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どうして謝るのだね。
喰らう気がなくなったというのなら……
代わりにルリを逃してやりたまえ。
[涙を見せるペケレに返すのは、困ったような笑み]
ルリは私とは、違うのだからね。
[ライデンの大きな手が降りてくる。
黙って撫でられるがまま、俯いた顔も隠れて、
聞いていたのは――]
――獏の、ばか。
[夢食らいの影はどんな色だろう、
きっと想っただろうけど認めはせず、
意図せず零れ落ちたような、一言とともに
光る雫が、一つぶだけ頬を伝って、おちて]
[枝間から飛び立つは、コノハズクか]
カナメ…。カナメは…。
[カナメは何者かと問われ。ポケットから鍵を引き出すと。それは――]
懐かしい声。
[その先はない、続かない]
……。
[このドーム内に生きている人間はルリとライデンの2人のみ]
[墓碑を見上げる]
そうね。
きっと、このままここに居れば、滅亡しか望めない。
逃がす?
──どうやって。
そうかもしれない。
君が喰らうのを求め、此処から出る術がないのなら。
逃れようもない事だ。
[ペケレには肩を竦めてみせ]
「カナメ」は最後に言ったよ。
このゲームはこれで終了だ、と。
[手のひらのうえで、
さらさら、さらさらと、
かたちをうしない 「かえって」ゆく
カギ ]
[カナメの声が微かに聞こえる
「 ルリ… 管制室… … 」
そしてその声は嘆きの、色を帯びてきて]
ああ。私のために怒る必要なんてないというのに。
一人ではなかった? どうだろうな。
以前はそう思っていたような気もするが。
今となってはわからない。
[ルリに緩く首を振りながら、写真を受け取って]
ただ、確かな事は。
「カナメ」は喰らう二人を助ける事を望んでいた。
先に何があるかを、知りながら。
「カナメ」
いえ、あなたは…
[昔のやり方で、呼びかけて止める]
思い出したんです、
あのときカナメは贈ってくれましたね。
ルリに、鍵を。
ゲームオーバー
[平坦な口調で続ける]
[きっと唇を噛み締め]
……冗談じゃないわ。
でも、いまのままじゃ確かに、あなたのカナメの言う通りね。
[激していた感情が少しずつ冷やされていく]
[ルリの晴れやかな笑顔を見て]
鍵……。
とけた、鍵のことかしら。
初めてだわ、若いお嬢さんに「わたしを食べて」なんて誘惑されるなんて。
[冗談めかして軽く笑う]
いいわ。
美味しく頂くわ。
構わないかしら──ライデンさん?
そう、ゲームオーバーだ。
エンディングが良いものか悪いものかはわからないが。
[ペケレに頷き、ルリの方を見ると何か散っていくのが見えた。明るく笑い自分を食べろと言うルリを、言われたペケレを、順に見やり]
別に私は、止めもしない。
助け、見届ける事が、私の役目だった。
[構わないかというのには、短く答え。
空に写真をかざす。逆光で曖昧になる映った像]
ええ──。
私がルリちゃんを食べて。
そしてその時に、何が起きるか……は。
わからない。
[写真を空にかざすライデンを見上げる]
[ペケレにひとつ頷いた]
そのかわり…
ライデンを食べないで。
なんてお願いしても、良いですか。
[苦笑する。
きっと否と返されても苦笑する]
" パパ。
きょうも お仕事?
あそんでくれるって やくそく したじゃない
――うそつき "
[遠い、遠い光景。
未だおぼろげな、後ろ姿のキオク]
ルリ。
[少女の声に、其方を向き]
その願いが叶ったとしても……
[言いかけて、途切れさせる。
並ぶ扉の方に歩むと、花が供えられた中に、手のうちの写真をそっと*置いた*]
[かるい重みが溶け消えて、
からっぽになった手をみつめる]
空気を震わせぬ、足音はいつも、いつも]
やさしくて、やさしくて、
――やさしいくせに。
だから いぢわる。
もし、あなたが何か、
望みを抱いていたのなら…
[作り物の風が吹いてさらう、その先]
[ただもういちど逢いたい、
その願いは、ほんもので きっと――]
[――救いなんて信じてなかった
けれど、世界の歌は聞こえずとも、この耳の聞く
祈りの羊の奏でる音は]
教えてくれて、ありがとうでした…
プレーチェ。
[きちんと終われなかったから還らない、
還れない人々にも、何かをもたらせればいい]
――夢を奪い取り戻した、その先にも。
[扉へ手向けられた、絵と写真が揺れる。
ライデンが言いかけたのに気づいても返さない]
つくりものだから、わるいもの?
