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[双葉を見送れば、残った料理へと箸を伸ばす。
やがて食べ終えれば食器を流しへ運び洗いものを始めようとするが、その手が止まり]
―――…、 お婆ちゃん。
本当に …ほんと、元気だったのにね。
[ぽつりと零す言葉。
彼女の背は小さく、その肩は小さく震えた。]
――→自宅――
ただいま。
[台所で食後のお茶を啜っている母に近づいて声をかけた]
トマト欲しいって伝えといたよ。
さっき、ダンケさん居たから。
[戸棚から取り出した砂糖菓子を一つ、口に放り込んだ]
うん、そうだね。
行って来る。
[散髪道具の入った鞄を自室に置いて、代わりに古い木箱を手にした。
中には、儀式で使う道具が入っているのだった。
手入れが済んだそれを、村長の元へと返しに向かうべく家を出発する]
[自宅までの道を進む。その足取りはいつもと変わらず落ち着いた緩慢なもの。飽かずに鳴く蝉の声が聞こえてくるのを耳に入れながら]
儀式が終われば……秋も近いですね。
ポルテさん、すぐに治ると良いのですが。
[ぽつりと独りごちる。ポルテは不調で休んでいるのだという。若い者の事だからと、心配はしても深刻に考える者はいないし、男自身もそれは同じだっただろうが]
……ん。アンさん?
[ふと、視界の端に映った姿に足を止めた。道から外れた茂みを隠れるように進む、娘の姿。男が声をかけた直後、その姿は逃げるように何処かへと消えてしまい]
……どうしたのでしょう。
何かあったのでしょうか……
[元のように静まった茂みを見つめ、呟く。アンは気に入りの服も相まって少女のように見える、実際そう称しても構わない歳の娘だったが、流石にかくれんぼごっこのような事をして遊ぶとは思えなかった。
微かな違和感。佇んだまま、首を傾げて]
……ん?
[かけられた――のかは些か判然としなかったが――声に、思考を一旦中断して其方を向いた。何かを頬張る姿に、二、三度瞬いてから、今し方の不明瞭な声の理由に気付いて、くすりと笑い]
ホズミさん。今日は。
[そう挨拶を返した]
― 回想 ―
[自宅へ帰る途中、集まって遊んでいたのだろうこどもたちが寄ってくる]
『あ、マシロだー!』
『ましろーなにしてるのー? かくれんぼしよー』
[先生というよりは、遊び相手として接してくる子らの頭を乱暴に撫でながら]
元気だなぁ。
今、せんせーお腹減ってるんだよねぇ。
…あ、みんな、うちのばーちゃん見なかった?
[あまり期待したつもりはなかったが、帰ってくる言葉に少しだけ落胆し]
そっか。
…ん、と、今日はかくれんぼすんの?
はは、私は家帰ってごはん食べないと。
はいはい、みんな仲良くね。特にデンゴとルリ!
…ふふ、よしよし。
あ、範囲は地蔵のところまでだよ。
その先はルール違反。わかった?
[元気な返事に笑顔を浮かべ]
良い子にしてたら次のときに新しい遊びを教えてあげるよ。
はい、またねー。
[戸が叩かれた音に立ち上がり慌てて駆け寄ったせいでたんすの角に小指をぶつける]
……っつぅ…。
[片足でぴょんぴょん跳ねながら、玄関までたどり着き戸を開ける]
ばーちゃん! どこ行っ……。
あ…れ…、せーじくん。
生憎、確かな事はまだ知りません。
近く村長に尋ねに行こうと思っていたところで……
どうも、ライデンさんらしいという話は聞きましたが。
[ホズミに尋ねられると、抱えられた木箱を見つつ、何度か耳にした噂を伝えた。村では噂はすぐ広まる。当然、真偽が怪しいものも多かったが]
あっ……
[ばーちゃん、と呼び掛けられて気まずそうな顔をする]
ご、ごめん。
今日のご飯どうするのかな、なんて。
[夕飯をご馳走してほしいと正直に言える状況でもなく、そう尋ねてごまかす]
[ややあって食器を洗う音が響き始める。
2階からは少し音が外れたさくらが聞こえる。
話しかけられなければ背を向けたまま作業し
自ら言葉を発する事はないだろう。
―――それから、食器を洗い終えれば
布巾で手を拭いながら食卓の方へと戻って来る。]
ダンちゃん、今晩はどうするの?
