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―自宅―
もしもし、みーちゃん。ゴールデンウィークなのだけど、一日だけでも帰ってこられない?
お母さん、何日間かお店をお休みすることにしたのだけど…
お父さんも、ひろ君も、あなたに会うのを楽しみにしているわよ。
[受話器の向こう、しかし、返ってくるのは、申し訳なさそうな否定の返事。]
…そう。そういえば、教育実習なんてあったわね。
[子どもたちがどれだけ可愛いか。毎日の生活がどれだけ大変で、充実しているか。
生き生きと話す声に、それ以上帰郷を促すのはわがままである気がしてくる。]
…そうね。がんばって。あなたなら、きっといい先生になれるわ。
ふう…
[アルバイト、サークル、レポート、そして、教育実習。
電話の向こうの話に嘘はないと思うのだが、果たして彼女が最後にまともに帰ってきたのはいつだろうか。
受話器を置いて、そんなことを考える。]
どうしちゃったのかなー…
[自分が会いに行けば、とてもうれしそうに迎えてくれて、甘えてくれる。だから、疎まれているわけでも、嫌われているわけでもない。そう信じたいけど、]
あ。はーい。
[子どもの声が自分を呼ぶ。]
ごめんね。おかあさん、話しこんじゃって…
[ばたばたと、お弁当と、水筒、おしぼり、プラスチック製のラケットと、スポンジのボール、それから、貴重品やハンカチなどの入ったかばんを持って、帽子をかぶって、玄関に。]
そう、みーちゃん。せんせーになるために、頑張っているんだって。
おーえんしてあげなくちゃ、ね。
[ひざを折り、息子と視線を合わせて、]
うん。じゃあ、いきましょーね。
わすれものは、ないかなー?
[手をつないで向かうのは駅前公園**]
―駅前広場―
いいおてんきねー。
[適当なベンチに座り、二人で、市販のふりかけを混ぜ込んだ色とりどりのおにぎりと、ミートボール、タコサンウィンナー、それから、母直伝の、しらす干しとネギのはいった塩辛い卵焼きというお弁当を食べて、]
ぽーんぽんしよっかー。
[持ってきたラケットとスポンジボールを取り出した。]
ありがとう。
[暇そうにあくびをしていた少年からボールを手渡してもらい、]
いい天気ねー。
[歳は中学生くらい?誰かと待ち合わせているようでもないし、学生が一人でいるのは珍しいな。などと、思わず観察してしまうのは職業病。]
あ。はーい。まって、まって。
[向こうで焦れた息子の声が響き、]
ありがとー。
[もう一度お礼を言ってそちらへと駆けて行った。]
ああ。こら。
[ボール遊びに飽きた息子が、池の水を両手でちゃぷちゃぷと波立たせて遊び始める。
止めようと思い、駆けよったが、]
ばっち…くない、かなぁ…
[ハスの葉が浮いている池は、透明に澄んでいて、キラキラと初夏の日差しを反射している。]
ああ。そうだねー。
男の子も、女の子も、いたいいたいねぇ。
[ふと水面から顔を上げた息子が、こわれた像を指さす。]
いつ、けがしちゃったんだろーねー。
[ここにはよく足を運ぶが、今まで気付かなかった。]
んー。そーねー。みーちゃんがひろくんくらいだったころは、まだけがしてなかったねぇ。
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