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[通り過ぎた病室の中から、不安そうに囁く声が届く。振り切るように足を進め、531号室の前にたどり着けば]
……あれ、柏木さん
[ネームプレートが入っていなかった。
扉をひいても、鍵がかかっているのか軋んだ音を立てるのみ]
いなくなっちゃった、のかな
[あの状態で、とも思う。
約束したのに、とも思う。
退院した、とは独り言でも言葉にできなかった]
時計…どうしよ
[左右を見渡しても、顔見知りの看護師などはいなく、あとで先生に聞いて見よう、とその場を後にした。
一人で出来ることは、とても少ない。
一旦病室に戻った少女は、点滴のパックを取り替えてもらってからもう一度廊下に出た。
今日のパジャマは樹みたいな茶色。柔らかい生地が乾燥した肌と擦れてかさりと音をたてた]
ラウンジ
[こん、と咳をひとつ。ずれた眼鏡を右手で直した。たどり着いたのはラウンジ。扉を開けて、いつもの椅子へ歩み寄る。
からからと点滴装置を引いて、血色の悪い顔色に表情はなく。
ぼたんがいれば、声をかけるつもり。
いなければ…たまには、その椅子に座ってみようか]
朝・314号室
んー…
[なんだろう。何かがおかしい。
調子は悪くない。昨日は久しぶりに父と弟にも会えたし(父は母以上に忙しいひとなのだ)、ゴトウや謎のお婆さん(確かボタンさん、と呼ばれていた)と話したことも、楽しかった。
が、何かが足りない。そんな気がする。]
なんだろ、気のせいかな
[もしかしたら実は調子がよくないのかもしれない。診察の時に、主治医に話してみよう。]
[千夏乃は気づかない。
記憶から、アルバムの写真から、
鏡の中の自分自身から、
「 」
が消えてなくなっていることに。]
[数値では解らぬ病気の進行もある、寧ろ、鎌田はそれの方が多い年頃だろう。
困惑の表情を横目に、文字いっぱいのバレーボールを暫し、見つめる。
これがここに存在するだけで、詳細を得ずとも鎌田の望む未来が解るような気がして、微か双眸を細め眩しそうに鎌田を見つめる。]
バレーボール、だね。
激しい運動だから、……復帰は難しいかもしれない、けれど。
部活で出来た人との繋がり、大切にした方がいい。
大事だと思っているからこそ、こうしてこれを届けてくれたのだろうし、ね。
[復帰を望んでいるであろう彼女に対し、非情な一言だっただろう。
けれど可能性を完全に立たれた時、絶望するのならそれまでだ、とも思った。
他の楽しみを見つけて欲しい、とも感じ、]
絵を描いたり、とか。どうかな。
バレーボール以外の何かが、見つかるかもしれないよ。
[脳裏に描いたのはあの、色鮮やかな抽象画だった。
それだけを告げ、看護師を残して部屋を後にする。
突然の復帰不可能宣言に対し、看護師がきっと、彼女に親身になってフォローしてくれる、だろう。]
ラウンジ
[胸に人形抱えた田中老人は、ラウンジの窓から木々と、その隙間の海を眺めいていた。彼女の定位置ではなく、窓際に佇んで。
近づく音に面を上げそちらを見やった。皺に覆いつくされんばかりの顔面には笑みは――意図的な柔らかさは、添えられておらず、ただ目鼻がくっついたといったような顔つきをしていた。]
――あらァ……奈緒ちゃん……
……よく眠れたのかい
今日ァ、この前逢った時より、顔色が……
[椅子を示しつつ、その顔色の血色の悪さに触れる。言い切ることは、けれど、出来なかった。]
[誰しもが、『何か欠けている』ものが存在する、又は正体が掴めず困惑する中、己はなにひとつ感じていなかった。
死者が最後に願わずとも、笑える、微笑むことの出来ぬ欠けた精神状態だったからかもしれない。
