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……大丈夫……
……じゃ、ないかも……
[ふ、と、普段の閉じたような双眸に戻り。
だが笑顔は浮かべずに、タカハルの問いに弱々しく答え、首を横に振った]
うん、下に……一度、降りよう。
[提案には頷いて]
……あのね。この、てるてる坊主……
このハンカチ……
僕が、アンちゃんに貸してたものなんだ。
[そう告げて、一瞬だけ泣きそうなように眉を下げてから、裏山を降り始めた]
ダメだ、つかれてる。スイカって何だ、スイカって。
[ふらりと離れて、建物の入口へと向かった]
……傘おいてけよ。荷台にあんだろ。
[残されたヌイの自転車が柵の向こうに見える。
しばらく待っても彼が来ないなら、その時は腹を括るしかないなと*思った*]
あー……そ、なんだ。
[一瞬だけの泣きそうな様子。
どういえばいいのかわからず、視線はちょっと彷徨った。
ともあれ、セイジと連れ立って、山から降りる]
……っかし、どこ行っちまったのかなぁ。
ネギ兄やんと同じ……だったりすんのかな……?
[ぽつり、小さな声で呟いて。
セイジの様子を気遣いながら*歩いていく*]
え……?
[タカハルの小さな呟きには、其方を見たが。特に何も言われなければ、言及はせず。些かおぼつかない足取りで、*歩いていった*]
―― 回想 廃屋にて ――
[エンジンをかけた軽トラにキクコを乗せてから、
――移民の男は一度廃屋の中へと戻ってきた。
カウンターのそばへ落ちている重そうな袋を拾い上げ、
簡易レーダーが置き去りになっている傍へと置いた。]
ンガムラさん。
――これ、りんご。
ギンスイが 『喰ってくれや。』 と。
[ギンスイが持ってきていた袋。
中には重いほどに、林檎が詰まっている。]
姉ちゃ 見つけてくれた、礼じゃ ち。
[移民の男は、袋を開ける素振りも見せずそう言い添える。]
適当に分けて、言うこつじゃったで。
ちっと 残しといてくれりゃええがよ。
[キクコを送った軽トラが彼を迎えに来るまで、
果たして林檎はいくつその数を減らすか――*さて*]
―― 回想 終了 ――
[その頃ンガムラは、ほんの少し前に『んな得体のしれないもんいらねぇよ』と言っていたはずの、林檎を食べていた]
俺、ホズミさん見つけてねーんだけど。
[ネギヤを探していたと聞けば]
はぁ、ネギヤを探しかいな。
おまえさんたち、こんな時間まで動いとったなら、腹も空いて疲れたじゃろう。待ってんさい。
[そう言って店へとって返し、おにぎりを詰めたパック二つ分を、手に戻ってきた。捜索の人々のために用意したおにぎりだ。
そのパックを、ヌイとキクコへ一つずつ手渡す。
そして、キクコの身に付けたサマーセーターを、まじまじ見つめてから。]
おキク、ちゃあんと身体を暖かくして、寝るんじゃぞ?
