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[向かったのはやはり手洗いだった。
そう、その店に警察の影はなかったのだ。]
どうやら目は付けられていなかったようだな。
[用を足してから、テーブルに戻ると、
食後のコーヒーを味わってから、紙幣をそのカップの下に置いた。
もちろん、次見た時にはその姿はいつのまにかない。]
― トロワ・シティへ向かう街道 ―
宇宙の支配者か。
あいつは10年前もそんなことをいっておったな。
[ミル・シティ観光のCFを[特急電車]できいている。
それから、しばらくして、到着したバスに乗った。]
ブラックキャットを手にすれば、それも夢じゃない、か。
まぁ、それほどのものだからな。
[今回のターゲットに対して、そう一人でつぶやきながら]
[明らかな躊躇いを見せれば、ウミはどんな顔をしただろう]
……まったく、スリーピングキャッツにはかなわないわ。
[表情を落とす。
ポケットに入れたままの手が、スマホのボタンを、押した]
[数分後には、大勢の警官が古いホテルへと駆けつけたろう。踏み込んだのは数人でも、周りを私服の警官が取り囲んでいる]
……どのみちあなたには、ブラックキャットは渡さない。
[ホテルの階段を下りながら呟く。表情がどこか苦々しいのは、ウミの腹の中を探りきれなかったから]
― トロワ・シティ ―
[その街についたのは、どのくらいだったか。
ともかく、そういう情報屋の界隈に足を向けると、話題になっていたのは、捕まった輩のことだった。]
ほう、
つい先日会ったばかりだったよ。
あの人が捕まるとはね。
いや、本当に捕まったのかねぇ。
[彼の情報網をみれば、捕まることなどありえないに近しい。
だから、それは、なにかしらの意図があるようにも感じている。]
誰にも。
[ホテルを出る頃には、来たときと同じ観光客姿。
一度だけホテルを振り返ると、あとはトロワ・シティを目指す]
― トロワ・シティ ―
[この街は、列車の街だ。
特急、急行、普通、様々な種類があり、乗り間違えると大変だが、悪い街じゃないと思う]
“B”<32>系、通称赤い[包帯]号!
素敵!
[移動中は、トロワ・シティのホテルを出る際、周りを警戒していなかった不注意を反省していたりもしたのだが、この街に降り立てば、すっかりそのことを忘れた]
[やがてやってきた警察の中に見知った顔を見つけると。楽しそうに声を掛けた]
やあグリタ君。相変わらず身なりに気を使っていないのう。
そんななりでは奥さんもニースから帰ってこないだろうね。
[中に居る人物がウミだと知れば、警察の面々は苦々しい顔になるばかり]
どうしたのかのう?
[権利の告知すらせず遠巻きにする警察たちに、空っとぼけた顔で首を傾げた、あと、さも今思い出したかのように続けた]
ああ……。そうだ。わしが捕まったということは、いっそネットでライブ中継でもしたほうがいいのではないかね?
秘密裡に「情報」を得たと思われたら、君たちの身が危なくなるだろうしの。
[ウミの持つ情報は有益だが、その有益さは、つまりある人物にとっての致命的な不利益だ。
殺すことで口を封じることが出来るなら安い。
警察に捕まれば、留置所に置かれれば、何らかの罪を得て刑務所に置かれれば、あっという間に命を落とすだろう。
ウミの特殊さは、きわめて有益な情報を取り扱いながらも、戦争にも革命にも大規模な抗争にも関わらず、のらりくらりと闇の世界を生きぬいていることだった]
ああ。わしがちょっと宿泊した後に「何も漏らしてなどおらん」と言えば、危険は無いだろうがね。
だから、そこの赤ネクタイ──ダンケは銃を使わない方が安全だの。
わしが拘束されている間に命を落とせば、どんな情報を引き出したかと、おまえさんたちが痛くもない腹を探られるぞ。
[平たく言えば、自分の情報を盾に『何も聞かず釈放しろ』と言うことだった。
入口付近に居た若い刑事は、仲間に取り押さえられていた]
いや、何も企んでおらんよ。
ただちょっとばかり、時間をつぶしたいと思っての。
あ……見なかったことにしたい? いや、もう、捕まったことくらいは流れてるだと思うんだがのう。
あまりにも時間が短すぎると、逆に疑われるんじゃないかの?