一度センターへ戻り回診の続きへと戻る。途中、5階のあの一角で歩みが停止した。
けれど、今はもう――、爪先は3階へ、一糸の戸惑いなく進んでいく。
対峙したのは303号室の前、予定より少し押してしまったか。太陽が天辺へ昇る頃、その病室を訪れた。]
後藤くん、入るよ。
[昨夜一度、危険な状態にあったと看護師より説明を受けた。脳裏へと置き、その扉を開こうとし]
よく……うーん…まあまあかな
[夜中に吐き気を覚えて目がさめたことは言うつもりはない。入院してから増えた薬の副作用だろうと、見当はついている。
ぼたんのくしゃりと寄った顔は感情が読み取りにくく、けれど下を向いて椅子に座った少女にはそもそも見えていなかった]
おばあちゃん、私ね…明日
………んと、検査があって
おばあちゃんの顔が見たいなあ、って思って
[痛みを隠す表情はなく、俯きがちに顔を背けるのみ]
[椅子に座った少女に向かって、一歩二歩と老婆は近寄る。
隣の椅子に座っても、老婆の視界にはなにも、少女の表情は見えなかった。少しだけ、身を乗り出す。胸に添えた人形は今はもう膝上に横たわり、じっと、見上げていた。セルロイドの表面に描かれた平面的な瞳で。]
おンや……明日なのかい。
[小さな黒目が揺れた。萎びた指を、少女の頭に触れるよう伸ばし、けれど触れる前に落ちる。]
検査、――……
うゥん、こんな婆ちゃんの顔見に来てくれるなんてェ
嬉しい限りだよう。
婆ちゃんの分の元気ォ、奈緒ちゃんにあげっから。
………ありがと
[顔は見せないようにして、ぼたんにそっと抱きついた。老人の匂いがしたけれど、家族との触れ合いは少なくとも、それは病院の匂いを忘れさせる懐かしい匂いだった]
元気に…な った
元気、返すね
[少しだけ力を込めてから腕を離した。点滴の管が椅子にあたり音を立てる。
顔をあげた少女の表情は、少しだけ口元が歪んでいたけれど、泣き顔にはぎりぎりなっていないはずだ**]
あらあらあらあら
今元気返しちゃうなんて
明日の検査終わってからで、いいンだよう。
[柔らかな樹の色が視界に広がった。抱きとめる老人は、言葉とは裏腹に声音を柔らかにして――けれど口端はまっすぐのまま。柔らの感触を惜しむようにしながらも老人は身をはなし、奈緒の顔を見、そして止まった。]
[血の気の薄い彼女の顔は、脳裏にこびりついたあの、眼下に広がる、鮮やかな色を内包しているはずであった。生きるものなら必ず、どれほど肌が白くとも、その下には血潮があると認識していた。
けれど、田中老人には、そうは思えなかった。単なる――単なる、予感だ。それに過ぎない。
老婆は指を震わせながら、奈緒の腕に伸ばした。叶うなら衣服を掴もうとし、出来るなら奈緒の存在がそこにあることを確かめようとし。]
――……奈緒ちゃん――
明日ァ、ただの検査、なんだよねェ
本当、それだけ……だよねェ…………
検査ならすぐ終わるかんね、危ないこともないさね。ね。
[口端が下がっていく。老婆の声音は、急いで流れ落ちていくかのように連続して]
ごめん、ねえ。ごめんねえ。
婆ちゃん、…………あたしァ不安にさせちゃいけねェってのに
でも、ごめんよう。なんだか……なんだか……
―― ………。
……ごめんよォ**
『…うん、大丈夫。検査の結果も、数値は悪くないよ。急に冷え込んだせいじゃないかな。』
[黒ぶち眼鏡がトレードマークの主治医が言う。
長身ときっちりオールバックにまとめた長めの髪は、なんだか父を思い出させて、ほんの少しだけ寂しくなった。]
『散歩くらいならしても良いけど、あまり身体を冷やさないようにね。このまま調子が良かったら、お正月には外泊できるかもしれない。頑張ろうね』
[その言葉に、千夏乃は目を輝かせた。]
ほんと?お家に帰れるの!?
