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…ふぁ…
[ふいに眠気を覚えて、並木道を逸れた小路へと。
用事は済んだけど、お日様は頭のてっぺんに。家路につくにはもったいなくて
ふらり、気ままに足を運べば、見慣れた児童公園。構わず足を踏み入れて、近くのベンチへ。
子どもたちの騒ぐ声に耳を傾けながら、あたしの姿も見えたようで
とてとてと、こちらへ駆け寄るのがみえて]
こんにちは。
[色付き始めた肌色の、半袖シャツの少年達にあいさつをする。
日陰の下のママさん達にもぺこり、お辞儀して]
「こんにちは、蒼井さん。今日は原稿?」
そうなんです、締切で
[気心知れた他愛ない話。
ちょっとは、有名にもなるかもしれない。
子どもも旦那もいないひとり働きの女が、こんな時間にひとり、しょっちゅう公園に現れては。*]
[首を傾げていたのは短い時間。
からころり、下駄を鳴らして歩いて行く。
目指すのは、子供たちの集まる場所で]
おー、今日も賑やか、善哉々々、ってか。
[児童公園の賑わいに目を細め、ふらりとそちらに歩みを向ける]
よーっす、今日も元気だなあ。
あ、デュエル? わりぃ、デッキ持ってきとらんかったわ。
[下駄の音に気付いて駆け寄って来た子供らに、カードゲームの対戦を挑まれ苦笑い。
元々、事務仕事前の息抜きも兼ねたそぞろ歩き、遊び道具の準備は忘れていた]
[とてとて駆け回る子ども達を遠目に、世間話に耳を傾け。
顔ぶれはもうほとんど覚えてしまった子ども達の話に、笑ったり驚いたり。
あなたはどうなの?なんて、あたしの話にも興味があるようだけど]
さぁ、どうでしょう
[そうやってあたしが首を傾げるのを見ては、ほんのちょっぴり呆れ顔されて。
世間的には考えるような歳ごろだろうけど
どうにも、ぴんとこなくて
照りつける日なたに少し、眩しさを覚えて
ふと、視線を彷徨わせれば。]
[徹頭徹尾、夏だ。
夏だから、くそ暑い。
もうすぐ夏休みだとか、休暇制度も無い自営業にはかんけーないんだっつーの、暑いんだよこんちくしょー!]
はい、出来上がり。
[浴衣姿のじょしこーせーに、仕上げの紅を差し、涼しげに微笑みかけながら、俺は内心悪態ついてたわけさ]
[俺は化粧師だ。まあ、いわゆる、めーくあっぷあーてぃすとだな、なーんて一応かっこつけてはいるが、要は美容師に毛が生えた程度のもんだ。
仕事場もお袋がやってる美容室で、稼ぎなんざ小遣い程度。
祭りの時は、踊りに出るとか浴衣に合わせて化粧したいとかっていう若い娘やらのおかげで、ちょっと潤うけどな]
はい、次は、美穂ちゃんだね。
うん、ピンク系?君にはオレンジ系の方が似合うと思うよ。
絶対ピンク?彼氏の好きな色なのか、そうか、じゃあちょっと肌色調整しようね。
[女の化粧に口出す男とかろくなもんじゃねーぞ、やめとけー...と、言ってやる筋合いも無し]
[チリン、と扉の鈴が鳴った]
『ガムラさーん、速達でえす』
[ガムラじゃねえ、ンガムラだよ、と突っ込み入れるのは10年前、中学と同時に卒業した。もともと漢字で書けば『我邑』だ。
先祖代々『ンガムラ』と読むんだっつーのは親父のこだわりだったが、とっくにおっ死んだしな。
そも呼びにくいんで、クラスメートなんかみんな「ムラ」って愛称でしか呼びゃしねえ、意味ねえっての]
はい、ご苦労様。
[印鑑押して受け取った速達は俺宛だった。
誰だよ?俺に急ぎの用がある奴なんて...]
.........あ、ああ、ごめんごめん。
ちょっと下地塗るから目を閉じてね。
[俺はその手紙を、封を開けること無く着物の懐に捩じ込んだ**]
よっこい せ、と…。
[年を取るにつれて自由が利かなくなった身体を動かし、丘の上 ── 展望台のベンチに座る。
その膝上に飼い猫が乗り丸くなるのを待ってから、ウミは灯台へと視線を向けた]
……お前さんも年を取ったのぅ。
[かつては真っ白だったその壁も、今では雨風はもとより潮風にも晒され錆なども目立ち始めている。
灯台を去ったのは10年程前のこと。
もう遠い過去のようにも思えた]
[波音を聞くには場所も耳も遠く、聞こえてくるのは周囲の車や人の声が辛うじて。
ただただ海の景色を視界に捉えていたウミの異変に気付いたのは、膝上で丸まる飼い猫の方だった。
一瞬途切れた周囲の音に飼い猫はピクリと耳を動かし、僅かばかり首を持ち上げる]
…………?
