない。
ただ、……は。と短く息が落ちた。]
『あれ、こんな時間にどちら様?』
[──警戒心の、欠片もない。いつもの、笑顔。]
───……。
僕は……そう、だ。
望みだ。
[声は、かすかに。
聞こえない声、音を持たぬ音が風に乗る。]
───…せなかった。
[囁きのように]
[男はフォークで緑に色づいたブロッコリを転がす。
近くに食事を拒否した青年の姿はない。]
……
[その小さな囁きは、
聞こえていないのか、気にしていないのか
男の沈黙はどちらともどれる。]
[すぐに口に運ぶでもなし、
ぷかぷかと浮かぶ野菜を行儀悪くつつき]
……聞きてえことがあるんなら、
しゃんと言ってもらえねえと……わからねえですよ。
陽さん。
どうも。
… 腹ァ、すきませんでね。
[沈黙を挟んで。ぼそ。と、話しだすのは、
問いかけからは、テンポがずれたような婉曲な話題。]
……前は、こうじゃあなかった気がします。
たしか。
…、"食餌"…?
[聞こえてきた声に、肩が揺れる。
テーブルの上には、暖かな食事。野菜たちの鍋。
けど、それは──]
…………。
[手が止まる]
[僅かに哂う口調。
意識は、かのひとの上に。
自警だ、なんだと自分たちを閉じ込めて”死”に追いやった──]
──邪魔者は、
[ 消してしまえば 良いではないか。 ]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了