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―庭園の在ったビル―
[――己が身の裡に起こったことは、
軽業師の男が誰よりよく覚えている。
そして、苦痛に関するデータの採取を
つとめていた、研究施設での経験は
ベルンハードの身に起こることを
呆れるほど正確に察知して――
現実へトレースされるさまを見ることになった]
……
[過日――自分の「炉」にあった熱源と
その触媒は――…思い出したくもない]
[足首に傷を追った軽業師が飛び退った距離は、
さほど遠くはなく。間近で見下ろす爆裂、断末魔。
沸騰した脂肪が泡立たせた生皮が、
黄色くふやけたように浮いている。
弾けた腸管が、詰まった内容物ごと
裏返っては襞に沿って焼け縮れていく。
わざわざ噛み砕かれたコークスは、
ベルンハードの口腔や食道にも
へばりついてどす黒く煤煙を上げた。
鼻梁を潰すように打ち下ろされた槍が
とどめとなったかどうかは…甚だ疑問。]
[それから、再び無造作に、
ベルンハードの頭を貫いた物を引き抜く。
先端付近に、脳の一部や血液が付着している。
鼻を近づけ匂いを嗅いだ後、ぺろりと舐めとり、嚥下。]
[カラン、と銛を放り投げる。]
[屍体の頭付近に膝をついて屈み込み、割れた頭蓋骨の中から、脳味噌を掬い取り、口に運んだ。プディングのように震え、喉奥に送り込まれてゆく。暫しそうやって喰べた後、顔をあげた。]
[――かつん、
アイノの翼を染めたのと同じ瀝青(れきせい)が
足首の傷を妙な方向へ固めてしまわぬように、
軽業師は尖った靴の底を床へ軽く叩きつける。
視線は、穿った銛持つ旧友の手から…面持ちへ。
――そのとき目にした口元の仕草に、
思わず言葉をなくし暫く黙って彼を見ていた。]
[わらいかける表情を、しらない]
…おい
[大股で歩を寄せる。]
[彼の頬へ手を伸ばす]
[旧友の肌を灼くほどに手が熱いことも忘れ。
軽業師の男は急いた手話を其処へ綴り送る。]
( ― マティウス ― )
( ― いるのか、いないのか ― )
( ― 其処に ― )
[膨大な熱量の接近。
灼け跡を残しながら綴られる手話。]
いるよ。
[綴り終えた手を掴む。]
ここに。
[掌が焼け爛れながら、答える。]
その為に造られたのに……、
何処にも、
もう、行く場所なんて、
ないのかな
[残る片手をそっと添える。
手を両手で包み込むようにして項垂れた。
明瞭な意識の侭、話しかける。]
[出来そこないの実験体と賞金稼ぎの女が息絶えた頃。
女は愛しそうに少女の生首を腕に抱いて、その頬を撫でていた。
見開いた眸は閉じさせて、だらりと飛び出した舌は口の中に収めさせる。
そうすればほら。腕の中に在るのは、生きていた頃と変わらない少女の姿]
やっと……手に入れた。
ドロテア……。
[するりと頬を撫で、温もり無くして久しい唇を、紅い舌でちろりと舐める。
舌先に伝わる濃い死の味に、くらりと強い酩酊感にとらわれる]
大丈夫よ。
すぐにまた、喋れるようになるわ。
……私があんたを産み直してあげる。
[ぎゅ、と。
素肌の腹部に押し当てる様に、ドロテアの首を抱く]
供儀は一度死んで蘇る。
救世主と同じように。これが本当の儀式――…。
私はリリスから聖母になるのよ。
[歌う様に囁くその顔は、まさに聖母のように慈悲深いそれ]
[強く強く。
腹部へと死した首を押し付ける。
肉がひしゃげ、皮膚が裂ける音と共に、ぐちゅりと粘性の音を響かせ別の個体であったはずの首は女の腹部へと溶けあい、混じり合い融合する。
そうして――……]
[――蝮の娘。
それは、施設がまだ少女の面影を残す頃に女に与えた名前。
幾度となく古き皮を捨てて新しく生まれ変わる蛇を不老不死の象徴だと盲信した者の手に寄り、人と蛇とを掛け合わせた融合体《キメラ》である事を知る者は少ない]
ああ……でも。
この子を産み直すには、足りないわ。
命が、足りない……。
[腹をさすりながら思うのは賞金稼ぎの女。
何度かの性交の合間に産み付けておいた蛇は、その身体の中でまだ生きているだろうか]
[意識を集中させれば、有翼人の発した大いなる光に照らされ、その表面を焼かれた賞金稼ぎの身体の内部で、蠢く分身の存在に気づく]
生きていたのね、良い子……。
[サーディがまだ生きている間に、蛇の中に蓄えさせていた命がまだ健在であることを知り、紅引く唇が口端をあげる]
戻っておいで、私の可愛い子供だち。
其の身に蓄えた命を、母に渡してちょうだい。
[その言葉を合図とするように、死したサーディの身体が一瞬震えると――]
[サーディの下腹を食い破り、飛び出す無数の蛇]
早く、はやく……。
戻ってきて、私に命を――……。
[歌う女に誘われるように、蛇たちは一斉に駆けだす。
寄生した宿主の命を女の元へと届けるために**]
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