[ウミもまた、刹那に見えたものにゆっくりと瞬きを繰り返した。
遠いはずの海岸線が目の前に広がっていたのだ]
…気のせい、かのぅ。
[首を傾げ呟いた言葉に、飼い猫が「なぁう」と小さく声を返す。
気のせいではない、と言いたげだった飼い猫の意思は、ウミには伝わらず終い*]
あ、あ、あー、あー。
[堤防を降りた川辺は人影は無いが、遠くに子供の遊ぶ声や車の走る音などが聞こえてくるから一人でもそれ程寂しくはない。
だが、すぐ木陰に入ったから強い日差しを直接受けることは無いが暑いことには変わりなく。
凍らせてきたペットボトルのお茶を飲んで適度に水分補給兼休憩をしながら、音程と抑揚を付けた発声を繰り返していたのだが]
…ん?
[ふと、誰かの声が聞こえた様な気がして、練習を止めて周囲を見回した]
[その目に飛び込んできたのは、今まで見えていたそれと似たようで全く異なる水辺の煌きで]
…え……、は、あ、え?
何これ、海?なんで?
[唐突な変化に困惑した声をあげ、瞬きを繰り返すと数回程で景色は戻り]
…………あれ…?
気のせい?…でも、確かに…
[気のせいにしては、今さっき見た光景はリアルだった様に思えて困惑は引き続いたまま、だったが]
……長居過ぎちゃった、かなぁ…?
[木陰の下とはいえ、炎天下に居続けたせいで幻覚でも見えたのだろうか。
そんなことを考えて、そろそろ引き上げた方が良いかもしれないと思いつつもまだ川辺の揺らめきから目を離せずにいた**]
おう、この時期は冷酒もいいもんだよー。
お勧めけっこーあるから、気が向いたら店覗いてなー。
[さらっと客引き交えて返し]
はっはっは、さすがに夏神さん家が夏本番にへたっちまったら、サマにならんだろ?
……ま、当代はちょいと置いとくが。
[当代店主である父が暑さに弱く、この時期は次代に諸々丸投げているのは知られた話。
それでいて、当の次代はこうなのだから、従業員の苦労は推して知るべしか]
─ 昼過ぎ・学生食堂 ─
……日本って、温帯のはずだったような。
違った?
[実験の合間の腹ごしらえ。
目の前の、半分ほど減った皿の中身は、初めて食べるものだったが、「冷やし中華」という代物らしい。]
へぇ、飲みたい!いつも麦酒ばっかりに寄っちゃうけど
お勧め、今度見に行くね。
[へらりと笑って。今あるお酒のストックが無くなったら、寄ってみようかと]
それもそうね、夏神様ってなんか素敵。あたしの分の元気も、ゼンちゃんに託しちゃおうかな。
そういえば、お父さん大丈夫なの?
[夏になると見かけない、当代さん。暑さに弱いのはどこかで聞いてて、夏のお店は大抵ゼンちゃんがいて。
同い歳なのに、すごいなぁなんて。
密かに感心してみたり]
[楽しげな表情につられて。
真似っ子してに、と口角を上げてみせる]
あら、おじいさん達は乗り気じゃあないの?てっきり好きかと思ったわ。
わぁい、あんず飴!楽しみだなぁ、屋台
[拾われたリクエストに、さすがゼンちゃんとばかりに喜んでみせて。
次々と要求を口にする子ども達に、圧倒されてしまいそうだけど
手際良くメモしてく手元を見つめながら、やっぱりすごいな、って。]
サービス?ふふ、もちろん浴衣で行くわ。
夏祭りといえばこれだもの
[どんな浴衣にしようか。家にあるのは、青い朝顔模様の浴衣。シンプルだけど、よく馴染んで
やっぱり今年も、それかもしれない。*]
あー、祭りはいいんだけど、予算が、ってそっちで渋るんよ。
毎年苦労してんのよ、次世代は。
[冗談めかした口調で言うものの、わりとここらはシビアな世界で。
活性化の必要経費、と主張する次世代と保守的世代の攻防は、熾烈なものとなっている……らしい。
最終的には、お祭り好きが勢いで押しきるのだが]
いやいや、来た人が楽しめるようじゃないと、仕掛ける側も楽しくないからねぇ。
[楽しみ、という言葉>>40ににこりと笑い、一通り、リクエストを書きつけていく]
おう、んじゃ、楽しみにしてるよー。
[浴衣への是の返事にも楽し気に笑んで。
一通り、リサーチを終えると、スマホをまた帯に挟み込んだ]
さぁてぇ……そろそろ戻らんと、さすがにまずいな。
[帯に挟む前、ちら、と見やった時計の表示にそんな事を呟いて、腕を上に上げて身体を伸ばす]
んーじゃあ、俺、店戻るわ。
ぼちぼち手ぇつけんとまずい仕事が待ってるんでな。
[腕を下ろしつつ、軽い口調でそう告げて。
子供たちにも、今度はデッキ持ってくるからなー、なんて呼びかけてから、またからころり。
下駄を鳴らして歩き出す。*]
[暫く水面から目を外せないままでいたが、さっき見えた景色が再び現れることはなかった]
…やっぱ、気のせい?