うばうのは、わるいこと?
……うん。
カナメ、ありがとう*
[>>68 一瞬だけきょとりとした後、子供に言い聞かせるような笑顔になる]
ライデンは己を喰らえ、ルリを助けてと言う。
ルリは己を喰らえ、ライデンを助けてと言う。
あなたがたは死を望む──過去からやってきた死に神の手を取る。
私を哀れんでくれるから、身を差し出す。
私が、寂しくないように、誰かを遺す。けれど、あなた自身は遺さない。
[すっと目を伏せる]
[かつて仲間で合った獏の上着が視界に入り、それを拾い上げ、無造作に羽織る]
やさしさは、難しいね。
山々に生える木々のように暖かい山吹色。
そこに、深く沈むような藍色を重ねたら──夕陽?
[墓碑に向かって黙礼をすると、2人に向き直る]
鐘が鳴り、あなた方の願いは叶うだろう。
だいじょうぶよ──痛くないわ。
[安心させるように微笑んで]
心配してくれてありがとう。
[小さくお礼を言うと、背中を向けて歩き出した]
ねぇダーリン。
[久方ぶりに声を掛け──自らの呼びかけにぷっと噴き出す]
ハニーの方がいいかしら。はにー。
[足どりは軽く、リズミカルに階段を上る]
ねぇハニー。
私が、廃棄処分されなかったのは何でだろうね。他のみんなみたいに。
──私が、生きることを願うものが居たから?
ルリやライデンみたいな、優しい人が居たの。
[カナメから返ってきた答えに、複雑な笑み]
[たどり着いたのは、一つの機械のある部屋]
使い方くらい知っているわ。
[カナメの声にむくれながら、表面に指を走らせる]
原理は知っているけれど、不思議ね。
[浮かび上がるのは、舞台の上で朗々と歌い上げるライデンの姿]
本当に怪人なのね。
[演目は”オペラ座の怪人”]
[何かのタイマーなのか、長い時が過ぎたのか、立体映像は、大空を羽ばたく鳥の姿を映し出していた]
とり。
ミナツが描いていた──レンが見たがっていた景色。
[呆然と見つめる]
これは過去。
誰かにとってとても大切なもの?
大切だから、それが失われると悲しくて、死にたくなる?
私には……世界が美しく見えるのは。積み重ねた過去はないから……なのかな。
津島要の記憶より、いま目が覚めてからのことのことの方がつよい。
いつか──ここに在るだけの思い出だけでは、生きていけなくなるのかな。
[胸元に手をやり、かさりという手応えを感じた]
?
[出てきたのは1通の封筒]
プレーチェが、獏に──アンからの手紙。
東海林 杏。
[ユウキの呟いていた名前を思い出し、震える指で封を開ける]
『杏へ
おはよう。
きみがこの手紙を読んでいるということは、私は隣にいないのだろう』
[手紙はそんな書き出しから始まっていた]
[時折乱れがあるけれど、意志の強そうなしっかりとした文字で、杏が現代の医療技術では治癒できない病であること、未来に希望を託して冷凍睡眠に入ったことが記されていた]
『きみが健やかで幸せであるように。
父より』
[読み終えて、反射的に手紙を握りつぶそうとしたけれど、首を横に振り、ゆっくりと封筒に*戻した*]
きっと。誰かが生きて欲しいと願ったり、自分が生きたいと思う人が、ゴールドスリープについたんだ……。
そんな人を食べた……んだね。
[くぅとお腹が鳴った]
あぁ……お腹すいた……。
ねぇハニー。
アンもプレーチェも生きたかったろうに、私は食べたの。私が生きるためには、必要だったの。
たぶん……彼女たちが生きていたなら、私は壊れていたと思う。それはどうしようもない。
だけど、死を望む気持ちが分からない。
過去ってそんなに素晴らしいものなのかしら……。
私は食べられるし、2人も向こう側に行けるから、めでたしめでたし、でいいのかしら。
私は悪くない?
ハニーは甘いね……。
──獏ならなんて言うんだろう。な。
難しいこと。言うのかな。
[そのままぼんやりと、立体映像を眺めている。]
[縁日の情景や、圧倒的な迫力を持つ舞台が映し出されている*]
……Libera me, Domine, be morte aeterna,
in die illa tremenda:
quando caeli movendi sunt et terra:
Dum veneris judicare saeculum per ignem.
[それからふらりとその場を離れる。緩やかに歌いながら、ビオトープの方へと歩いていって]
Tremens factus sum ego, et timeo,
dum discussio venerit,
atque ventura ira.
[ブーツの先で踏みしめる土。
目の先を、白く小さい蝶が横切り]
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