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―回想:公園前―
[自分の事を「甘い」と評する塾講師に対し、結構あっさりと切り返す。]
好かれるのは良いことなんじゃないですか?
…まぁ、ここに居ても塾のやつらが来る保障は無いし、行きませんか?松柏駅。
[鞄を持ち直し、近藤の返事を待たずに駅へと向かいだそうとしたその時だった。]
―電車の中―
[駅は目前のはずだが、突然鳴り響く警笛と閃光に顔をしかめる。
近藤が駆け寄ってきたような気がしたが、次に目を開けると、そこは先ほどとは違う場所になっていた。]
二宮さん……?
何だよ、これ…。
[夢と言うにはリアルな情景だった。三日前、塾で会ったばかりの二宮が、得体の知れない何かに取り囲まれていた。
やがて彼女は地面に膝をつき―――。
映画の撮影シーンを目の前で見せられているような感覚に、手にしていた弓が床に滑り落ち、カランという音を立てる。
その音で我に返り、改めて周囲を見れば、見覚えのある顔ばかりが揃っていた。]
[村瀬も弓槻も、そして駅に行くかどうかと尋ねてきた櫻木も。他の同級生や先生までもが電車の中に居て、その誰もが、この状況を把握できていないように見えた。
二宮の身体を離れた何かが、信じられないような事を言い出した。]
……鬼、って…なんだ、それ。
帰れないって、嘘だろ…!
[咄嗟に矢筒を取り出して、近くの窓を思いっきり叩いてみる。が、割れる事は無く。
外を見ようにも、明かりすら感じない真っ暗な闇が見えただけだった。
自分の中には混乱しか無いのだが、椎名は何かを知っている様な素振りをしている。
床に落としてしまった弓を再び拾い上げると、彼の方を向いて問いかけてみた。]
椎名…、見つけたってどういう事だ?
何か知ってるのか…?
[ふと顔を逸らすと、近藤先生までも顔つきが変わっていた。
彼らの話す言葉に理解が追いつかない事に、苛々している自分に気付いた。
どうやら、とんでもない事に巻き込まれてしまったらしい**]
―回想―
[はぁ…と深く溜息をつく。
彼ら―バクと近藤―の言う事はそう簡単に理解できるものでは無かった。]
青玲学園の事件と、僕らが今体験しているこれが同一…?
[あの事件については、神隠しが起きたという報道くらいしか、寺崎は把握していない。
だから、近藤が詳細に話す言葉を聞いて、ようやく事件との関連性を感じ取ったのだった。]
何を信じていいのか…。
[なぜ近藤が詳しい話を知っているのかは分からなかったが、作り話とも思えなかった。
しかし、誰かを疑うなど、自分にできるのだろうか。
気持ちを落ち着かせようとしても、そう簡単に整理はつかず。弓を握り締める左手には力がこもっていた。]
…はっ、この電車って動いてるんだよな…?
運転席とか…脱出口とか確認してくる――!
[駆けだそうとした際、すぐ近くで、近藤と須藤が2人がかりで二宮の身体を座席シートへと移そうとしているのが目に入った。
ふとドアの上辺りを見ると数字が書かれており、皆が集められて居るのは{4}両目らしい事が分かった。
まずは運転席の様子を確認しに行こうと動きだした。]
[速足で駆けて行き、運転席への入り口まではすぐに辿りついた。
だが、1両目から運転席へと繋がる扉を手で開けようと力を込めても、びくりとも動かない。
窓から中を覗こうとしても、やはりその向こう側は暗闇に閉ざされていて様子を窺う事は出来なかった。]
くそ…っ、誰がこんな事仕組んだんだ…!
[深く息を吐き、一度呼吸を落ちつける。
そして、手にしていた弓を袋から取り出して矢をつがえる。扉へと狙いを定め、ガラスを割ろうという考えだった。]
割れてくれ…頼む……!
[そう呟いて右手を離せば、矢は正面に見据えたガラスへと、空を切る音をさせながら一直線に向かい――]
……割れて…ない。
[ガン―ッという鈍い音を響かせただけで、寺崎が放った矢は虚しく地面に転がるのみであった。
その後、非常扉も探ってみたが、やはり開く事は無く、脱出不可能だという現実を突きつけられるだけの成果に終わる。
皆が居る所へと戻り、誰かに様子を聞かれたなら、悔しげな表情のまま首を横に振っただろう。]
―回想:終―
[とりあえず、須藤に促されるように適当な位置に座る事にして、近藤がスケッチブックを使って説明するのを他の皆と同様聞くことにした。今の状況をどうにかするためには、動かなければならないから。]
…鬼、か…。同級生達を疑えだなんて、これ以上にきついものは無いな。
[近くには弓槻の姿があって、そちらをちらりと見て苦笑いをした。]
能力があると自覚した人がいるなら、その人物の話を聞かなきゃいけない。
…誰だってここから出たいはずだし。
僕は、皆を変に疑ってしまう事は避けたいと思う。
だから、整理するためにも、その…鬼を見分ける目ってのと、死者の声が聞こえるっていう人物が本当にいるなら名乗ってほしいね。
それと、誰かに投票するというのは、まずはそれぞれが伏せてしてしまってもいいんじゃないかな。
一人に集める場合って、この中にいるらしい鬼も全員の意見が聞けるってことになるし、少しでも票数が多かった所に、合わせてきたとしたら…。
僕の意見は、鬼に有利になりそうな情報を渡したくないなと思っての提案。
もちろん、力があると名乗ってくれた人物は避けたいと思うけど。
[突然電車の中に閉じ込められた事も、二宮が死んでしまった事も受け入れ難いが、状況を打破するには話し合うしかないという結論に至ったらしい。
一通りの意思を伝えたところで、六花にチョコレートを手渡され、ありがとうと軽く微笑みながらそれを受け取った。
そして、バクの提案もあり、軽く自己紹介をしておく。
同学年の皆と先生方は知っているが、さすがに下級生までは知らなかったから、主にその3名に向けて**]
―回想―
[1両目から戻ってきたあたりで、椎名から単独行動は慎むようにと言われてしまう。]
ごめん、そこは気を付ける。
運転席の中、真っ暗でどうやってこいつを動かしてるのかさえ分からないんだよな…。
……?
