情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了
[1] [2] [3] [4] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
[女の背を見送った。
年上の女性は、ポルテのこの派手な容姿を嫌う傾向にある。彼女もまたそうなのだろうと、引き止める言葉も理由もなく、また一本煙草を取り出した]
…寒い、ね
[長い袖に指先を隠して、深く息を吐いた*]
[決して手の届かぬ窓の向こうに広がる青。
生命力に満ち溢れる海を見つめて冷静さを取り戻す。
何時から、こんな風に弱気な人間になってしまったのだろう。
胸元からハンカチを取り出し、冷えた額の汗を拭う。
『病院は、死に満ちている』
そんな事ははじめから、解っていたはずなのに。
救えないのは自分だけの所為じゃない、理解しているはず、なのに]
[死に携らなくて済む科はいくらでもある。
けれど所属科はおろか、病院の異動さえ叶わない現状だった。
内科医だった父は数年前、ここで息を引き取った。
彼の遺書が、自分の人生の全てを縫い止めてしまった。
『慎一には、私と同じ道を全うして欲しい』
父としては、厳格な人だった。
けれど有能で人望の厚い医師だった父の遺言に逆らえるほどの、勇気は無かった。
窓をほんの少しだけ開く。
滑り入る潮風が自分の周りの淀んだ空気を清めてくれるようで、心地良い。
静かに睫毛を伏せて、空を*仰いだ*]
入院棟、廊下
結城先生!
[トランク片手に小走りになる。窓辺にいるその姿は見知ったもの。今まで執刀してもらったことはないが、外来で来た時に何度か顔を合わせている]
こんにちは、
………先生?
[風に揺れ薄茶の髪が靡く。
結城の横顔が少し翳って見えて、少女は首を傾げてその顔を覗き込んだ**]
屋上
「……さん、ポルテさん」
[呼びかけに、青を拒絶するように閉じていた瞼を持ち上げる]
「四季さんの準備、終わりました」
[このたびはまことに…とかなんとか。すぐ目の前の唇が動いているのに頭には全く入ってこなかった]
それから
[写真でしか知らなかった妹は、骨になって初めてその存在が現実であったと思い知らされた]
熱い……
[この熱は体温じゃない。
それでも、四季が生きていた証拠だと、涙の流れない頬を擦りながら、ぼんやりと考えた]
[翌日、黄昏時に家を出た。
悲しみは夢で体験したかのように、他人事で、軽くて、すぐに忘れてしまえそうだった]
そだ、吸殻捨てないと
[鞄のポケットから取り出した携帯灰皿。それを包んでいた、ミルク色のハンカチは―――]
……ぁ、海
[少しだけ、潮の香りが*した*]
病院受付
[中庭から聞こえる歌に耳を傾ける。
そちらを向く人と、何も耳に入らない人と。
同じ見舞い客でも、それだけで彼らを待つ人の容態が分かる気がした]
[歌い終えると、見知った顔と見知らぬ顔がいくつか。
声を聞いて立ち止まっただろう人たちのささやかな拍手が見えて、まるでステージの上に居るように気取ったお辞儀をしてみせた。
胸に広がるのは密やかな安堵。
この世界には、確かに歌が旋律が存在しているのだという事への喜び。]
ありがとうございました。
[薄い笑みを浮かべてから、感謝の言葉を述べる。
それは聞いてくれた人にであり、世界に対しての言葉でもあった。]
受付
[中庭から受付に移動すると、警備員の姿を瞳に捉えた。
入院している時は居たかどうかすら知らなかったのに。
退院してこの病院に通う内に、その姿は見慣れてしまっていた。
いや、彼の事だけではない。
毎日毎日、用事も無く通っている内に、スタッフや入院患者の大半は見知ってしまったし、見舞いの人も何人かなら記憶に残っている。
向こうがこちらを知ってるかどうか、までは知らないけれど。]
こんにちは。
いつも、お疲れ様です。
[すれ違う前に立ち止まり、頭を下げた。]
[中庭から響く歌声が止んだ。
前回入院した時、その声を目の前で聞いた。
白い雲が、青い空が
裸足の足裏を擽る芝生が
全部、全部。眩しかった]
ありがとうございました
[帽子に手をやり、頭を下げた。
素晴らしい声を、挨拶してくれたことを、全てひっくるめて
――心の安らぎを]
[彼女に彼の返事を解する事は出来ない。
言葉ではなく、ざわざわとした耳鳴りとしてしか捉える事が出来ない。
口の動きを読む事も、容易では無かった。
けれど、何を言われたかは分かった気がしたから、軽い微笑を浮かべた後、それ以上は喋らず再び歩き出す。
目指す先は病棟へと続く階段。
入院中、そして退院してからも続けられた行為。
知っている人の所、あるいは知らない人の所へも、ふらりと気が向いた所へ足を運ぶ。
さて、今日はどの階まで行って、どの病室へ行こうか。**]
[隔離されているので好きな時に外に行けないし、
好きな時に誰かと話す事も出来ない。
誰かがこの部屋の前まで来れば話す事は出来るけど。
手続きが必要だとか、時間が掛かるとかで来れる人は少ない。]
バレー、したいなあ
[外を眺めながらまた独り言。独りだけしか居ないので、独り言でも言葉を聞かないと気が狂ってしまいそうだ。]
603号室
[結城と何か言葉は交わしたか。
きっと、笑顔で別れただろう。ばいばいと笑顔は1セットだから]
