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[透白な頬、零れるほどに見開かれた瞳。
もがくかたちに強張る手足は、
腱を切らねば伸ばせない硬さ。
檻から引きずり出せば、水吐くしかばね。
何かの拍子に震える声帯が、断末魔めいて
ごあ、あぁァと奇妙な音を撒き散らした。]
[潮で濡れた大きな引きずり跡を見て
不意に 噎せ込んで砂に膝を着いた
腸より生まれ内管を昇り来るどろりとした黒い塊が
胃液と共に 大きく開いた口から吐き出される]
ごほっ ごほげふっ
ぉぇぁっ…… はぁ はぁ
[浮いた汗に赤い髪がへばりつく額
肩で息をしながら 視界に檻を収め――
歩み寄る背後 男の意思とは別に
黒い塊は 砂地に大きく文字を描いていく]
「ヘイノ は 魔物 です」
[じゃり…]
[袖の内でにぶく硬質な音が鳴る]
[桟橋に乗り上げた船の残骸――己が常宿を
見遣って、斧担ぐ壮年の男が溜息をつく。]
…さすがに、もどる気がせん。
[供儀の昨晩、男がいずこへ一夜の宿りを
求めたか――あるいは心当たる者もあろう。
檻もろともに波をかぶったらしき塒の船は
さておいて、斧の頭が地へと下ろされる。]
ふむ…
[死骸を前に一同を見遣り*顎を撫でた*。]
[檻に手を掛け体を支えるように中を覗き込む
見開かれたおんなの眼球と 視線が、合う]
殺さねば
確かにいる 魔物を
生きる、ために…――
[こぷ と口の端から垂れる黒い粘液を拭った*]
[破れ網に掛かった死んだ魚の他に、ヌラヌラと光るまだ生きた頭足類を抱えてヘイノは昨夜、村を回ったらしき。
蒔きを配る男を真似て、食糧を分けるように人の気配の有りそうな全ての扉を叩いた。
隠れ家のような場所には辿り着けていない上、無防備に戸を開けぬ者も居ただろうが。
ともあれ、朝が訪れてもまだ男はずぶ濡れのまま。生臭い潮の匂いを纏わせて居る。]
──………
あの贄は、
…………俺に、
[ヘイノの眉は吊り上げたままかたまり、瞳孔が開き瞬き一つしない目は、陸に在っても人が引き摺り込まれたならば生きては戻れぬ深海の色を映す。]
…従士長殿、
[えづく赤毛の男へかける声はかつての呼称。
したたる黒い粘液にみるのは昨夜の予兆――]
魔物 … ――そのようなものに
生贄を捧げるという話では…
なかったはずだが、
[違ったのか。違ったのだ。
魔性露わな徘徊者の存在。
遠い納得を示すように、語尾は続かなかった。]
― 廃教会 ―
[死肉を食らう男の腕をねじり上げ、手荒と言われたことには笑みを返すが、目も口も布や轡に覆われているので彼には見えないかもしれず、
ただ、ひょろながい、のだけれども、鍛えられた体躯。掴む腕、指の力は、その身体をいともたやすく、ボロのスーツの紳士を地べたへ這い蹲らせる。]
ヒヒヒヒ、フフフフ、
ヒャハハハハハハ
[彼の抵抗が人間の急所たる場所に及ばない限り、その大きな手は、司祭の遺体の横で、邪淫の慰みを始めるだろう。彼自身を慰めながら、長い指を容赦なく、もうきっと何日も糞の出ていない場所へつきたたて。]
別に、その肉を屠ったことなど、どうでもいいよ。食いたいなら、食えばいい。
[喘ぐはじめるならば、悪戯にその口に、また死肉を押し込むのも、また遊びの一つ。]
安らかに
[引き上げられた安らかではない眠りの表情の石女にかけた白々しい声
親しき死臭が漂う]
鳥はいませんが、何とか致しましょう。
死の儀を取り仕切り、器は大地に、魂を空に還すは、私の役目。
全ての死は私の手で――
[それは絶望しかないこの地で何かを成そうとする男の執着が表れる矛盾に満ちた思考]
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