[もう帰りたいという警察をなだめすかして、ホテルのフロントから、買いおいてあった大福を手土産にゆうゆうと留置所に向かう]
[トロワ・シティではなく、ドゥ・シティの古いホテルを出るときと言いたかった気がするがそれはさておき]
――ええ。ミル・シティまで。
[券売員に笑いかける。
目的の街へ向かう列車、一等席の切符を手に入れれば、さらに笑みは深くなった]
ありがとう。
[良い旅を。券売員の言葉に頷く。
年代物腕時計を見る。出発は、まだ先だ]
[駅舎を歩きながらスマホを取り出す]
……。
[開くアドレス帳。
暫く指を彷徨わせると、選んだのは、数日前に連絡を取ろうとした相手]
……さて。プロフェッサーは知っているかしら?
[どこにいるかも知れない相手に、コール音聞きながら、呟いた]
[つぶすべき時間は自分のものではなく警察のものであり。
そして……自分という囮を警察に置けば、何らかの接触を図ってくるだろう]
まぁ、無事でよかったのう。
[さきほどの刑事と同じように、命を狙う輩も多かろうが]
大丈夫。
もう少し時間を稼げば、また外に出られるさ。
[ネギヤにいつもの通りのんびりと話しかけ、高価なスーツにも構わず、どっこいしょと床に腰かける]
どら美がおらんのがさみしいのう。
[膝や肩に慣れた重さが無いことが心細い]
[ポッケに入れていたスマホがぶるっと揺れた。
発信者は先日会ったばかりの歌姫。]
はーい、ごきげんよう?
[トロワ・シティの駅のどこかの柱にもたれかかって、通話をはじめる。今日は白衣を着ていないので、歌姫は気づくかどうか。
気づくといえば、ウミが警察に捕獲されたことを彼女は知っているのだろうか。諸般の事情でドゥ・シティのホテルへ遅れて到着したのは警察が一仕事終えた後だった。
ネギヤがヘマして捕まったと教えてくれたウミが…。同じくヘマをしたとは思えないのだがさてはて。]
[携帯電話の良いところは、遠いところにいる人間にも一瞬で繋がるところだ。
悪いところは]
あら、繋がった。
ごきげんよう、プロフェッサー
[相手がどんなに近くにいても、それを感じ取れないこと]
あなたは無事そうね? よかったわ。
[話す相手が同じ駅に居ることなど、気づかずに話す]
[最近の通信機器は性能が良い。
とぎれとぎれの言葉をつなぎ合わせれば、意味は推測できた]
安全……?
警察を頼るほど危ない橋を渡ってらしたのかしら。おじいさま……それとも、渡っているのは私たち?
どちらかというと――
[ウミが最後に残した言葉を思い出して、言葉を途切れさせる。
嫌がる人間は大勢いるだろう、とウミは言った]
ああ。姫君も無事そうだね?
[視界の隅に当人を確認しつつ、しれっと聞く。]
せっかくだからミル・シティで
勝利の美酒を味わいたいじゃない。
うかうか捕まっていられませんて。
んあー、そうみたいね。
後<91>分ほど早く着いてたら
俺もまずかったかもー?
…ネギヤがヘマしたって俺に教えてくれたの、爺さんだぜ?
んで、即自分もやらかすのはなんかなぁ。
耄碌したとは流石に思えないから、何か目論見があったとしか。
[それが本人によるものか他者によるものかは知らないけれど。]
もしかして、姫君は現場にいたの?
どっちかというと、爺さんの場合は、警察に取り込まれたらやばいって動き出す後ろ盾があるようなないような?
[まぁ、その辺の事情はさっぱりなので憶測に過ぎないが。]
もちろん無事よ。
ミル・シティのシャンパンは世界一っていうわ。楽しみね。
[ゆっくりと歩きながらの通話。
プロフェッサーと呼びかけるから、思い浮かべるのも、無意識のうちに白衣姿になる。それでも視界に入れば気づくだろうが……今見えるのは、赤い列車、大勢の人の足に負けない重厚なホームと、善良な、一般市民のみ]
あら。それは運が良かったわね。
結構騒動だったみたいだから。
そうなの? まったくもう。おじいさまったら、私には教えてくれなかったのに。
でもそれが本当なら、確かに腑に落ちないわね。
[見ていなかったような口ぶりで続ける。
何か目論見が――ユウキの声に、思わず小さく頷く。
自分が知りたいのも、それだから]
[その場にいたの、と。
さらりと付け加えられたような問いに、言葉が止まる。
ほんの、一瞬]
私も、ホテルに向かったから。
あなたより90分早くね。
[言って、くすりと笑うときにはいつもの調子で]
そうよね。おじいさまがなにも勝算無くそんなこと……
聞きたかったのよ。プロフェッサー、おじいさまがなにか言ってなかったかしら。例えば手を貸すような算段とか。それとも私には内緒かしら?
