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ん……うん、具合はもう大丈夫だよ。
[顔色は言葉と裏腹だったが]
えっとね、その……
ネギヤさんが消えた、って聞いて。
いてもたってもいられなくなったんだ。
昼間からなんだか嫌な予感がしてたから……
[タカハルの問い掛けに、ぽつりぽつりと返す。話し方は普段と変わらないので、三白眼と不似合いだったか]
ごめんね。有難う。
[タカハルから投げられたジャンパーを受け取ると、眉を下げて弱く笑い、それを羽織った。疑問をぶつけられれば、戸惑いの色が顔に浮かび]
……う、ん。
どうしても、胸がざわざわして……
……タカハル君は、どこに行くつもりだったの?
[曖昧に答えてから、話を逸らすように聞いた]
え……アンちゃん、も?
裏山に行って……
[タカハルの返事を聞き、呟く。声色に混じる、驚き、動揺。ぐ、とリコーダーを握り]
……僕も、一緒に行っていい?
心配だから……
タカハル君も、一人じゃ危ないかもしれないし……
[ぽつりと、申し出た]
……うん、有難う。
具合が悪くなったら、帰るから……
心配しないで。
[返事を聞くと、小さく笑って頷いた。ふと目に入ったてるてるを、少しく眺め――タカハルの後をついて、裏山へと向かう。
踏み入れたその一瞬だけ、体が痺れたように強張ったが、立ち止まりはせずに]
……え。
傘……?
[タカハルの後ろから覗く、道の先に桃色が見えた。ぼんやりと窺える傘の形。桃色の傘。タカハルの呟きに、眉をひそめ]
……、?
[続けて其方へ歩いていったが、はたと。傘より手前、足元に落ちる、塊に気付いた]
何だろ……
[膝を曲げ、拾い上げる。ところどころ土が付いた、てるてる坊主。タカハルの持つ灯りにかざすようにすると、その模様が――]
[――音符模様が、見えた。
それは間違いなく、自分がアンに貸したハンカチだった。鋭い目付きが、より鋭くなる。ひゅう。掠れた呼吸音が喉奥から漏れる]
……アン、ちゃん……?
[震える声で、名前を呼んだ]
どこに、行ったの……?
[がんがんと、また、頭が痛む。吐き気がする。蒼白な顔で、口元を押さえ]
……大丈夫……
……じゃ、ないかも……
[ふ、と、普段の閉じたような双眸に戻り。
だが笑顔は浮かべずに、タカハルの問いに弱々しく答え、首を横に振った]
うん、下に……一度、降りよう。
[提案には頷いて]
……あのね。この、てるてる坊主……
このハンカチ……
僕が、アンちゃんに貸してたものなんだ。
[そう告げて、一瞬だけ泣きそうなように眉を下げてから、裏山を降り始めた]
え……?
[タカハルの小さな呟きには、其方を見たが。特に何も言われなければ、言及はせず。些かおぼつかない足取りで、*歩いていった*]
……アンちゃんも、ネギヤさんも……
きっと、戻ってくるよ。
本当に消えちゃうわけ、ないよ。
[タカハルに返す言葉は、自分に言い聞かせるようでもあった。ンガムラのそれらしい軽トラが見えてくれば]
……ンガムラさん……
[その名前を呟く。信じろ。声がそう告げた人物。
ンガムラが此方に気付いたなら]
……ンガムラさん。
少し、話したい事が……あるんですけど、……
[思い立ったよう、その近くに駆け寄り、切り出した*だろう*]
[ンガムラかと思った姿は、ヌイだった。小さく息を吐き]
……すみません、失礼します……
[勧められて、軽トラの荷台に乗り込んだ]
……
[辿り着いた人形店の前。遠目にもボタンの姿が見えれば、うつむき、黙り込む。てるてる坊主を握り締め、何かに――頭の痛みと声に――耐えるようにしていた。
結局その場では何も言えず、軽トラはまた走り出し]
……ギンスイ君が……間引かれ、た?
それは、どういう……
[どういう事なのか。ヌイに伝えられた内容に、困惑する。頭のどこかでは、朧げに把握できていたが、理性で納得はできずに。
やがて止まった軽トラ。ンガムラの姿に、一礼する。
ボタン雪、と言って尋ねたヌイに、息を呑み]
……ヌイ、さん。
[去ろうとした彼を呼び止めた。止まって貰えたならば]
……ンガムラさんを、頼りにして。
ボタンさんに、気を付けて……
[そう二言だけ、告げただろう]
[そうしたのは、ヌイが、特殊な事実を知っているように見えたから。どこか自分と通じるものを、感じたから。
ヌイが去っていけば]
……ンガムラさん。
少し、話したい事があるんです。……いいですか?
[改めてンガムラに向け、切り出した*だろう*]
[ンガムラの軽口にも、弱く笑んで返すしかできずに、軽トラの助手席に乗り込んだ。おまえまで、と続けられた内容には、ヌイの事を思い出し――息が詰まるようだった。話の先を促す様子に]
……仏さんとも、幽霊とも、言いません。
でも、きっと……同じような事です。
[相手の横顔を見ながら、沈痛に話し出す]
言っても、すぐには信じて貰えないでしょう。
僕だって……
こんな騒ぎになる前は、気のせいじゃないかと思ってました。
そうなら、いいと……
[一呼吸、置いて]
……声が、聞こえるんです。
突然、頭が割れるように痛くなって……
人のものとも思えない、声が。
消えた。気を付けろ。
そう、言うんです。
ンガムラさんの顔が頭に浮かんで……信じろ、って。
……ボタンさんの顔が頭に浮かんで、……疑え、って。
言って、くるんです。
何かが……
[そう訴えるように告げる声色は震えて。指先も震えていた。
尋常でない様子は、声だけでも伝わるだろう]
……ねえ。
こんな事言っても、僕がおかしくなったとしか……
思えない、ですよね。
でも、本当なんです。
消えた人達が、何かによって、消えたとしたら……
次に消えてしまうのは……僕かも、しれません。
[刹那だけまた覗く、鋭い視線]
だから……
伝えて、おきたかったんです。……
[語り終えると、下を向いた。ンガムラはその話にどんな反応をしたか。やがて家に着けば、辞儀をして、帰っていっただろう*]
[朝。顔色は優れないままだったが、早くに起きた。ふ、と、頭を押さえる。昨夜撫でられた事を思い出した。
あのてるてる坊主は机の上に置いてある。
起き上がり、服を着替えると、リコーダーを手にし]
……行かないと。
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