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燃えないね。
[灰皿から用紙を持ち上げる。
火がついたままのマッチが転げ落ちた]
不気味。
[所々空白がある名簿。五名の名だけが残っている。
皺を伸ばして、自由帳に挟み込んだ]
[再び出口へ向かい、細く扉を開けた。
しばしの躊躇のあと、謝罪の言葉を短く告げたナオの顔を見つめて]
怖い?
[何がとは言わず、ただそれだけを訊ねた]
―学校へと向かう坂道の途中―
言えるわけない。
[視界が滲む。
頬を伝った滴を手の甲で拭い、鼻を啜った]
誰にも言えない。
言わない。言っちゃいけない。
[言い聞かせる為に呟いた。
段々と歩幅が大きくなっていき、やがて走り出す。
このまま自分が消えればいいのにと*思いながら*]
―ポルテの家―
[昨日と同じように郵便受けに近づいた]
ない……。
[謎の手紙がそこにはなかった。
ないのは手紙だけではなく、若い女もなのだろう]
―喫茶店へ続く道―
暑い。
[恨めしい思いをこめて呟く。
この道をまっすぐ進めば、やがて左手に喫茶店が見える。
そこから更に進むと、坂道の途中によろず屋。
そして、突き当たるのは高校の敷地]
毎日毎日。
[同じ道を歩き、学んできた。
この道の景色を覚えているのと同じような明確さで、自分の未来は思い描くことが出来た]
将来の夢は、学校の先生になることです。
[初めて作文に書いたのは、小学校三年生の頃。
“けんけんぱー”の動きで飛び跳ねながら二メートル程進む]
ゆめ?
[自嘲に顔が歪むが、きゅっと口を引き結んで真っ直ぐ歩き出した]
うん、そうみたいだね。
お巡りさんがウロウロしてた。
[店内を見渡す。
マスターはここ数日で五歳は老け込んだように見える]
昨日何話してたんだろう。
[ポルテとモミジが並んでいた席を見やった]
ふぅん。
[蚊の鳴くような声で言って、はたと動きを止めた]
待って。
いつの、何の手紙?
フユキさんが否で、リウ子ちゃんも否人攫い。
毎日手紙が来るなら、ひとつ足りなくない?
こんなのはどうだろう。
『人攫いは森下紅葉である』という手紙が来て、口封じに攫われた。
[扉の横の壁に背中を預ける]
なんてね。
人を無闇に疑っちゃいけない。
きっと手紙はもうないんだろうし、
訊いてもどうにもならない気はする。
[指先で毛先をくるんと巻いて弄ぶ。
視線を一瞬ナオへ向けた]
“人攫い”って何が目的なんだか。
[外からは蝉の声が届き、店の片隅のラジオからは、高校野球の様子が小さく聞こえてくる]
狐でも魚でも……。
[ナオの言葉を聞いた途端、思い出されたのは]
たいやき。
[巨大なたいやきが人を咥えて逃げていくのを想像してしまい、笑いがこみ上げる。
不謹慎だと思って、堪えようと手で口元を覆い俯いた]
はー。
[肩を震わせていたが、長く息を吐き出して顔をあげた]
たいやきは、秋か冬に食べるものだと思う。
[目尻にわずか滲んでいた涙を指先で拭い、ナオの顔を見た]
ん?
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