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[蛇遣いがその場へ着いた頃には、かの盲人は
仰向けに倒れ総身を断末魔にひくつかせていた。
マティアスのからだには、幾らか朦朧としつつも
憤り醒め遣らぬ態のイェンニが馬乗りになっていて
――血に濡れた鉈を、酷く熱心に振るっていた。]
…ああ…
間に合ったのだか、間に合わぬのだか――
[急ぎ来た蛇遣いは、しろく薄い息を吐いて呟く]
[恨み骨髄、一寸刻みにしてもまだ足らぬ――とは
世に言うが、女の腕に鉈では刻むに不足なようす。]
…氷り脛、か…
[降りしきる雪にも未だ隠れぬ肉塊が、大腿からも
足首からも切り離された脛の部分らしいと見分けて、
蛇遣いは齧るに好む馴鹿の氷り脛――アッザミを
思い出してぽつと零した。そっと、赤を避け歩く。]
お前――…
[うぐぐ、ぐるると愛らしくも獰猛なうなりごえ。
マティアスの口の中へ、ちいさな頭を突っ込んで
その舌へ喰らいつき――より紅くおおきな肉片を
齧りとろうと、仔犬が全身を振り立てている。
暫く見詰めるも静かに視線を剥がして、口を開く]
…
イェンニ。
[銀鉈の背で、マティアスの膝頭を叩き割ろうと
躍起になっていたイェンニは、その手を止めて――]
怪我をしてしまったのだな。
目の焦点が合っていないぞ?
…ああ、止めだてはせぬから。
[かける声に、笑みが含まれないのは常のこと。
蛇遣いは、イェンニの返り血含む豊かな髪を梳く]
いま、ひとくちだけ
つまみ食いをさせてくれるといい。
[髪を梳いて、頬を包んで。
ずらす指先を、イェンニの目尻からくちと差入れる。
夏のベリーを摘み取るように、妹分の。
右目をトルンと硝子体ごと引き出して――
舌の上へ乗せる態で、旨そうに喰らった。]
…身体が冷えぬうちに、湖へおいで。
[イェンニの喉から悲鳴がほとばしることはない。
塩気のきいた親指を軽く舐って、柔い声で誘った。]
[数を減らした瞳は、イェンニの感じる赤を
果たして減じさせたか倍加させたか――今は知らず]
…"49"。
さすがにもう聞こえぬかね?
[声をかける間にも、妹分はまた鉈を使い出して。
胴を斜めに鋸引くに似た刃の立て方へ目を細める。]
イェンニもそれも…
あやつられてなどいないよ。
お前も、そうだといいな。
エンジンの音が聞こえぬのなら、
そう悪くはないのかもしれんか。
何故に聞きたくなかったのだかな。
…これと関係はあるのだかな。
[…つ、とマティアスの喉を真横へと辿る。
彼自身には見えぬのだろうそれはロープの痕。]
ではな。お前…早く見つけてもらえよ。
まだお前だとわかるうちにな。
[――その場へ残す人々は、まだ生きている。
誰かがその光景を見つけるときも或いは、微かに。
意味在る話を訊くことは最早、どちらにも出来ない。
イェンニは恍惚と鬱屈と安堵とを抱える面持ちで、
右の眼窩から血とそうでないものを垂らしながら
ふらふらと――やがて何処かへ姿を消すのだろう。
マティアスの遠のく意識には、相変わらず絶えず
うるる、ぐるると仔犬の唸り声が籠って聞こえ…
まるで遠き日のエンジン音に追いたてられるようか*]
―― 回想/女たちの、秋の仕事 ――
[冬を越したトナカイは、殖える仔の数を見極めて
春に狩り集め、屠殺する。夏の間、湿った涼風に晒し
生干しにした毛皮を秋になめす作業は大切な仕事。]
…口と手が、同時に且つ至極滑らかに動くのは
お前の特技だがそれでは力が入らない、イェンニ。
[水分の程よく抜けた毛皮の裏を、ナイフ状の道具で
削いでいく。ジジッ、ジジッと皮から固い血糊や
脂肪片が剥がれる音。イェンニは、こびりつく赤が
瑞々しいそれでないことへと頻りに毒づいていた。]
女屠殺人になりたければ、今鍛えておくことだよ。
[――この仕事は、手首の力と握力がものを言う。
腕の力に頼っては、せっかくの皮は容易く裂けて
台無しになってしまう。蛇遣いは、自身もいまだ
熟練には至らぬなりに、イェンニへと手本を示す。]
尤も、その場で喰えぬ屠殺など、
さぞや腹が減ることだとは思うがな…
[蛇遣いは、新参たる妹分が口にする物騒な夢想を
概ねは程良く聞入れ、また或いは程良く聞き流す。
妹分も同様に、蛇遣いがにこりともせずに毎度呈する
指摘というか単なる感想というかを似た姿勢で扱う。
互いに理解を求めていないからこそ、通じ合う間柄。
秋の作業小屋の窓には、
厚い氷と薄い氷が疎らにこびりつく。
ユール祭を共に祝う約をしたのは*その時期だった*]
