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―神社境内・出店―
[虫の音が、今は恐ろし気に聞こえ。
店番の青年は僅かに眉間に皺寄せた。
――去年の秋祭りの夜、一人の少女が忽然と姿を消した。
随分な騒ぎになり、青年も捜索隊に加わった。
途中で学業に戻る事となったが、未だ彼女は戻って来ていないらしい。
件の本はあれから一度も頁を開かぬまま、実家の本棚に仕舞っている。]**
毎度あり。
[孫を連れた客に氷水で冷やしていたラムネの瓶を手渡す。
続いた世間話には苦笑を浮かべた。]
……えぇ、来年で学生生活も終わりなんですよ。
早いものですよね。
[――青年は今年で大学三年生。
猶予期間は刻々と近付いている。]
[老人の後ろ姿を黙って見送る。
猶予期間が終わったら、店を継がねばならないのだろう。
従弟は呑気に俺と一緒にやれば大丈夫――なんて言っていたけれど。
彼の家は農家で働き手も要るから、あくまで手伝いだ。]
あぁ、いっそ――
[口にしかけた言の葉は喉の奥に留める。
それはあまりにも不謹慎だから。]
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