……とうとう個室、か
[最初は4人部屋だった。それが2人部屋になり、かけられるお金は少しずつ増えていった。個室の多い上階の部屋は、眺めだけは、本当に良かった]
悔しい、なあ
[首に巻いたままのマフラーを握り締めて窓から顔を背けた]
[そういえば、隣のクラスだか下の階だったか、ともかく同じ学校の有名人が入院したという噂があった。
隣の席の………]
クラスメイトも思い出せないとか
だめだこりゃ
[なんとかという女の子が、眉を下げて、でもどこか誇らしげに話していた。噂の発信源になれることが嬉しいのか、と考えたことを覚えている]
まあ制服脱いだらわからんけどね
[ひとりごち、マフラーをベッドに放り投げた]
――……
[眠りは、浅く。
時計の長針が一回りもしない内に、男は再び目を開いた。帽子を手に取り、暫くぼんやりと仰向けになっていてから、男はベッドから出た。
被った帽子に代わり、傍らに置かれた松葉杖を取る。その両端を前に出し、それを芯に右足を進め、また両端を前に――繰り返す。
男は左足を失っていた。
半ば捲り上げられたズボンから伸びるのは身を覆う白。重度の開放骨折から動かせなくなったその足は、近い将来、真に失われる予定だった]
……
[慣れた様子で歩き、男は病室を出た。かつり。ぺたり。小さく音を響かせ、廊下を進み]
[不意に届いた女子学生の声>>28が、思考を現実へと帰化させた。
彼女へと振り返った己の表情は酷く、間の抜けたものであっただろう。大きく目を瞠り、やがて現状を把握しにこりと微笑んだ。]
こんにちは、黒枝さん。
……ああ、ちょっと考え事してたんだ、うん。
[不思議そうに此方を覗き込む様子に、なんでもないよと首を振る。
何時もの自分を取り戻そうとするのは、下らない自尊心からかもしれなかった。
バツ悪そうに視線を落とし、彼女の荷物を見遣る。]
今日からだったんだね。後で、様子を見に行くよ。
[『ばいばい』。若者らしい挨拶を残す彼女へ、軽く手を振って見送った。]
[女子学生が去ってしまえば、廊下には再び静寂が宿り始める。
否、微かな足音が近づいてきたか。
姿を捉える事は叶わないものの、静かに窓を閉める。
海風が体調に触る患者も、少なくはないから。]
[廊下に人通りは少なく、辺りはしんとしていた。からり。その中で響いて聞こえた音に、男は顔を其方に僅か傾けた。廊下の先に見えたのは、白い人影。病院である此処には当然幾人もいる、医師の一人だ]
……
[そうとまではすぐに把握出来たが、何分サングラスでとても良好とはいえない視界、それがどの医師かまでの判別は]
……、今日は。
[出来たのは、数メートルに近付いてから。かつり、立ち止まり、会釈と共に挨拶し]
[スカーフに手をかけて、首を振った。
今日は一つ目の検査まで時間がある。まだ、もう少しだけ。制服でいよう。
トランクを開けて、荷物を片付ける。図書館で借りてきた本は出さずに、パジャマを一着、マフラーの横に置いた]
ずっと此処にいたらそりゃあ…
[気分も滅入るよね、と。
陰を隠せていなかった結城の顔を思い出した。次に会うときは、彼が言った「後で」の時は]
私が暗い顔してなきゃ、いいけど
[一人でいるのに慣れると、どうにも独り言が増える。誰か、誰か。大きな財布から少しだけ小銭入れに移し変えて、水色のがま口を片手に病室を出る]
[近づく足音が、通常のそれとは異なる事に気づいたのは窓を閉めてからだったろう。
足を引き擦り、松葉杖をつき、顔を隠すかのように目深く被った帽子姿の人物を正面に捉え、軽くお辞儀を返した。]
こんにちは、柏木さん。
今日はとても良い天気で、気持ちいいですね。
[こうして歩く事さえ不自由であろう彼へ送る挨拶は、余りにもありきたりなものでしかなかった。
しかも、…先程までは「気持ちいい」には程遠い心境であったのだけれど。]
[結城という内科医。直接治療での関わりはないが、その名前と所属、新米らしいという事、そして簡単な人となりくらいは知っていた。
そもそも、病院内で全く知らない人間というのは、職員でも患者でもそう多くはない]
いい天気。……そうですね、確かに。
こんなに静かだから。
雨ではないとは、思っていましたが。
そうですね。いい天気です。
[結城の言葉で初めて気が付いたというように、閉じられた窓の方を見た。通る声質だがマフラーで些か篭った声で、ぽつりぽつりと]
[風に紛れる歌声に、ふんふんと鼻歌で後を追いながら、老婆の時間はゆっくりと過ぎていく。その間にも皺に紛れるような黒いまなざしは一針一針進む手元に注がれていた。黒い布は形を変え、布を寄せては膨らまし、そうして少しずつ洋装の一部へと変わっていく。]
あんたには、 黒いびろうど の
スカートがいいね
こんな風にも飛ばない 重ぉい スカートさね
あの子の歌は 飛んでいいんだよぉ
そうじゃないとあたしにゃ聞こえなくなっちまうからねぇ
[もう一針、皺を寄せた。波打つ光沢の天鵞絨、海原の輝きとは違う柔らかなきらめきを眼に写し]
――おや。
いつの間にやら、終わっちまってたみたいだ。
[歌声のかけた潮風に耳を傾けた。]
ラウンジ
[廊下を進みやってきたのは、緑と青が一緒に見えるラウンジだった。両方とも好きな色だし、何より此処にいる人の空気も、なんとなく好きだった]
おばあちゃん、元気してた?
