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あァらあ
こんな干からびた婆さんに会ったってねぇ
[会いたくて、の言葉に、弓なりに細めていた眼はくちゃりと皺の中へ、笑みの中へ沈んでいく。
見舞いに来たのだと思うばかりに生まれた笑みは、次いだ言葉に薄まり]
……あらまぁ。
[今度は皺を寄せ集めた布のような笑みではなく、にこりと曲線を描き出す表情をして]
そうだったの、奈緒ちゃん。
それじゃ毎日奈緒ちゃんの可愛い笑顔が見れちまうってわけだねェ。
婆ちゃん喜びすぎて 長生きしちゃうよ。
――ああ、でも。
そんなサービスぁ、婆ちゃんじゃなくて
かっこいいお兄ちゃんにしてあげなきゃあね
[んふふ、と鼻にかかった笑い声をさせながら、指先に携えた針をふるって捲れたスカートを指す。覗いた縫い痕は年頃の少女が背負うには、その痛ましさが重いよう。]
[慌てた仕草で居住まいを正す奈緒を、やはりくぐもったような声で笑った。笑うたび、声を発するたび、幾層もの皺の奥から揺れるような、表情はそんな綻び方をした。
孫に対するような口調は、実質、彼女自身がそう思っていたからに他ならない。]
ふふ、うふふ
奈緒ちゃんったら。
[誤魔化すような彼女を揶揄する声音で呟き、話題に合わせてセルロイドの人形を膝上に招く。問いかけには緩やかに首を振った。
関節の自由に動くことのない古びた人形は、るりんとした眼を奈緒にそっと向け]
この子は 一番のお姉さんさ。婆ちゃんみたいに年取った、ちいちゃな女の子さよ。
ずうっと昔から この子を持ってるからねえ。
新しいお召し物用意してあげなきゃ、そろそろ怒り出しそうなんだ。
あたしより後に生まれた子供の方が、ずっと可愛い服を着てる――ってぇ、
この子ったら 最近へそを曲げててねえ。まったく困っちまうよ。
[笑みの名残で震う声のまま、随分長くそばに置いてきた人形の髪を撫でつけた。]
[伸ばされた奈緒の手が化学繊維の髪に触れる。
人形の髪を上下に梳るように撫でていた指先が、水分を失い、針だこができ、
そして年月を蓄積してきた指先が、瑞々しい十代の女の子に触れた。]
[おや――。と、声に出さぬまま、皺に埋もれる眼が僅か大きくなった。
条件反射のような、怯えのような、触れるを厭うような若い震えを看過することはなかった。しかし、それを幾重にも刻まれた歳月の中に隠す術を――奈緒が厭うたものによって隠す方法を、老いたからこそ知っていた。]
……そうさねェ。
だから、婆ちゃんも可愛い女の子でいたいのさ。
だから
今度、外出できたら、
くれぇぷ を食べにいこうって、思ってるんだよ。
うふふ。 内緒だよ。
甘いものはやめときなさいって言われちまったからね。
[わざとらしく周囲を見渡す素振りを付け加え
老婆――田中ぼたんは、笑い声を漏らした。それは彼女が思っていた以上に、一音一音のはっきりした*笑声だった*]
おすすめの店、
約束だよう。
[さして大きくもない、末尾の震えた音で奈緒の背を見送る。
小さく振る手は、背を向けられた後もしばらく続き]
奈緒ちゃんがおばあちゃんになるのは、
……、……。
[さよならと降った手で、人形の髪に触れた]
そうさねェ、
かなり、先の話さ**
今度は りくえすとしたら
歌ってくれるのかね
童謡なんぞォ、あの小っちゃい子たちも交えて歌えたら楽しいだろうにねえ
[人形に語りかけるように 一人ごち]
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