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[重い扉を開けて、酒場を後にする。眼鏡が何事かぶつぶつ言うのが聞こえたが、気にも留めず。
胸クソ悪い、もう帰って寝ちまおう。そんなことを考えながら歩く。薄暗い道、水銀灯がぽつりぽつりと灯って]
…どこだっけ、ここ
[慣れた道、の、はずだった。
別段意識しなくたって足が勝手にアパートまで運んでくれる、それくらいに慣れた道。しかし、今日の、ここは]
知らねえぞ、こんなところ。
[突然背筋がぞわりと冷えた。自然と足が速まる。駆け出した先に見える大通り、そこまで行けば]
あ?
[次の街灯まで行けば、大通りのはずだった。明るい道が、すぐそこに見えていた、はずだった。]
飲みすぎた、のか 俺
[まるで逃げ水のように、大通りの気配は遥か遠く。そこにあるのはさっき通った裏通り。半分蓋の外れたゴミ入れのバケツに、見覚えがある。
立ち止まって、ゆるく頭を振った。少しの頭痛。それでも意識がトぶ程、飲んじゃいない。訳がわからず、二三歩後ずさり]
[くるりと踵を返して、早足でもと来た道をたどる。
先に出て行った連中は逆方向に行ったのだろうか。とりあえず戻ろう。警察やらが呼ばれていれば面倒だが、とりあえずそんな常識的な光景は忘れ去られていた。]
…暫く、酒飲むの、やめよ。
[酒のせいなどではないと、薄々気づいてはいたのだが。]
う、 げ
[この状況に相応しくない、極めてのんびりとした声音に、いやそれ以上に、その声に似合わないあまりの惨状に、潰れた蛙のような声をあげた。]
なんもねえよ。
俺にはもう何がなんだか、わかんねえ。
[しゃがみ込んで頭を抱え。
深く、溜息。]
しかし何してたんだ、お前。
まるでお前が殺したみたいに、なってんぞ…
[眼鏡を見上げる格好で顔を上げ、ウルフ(もう注釈は要らないかと思う)は半ば呆れた口調で、呟いた。]
んだ?探検でもすんのか?
ここを?
[よ、と反動をつけて立ち上がる。
眼鏡を見下ろしながらポケットを探り煙草を取り出して]
あ、要るか?
そうだっけか。
[眼鏡(実は名前を聞き逃していた)が煙草をやるかどうかは、知らない。記憶にない。「いつも目にしていたはずなのに」。
俯き気味に歩きながらマッチを擦り、くわえた煙草に火を点けた。独特の燻る臭いがする。]
……で、なんだって?
[マッチを後ろに放り投げて、ウルフは顔を上げた。]
[立て続けに放たれた言葉にたじろいで、一歩後ずさる。]
警察…。まあ、普段碌なことしてねえし…。
ま、殺しはやってねえな、辛うじて。
[人を殺したことはない。
そういう願望は持っていない…はずだ。多分。
とはいえ、血の気は多いほうだ。
わけもなく苛立つような時、誰かをぶち殺してやるのを夢想したりする。それでも、想像の中で頭を打ち付ける感覚を、首を絞める感覚をリアルに感じたりはしないし、大体そののっぺらぼうの『誰か』に、知った顔を貼り付けようとすれば、安っぽい殺意なんかたちどころに吹き飛んでしまう。カウコだったりウルフだったりする彼は、そういう小物だった。]
……え?
[目の前の景色が、ひっくり返った。
何が起こったのか、よくわからない。]
…なんだ、って?
[眼鏡の奥の瞳が、すぐ傍に見えた。
こいつは今なんて言った?
輪廻?誕生日?]
おい、どいてくれ
[起き上がろうと頭を持ち上げた瞬間、思いも寄らぬ方向から力が加えられた。つまり、ウルフは地面に押さえつけられた。]
てめ、何しやが
[眼鏡が腕を振り上げた。ゆっくりと。そこには細く鈍い光沢が見てとれた。血濡れた銀色のそれが最高位に達した時、ほんのわずかな時間だけ静止して、しかしそれは気の遠くなるほどの長い時間で。それからゆっくりと先端が近づいてくる。いや、こない?まだ、届かない。ゆっくりと、それはまるで映画の演出の如きスローモーションで、ゆっくり、ゆっくり。このままの軌跡では、当たる?刺さる?どこに?あの女のように?開かれた白い喉が目に浮かぶ。目を閉じたい、のに、瞬きもできない。乾いた目が震える。視界が揺れる。おかしい。変だろ、動けよ俺の身体]
[なんだよ、なんだよこれ。
熱い。いや、冷たい?わからない。自分の置かれた状況がだ理解できないまま、しかし身体は動かないし、喋ろうとしても声帯が震えないし、目の前はなんだか暗いし、胸元が濡れて、バケツをひっくり返したような、ああ、そうだこれは雨か?雨だ。]
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