[六花が近寄ってきたので何だろうと思っていたら――チョップされた。]
…っ!?
そ、そうだな。うん、課長の言う事は聞かないとだしね。
村瀬さんも一人でうろついちゃだめだぞ?
[少し冗談交じりに話せるのは六花の行動のお陰だと、心のどこかでほっとしていた。]
―回想:終―
[1年生達の自己紹介も済んだようで、新たに覚える名前を頭の中で反芻する。
そして、座席に座ったまま、各人が出す意見をじっと聞いていた。]
そうか…、伏せてしまうと反論が出来ない、か。
でも、話し合ったり、問いかけたりという事は出来ると思ったんだよ。
それに、投票した後で理由を話せばいいかなとね。
えと、櫻木さんが言ってた、こっそり合わせる事が出来そうっていうやつだけど――
ああ、近藤先生も言ってたか。組織票とか。
投票の結果は全員見るだろうし、むしろそうやって鬼ってのが合わせてくるなら、自分が鬼だって言う様なものじゃないのか…?
二宮さんをあんな風にしたやつらが言う事を、信じるっていうのも変な話だけど、鬼は2人しかいないみたいだし。
もし伏せたとした場合、鬼同士で投票し合う事はなさそうだと思うんだ。どこに票が集まるかの予測は出来ないだろうから。
こういうのは情報にならないのかな…。
[皆に向けられる視線には、やや困ったような顔をしてみせる。だが、自分の意見はしっかり伝えなければ。
誰が信用出来るのかは、まだ分からないのだから。
…そういう風に考えてしまう事に対して、大きく溜息をついた。]
そうだな…、僕が皆の意見を聞いてて思ったのは…
何かの力を持つ人を隠そうとした場合でも、誰か一人を選ばなきゃいけないんだろう?
そこで、鬼ってのが選ばれたら、力を持っていますって名乗って来そうな気がする。
すぐに名乗らない場合って、こういう事も考えられるよな…。
鬼達の言い訳の機会を奪うって意味でも、名乗った方がいいってのが、僕の意見。
見分ける事が出来るっていう人は、投票用紙に申告しておいて、後から判明するっていうやり方もあるみたいだけど…
鬼が、二宮さんをああいう風にしたように僕らを攻撃してくるなら、得ようとしていた情報ごと分からなくなるかもしれない事を考えると、あまり良くないような気がするんだよな。
[そこまで喋ったところで、車両の確認をしてきた椎名からの提案を聞いた。]
食堂車…そんなのがあったんだ。
分かった。二宮さんはその奥に移動させようか。
[椎名が手伝うよという態度を示して来たのだが、小柄な少女一人であれば、弓道で鍛えた力があれば一人で運べそうだ。
椎名には、寺崎が所持していた荷物―鞄と弓矢―を持ってもらうよう頼み、食堂車のその奥の車両へと向かった**]
[二宮を奥の車両へと移動させた後、再び皆の所へ。
居ない間に話が進んでしまっていたようで、須藤が用意してくれたボイスレコーダーを操作して確認していく。]
んー…、了解。
投票は揃えた方がいいっていう意見が多いのも把握したしね。
誰か一人を選ぶというのに賛成しておくよ。
シンヤが名乗り出た後に、力は無いという宣言をするのを止めた近藤先生は鬼っぽくないのかな…とか思う。
きちんと自分の意見を言ってるように思える人達も、投票からは外したいな。
もう一度聞き直してみるか…。
[そう言ってから、再びボイスレコーダーと向かいあった**]
[座席に腰を預けながら、皆の言葉に耳を傾ける。そして聞こえてきた近藤の言葉に対して]
んー…
近藤先生、提案内容のメリットなら僕は話してるはずですよ。
伝わりにくかったなら僕の言い方が悪いんだけど…
[もう一度、という感じで周囲を見回してから]
僕らの中に鬼が居るなんて信じたくないですけど…
これから、あの火の玉達が言ってたような事が起こるかもしれないってのは、怖くない人なんか居ないと思う。
だけど、鬼はこの中にいて、やり過ごそうとしてるわけだろ?
だったら、鬼が恐れる様な一手を、と考えた結果だったよ。
一番多く票が集まった所とした場合、もし、鬼に票が集まらない事が分かったなら鬼同士で投票し合って、僕らの目をくらますことが出来そうだなと思った。
だから、あえて伏せることで、そういう撹乱は起きないんじゃないかと考えたんだ。
あとは…すでに説明済みだけど、票を伏せたら鬼が鬼に投票ってのはしにくそうなのと、票を合わせて他の誰かを貶めるっていうのは、鬼が露見するかもしれないからやらないと思ったな。
鬼は二人しかいないし、票が集まるかもしれないっていうプレッシャーを与えたかったんだよ。
残念ながら賛同してくれる人はいなかったけどね。
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