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─ 風音荘 ─
わ、っ
[突如吹いた風に煽られた拍子にヘアゴムが切れ、ひろがった髪に視界を遮られ足を止めた。]
なんか急に風が…今のすごかったですね、飛鳥さ…
あれ?
[顔にまとわりつく髪をよけながら、目の前の飛鳥に話しかけたつもりだった。
けれど。]
あすか、さん?
[目の前にあったはずの姿は、そこには、なかった。]
みーちゃん…
[なぜ、彼女の心境は変わったのか。
それは、今現在幸せであることを思うと、結果としてはいいものかもしれない。が、]
捜さなきゃ…
[自分は、知らなければならないのだろう。
思い、娘の通っていた小学校の方に歩みを進めた。
この空間から人が消えてしまっているということは、知る由がない**]
[それは、風音荘へ帰るという娘を見送ってすぐのこと]
オヤ、又だネ。
[職人のポケットの中の懐中時計が、歌い出す]
『ウサギ、ウサギ、ダレミテハネル?』
『ウシロノショウメン、ダアレ?』
[ぽーん、と飛び出した光は、今立ち去ったばかりの娘の後を追うように飛んでいく]
―海―
……えーと。
[片耳からは例の曲、片耳からは静かな波の音。
ひとまず兎の言葉を整理してみることにした]
狭間…… 空間の狭間、ねー。
現実に戻せるはずだったけど、ひとが落ちちゃうみたい。ってことは、誰か落ちたのか。へー。……。
……え、それ「てへ☆」で済ませるコトなの?
済ませるってコトは落ちても無事ってことっていいんかな?……いいんだよね?
[漸くその事実に気がついた。
本当なら両肩を捕まえてゆさゆさしながら問い詰めたいところだったが、残念ながら当の兎は既にいない]
[住宅街へと向かう緩い下り坂。駅前に向かうべく歩を進めていた時、異変を感じて一度足を止めた]
………何で?
[不意に視界を過ぎる、制服を来た女性の姿。視界と言うよりは、脳裏に浮かんだと言った方が正しいか。見覚えの無い女性を目にして、瞳が何度か瞬く]
…えーっと?
[自分でも何が起きたのかが分からず、盛大に首を傾げていた。それから次第に眉根が寄っていき、やや険しい表情を顔に浮かべる]
あんの兎、ぶん殴る。
[それは心からの声だった]
キミは、ダレを、探してイルのかナ?
[今は、チクタクと時を刻む懐中時計を目の前にぶら下げて、静かに問いかけた職人も、その先で消えた娘のことは、まだ知らない]
― 駅 ―
定期入れ、持たなくなって久しいな。
[今でも使っている者は少なからずいるのだろうが。携帯と一緒にできるようになってすぐ変えてしまったから、個人的には懐かしい]
鋏の音も、聞かなくなって久しいんだな。
リズム良くて嫌いじゃなかった。
[軽く目を閉じて当時に思いを馳せる。
チャッチャチャッチャ、パチン、チャッチャチャ……
人が通ると変化していた音]
―海―
……さっき会った人らは無事かな。
[海を気にしていた様子だったチカノはこの場にいただろうか。
携帯を取り出しかけて]
とりあえずお菊サンに連絡……あ、取り上げられたとか言ってたっけ。
他の人の連絡先は聞いてねーし。
[開かれることなくしまわれた]
─ 海岸神社 ─
……ったく……。
[不意に上がったのは、ぼやくような声。
ふるり、と頭を振ると、ほろ、と煙草の先から灰が落ちる]
いや、確かに、10年前にあった一番の大事って、アレだけどよ。
[それが関わりあるとは認めたくない。
そんな思いが言わせた言葉は、やっぱり不機嫌な響きを帯びていた]
[職人は、今は完全な姿の子供達の像へと一度視線を向けると、帽子を押さえて、噴水のある池の縁へと腰を降ろした]
アア、分かってイルヨ。
[いつの間にか職人の目の前に白い日傘を手にした初老の女性が立っている。
女性は少し寂し気な、けれど穏やかな笑みを浮かべて池の中の像を見つめていた]
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