そう、ライデンさんが。
食べでがありそうですね。
村長さんには今から会いに行ってきますけど、教えてくれない気がします。
[屈託のない笑みを浮かべたまま言った。
歩を進めてから振り返り、右手で自分の額の辺りに横線を引く]
ンガムラさん、そろそろ前髪切りましょうよ。
[気まずそうな顔のセイジにぷっと吹き出し]
くくっ…ごめんごめん!
誘ったのは私だもんね。
あ、入って入って。
…でも、せーじくんタイミング悪いなぁ。
ばーちゃんまだ帰ってなくてさ。たいしたものないんだよね…。
こんなに遅いと、森じゃなくてホズミさんのとこで世間話かなぁ。あ、森に寄ってホズミさん家? あー、うん、あるある。
[後半、独り言のようにぶつぶつ呟きながら、先程のように片足でぴょんぴょん歩く]
―若葉宅―
[若葉に少し遅れて食事を終えると、片付けを手伝い]
若葉ちゃん…
大丈夫。ちゃんと食べたんだし、また、来世で会えるよ
[慰めるようにそう言って]
そうだな。久しぶりだし、泊まって行っても良いかい?
[手伝いが終わり、どうするのかと聞かれると、そう聞いて]
ええ、そうですね。ライデンさんは背も高いですから。
儀式が近付いてきましたから……じきに連絡も回される事でしょう。
[ホズミの笑顔を見て返す言葉は、若干抑えた声調ながらも、およそ普段の世間話と変わらないようなものだった。前髪を示されると]
嗚呼、結構伸びてきましたか。
ではお手透きの時に宜しくお願いします。
[己の前髪の先を指で摘みつつ答え、頼むように言って会釈をした。そしてふと、思い出したように]
そういえば……
ホズミさんは、最近アンさんに会いましたか?
[と、何気ない風に尋ねた]
ん、…
[また来世でお婆ちゃんが、お爺ちゃんと一緒になりたいと笑っていたことが思い出されて 2つに結んだ髪を揺らして頷いた。
宿泊を申し出るダンケに]
うん、うちは全然構わないよ。
ダンちゃん居ると双葉もきっと喜ぶよ。
ご飯も多めに炊いたし、朝ご飯もご馳走するよ。
ポルテさん具合悪いから困ってる人多そう。
ダンちゃんとか。
[じっと見上げ、それからまたほにゃりと笑う。]
それじゃ、お布団とか準備するから手伝ってくれるかな?
あ、うん。お邪魔します。
[万代に促されるまま家の中へ]
ああ、おばあさんはお出かけ?
うん、それは大丈夫。
[言いながら、彼女が跳びはねているのを目に留めて]
何ぴょんぴょんしてるの?
新しい遊び?
[思わず尋ねた]
うん。それじゃあ、お願いするよ。
ははは、確かに、最近はポルテさんの所で済ませる事が多かったからね。助かるよ。
[OKの返事を貰えばそう答えて、見上げられると、苦笑いで答えて]
もちろん。他にも手伝える事があれば手伝うよ。
[手伝いを求められれば頷いて、若葉の後に続いて寝室へ]
[突然振り返って]
あ、鍵開けといてー。
[またぴょんぴょん歩き出すと]
そ、なんか出かけちゃって居ないんだよね。
…ああ、うん。
そう、次に教えるやつ………ぷっ。くくっ。
では、どうぞお好きな時に呼び付けて下さい。
[ホズミの返答を聞くと、何処か思案するような表情をして、静かに頷き]
そうですか。
……いえ、用事というのではありませんけれど……
さっき、其処の茂みをアンさんが歩いていまして。
声をかけたのですけれど、なんだか逃げられてしまったようで……
少し様子が変に見えて、気になったのです。
もしかして何かあったのではと……
考え過ぎだとは思いますけれど。
[先程アンがいた茂みに視線をやりつつ、彼女について尋ねた理由を説明した]
ああ、うん。
[言われた通り、鍵は開けたままにして。
万代の後に大人しくついていく]
教える?
