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―2F・着物売り場―
[否定し――ぎゅっと閉じた瞼の向こうに。
なにやらざわめきを感じて、そろりそろりと目を開く]
……へ? どーーなんってんのこれ。
[さっき見たオトナ専用服――もとい和服が
ずらり煌びやかに並べられた店が目の前にあった。
店員も和装だ。
金ぴかの長い布っ切れ――金刺繍の施された反物を
テーブルに広げて客と談笑している]
[商品の着物を引っ張りあげる。
ずるりと裾が長く、伸びた餅みたいに切れ目が無い。
アイツはよくこんなヘンテコなもん着てるなと
顔を顰めつつ。
興味を失って手を離した。
子供が売り場で遊んでいると思われているのか、
陳列をぐちゃっと崩したデンゴを叱る声は無い。
なお当たり前のように、店員も客も――大人だ。
デンゴからは、世界は全て見上げる形になる]
…違う。こんなの、オレ様の世界じゃねーもん。
[飛ばされる時、
無意識のうちに掴んでいた嗤うカボチャの絵日記を、
胸にしっかりと抱きかかえた**]
[手持ちの絵日記をぱらりと開いてみる。
すると、なにやら棒人間と文字の羅列が]
『10thは、かっちょいいコートとかばんを手にいれた』
10th? うーんと…だれだ??
[首を捻る。自分が9thだから、隣にいた大人だろうか。
気難しいオーラを放っていたような気がする]
てゆーか、えーっ。なんか人のばっかって、ずるくね?
オレ様の日記なのに、なんでひとの。
オレ様のはーっ?
[無駄な対抗意識を燃やして、ぺらりと絵日記をめくる。
すると、]
えっ、あっ、えっ…!
[なんだか必要以上にあたふたしてしまった。
よく分からない事態にぽんと放り込まれて、
まだ気持ちも、判断も、
いろいろなものが置いてきぼりにされている]
わああっ、えええーーっと、まーーーだだよ!
[ふろしきマントをかぶって、
売り場のカウンターの裏に隠れた]
[別に何をどうした訳ではない。
相手に殺意があったかどうかもわからない。
けれど、隠れて逃げる。
その行為はとてもスリリングで。
心臓がいつもよりすこしだけ、早い]
…あー、そいや。こいつどーなってんだろ?
[ふと思い立って絵日記を開く。
すると、頭の丸部分に「オレ」と書かれた棒人間が
全力ダッシュしている絵と、
『9thは、8thを見かけて逃げる』
説明文が一緒に書かれていた]
『10thは、4thと会う。別れる。』
『10thは、2thと会う。』
へええ。
ひとりだけ、なんでも筒抜けなんだなー。
[ハロウィン仕様の絵日記の中で、
コート姿の棒人間8thが他の棒人間と
会話する絵が描かれている]
『10thは、梨を食べる。』
[しゃり、という音が聞こえた気がした]
…うあー。腹へった、かも。
[おなかをさする]
あっ。そういやハロウィンのお菓子あったんじゃね?
[ポケットにつっこんでいたビニール袋から
飴玉を取り出し、口に放り込んだ。
…次第に、口の中が真っ赤になる。
ドラキュラキャンディーと呼ばれる代物だ。
『9thの、口が真っ赤に染まる』
舐めた後に絵日記を開いたら、
既にしっかり記入済みだった]
[先程手に入れたふろしきは、
角っこふたつを首元で結んで、
マントルックにしておいた。
その格好で2Fをうろうろしていると、
なんだか地図のようなものを見つけた。
頭を大きく逸らせて視界に収める。
大人の高さに備え付けられたそれには、
『ふろあまっぷ』と書いてあった]
へーーほーー?
ここが…2階、てーと、
…上にも下にもたべもんがある!!
じゃなくて。
んんー。
なんか、こう、オレ様にも使えるもん、
あった方がいーのかなー?
