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[通りを抜けて、駅前公園へ。
穂積は既に、離れた後か。
人が集まってるなー、と思いつつ、踏み込もうとして──]
……ぇ?
[感じたのは、違和感。
何かが纏いつくような。
それは、自分が押し付けられた力と似ているような、違うようなな、不可思議な感触で──]
……ちょっ……。
[ぐるり。
世界が回るような感触。
それにはきっちり覚えがあって。
嫌な予感がしたのは、数瞬。
回る感覚が停止して、それから──]
あ……れ?
[最初に感じたのは、違和感。
自分に何が起きたのか、今ひとつ掴めずに呆、としていたが]
『……あららー』
『『お仕事』頼んだ二人とも、狭間に落ちちゃったー?』
『うわー、大丈夫かなあー』
[どこかで聞いた声が聞こえた瞬間──何かがキレた]
……『大丈夫かなー』じゃねぇぞ、この腐れ兎っ!
人に面倒押し付けた挙句、てめー、どこで高みの見物してやがるっ!
[反射的に、上がるのは怒鳴り声。
それに返る声はなく]
……あんにゃろ。
[低い呟きがひとつ、落ちた。**]
[自分がいるのが、兎の言っていた『狭間』なのは感じていた。
紗を通したように見える過去の光景。
振り返れば、現実も見えるのだが──そちらに、視線は向かなかった]
……ちぇ。
もーちょっとで、届いたかもしんねーのに。
[忘れていたもの。
それが、現実ではもういないいとこに関わるものなのは、掴めた。
そして恐らく、自分の『ワスレモノ』は──]
はる、との……『約束』と、後は。
心臓外科医になろう、って思った理由……だよ、な。
[前者は『ワスレモノ』で、後者はむしろ『さがしもの』なのだが。
二つが重なり合っているのは、多分、間違いなくて。
それと認識すると、ここに落ちた事への苛立ちが募る]
……ったく。
[ぽつり、と口をつくのは愚痴めいた呟き。
どーしようか、と思案した後、ポケットを探る。
肌身離さぬ煙草は、そこにしっかりとあり。
濃い緑の箱から一本抜き出すと、愛用のライターで火を点けた。**]
[煙草一本綺麗に吸い終わるまで、その場でぼんやりとしていたのだが]
……そーいや、こっち、あいつらいるんだよな。
[先に飛ばされた者たちの事を思い出し、ぽそり、と呟く]
一人でうだうだしてても仕方ねぇし……ちょっと、探してみる、か。
[吸殻は、携帯灰皿にぽい、と放り込む。
ここがどんな空間で、自分がどうなっているかは良く理解できていないが。
ポイ捨てだけは絶対しない、が信条だった]
そか、ならよかった。
[大丈夫、という返事>>68にほっと息を吐く。
良かった、に篭もるのは二重の意味。
文字通りの意味と、飛ばした結果でどうにかなったわけじゃなくてよかった、と]
あー……まあ、ただでさえ妙な事になって、更に妙な事になったからなぁ……びっくりするのも無理はない、か。
[妙にしみじみ、とした口調で言って]
えーと、あの兎が言ったの、覚えてる?
ここ、兎が言ってた空間と空間の間……『狭間』に当たる場所だと思うんだよね。
多分、飛鳥さんとか、あと貢もいると思うから、探しにいこーか?
[歩ける? と、首を傾げて問いかける]
[投げた問いへの答えはどうだったか。
いずれにせよ、話し難いようなら、無理には聞き出す心算もなく。
逆にこちらは、と聞かれるようなら、もうちょっとかな、と笑って]
しかしまあ、あの兎も。
探してこい、って言うなら、人落としたり、落とさせたりするな、っていう話。
……本末転倒だよなぁ……。
[そんな愚痴めいた言葉をため息にのせて吐き出し。
幾つ目か、通りの角を曲がった所で、向こうからくる人影に気がついた]
……あれは……。
[過去の者か、それとも同じく落とされた者か。
一度足を止め、しばし見極めるように目を細め、それから]
……貢……と。飛鳥さん!
二人とも、無事かー!