それか蜃気楼だったのかな。
…うん、そうかも。
こっから海ってそう遠くないし。
[蜃気楼がどうして見えるのかは良く知らないけれど、幻覚よりは若干心証が良く思えて。
無意識に自分を納得させようと思考を声に出しながら、此処から一番近い海のことを思い浮かべた。
自転車で三十分位の距離だから、子供の頃は良く行っていたけれど何時の間にか行かなくなって。
友達に誘われても断るようになったのは何時からだったか]
…そういえば、どうして行かなくなったんだっけ。
[思い出せないな、と小さく呟いた声は思いのほか大きかった**]
はい、これでどうかな?
ピンクが乗るように肌の色、ファンデで調整してるから、化粧直しはこまめにね。
え?祭りに出張かい?
はは、化粧師の夜店てのも悪くないかもね。
[こんにゃろ、無料で化粧直しさせる魂胆だな?
いまどきのじょしこーせーはちゃっかりしてやが...る?]
え?
[ちょ......なんだこれ?]
[まてまて、有り得ねーから、鏡の中に海岸と、うさ、ぎ...?]
.........
...............
あ、いや、ちょっと疲れ目かな。
[目を擦ったら、わけわかんねー光景は消えた。白昼夢かよ?笑えねー。
俺、そんなにストレス溜まってたっけ?]
かーさん、休憩行ってくる。
[疲れてるんだ、そうに違いない。今日はくそ暑いし、くそ忙し過ぎた。
店の冷房の効きは悪いし、喉も渇いた。
速達なんて......来るし]
『出掛けるなら、ついでに夕飯買ってきて。今日作ってる暇ないわ』
んー、わかった。ほか弁でも見繕ってくるよ。
[チリン...]
......外もあっちー、て当たり前か。
[確か海岸通の方に、新しいカフェが出来たとかって、お客が噂してたっけ...行ってみるかな?*]
─ 高校の音楽室 ─
[ヴァイオリンの弓をおろして大きく息を吐く。
集中が途切れると、セミの鳴き声が気になった。
アブラゼミだ。
夕刻時や夜間に鳴くことでも有名なこのセミの声が、
初音は嫌いだった。
あの事件を思い出させるから。]
――……。
[窓辺へと近づくと、初音はカーテンを引く。
窓を閉めたままでもこの音量だ。
開ければさぞ五月蠅いだろう。]
[明るいチャイムの音とともに下校を促すアナウンスが流れる。
思わずスピーカーと壁の時計を仰ぎ見た。
外の明るさに惑わされるが、アブラゼミの大合唱を考えれば、
とっくにそういう時刻なのだ。
初音は手早く弦と弓を緩め、ヴァイオリンケースに仕舞う。
忘れ物がないことを確認すると、音楽室を出て鍵をかけた。
毎日放課後に練習して2年半。
音楽教諭もいちいち確認したりはしない。]
[刹那の幻覚はその時限りで、ウミは日よけの下でただただ海を、灯台を眺めていた。
毎度思い起こすのは灯台守として過ごした日々。
出会いと別れを繰り返した懐かしい記憶が甦る]
…あの子達はどうしておるかのぅ。
[夏になれば街に住む子供達が海へと遊びに来た。
灯台守をしながら浜辺の管理も任されていたため、幾度か顔を合わせる機会もあった。
そういえば海の家はまだあるのだろうか。
そんな疑問を抱くほど、ここ数年は海岸へも足を運べていない]
本当に、年を取ったものだ。
[ふぅ、と疲れたような溜息が零れ落ちる。
時に抗えなかった悔恨が燻るかのよう]
─ 校舎→校門前 ─
[校舎の外へ出ると、ねっとりした熱気に包まれた。
海の近くの町なのに、暑さが和らいでいる実感はない。
ヴァイオリンケースと学生鞄を提げた初音は目を細め、
急ぎ足で校門を目指す。
校門前の桜の木も、この季節にはただの広葉樹にしか見えない。
足元の葉影に気を取られていたせいか、
門から一歩足を踏み出した瞬間、
波が目の前に迫っていた。]
えっ…………?
[反射的に後ずさる。
と、肩が門柱にぶつかった。]
[振り返ると、いつもの学校だった。
2年と数か月通い慣れ、見慣れた門柱と、門扉と、桜の木。
視線を戻すと、海岸も波もどこにもなかった。
目の前にあるのは、舗装された普通の通学路だ。]
……え……ええ?
[ヴァイオリンケースを抱きかかえ、初音は視線をさまよわせる。
暮れゆく空を眺め、校舎を振り返り、通学路と周囲の景色を見比べて、
足を運ぶ。
茫然と数歩進んで気づいた。
波の音がしなかった、と。]
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