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あは、あははははは!
[込み上げる笑いに男は涙をにじませた]
滑稽だな“ヌイ”。
これがお前の望んだ、終わりなのか?
逃げた先に何か見えたか?
[ひとしきり笑うと、ぱたりと真顔になった]
終わらないと知りながら、逃げたのは俺だろう。
[周りを見渡すと、そこに広がるのは*闇また闇*]
[桜の下の人影が2つに増えたことに気がつかぬまま、...はそっと窓辺を離れる。]
……。
[だいぶ落ち着いたのか、涙はもう出なかった。天井を見上げて、吐いた息が白い。]
[暖房の前でしゃがみこんでマッチを擦る。]
幻が見えたりしないかな。
これが消えたら…。
[外国の御伽噺を思い出して、苦笑する。火を入れるとその前に横になってゆるゆると意識を手放した]
人狼がくるよ。
[真夜中。突如、風の音と共に窓が開く。舞い込んできた冷気に...は体を起こす]
一つ目の魂。
狂い咲くは魂。
黄泉に捧げては死を。
[聞こえた声は男のものか、女のものか、それとも自分の声だろうか]
な、に。…やっ…!
[風が鳴く。窓から吹き込んできた大量の花びらに目を閉じる。耳を塞ぐように手で顔を庇う。]
やだ…なに、これっ!
[夢か。現実か。風が止む頃、家屋に人影は*なかった*]
[どこからか、微かに音が聞こえる。
さ迷い歩くうちに、ほの明るい場所にたどり着いた。
見下ろしたそこには、視界いっぱいに桜が咲き乱れていた]
ああ。
[男は、かつてはあんなにも恐れていたはずの桜を、死して初めてうつくしいと思った]
[気がつくと何もない場所に立っていた。上と下さえも見分けが付かなかった。じっと耳を澄ますが物音も聞こえない]
…ここは?
[一歩踏み出すと足元に波紋が広がった]
[ちりつくような音がする。
男の目からは、涙がぽろりと零れていた]
なぜ?
[それが生ぬるく頬を伝う感触もなければ、手の甲に落ちる感覚もありはしない]
[ふぅわり、ふわり。上も下も右も左もない世界。
自分が何者かさえ思い出せない中、覚えているのは、切ない気持ち]
俺は何を見てしまったのか。
知らなければよかったのか。
それでも知ってしまったからには…
[ふぅわりふわり。遠くで薄ら白く輝いているものがある。
近寄ってみると、それは桜吹雪。
桜舞う向こうに、懐かしく感じる人たちがいる。
少女の悲しげな声に、胸がずきりと痛む。
傍らに行って慰めたくても、できるわけもなく。
届かない手を彼女に向けて伸ばした]
[くいくい、と体が引っ張られる。まだこのまどろみを楽しんでいたかったが、呼ばれているような気がしてうっすらと目を開く。と、こちらを見つめている女性の視線とぶつかった]
……こんにちは。
お帰りなさい、いや、ただいま、かな。
[そんな言葉が口をついて出た。自分が誰なのかも、ここがどこなのかもわからないままに]
おかえりなさい。
[ただいま、と言われれば、そう答えるのだろうと思い、にっこりと返した。すると、はじめに感じた懐かしいような気持ちが、どんどん膨らんできて胸がいっぱいになる]
えぇと。
[何か言い返そうと思いをめぐらせた時、ふと。
この、同じ闇に息づくたましいが、また、増えたような感覚を覚えた]
[ポケットに手を入れて、中身を取り出す。
華が二輪咲くクリスタルは、砂のように崩れ去った。
安堵が滲む顔でからっぽになった掌を見ていたが、しばらくすると立ち上がり辺りをさ迷いだす]
おまえは――。
[ヨシアキの姿を見つけると、にやりと笑った]
呪詛返しされたか?
[彼女の様子が見えるたびに、感情がぐるぐると回る。
言うな、言うなと心の中で叫びながら。
ヌイの言葉も耳に入らずに]
俺は…俺はどうすればよかったんだよ!
こんな力…なければよかった…
[抑えきれずに、涙を流す]
[どこか遠い世界のようなそこで、“ナオ”が笑っている。
つられて男も笑い出す]
傑作だ。
[目を細め、女達の動向を見守っている]
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