[ネギヤのこと、ギンスイの話は聞いたかどうか。
言葉を交わした後、手も振らずに軽トラックのテールランプを見送った。]
―翌朝・自宅―
ああ、しんど。やっとこさ起きれたわ。
昨日、遅くまで起きておったせいで、疲れたわいなぁ。
ああ、
飯の用意はいらん、嫁ごのこさえる飯も不味いしなぁ、
わしゃ、月下で食ってくるわ。
[まだ人形店は開いていない。
身支度を終え、家族へことわりを入れてから、自宅を後にした。]
[手にしたのは海老茶色の傘、
提げた巾着には、小さなてるてる坊主が揺れている。]
―月下―
[すれ違う村人へは無愛想な挨拶を投げつつ、月下へ。]
[やがて食堂の席へ落ち着き、たけのこ定食を注文すれば、やがてそれが運ばれてくる。
ネギヤに加え、彼の妹のアンまで行方が知れない、
村人たちからそう聞き及んだと、月下の女将は語った。]
[たけのこを ぱくつく。
時折、女将の話へ相づちをうち、窓の外を眺めたりする
ボタンの様子はいつもより少し、機嫌がよさそうだ。*]
……アンちゃんも、ネギヤさんも……
きっと、戻ってくるよ。
本当に消えちゃうわけ、ないよ。
[タカハルに返す言葉は、自分に言い聞かせるようでもあった。ンガムラのそれらしい軽トラが見えてくれば]
……ンガムラさん……
[その名前を呟く。信じろ。声がそう告げた人物。
ンガムラが此方に気付いたなら]
……ンガムラさん。
少し、話したい事が……あるんですけど、……
[思い立ったよう、その近くに駆け寄り、切り出した*だろう*]
タカハル、セイジ。こんな夜更けに、裏山ンほうから…
[呼び止めた人影ふたつを、ヘッドライトの灯りで見分けると
運転していた移民の男は咎めるというよりは驚いた声を出した。
彼らが、移転したお社のある裏山のほうから歩いてきた様子で、
夜中に其処へ近づくのを村人が好まぬことを知っていたから。
キクコも彼らを――特にセイジの顔色を案じる様子だったかで]
… セイジ …
ほ ンガムラさんに用なら―― 荷台 乗ってけば 良かが。
[ンガムラの名を呼びながら此方へ駆けて来たセイジの瞳に、
男は何か――先のギンスイ>>+7の言葉と通じるものを感じて
問わず荷台を示した。タカハルへは、送るから乗れと声をかけ]
婆っばん。
俺ァ ここン人等が すき じゃっで――怖か。
[低くちいさな声で、年長のボタンへ弱音を吐く。
静かな憤りの裡の不安は、すぐに唇と共に噛むが]
こんなが 続くよう じゃったら。ギンスイみたく
神さまはまた 『間引く』か 知れん なあ…
[呟きは去り際。もう一度夜食の礼を言い軽トラは走り出す。
荷台に乗せていたセイジとタカハルは小言を免れたろうか…]
[その後、キクコとタカハルを其々自宅へと送り届ける。
廃屋で待つだろうンガムラのもとへ向かう折には、
ひとり残ったセイジを助手席に乗せ――村道をゆく。]
ギンスイは 神さまに 間引かれたごと ある――
[笛を握り締めているセイジに、男はぽつと伝える。
然し、間引かれるべき異変の元凶ではなかったこと>>25も。
「仏さん」になった後でなければ己には解らんということも。]
嫌な事が起こってる、て 言うたち ギンスイから聴いた。
…ンガムラさん、話 聴いてくるっと 良かね。
[廃屋へ着くと、軽トラをンガムラに返しセイジを預ける。
自転車にトランクをまた積み替えて、別れ際――ふたりへ]
[最後に移民の男は、ギンスイの家を訪れる。
応対に出てきたのは、ギンスイの母とホズミ。
伝えるのは…ギンスイがしばらく姿を見せないこと。
「異変の原因が除かれるまで」よそに匿われていること。
伝言だけは自分が生きて居る間は届けられること。
当然の如く母親は狼狽し、ホズミはくってかかってくる。]
…うん。 俺 全部は 話しちょらん。ギンスイにも。
けど、何もかも 黙っちょったら
ホズミが 泣いて 探して回らんといかん。
[ホズミの細腕に胸倉を掴み上げられながら、移民の男は言う。]
ギンスイ 帰れるごつ …俺も する。
[不器用な語り口。
安請け合いなのか気休めなのか何を「する」のか、定かではない。
けれどその苦しさを押し殺す男の面持ちに、ホズミの手が緩む。]
『こうなったんが姉ちゃんでのうて、良かった。』て
ギンスイ 言うちょった。
そげな 良か おとうと 帰してやれんと… 嘘じゃ。
[それからギンスイの母親へと、貰った林檎がうまかった旨を伝え、
移民の男は俯き加減に玄関を出る。
暫くして――背に、わあとホズミが泣き崩れる声が*聴こえた*]
[ンガムラかと思った姿は、ヌイだった。小さく息を吐き]
……すみません、失礼します……
[勧められて、軽トラの荷台に乗り込んだ]
……
[辿り着いた人形店の前。遠目にもボタンの姿が見えれば、うつむき、黙り込む。てるてる坊主を握り締め、何かに――頭の痛みと声に――耐えるようにしていた。
結局その場では何も言えず、軽トラはまた走り出し]
……ギンスイ君が……間引かれ、た?