[急に曖昧になった言葉に、それでも、聞いてみる]
ふふー、ねぇ、楽しみだ。
[世界一のシャンパンを思い浮かべれば、それだけで顔がにやける。おっといけない、油断大敵。]
ああ、そうだね。
遅れていっても、何かあったとわかるくらいの騒々しさだった。
ふっふっふっ、魅力的な女性を前にしたら、
情報の共有なぞ、二の次三の次だったんだろ、爺さんも男って奴さ。
[ザクロには伝えなかったことを知り、目をぱちくりさせたのは一瞬。
てきとーなことを言って、混ぜっ返して、自分で笑った。]
まぁ、あれを聞いたら、ホテルに向かうよねー。
迷…街の観光に時間をつぶさなければ、俺より早く着くのも当然。
[したり顔で頷きつつ、最後の問いかけにゆるりと首を傾げる。]
爺さんから何か…?手を貸すような算段って、いや、特に何も?
[爺さんからの言づて>>2:5でどら焼き屋に行ったことは伏せたまま。]
今回の件では俺たちチームだけど、基本フリーだからねー。
姫君の方こそ、どっちも俺より先に待ち合わせ場所に
たどり着いてるんだから、某か話は聞いてるんじゃないの?
そういえば、もう一人の爺さんとは連絡とってる?
[ちらっちらとザクロの方を見ながら、じわじわと場所を移動している。 隠れるため、というよりも、素直に予定どおりに行動しているだけで。]
ほう?
尋問──かね?
[しばらくの後、ウミに呼び出しが掛かる。
用心するそぶりすらなく廊下に出ると、わざとらしく手錠すら掛けられていない両手をぷらぷらとさせて刑事に嫌な顔をされる。
そうして連れて行かれたのは、その建物内で一番立派な部屋──警察署長室だった]
ブラック・キャットを狙う理由?
そうさのう。
約束通りワニをプレゼントしたのに、白猫を贈られたから、かのう。
[すわり心地のよい本革のソファに悠然と腰かけ、答えるのは歌詞通りの人を食ったもの]
むしろ、わしは──お前さんたちがブラック・キャットを狙う意図を知りたいのう。
そちらの方がよほど面白い。
[入るときに確認した。
厚い壁、二重窓。
恐らくここはセキュリティの一番高い部屋だろう]
ブラック・キャットが何なのか、どうしたらいいか、悩んでおるだろう?
だから敢えてわしらが手に入れるまで監視しつつ妨害をするふりをしている。
それは──に関係があると、わしは睨んでおるよ。
[口にするのは仲間の名前**]
あら。嬉しいことを。
[魅力的。
この男の口からはよく出そうな言葉であるし、表の世界では言われ慣れた言葉でもあるが、言われて悪い気がするものでもない。
相手の笑う声につられるように、くすくすと笑って]
一世紀以上生きていても男は男、か。
……あなたは、どう?
[戯れの域をでない口調で、問いかける]
おじいさまも意外と大胆だわね。
[ドゥ・シティで聞いた黒猫のタンゴ。
仲間であればひやりとするのに十分だ。
観光、の前になにか聞こえたような気がしたが、今は聞かなかったことにしておこう]
そう? じゃあ……信じてあげる。
[指示があればなおのこと、簡単に漏らすわけもないとは思っていたが。漏らすとすれば、それこそが罠であるとも]
いいえ? 聞いてないわ。
教えてもらっていたら、確実に行動しているところだけれど。
[問い返しにはよどみなく答えてから、一度唇をとじ合わせて]
いえ……
「嫌がるだろう」って、言ってたわ。「あれ」が。
[一部は、端折る。
どの情報までを伝えるべきか、逡巡はすれど、ウミの行動を推測する手がかりが少なすぎた]
オーナー?
いいえ。
あなたが何も知らないようなら、彼にも聞いてみようと思っていたわ。
[その辺は包み隠さずけろりと]
この街にも警察がいるけど、まだ捕まったって話は聞いてないわ。
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