……ああ、子供たちにか。
万代さんも大変だよね、遊び盛りの相手じゃ。
[教室から出さなくても大変なのに、彼女は外で運動させる係なのだ。
自分以上に大変だろうと思えた]
おいしいご飯を食べて健康に過ごすことは大切だもの。
[寝室の押入れを開いて、ダンケには上の方にしまった布団を取ってもらうように頼んだ。]
…他?
んー、… あー… うーん
[枕やシーツをずるずる引っ張って設置しながら迷うような困ったような声を出す。]
それじゃあ、…
[敷いた布団の上にぺたんと座り、ダンケにぺこりと頭を下げる。
それは昔から変わらない若葉の夜の合図。7年前の時からも状況は違えど言った言葉は似通っていただろう。]
――― …お願いします。
[素直な反応が楽しいらしい。ひとしきりセイジをからかって楽しむと]
あーごめんごめん。
たんすの悪魔が悪さしたのよ。
[そんなことを言っているうちに台所に着く。食べられそうなものを物色しながら]
さーて、せーじくん、そうめんでもいい?
あとは…つけものが少し、かなぁ。
じゃがいもは生でかじれない…よね…?
…うむ、せーじくん、キミは思った以上に運がないっぽいよ。
[そうめんを茹でて、漬け物をいくつか出してふるまう。からかいながら一緒に食べ終わると、またおいで、と言って別れを告げるだろう**]
まさか。
[ぱちりと瞬いて緩く首を横に振り]
そうなのかもしれませんね。
ええ、有難う御座います。
[常のように柔らかく笑い、ホズミに礼を言った]
あの上の布団だね。よいしょっと…
[押し入れから布団を取り出し、敷くのを手伝いながらも、何か悩んだ様子の若葉に首を傾げる。しかし、昔から変わらない合図を見ると笑みを見せて]
こちらこそ。
[若葉の髪をそっと撫でると、唇を重ねた**]
たんすの悪魔……。
[万代の独創的な表現についていけず、からかわれっぱなしにからかわれる]
そうめんに、漬け物。
うん、充分だよ。ありがとう。
[この際、贅沢は言うまい。
それに、先程の握り飯のお陰で酷く空腹という訳でもない]
……ご馳走様でした。
助かったよ。
[食べ終われば、礼を言って素直に出て行った。
村の老人たちが見ていたら、きっと非難轟々だったことだろう**]
[ふわりと髪を撫ぜられれば2つの影が重なる。
この村の年頃の男女の間ではよくある事。
2階から聞こえてくる笛の音が上から落ちてくる感覚。
けれどいつの間にか、その音色も遠くに聞こえ始めて
――― 白いシーツの上に皺が増ていく。**]
そういうものなのでしょうかね。
どうにも、女性の気持ちには疎いようで。
[指差される方向を一瞥して頷き]
行ってらっしゃい。
[手を振り返して去っていくホズミを見送った。踵を返し、己は違う方向、自宅のある方へと向かって]
[やがて自宅に着くと、湯を沸かして茶を入れた。右手のみで行う作業に危うさはない。男が日常生活で不便に思うところは少なかった。力仕事などの際は近所の者に手伝って貰うのが常だったが]
……ふう。
[喉を潤し、息を吐く。居間の卓袱台の前に座り、縁側の方を眺める。薄暗い室内から見る外の景色は、際立って眩しく*感じられた*]
― 回想・8年前 ―
[周囲に急かされるまま子を成す事が女の務めだと言われればそれを素直に受け止めたけれど、1人だけではどうする事も出来ない問題だった。
当時は母も健在で教えられる事には素直に頷いた。それと同時に、母が不思議な事を教えてくれた。]
『 子供はすぐにできるもんやないんよ。
お月さんが一周したくらいになって
ようやっと教えてくれるもんなんや。 』
[それは教育をまともに受けてなくとも子を成した事がある女性ならば知ることが出来る知識。
ただ、それを聞いて 誰かと閨を共にしてからは他の誰かとはひと月の間は閨を共にしないようにするのが習慣となってしまっていた。]
[初めての相手は慣れた相手が良いと、中年の男性を母が連れて来たことは今でも覚えている。何も知らない身体はその日から、母と同じ医師を目指す おんなとなった。]
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