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時間屋 ヂグは、ここまで読んだ。[栞]
[「今」とは違う書斎。オトハが原稿を手に思案している様子]
『太雪』それっすか。みつかって良かっ……
[女性の細い指が頬に触れれば、口を半開きにしたまま硬直する。が、次の瞬間]
あでっ!?
そ、そりゃ痛いですよ!
[頬を押さえて抗議するが、オトハの意図に気づくと]
あー、夢じゃない、みたいっすね。少なくとも、俺にとっては。
……試してみます?
[ごく軽く、オトハの頬をつまみ返そうとした**]
これが現実なら、人は過去には戻れない。
つまり、ここは、過去を模した家? え? 原稿は、ニセモノ?
[ぶつぶつと呟いていたが、ふっと肩の力を抜いて笑う]
いいの。
この世界なんて空飛ぶスパゲッティ・モンスターが大酒を飲んだ後に作ったものなんだから。
ちょっとくらいおかしくたって構わないのよ。
[何やら諦めたようで、原稿をそっと両手で抱えると]
せっかくだから探検しない?**
[ 庭園で、弁護士と別れた]
なぜ、は気になりますが男女の中に口出しするほど野暮ではありませんね。
[ そう、今でも信じられない。
もちもちなネギヤを、あの弁護士が刺したなど]
この事件は謎が多すぎる。
[ 男の足は、書斎に向かう。
応接間ではなく、彼女の告白を信じるならばもう1つの事件の犯行現場になったその場所に。
しかし]
あれ?
[ ふわりと妙な浮遊感を感じたかと思うと、昨日あって今日ないもの、その逆もまた然りの場所へと迷い込んだ]
あら?わたしは何をしてたのかしら。
[寿司桶を片付けに台所へ行ったまでは覚えているのだが。]
年を取るとこれだから、いやぁねえ。
[手を頬に当てて苦笑する。そういえば人形はどこに置いたのだったか。]
[知っているようで、知らない風景。
――いや、知らないようで、知っている。
折れて切り落とされた樹木の枝、
子供の頃にネギヤが付けた壁の傷、
そのどれもが、新しい]
……これは、どういう……?
[まるであの頃のままの屋敷が、目の前にある。
夢でも見ているのか]
そう言えば、時計……。
[あの時受け取ったはずの懐中時計も、いつの間にか手の中から消えていた。
どこに置いてきたのだったか。
ひとつ、ふたつと廊下の足音が増えていく]
[ちくたく。
ちくたく。
秒単位で刻まれる音を、猫の耳は聞いていた。
それは寸分のズレもなく”今”の時刻を正確に示していた。]
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