日記に、10thも、大工道具物色中とか書いてあったし。
――よっし、おもちゃ売り場いこーぜ!
[子供が武器と言って思い浮かべるのは、
まずおもちゃであった]
びゅーーんっ。
[近くにあった階段を駆け上がる。
ふろしきマントが、ぱたぱた軽快に背中ではためいた]
―4F・おもちゃ売り場―
ふんふーーん。ふふふーん♪
[こんな状況ではあるのだが。
選びたい放題のおもちゃの棚というのは、
うっかり色々忘れかけるくらいには魅力的である]
あのロボ、見たことねー!
…これはゆうしゃソードに似てるけど、ちょっち違う?
[軽い素材――プラスチック製の剣を、棚から引き抜く。
ぶん、と振ると、刀身がぽよんと揺れて、
なんとも頼りない感触がした]
ぶぶー。ぼつ!
[ぽいと贋物ソードを棚に投げ戻す。
やがて、目当てのものを見つけたのか
デンゴは満面の笑みを浮かべた]
うっしゃ、これこれ!
じゃーーーん。
ハイパー水鉄砲!
[拳銃サイズのシンプルな水鉄砲だ。
水は店員にサービスで入れてもらった。
ポケットには入らないので、
ズボンのベルトに括りつける。
売り場には、ちゃんとオモチャ拳銃用の
ベルトケースがあったので、
目ざとく見つけて使うことにした]
うし、もうこれでここに用はない!
…あっ。お代は、えーとえーとえーと…ツケで!
[魔法の呪文を唱えておいて、すたこら逃げる。
向かう先はやっぱり階段。
乗り物でゆっくり移動するより、
自分の足でさっさか移動する方が楽だ]
あ。そーいや…
[途中で立ち止まり、ぺいと絵日記をめくってみる]
[そして、]
『9thは、0thとごっつんこ』
[その文字が浮かんだのを見る前に――…]
ぷぎゃっ?!
[こちらに必死に駆けてきた人影と、
思いっきりぶつかってしまった]
[相手は女性。
けれど、こちらは子供。
ふたつがぶつかれば…力負けする方は明白だった]
あたた…。 なんだよなんだよっ!
[デンゴは盛大にしりもちをついた。
尻がひりひり痛い]
[ごめんなさい死にたくないの。
そんな声が聞こえた気がする。
でもそちらを見た時、
もう女性は横顔を向けて走り始めていた]
…――っ!!!
[はっと気付いて自分の手元に視線を落とす。
空だ。持っていた絵日記が無い。
先程ぶつかった時に飛ばされたのだろう。
慌てて見回せば、少し離れた場所にカボチャ顔のハードカバーが転がっていた。
尻の痛みも忘れて、咄嗟に立ち上がり手を伸ばして拾い上げる。
そのまま仕舞いこむように、ぎゅっと胸に抱き寄せた。
まだ、現実味とゲームと。
認識はよく分からない境界線上にある。
ただそれでも、…――この絵日記を手放したら終わり。
その事実だけは、子供心にも強く刻まれていた]
えぅ? あれ、…だめ?
[きょとり、と頼りなげに見回す。
人々は笑顔のまま仮初の日常を続けている。
我関せず、だ]
むーむーむー。
[仕方ないので自分でがんばることにした]
…――おっちゃん!
さっきの人、捕まえたら。どーすんの?
[…ぎゅっと絵日記の端を掴んだ。
書かれたルールを思い起こす。
あれは、本気の目だった。
だから…そう。
答えは聞かずとも、おそらくきっと―――]
大事なひとに似ている、って。言ってたっけ。
[会話を思い返しながら、ぽつり呟いた後。
確認のため絵日記を開き、
あのふとった彼が12thで、
大事な彼女が0thだという事実を、知った]
『10thは、6thと会う。挑発する。』
『10thは、やるきまんまん。』
[更にページを捲れば、コート姿の棒人間が
ゴゴゴとやる気のオーラを出していた]
…うぁちゃー。
すっげー、やる気に満ちてるんだけどこのおっさん。
[ぺっふり深い溜息を吐く]
…でも、そーだよなあ。
やらなきゃ、やられる…?