それは、どういう……
[どういう事なのか。ヌイに伝えられた内容に、困惑する。頭のどこかでは、朧げに把握できていたが、理性で納得はできずに。
やがて止まった軽トラ。ンガムラの姿に、一礼する。
ボタン雪、と言って尋ねたヌイに、息を呑み]
……ヌイ、さん。
[去ろうとした彼を呼び止めた。止まって貰えたならば]
……ンガムラさんを、頼りにして。
ボタンさんに、気を付けて……
[そう二言だけ、告げただろう]
[そうしたのは、ヌイが、特殊な事実を知っているように見えたから。どこか自分と通じるものを、感じたから。
ヌイが去っていけば]
……ンガムラさん。
少し、話したい事があるんです。……いいですか?
[改めてンガムラに向け、切り出した*だろう*]
[ンガムラの軽口にも、弱く笑んで返すしかできずに、軽トラの助手席に乗り込んだ。おまえまで、と続けられた内容には、ヌイの事を思い出し――息が詰まるようだった。話の先を促す様子に]
……仏さんとも、幽霊とも、言いません。
でも、きっと……同じような事です。
[相手の横顔を見ながら、沈痛に話し出す]
言っても、すぐには信じて貰えないでしょう。
僕だって……
こんな騒ぎになる前は、気のせいじゃないかと思ってました。
そうなら、いいと……
[一呼吸、置いて]
……声が、聞こえるんです。
突然、頭が割れるように痛くなって……
人のものとも思えない、声が。
消えた。気を付けろ。
そう、言うんです。
ンガムラさんの顔が頭に浮かんで……信じろ、って。
……ボタンさんの顔が頭に浮かんで、……疑え、って。
言って、くるんです。
何かが……
[そう訴えるように告げる声色は震えて。指先も震えていた。
尋常でない様子は、声だけでも伝わるだろう]
……ねえ。
こんな事言っても、僕がおかしくなったとしか……
思えない、ですよね。
でも、本当なんです。
消えた人達が、何かによって、消えたとしたら……
次に消えてしまうのは……僕かも、しれません。
[刹那だけまた覗く、鋭い視線]
だから……
伝えて、おきたかったんです。……
[語り終えると、下を向いた。ンガムラはその話にどんな反応をしたか。やがて家に着けば、辞儀をして、帰っていっただろう*]
あれ、なんでヌイっちとおキク?
[セイジに遅れ、駆け寄った軽トラックに乗っていた二人に瞬きひとつ。
送るから、という言葉には、んー、と悩むよな素振りを見せるものの、頷いて荷台に乗り込んだ。
たどり着いた人形店の前。
セイジの様子には、ほんの一瞬だけ目を細めたりしつつ。
夜食を受け取る中に先に呼びかけてきた男の姿を見かけたなら、自分たちが裏山で見つけたものの事を伝えた]
よっと、あんがとな、ヌイっち。
……セイちゃん、無理しないでちゃんと寝ろよー?
[自宅前に降ろされると、すこしだけ真面目な面持ちでこんな事を言って、荷台から飛び降りる。
それから、軽トラが見えなくなるまで、てるてるを振って。
振り返った、人の気配のない家に、ふ、と表情が失せる]
……てるてるぼーず、てるぼーず。
あーした天気にしておくれ、っと……。
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