[言うつもりはないことだけれど。
思っていたら、荒らげられたその子の声が悲しく、つーんと胸の奥まで響いた。耳が痛い。大声でこそなかったけど、トーンが悲壮だった。
でも、何か返す前に飛んできたのは、声でも平手でもなくって。ぶつかるのでもなくて。
思ったより頼りない、白い手紙だった。]
[運動部だったみたいだけど、あんまり投げるのはうまくないな。そう思いながら、くしゃくしゃになってしまった白い紙を手で拾い上げる。
どうしよう。
奪い取っちゃおうとか捨てちゃえとか散々適当言ったけれど、本当に投げ付けてどっかに行っちゃうだなんて思ってなくて。
勢いはあった。あったけど、あの子、]
……捨てたくなかったのかなあ。
[理由もないのに、そんな台詞が漏れた。]
[迷っていたら、閉館10分前のアナウンスが鳴り響いた。
もうこんな時間になってたんだ。
私、今日は全然本を読まなかったな。
何だか、うろうろしたり、
ぐるぐるしたり、
話したことない人と話したり。
「書き直さないんだったら、捨てたら?」
私は確かにそう言った。
「……そんなの、
あんたに関係ないじゃん」
記憶が正しければ、彼女はそう言った。]
[私は手紙らしきものを持ったまま、机の方へと戻った。
夕焼けの色が本やノートや、私の鞄を鮮やかなオレンジ色に染めている。
鞄の中に入った裁縫袋、私の部活道具も照らしていたらいいのにとか、そんな妄想をしながら――
白い手紙を、鞄に滑り込ませた。]
[人に押し付けるみたいにして捨てるなんて、情けないじゃない?
これって、あの子が捨てるべきものだもん。
当たり前のように思った。
そして、当たり前みたいに口をへの字にした。
だってこんなの、間違ってる。]
[私は感情のゴミ箱じゃない。
今度は重りでも付けて、あの子に投げ返そう。
明日かな、明後日かな、
とにかく図書室に来るまで我慢してやる。
それに、あの子と話してたせいで明日の予習できてない。
宿題だって、終えたのに片付いた気がしないし。
なんか、夢見が悪かったりして。
そうなったらあの子のせいだ。
名前も知らない、あの子のせいだ。]
[ひっぱたいたりひっぱたかれたりするかもしれないけど、そんなのは覚悟の上。
覚悟もないのに、私にこんな重たいもの投げ付けたんだとしたら。
あっちだってひっぱたかれて当然だよね。
着々と帰り支度をしながら、私は決めた。
名乗り合う前に殴り合うかもしれないけど、のし付けて返してやる。
絶対に。絶対にだ。]