みんな、やる気になってんのかなーあ。
オレ様が知らないだけで。
実際は、ほかのみんなも―――?
ぅがーっ、もう!!
[頭をがりがりと乱暴に掻いた]
[相手は勝手に何やら解釈して、
すれ違い、上へと逃げてゆく]
…、って、待ち伏せじゃねーし!
あ、こらっ。
[その背はあっという間に小さくなった]
そいやアイツ、今、ヤバそーなもんもってなかった…?
[ポールを手にしたコート姿を反芻する。
あれでもし、殴られたら。
痛いどころの話じゃ済まないだろう――
ぶるると身体を震わせて、慌てて絵日記を開く]
『10thは、武器・ポール改を手に入れる。』
『9thは、階段で10thと遭遇する。』
……。だああ、ちゃんと書いてあるじゃねーかっ。
見てなかったら意味ねー。
[どんな情報も、使ってなければ宝の持ち腐れである。]
うーうーむー…
そっか。絵日記を見ながら、先回りとかするんだな!
『9thの、かしこさが1あがった』
―2F階段 閉店前―
[10thに逃げられた後。
覗き込んでいた絵日記に、新たな吹き出しが加わった]
『10thは、3Fで12thと会う。』
12thって、あのふとったおっちゃんか…。
[少し考えて、やっぱり当初の予定通り、
1Fの食品売り場を目指すことにする]
だってオレ様、ぜんっぜん他のやつら見かけてねーし!
もうちっと、こう、 えーと、 なんだっけ。
…敵を知れ?
味方になるかもしんないけど!
―1F・日用品売り場 閉店前―
[階段を下りて1Fに着いたのは、
4th&8th組や1stよりも、少し早くの出来事。
まだ彼らの存在には気付いておらず、
ゆえに未来日記は何も語らない。代わりに、]
『9thは、食品売り場でコショウではっくしょん!』
……?? なんか、あんのか?
[ちょっと嫌な予感がしたので、
先に日用品売り場に寄ることにした。
欲しいものがあったのだ]
えーと、…あった、あった!
[文房具売り場を覗き込み、
カラフルなペンがいくつも立ててあるケースから
シャープペンシルを1本ゲットする]
[食品売り場で食べ物をゲットするべきか。
それとも、先ほどの日記のコショウ云々が気になるから
止めておくべきか]
んでも、コショウだしなー。
別にそんな危なくなさそーじゃね?
[1Fの端っこの壁際で、
念のため確認しておこうと再度日記を開く。
さっきの10thとのびっくり遭遇で、かしこさが上がった成果だ。
するとコショウの記述は消えており、]
『9thは、スパイスの棚で1stを見かける。』
スパイス…?
んじゃ、もしかしてさっきのコショウってこの辺絡み??
[首を捻っていると、]
[先程日記で見た10thの行動を思い返す。
彼は、12thの後も違う二人と出会っていた。
それに比べて自分はどうだろう。
会っている人間が少なすぎる。
他の彼らがどんなオトナか、どんな考えなのか。
なにもまだ、知らない。みえていない。
(こどもは なーーんにも知らなくて いいんだよ)
…過去からの優しげな声に、デンゴはぶんぶんと首を左右に振った]
[しばらく忍び足した結果、
スパイス棚の方に人影を見つけた。
ではあれが1stだろうと当たりをつける。
彼はこちらとは別方向を向いている――つまり、
そちら側に、おそらく相対している人物がいるのだろう]
…、…ん?
[その時。絵日記の表紙のカボチャが、ガタガタ揺れた。
非常灯の薄暗い中で開いて中を確認する]
『9thは、4thに見られている。』
!?
[顔を上げて闇の中に視線を凝らす。
が、人影は見当たらない]
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