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[逃げ惑う宗教者たち。人肉を食らう者たち。天の者の悲鳴。血肉の中に散る翼。
宗教画家や異端の作曲家がこの光景を目にすれば、歓喜の声をあげ、天啓を受けて筆を取っただろう。
悲しいかな、薬による高揚の去った男にとっては総てが騒音に過ぎない。]
[項垂れた男は頭巾を外し、黒髪を顕わにする。
舞のついでのように蹴られた額から、脈打つ血が流れ続けて片目を塞ぐ。そここについた煤を払うこともなく、血を拭うこともなく項垂れている。]
[片輪の足音のような羽ばたきが遠ざかり、やがて喧騒も静まったようだ。]
[儀式は失敗に終わった。やがて、惨劇を隠すように夜の帳が音もなく下りる。弱者は怯え惑い、身を縮めて赤い夜明けを待つための時間が訪れる。正気ある者の目は塞がれる、ここからは、狂人、異端者、残虐を好むもの、無法の世で特に法を嫌う者どものための時刻だ。]
[夜闇の中に溶けるように、するすると男は動き出す。]
[既に一仕事を終えた夜盗の首を撥ねる。
遠く、夜盗に襲われたものの事を思う。]
もし集落を作って暮らしていれば。
金品を返しに行けば。どう思うだろうか。
[掠れた声で呟く。
未だ地面が咀嚼しきれずに溜まる血の中に散らばる物物を眺める。これだけあれば、数人の集落でも暫くは飢えを凌ぐなり殺し屋を雇うなりする事ができよう。]
[今更人に感謝をされてもそれが何になるというのだ。
心の餓えには、何の足しにもならないではないか。]
[では、どうなれば、あての無い復讐は終わるのか。道程は、思えば思うほど苦しくなる。
薬効の切れたあとの思考であれば尚の事、暗いほうへと勝手に落ち込んでいこうとする。この世界を覆うような、絶望と閉塞感に吸い込まれてしまいそうになる。]
ならば、
[躊躇っていても仕方は無いのだ。足元だけを見て歩むのが良かろう。
そう、見下ろす足元には、死体の首から、生命活動の名残で弱弱しく押し出される血が広がっている。こう暗くては水溜りと差異は無いが。]
[血溜まりから金目の物を幾つか失敬する。
屈んだ時に視界がぶれて、一度、濡れた砂を掴んだ。
片側の視界は暈けたまま。いつの間にか出血は収まっているが疼くような痛みがある。]
[ひとつ、目を向けると路上に一枚の羽が落ちている。
恐らくはただの鳥の落としたものだが]
……天上に、選ばれた者の楽園がある、と
戯言の類かと思っていたが、さて……
天上人は、罪をおかすと地上に落とされる……そうも言っていたか。一体、どのような罪をおかせば、このほの暗い地上になど落とされるものか。
この地上で生き延びる事以上の罪があるというのか。
浄化など……
[体を引き摺るように、歩き出す。
酒瓶を置き忘れてきた事が、酷い失態のように思えた。戦いのさなかで砕けてしまったかどうかも記憶にはない。その事がまた、薄暗い後悔と、過去を裏切ったかのような罪悪感の形となって*足元に絡み付く。*]
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