―― 回想/女たちの、秋の仕事 終了 ――
―― 長老のテント前 ――
[死する直前に届けられたラウリのなきがらは、
蛇を連れた遣い手が通りがかったときにはまだ
長老のテント前へ触れる者無く横たえられていた。
件の小洒落た帽子は、添えられていただろうか。
蛇遣いは、己を運ぶ狼に骸の傍で歩を緩めさせ…
少しの間、顔を向けずともそこへと立ち止まる。]
……
[虎の如き眼差しは俯かず、行手を見据えたまま。]
[見遣らずとも、頬に癒えきらぬ火傷がひとつ、
それ以外>>0:39>>0:40傷のないことは知れていた。]
ひとならば、悼もう。だが…
けものの骸へ構いだてするは、
喰らうときばかり――だな。
[けものとひとの境を、支配のまじないの均衡を
失ってしまったラウリへか、憐れまず確かめる。]
ひとに、別れを告げに来たのだよ。
[さくり、おおかみの前足が血に濡れぬ雪を踏む。
…村内を闊歩する狼の群れ。外へ出ていた村人は、
恐れおののき手近な小屋へと駆け込み閉じこもる。
蛇遣いを運ぶのは、灰褐色をした一際大柄の狼。]
…ああ。
どうか寛いで――常の如く在るといい、村の衆。
隠れて息を潜めたとて、
我らが群れにはわかるのだから。
―― レイヨの小屋 ――
[崩れそうな小屋には、淡い灯りがともっている。
屋根の煙出しから昇るのは、薄くしろい煙と蒸気。
主不在の住まいで火を起こすのは二度目のこと…
蛇遣いは、レイヨの小屋で火の前へと座っている。]
…
[火にかけた小鍋の縁を、ほのおの舌が舐める。
くたり、と沸きかけの揺らぎが湯面を乱しゆき]
茶には合わぬのだろうな…
[浅く醒めて身じろぐ白蛇に触れ、ひとり呟く*]
―― レイヨの小屋 ――
――ただいま、だな。
[送られた台詞>>4:119がゆえに、帰着した態の
留守宅の主へかける言は些か場にそぐわぬそれ。
遣い手たる者は、小鍋の中へ細く赤黒い腸詰めを
放りこみながら、レイヨとアルマウェルを迎えた。]
長老さまと、話してきたかね。
[生き残りの彼らが道々見かけたであろう、村内を
闊歩するおおかみたちのうち数頭は此処にも在る。]
[――姿が見える者は、四頭だった。
窓外を見張る態で太い首を擡げている者が、二頭。
レイヨが普段使っている寝台に伏せる者が、一頭。
頭目たる遣い手の背を暖める如く蹲る者が、一頭。
姿を見せず隠れ居る者もあったが――
獣臭や息遣いにてそれを察せる男は、既に亡かった。
しろい蛇も含め…待ち居た者は総て、
その瞳を動かし小屋へ辿りつくにんげんを*視る*。]
[使者から応えもなければ、重ねる問いもなく。
遣い手はアルマウェルから小鍋で茹だる腸詰めへ
視線を移した。彼が取り出した刃は狼が見ている。]
まだ茶を煎れる気でいるのだな。
気を遣わせんように、火を塞いでいるのだが。
[声は頷きながら、レイヨへと渡す。小屋の主が
茶を煎れるための湯を沸かす様子に小鍋は避けて]
そうかね。 …殺せていたならいい。
[カウコのことを確認されみじかく返答をする。
狼たちは、物音に耳は動かせど視線は揺らさない]
[白蛇は、ひとの言葉を解さない。鎌首が、ゆらり]
…肉ではないな。血だよ。
[レイヨが差出すカップへ遣い手は手を伸ばさない。
火かき棒の逆端で小鍋に茹だる腸詰めを引上げた。]
そして、あんたはあたしが
「誰」に会いに行ったかちゃんと聴いていたのだ。
[手の中へ収まる程度の大きさの綱切りナイフで、
腸詰めの端をぶつりと切ると――透ける小腸から
熱く赤黒い塊…茹でた血がぬめと溢れ出てくる。]
「何」はない話だろう。
話をしに来たのではなくて、群れの頭として
話が出来る相手かを知りに来たのだ、若先生。
[調理の手法としては――馴染みのものだった。
男らが、狩りへ出る前に好んでトナカイを潰し作る
血の腸詰め。口元で器用にナイフを使い齧りとる。
それはケーキ地のようにやわらかく、血の臭みは
香ばしいものへと変化している。溶ける脂は甘い。]
…赤マント。
寒いのだが、そこを閉める気はないかね。
[遣い手は、未だレイヨが差し出すカップを取らず、
扉前で得物を構えるアルマウェルへと声をかける。]
――何なら、もう二、三頭
中へ入れて部屋をあたためるか。
[警戒する使者の背後――微か雪踏む複数の気配。
低く唸る狼が数頭、彼の後ろへうろついていた*。]
[誰の何へ応える間もなく、レイヨの挙動が
苔生した屋根の端ごと崩れる雪崩を誘発し――
遣い手も思わず目を瞠り火の傍で腰を浮かせる。]
――… 、…っ? …さがれ!!
