[墓碑の前にぼんやりと長身の男の姿が浮かぶ。男は顔の右半分を覆う仮面と、スーツ、白い手袋を身に纏った――怪人の装いをしていて]
……蓮 雷電。
[プレートに刻まれた名前を読み、供えられた花を見て目を細める。ペケレの姿を一瞥し]
One little Injun living all alone,
He got married and then there were none!
[両腕を広げて宣言するように。
「最後の一人」へと、捧げる言葉]
……、
[それから怪人は溶けるように姿を消す。
だがその存在がなくなる事はなく、
ただ彼女を――天使を捜し求めて、*彷徨うために*]
『×月△日
戦隊ショーのアルバイトの帰りに公園に寄る。最近はいつもこうだ。公園でぼんやりと過ごして、寒くなってきたら家に帰る。
ショーをやるのも楽しいし、子供に喜んで貰えるのは嬉しい。だが、私はいつになったら本当の役者になれるのだろう。
(トノサマンを描いたとおぼしき、
蛙のような河童のような絵)
そんな事を考えてベンチに座っていると、声をかけられた。顔を上げると優しそうな顔をした女性がいた。
「××デパートの戦隊ショーの……
ああ。彼女は、怪人でない私を初めてわかってくれた。
それから彼女と公園を散歩した。
湖で泳ぐアヒルを見ながらふいに歌った彼女の声。
とても、綺麗だった。』
『○月×日
ついに明日から舞台が始まる。
戦隊ショーではない、本当の舞台、ミュージカルだ。
私は脇役でもなく、劇の題名の――怪人をやる。
どうにも、怪人という括りからは逃れられないらしい。
そう思えば少しおかしくもあった。
それ以上に夢のようで、嬉しかった。
緊張する私の手を、彼女は黙って握ってくれた。
どのような言葉よりも、その温度は私を安心させた。
怪人は歌う天使を愛し求める。
私が怪人ならば、私にとっての天使は、彼女だ。』
(しばらく後のページ。印刷が半ば消えた新聞記事の切れ端が挟まれている)
『 日未 △ 山で
男女 転落、 があった。
女 死 、男 は意 不明 体
は ち物 ら ジ 優 蓮 と見ら
は の 識が 復するの ち、 情 聞 。』
(以下、数ページの空白があり)
『□月△日
救えなかった。救えなかったのだ、私は彼女を。
それどころか、(数文字、潰れて)
私は。私が助かるべきでは、なかった。
白い。目の前が白いのは、部屋のせいばかりでは、』
(起床時間や体温、
医師の言葉などだけを綴るページが続き)
『※月□日
五時半に目が覚める。三十六度三分。
あと一週間で退院できる、と言われた。』
『×月□日
まただ。
生きている。』
『×月○日
死ねていない。』
(それからのページには、
意味をなさない単語や文章、
形を持たない字が連なり)
『※日
医者が言った。必要だと。療養が、
治ったというのに。怪我は、
何故。答えは、聞いたが、聞こえなかった。
それでは彼女に、』
(日記はここで途切れている。
代わりに数枚挟まれた、医師が書いたらしき書類。
新聞記事と同様、多くの記述は消えていたが、
記憶、治療、などという単語が目立っていた)**