[踊るような足取りは椅子の前で止まり、ぼたんの前へと膝を抱えるようにしてしゃがみこんだ]
[此方もまた、全員ではないにしろ入院患者の顔と名前程度であれば、担当でなくとも把握していた。
特に目前の患者は著名人だ。尤も、芸術に疎い己は彼がどんな絵を描いているのかまでは、知らないけれど。
ありきたりな言葉へ返って来た彼の言葉に、軽く首を捻る。
さも今天気に気づいた、というような。興味が無い、とも取れるかもしれない。
これが芸術家なんだなと、妙に感心してしまう。]
……、……深いなあ。
――あ、良かったら中庭に散歩にでも、出てみますか?
僕で良ければ、車椅子でお連れしますよ。
[自分は丁度、休憩時間だ。気分転換にでもなれば、と。
常と変わらず、お節介かもしれない一言を告げてみる。]
おや。 おやおや。
おやまあ。
[軽やかな足取りで現れた女子学生を、そう広くはない視界に入れると、皺の刻まれた顔に一層の皺を寄せて笑んだ。]
奈緒ちゃん。奈緒ちゃんじゃないか。
おかえりよう。
あたしったら てっきり
奈緒ちゃんにゃあもう会えないと思ってたよォ。
[問いかけに直接答えるまでもなく、その顔に浮かんだ笑みは頬にさっと色を走らせて、老人特有の白さはあれど元気であると示していた。]
へへ、おばあちゃんにまた会いたくて
…来ちゃった
[笑顔も、顔色も、悪くない。
元気だと分かれば、それを見る少女の気分も上向いて]
もう会えないはないよぉ
これからは毎日、会えるよ!
[それは見舞いではなく、入院だという言葉。
一見元気そうに見えるのに、少女の身体はそのセーラー服の下にいくつもの傷跡を隠していた。
ほら、今だって。
まくりあがったスカートの裾から、腿に走る縫い跡がうっすらと顔を覗かせている]
……なら。
落とし穴かも、しれませんね。
[独り言のように、直ちに霧散するような淡い言葉を、短く一つだけ落とし]
……
そうですね。もし、宜しければ。
散歩に出てきたつもりでは、ありましたから。
[結城が提案するのを聞くと、少し考えるような間を置いてから、頷いた]
[音羽――オトハの声は、庭だけでなく、建物の中からもよく聞こえてくる。
それはこの病院に来る人を出迎えているようであり、出て行く人を――魂を、祝福するようでもあった]
………
[職員以外に顔見知りと認識されるのは、あまり嬉しいことではなかった。
そして何より、「また」という挨拶が、男は何よりも嫌いだった*]
――え、?
[虚をつくかの言葉に思わず聞き返してしまった。
まさか、かの芸術家がジョークに長けていたとは知らなかった、らしい。
妙な間を挟んでしまったものの、快諾を受けると嬉しそうに微笑んだ。]
良し、じゃあ…、少し待っててくださいね。
[そう残し、手近なナースセンターで車椅子を借りてくる。
――気分転換したかったのは、彼ではない、自分だ。死に満ちた空間から、今は少しでも、逃れていたかった。
カラカラと車椅子を押しながら柏木の横へと付ける。拒絶されなければその手から杖を受け取り、そっと腰を支えて介助を行うだろう。]
あァらあ
こんな干からびた婆さんに会ったってねぇ
[会いたくて、の言葉に、弓なりに細めていた眼はくちゃりと皺の中へ、笑みの中へ沈んでいく。
見舞いに来たのだと思うばかりに生まれた笑みは、次いだ言葉に薄まり]
……あらまぁ。
[今度は皺を寄せ集めた布のような笑みではなく、にこりと曲線を描き出す表情をして]
そうだったの、奈緒ちゃん。
それじゃ毎日奈緒ちゃんの可愛い笑顔が見れちまうってわけだねェ。
婆ちゃん喜びすぎて 長生きしちゃうよ。
[1] [2] [3] [4] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了