[この半年、一度も家には帰っていない。
それどころか、この病院から外に出たこともないのだ。]
『無茶して体調崩したらだめだよ。
ちゃんと薬も飲んで、好き嫌いもしないこと。いいね?』
[主治医の目をまっすぐに見上げて、ぶんぶんと首を縦にに振った。]
昼過ぎ、3階→中庭
[お昼すぎ。いつものように赤いオーバーを羽織って、大事な縫いぐるみの羊を連れて、中庭へ散歩に出ることにした。
千夏乃は知らないことだったが、前日、この病院では悲しい出来事があった。しかしそれは、巧妙に大人たちの手によって隠されていた。
特に3階の病棟には、多感な年頃の子供たちばかりだ。だから、その事件に関してはとても注意深く取り扱われていた。そのことも、千夏乃が感じた違和感と無関係ではなかったかもしれない。
ともかく、今朝感じた違和感はまだほんのりと続いてはいたが、主治医の言うように、急な冷え込みのせいなのだろう、と、気にしないことにした。]
寒いねえ。
[やはり返事はなかったが、羊をオーバーの胸元に挟み込むと、心なしか温かくなったような気持ちになった。
小さな中庭を、ゆっくりと横切って歩く。
中央の大きな桜の下のベンチに腰掛けて、ぼんやりと人々が行き交うのを眺めるのが、千夏乃は好きだ。
夏には何時間も、このベンチで過ごしていた。そう、この桜の下で。]
[ポケットから懐炉代わりのミルクティーの缶を取り出して、両手に包み込む。まだ熱いその缶も、マフラーのすき間に埋めてみた。
首元が温かいと、身体全体が温まるような気がする。それから、温まった手袋を頬にあて、白い息を吐きながら、通り過ぎる人々をただ、*眺めていた*。]
午後:屋上
[後藤の回診を終えた後、午後は非番となっていた。
自宅での静養を勧められたけれど、部屋でひとりになる方が余計に考え込んでしまいそうだった。
溜まりに溜まった書類整理を言い訳に、病院へ残る事にした。]
―――…、……さて、と、
[ここで良く、平家が煙草を吸っていた事を思い出し今日は一箱、煙草を購入していた。
大学の頃、父に見つからぬよう吸っていた煙草は、この病院に赴任してからきっぱりと止めた。
数年振りに吸ってみようと思ったのは……、止められても尚、止めなかったあの女性の姿を思い出したからだった。]
[一本唇へと食み、先端に火を点ける。
ゆっくりと煙を吸い込み、空へと薄煙を吐き出した。
決して、美味しいものではない。
幸福感を得られる時なんて、ほんの僅かな筈だ。
それでも。
それでも。
止められない者も居る。]
……はは、苦いや。
[ふと視線を落とした先、階下にお茶を楽しむ少女の姿を見つけた。
視線が合えば煙草を挟んだ手を隠し、空き手で手を振った事だろう。
暫しそうして、紫煙を*纏う*]
やだな、謝らないでよ
ほんとにただの検査だからさ……
だから…今度こそ、また
[視線を反らす。次の言葉まで間があいた]
……また明日ね
[唇を引き結び、白い頬は強張ったまま。
立ち上がると点滴装置を握り、右手はひらりと振って]
603号室
[病室に戻った少女は荷物の整理を始めた。未だ半分以上は未読の本の山を鞄に詰め、洗濯して感想させた着替えをその上に重ねた。
昼食が今日最後の食事となる。売店で買ったプリンをデザートにして、歯磨きを終えれば歯ブラシセットも鞄に詰め]
個室はやっぱり…広いよ
[片付いた病室に背を向け、再び入院棟内を歩き始めた]
え…?