[飛びかからせた狼が、使者たる男が振った刃の
一閃に、胸へぱっと鮮血の赤を散らした瞬間も
顔色を変えなかった遣い手が、鋭く声を上げる。
アルマウェルの左肩へ深々と爪を喰いこませた儘、
赤茶色の狼は雪塊と石屋根の欠片に呑み込まれた。]
[小屋の中へも、内へも舞い上がる乾いた雪煙。
いつの間にか窓辺に配していた狼たちが寄り添う。
もうもうと立ち込めるそれがやがて晴れる頃には]
…… そんな閉めかたが、あるか…
[埋まった入口。――遣い手は、低く喉奥で唸る。
アルマウェルは、倒れ伏す態で、重い雪と瓦礫と
赤茶色の狼の死骸とに埋まり…僅か、刃握る儘の
片腕と、胸元から上だけが積雪から覗いていた。]
ツケとやらは溜まる一方らしいが…
癒せぬかね?
[遣い手は使者が入口を踏越えた瞬間に襲わせようと
薬草籠の間に隠し伏せていた狼を立ち上がらせる。
ゆるゆると息を吐きながら、求道者を見遣り―――]
探すもせなんだからには、
まじない師が誰だったかなど、とんと判らんが…
あんたが学究の徒に見える、のは今でもだ。
少なくとも、あたしらには未知の病…
[雪煙が室内を撫でた後であれば、灯した火も
消えかけで。しろい呼気を吐いて遣い手は言う]
街から医師を呼べば、その次は役人が来る。
学者が来るぞ。薬屋も来るな。
流行り病となると、しばらくは
遊牧の商いも成り立つまい――
ずるずると、
やってくるのは文明の波となるわけだ。
ウルスラ先生は、望みだったのだがね。
気づいてくれるかもしれなかった、病の件に。
その可能性が、長老さまのまじないに拾われて
…生き残れなかった…。
…ひとにとっては、必ずしも
滅びではないのだろうけれどな。
けものには、違う。
流れ流れて辿り着いたあたしには、違う。
[――窓外に、ちらちらと松明の灯りが過ぎる。]
[松明を持つ村人たちの様子に、凍る湖上の祭壇へ
ドロテアを捧げた折のような躊躇いは窺えない。
おおかみの届かぬ屋根に上った村人たちが、
狼遣いを小屋諸共焼こうと火矢を用意し始める]
…
ああ。
長老さまは…「癒す」おつもりのようだな。
…
あんたが「変わらない」と言ったのは、
レイヨ。
変われないことへの方便だったのだな。
[手伝いを求める求道者へはそう言い落とす。
埋まる者へ歩を寄せると、ぎ…と床が軋む。]
…。では、選んだままに。
せめて、けものの性で。
儘にあじわって―――愉しむ、さ。
わざわいの先触れたる我らが潰えるなら、
そののちの「望み」…そういう意味だ。
けものの理にひとの理でもって
つきあってくれる必要はないよ、若先生。
[抱いた望みの小ささ故に、遣い手は話を切る。
確かめることが出来るのは重ならぬ性(さが)ばかり]
歩まぬレイヨ、と呼ぶ訳を
言ってしまわねばならんかね?
[車椅子の脇をやわらかく踏んで進み出るのは、
遣い手の傍らへ添っていた一際大柄のおおかみ。
半ば生き埋めとなったアルマウェルの乱れ髪を、
襟元をすこしの間くんくんと嗅いで――――
ぞぶり。
アルマウェルの肩口へと牙を深々うずめた。]
…引け
[本来ならば、告げる必要も無い下知は短い。]
引っ張り出して、生きていたなら
手伝ったことになるのだろうよ。
[瓦礫混じりの雪のなか、使者の全身は果たして
如何なる状態だったか。引出す力は*容赦ない*]
[アルマウェルが発する苦悶の呻きは耳に憶え、
イェンニの血を煮上げた腸詰めを喰らい終える。]
…――律儀かもしれん。
[血錆めく甘さの残る指を舐りながら、身を屈め
ビャルネが残した飾杖を じゃらり 拾い上げ]
なので、差し出されたものは受け取るとする。
[背を向けた車椅子の青年、その肩越しに――
遣い手が鋭く突く杖先は、吸いつく如く向かう。
身を起こされ、苦痛に喘ぐアルマウェルの喉へ。]
望まれぬ言葉を 求めた
*対価を*。
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