[それが、見知った者の、見慣れた姿である、と認めると、名を呼びながら手を振った]
─ 自宅 ─
……あー……ったく。
[色々と超越した事態が終わった後。
見合い話攻勢に一段落つけたら、何だか妙にぐったりとして。
紫煙を燻らせつつ、窓辺でぼんやり、としていた]
……『約束』……『約束』……かぁ。
[もう少しで届きそうなそれへの道は未だ開かず。
少しだけイライラしていたら、ドアをノックする音と、「兄さん入るよ」という声がして]
んー? 構わんけど、どした、慎哉……って、なんだその箱。
[入ってきた弟の抱えた古びた段ボール箱に、瞬き一つ]
「蔵の整理してたら、出てきたんだよ。
兄さんの、昔の教科書とか色々。
勝手に処分できないな、と思ったから、帰って来てる内に見てもらおうかと思って」
ん、そっか、悪ぃな。
「……次。いつ帰って来るか、わかんないもんねぇ」
それ、いうなよ。
仕方ねぇだろ、そーゆー世界なんだから。
[苦笑しながら言うと、弟は大げさなため息をついて、部屋から出て行く。
その姿がドアの向こうに消えると、置いていかれた箱を開く]
うっわ、懐かし……つか、俺こんなん取っといたのねー……。
[古びた教科書やら、ノート。
そんなものを一つずつ手に取り、ぱらぱらと捲る。
実用性など既に全くないそれらは、けれど。
大事な欠片のように、今は思えていた]
……て、これ、日記?
うわ、こんなのつけてたのね俺……。
[段ボール箱の、一番下に入っていた日記帳。
茶化すような声を上げながら──開くのは、一瞬、躊躇った。
それでも、もしかしたら、と。
記された日付に、仄かな期待と不安を寄せつつ──ぱらぱらとページを捲り、そして]
……あれ、なんだこれ。
[途中から、何も記されていない日記帳は。
空白の数ページを経た後、奇妙なページに行き当たった。
日付と、一行だけ。
予定のように記された文の上に、大きく×が書かれたページ]
……『はると、神社で一緒に描く』……って。
[×の下の文字に、瞬き、一つ。
それが意味するものが何か、すぐにはわからなくて。
わかった瞬間──色鉛筆と菊子にもらったレポート用紙の入ったままの鞄を引っ掴んで、駆け出していた]
─ 海岸神社・跡 ─
[昔、絵描きに通った神社は、今はただ、綺麗に整地された空間が広がるのみで。
人影もなく、しん……と静まり返っていた]
……ほーんと、当時の俺ってば。
どんだけ、ガキだったんだか。
[ぽつり、呟く。
絵を描くのが好きだったいとこ。
向こうは海を描くのが得意で、こっちは空を描くのが得意で。
一緒に絵を描いても、互いに互いのその部分に文句を言い合っていた。
そんなやりあいの後──それじゃあ一度、一緒に描いてみよう、と。
そんな提案をいとこがして、それに乗っかって。
いとこの誕生日に、一緒に海と空を描こう、と『約束』した──けれど]
あいつは、心臓の疾患で転院して、それに間に合わなくて。
……それが、悔しかったんだよ、なぁ。
[言い出したのは向こうなのに、と。
そんな、子供っぽい憤り。
その頃は、いとこが難病で苦しんでるなんて知らなくて。
一方的に、すっぽかされた『約束』を記憶から消した。
そのことを、いとこがどう思っているか、なんて気づく余裕は当然の如くなく、そして]
……それから、2年してから……か。
[手術をするも、術後経過が芳しくなかったいとこは、転院して2年後にこの世を去った。
その時、初めていなくなった理由を聞かされて、それで]
思えば、あんな突発的に医者になる、それも心臓外科医とか言い出して。
よくもまあ、色々通ったよなぁ……。
[家族も驚いたし、当然の如く、高校の担任も進路指導部もひっくり返った。
けれど、理由は言わずに押し通して──今に、至る]
ま……俺が医者になったところで、あいつを助けられるわけじゃなかったけど。
[それでも、通したかったのは、きっと。
何も知らず、何も出来なかった事。
その悔しさを越えて、何かしたい、と思ったから]
……なー、はる。
[その場に座り込み、引っ張り出すのは色鉛筆とレポート用紙]
お前、『約束』守れないと怒る、とか言ってたけど。
……でもって、確かに怒ったけど。
[手に取るのは、深い蒼の一本。
白の上に、線が引かれる]
むしろ、怒ったのは。
……お前が、ちゃんと言わなかったから……なんだからなー?
[届かない呼びかけをしながら、蒼を、波を、白の上に写し取る]
っとに、さ。
……ばかやろが。
[でも、と。
ここで一度、言葉を切って]
……ごめん、な。
[小さく呟く。
蒼が踊る、その上に、青が踊る。
一緒に、ではないし、日付も違う、けれど。
ずっと描かずにいた、『海岸神社からの海』を描く事で。
忘れていた『約束』は果たされる]
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