[復帰は難しいかもしれない、と言う結城の言葉を聞いた途端。]
な、なにを言っているんですか、先生…
[頭が真っ白になっていく。その後の話は全く頭に入らず、
結城が去っていった後、看護師が何か慰めだったりをしてくれても、全然何も分からない。
頭にあるのはただ一つ
『復帰は難しいかもしれない』
心の拠り所が無くなっていくのを感じた。**]
...さて、時間が...なさそうだな。
[自分の体は自分が一番分かっているだなんて。
そんなことを言うつもりは無いのだけど。
自分に時間がなさそうなことは、何となく感じていた。]
...見守っていたかった。
あの子には、元気になってもらえれば。
あの人には、元気になってもらえれば。
...其の為だと言うのなら。
僕の命など、どうでもいいのだけど。
[思い出したのは昨日のひと時。
たわいの無い話をしていたような気がするが...どうしてだろう。
何となく自分の、いや二人の表情が思い出せない。
話した内容は...何となくは覚えているのだけど。]
[父は死んだ。
母はその後を追って自殺した。
残された僕と弟は、親戚の人に引き取られたのだけど。
3つ下の弟も、去年亡くなった。
父も弟も、今の自分と変わらない感じだったように思う。
心電図がどうやら異常をきたしているみたいだが、結局良くわからないままだった。
脈が乱れるからなのか。
突然意識を失ったり。
そのまま、死んでしまったり。
そんなことしか分からないままだった。]
...やはり暇だ。
[今の状態は...もう注射を打たれていてしまって、ベットから離れることはできそうにないから。
そして。
先程からは色んなことが思い出されてきて。
何か、切なくなってきたのもある。]
死んでしまったら、どうなるのかな...。
[自分が持っている少なすぎる知識では、わかる筈もなく。
ただ、魂が恒久的に残ってしまうのならば溢れかえってしまうだろうから、それはないのだろうけど。
することもないので、何となく文字をつれづれなるままに書いていた。
何かを残したいという、ありふれている思いもあったのだろうか。]
[点滴装置の持ち方も堂に入ったものだ。エレベーターに乗って、少し迷って押したのは、五階も四階も通り過ぎて、結局一階に降り立つ。
明日は家族が来ることになっている。無事に手術が終わって病室に戻ったら、退院したら。一緒にご飯を食べるのが恒例となっていた。大抵、退院後すぐはろくに食べれなくて、美味しいとも思えないのだけれど。
すれ違う医師の顔をひとつひとつ確かめる。知った顔があれば、柏木がどうなったのか、約束の、時計がどうなったのか。聞きたかった。取りに来ますと言った自分か、置いておくと言った彼か。約束を破ってしまったのはどちらなのか、はっきりさせたかった]
[白筒に積もる灰を、手にした灰皿へと落とす。
――灰色。
世界から色が奪われたのは、何時からのことだっただろう。
赤色が、好きだった。
かつてヒーローは皆、リーダーが赤色だったからだ。
けれど赤色の服を選んだ時、父に叱られた。
『それは、血の色だ』と。
『医者は赤を選んではいけない』と。
僕の未来は既に、決定していた。
それでもまだ、少なくとも子供の頃は。
いくつもの夢を持っていた気がする。
鮮やかな世界の色と共に。
立ち昇る紫煙へと焦点を合わせ、ぼんやりと思考を巡らせながら、摘んだ白筒の先端を赤く焦がしていった。]
[背中に向けた言葉は、彼女の口の中で消えるほどに小さかった。いつぞやの、約束だと繰り返した光景が脳裏によみがえる。あのときにはなかった点滴装置と共に去る背中を、彼女は見送った。]
[売店を覗いて大好きなお菓子を買った。勿論今は食べられないけれど、きっと母親も好きだったように思う。だからきっと、無駄にはならない。
六階に戻ると、廊下の隅まで行って夕日を眺めた。それは柏木が落ちた窓のひとつ上で、そうとは知らずとも、目に留めた看護師の一言で、夕日を最後まで見送ることは出来なかった。
だから病室に戻って、ただ海を眺めることにした。
赤く染まる海。
暗く、一足先に夜を感じさせる海。
いつか還っていく、海]
ごめんね、おばあちゃん
[手術が無事終わったとして、明日は無理だったな、と今更気づく。そんなつもりはなかった。嘘をつくつもりではなかった。
また、戻ってきたい。
その想いを現しただけで――守られることのない、約束。
待たないで、と明日のぼたんを想い、ベッドに入った。
あとはうつらうつらとしているだけで、知らぬ間にカーテンは引かれ、点滴は交換され、夜は、最期の夜は――更けていった]
[他の患者はどうなのだろうかと、先ほどからはそればかりが気になってしまって。
自分が動き回れないことが、此れほどまでに疎ましいことは無かった。]
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