[教室の後ろの掲示板には、ズイハラが撮った体育祭の写真が貼られている。
雷鳴に驚き、読んでいた『日本海ひとりぼっち』をパタンと閉じて、窓際へ歩み寄ろうとした]
アンちゃん?
[落雷の音と歌声とに、腰を抜かしたように座り込む]
[体育祭は曇天ながらも無事に終了した。
コハルはもう、運動部員ではない。
新入部員は未だゼロ人。
廃部決定も、もうすぐだろう]
……え、なあに
[ぼんやりと周囲を見渡し、座り込んだマシロを、見た]
[コハルの腕を掴んだつもりなのに、力があまり入らなかった。
教室を見渡すが、つい今しがたてるてる坊主に手を伸ばしていた級友の姿は――]
アンちゃん、どこ行っちゃったの?
[足元に転がってきたのは、マーブル模様になった*頭*]
私の写っている写真あるかしら?
(掲示板に貼ってある写真を眺めていたが、何かがおきた気配に振り向いた)
どうしたの?
(座り込むマシロの視線の先で「犯人はだぁれ?」と浮かび上がる文字を見つけた)
犯人って? 何のこと?
(意味が分からずに首を傾げた)
[浮かない様子のコハルの肩に手を置き]
見てください
きっと大丈夫です
[仰ぎ見る掲示板には皆の楽しそうな笑顔と時々変顔。
試合を手に汗握ってみる生徒たち。
ね、と言ったところで雷鳴が轟き、顔をしかめる]
雨…
アンさん、窓を閉めちゃいましょ…う
[窓辺の少女に声をかけた、はずだった]
[アンの失踪により、一時間目のズイハラ先生の社会科は自習になった。
見た者と、そうでない者の温度差が激しい。
机に突っ伏していた顔を横に向けると、チカノの横顔が見えた]
犯人は……
アンちゃんを、連れて行っちゃった?
[教科書を読むときのような口調で呟き、目を伏せた*]
(授業になっても、さきほどまでいたアンの姿はない)
おかしいわね。授業をサボるような子じゃないはずだけど。
……犯人って…… 誰かが連れていったのかな。何のために?
(不安になるとするクセで、机のなかでこっそりとタロットの山から一枚引いてみる)
……こんなので、犯人がわかったら大したものだわね。
(一人ごちて、カードを山に戻した)
[自習の教室に避難してきたマルは、アンの座席の脇に寝そべっている]
「犯人はだぁれ?」 か。
[真っ白のままの帳面、くるりとサインペンを指の上で回す]
……ん。
[ふと、気づいたように顔を上げる。
小さく唇を動かすと、誰もいない机の脇に、持っていたサインペンを差し出した]
(カードを引いた時に無意識に思っていたのは近くにいたコハルのことだが、自覚はない)
……アンが心配……
(小さく呟きながら、教科書を開いたが、もはや勉強は上の空*)
…………。
[無言のまま、ぽり、と頭を掻く。
ペンを机の上に放り出した]
しっかしみんなの前で忽然と、なんて、手品か? まさか祭りの前に、土地神様の神隠しってわけじゃないだろうし。
おいベック。
お前見てた? アンが消えたところ。
[すっかり勉強に飽きた体で、*問いかける*]
[不可解な行動をとるゴロウを頬杖をついたまま眺める]
見た、と思います
気のせいだったと言われたら、そんな気もしてきますが…他にも目撃者がいるようですし
[後ろの席を振り返った同級生に答えると、嘆息して窓の外に視線を移す。外は激しい雨]
手品だったらアンさん自身が犯人ですね
神隠しなら…そういえば、声、歌声を聴きませんでしたか?
何しているの?
[カードをいじるチカノに問いかけたが、聴こえたのはアンを憂う言葉だけだった。
視線を移すと、ゴロウとベックが何やら話している]
男子だって仲いいじゃない。
アンが犯人なら……もう出てきてもいいんだが。十分びっくりしたし。
[後ろの席からいろいろ眺められていたとも知らず、首をひねって唸る。続いた問いかけにベックをじっと見つめ]
……。俺だけじゃなかったのか。
あれって、アンの声、だったよな。
てるてる坊主の首を切るとか確か――
お、マシロ。お前も混ざるか?
旋律はてるてる坊主の歌でしたが、聞いたことのないものでした
アンさんの声かどうかまでは
[肩をすくめて、女子たちの方を向く]
チカノさんのカードで犯人が分かったりしませんかね
[冗談めかして笑おうとしたが、少し失敗]
[一応低い姿勢で移動して、ゴロウとベックとマルの間に手を出す]
これ、お祓いした方がいいのかな?
[持っているのは、アンが作っていた、てるてる坊主の頭]
そうか。
いや確かあれ、二番とか三番とか……四番とかあったような。
[てるてる坊主の歌詞口ずさみかけるが、チカノに話を振るベックの表情に、一度、瞬き]
……先生いないから大丈うおっ
なんだそれ、てるてる坊主の、頭、か?
[マーブルなそれを、摘む]
うん。
アンちゃんのやつだと思う。
[頭を持っていた手のひらを、ゴロウの袖にごしごし]
こういうの見てしまうと、祟りとか呪いとか考えちゃわない?