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みーちゃん…
[なぜ、彼女の心境は変わったのか。
それは、今現在幸せであることを思うと、結果としてはいいものかもしれない。が、]
捜さなきゃ…
[自分は、知らなければならないのだろう。
思い、娘の通っていた小学校の方に歩みを進めた。
この空間から人が消えてしまっているということは、知る由がない**]
[通学路を通り、娘が通っていた小学校へ。その途中、誰かに出会ったかもしれない。]
そう、そういえば、耐震工事があったのは、もうちょと後だったわね・・・
[敷地外から、コンクリート製の3階建ての建物を見上げる。]
みーちゃんは・・・
[まだ授業中だろうか。思いながら校門から一歩くぐったその瞬間]
―っ!
[いきなり、目の前に情景が広がる。
いくつか建っている簡易テント、トラックをぐるりと取り囲んで縄がはられ、その外側には様々な色や模様のビニールシートと、その上に座ったり立ったりしている人、人、人。そのほぼすべての視線が、トラックの中に注がれている。
トラックの中では、体操服姿の子供たちがリレーを行っていて、辺りに応援の声が響いている。]
・・・運動会・・・
[そう。確か、自分たちの子供のころには10月に行われていたその行事が、ここでは5月に行われていて、それを新鮮に、奇妙に思ったものだった。]
「みーちゃん!いけー!がんばれ!」
[唐突に。周りの喧騒の中から、「自分」の声が浮き上がる。
他の人や景色が微妙にセピア色がかっている中、背伸びをして手のひらサイズのカメラを構える自分と、その周囲だけが現実味のある、鮮やかな色彩を放っている。
と、]
「持とうか?俺の方が身長あるし。」
[紙の袋を持った男性が一人、近づいてくる。]
「結構よ。みーちゃんの姿は、私が残しておきたいの。」
[「自分」はそちらを見ようともせず、すげなく断る。
「やったー!」
トラックの中、同じように一人だけ色彩の鮮やかな、小学生の「娘」が一人を抜き去り、次の人にバトンを渡した。]
「お。さすが、みーちゃん。運動神経の良さは、母親譲り?」
[断られ、少し寂しそうな顔をした男性は、ビニールシートの外から、トラックを見ながら言う。]
「そうね。あの人は運動はからっきしだったから。で、なに?」
[用事が済んだのなら、早く帰って。そういう空気を隠すことなく、振り返らず告げる。]
「いや、頑張ってるみーちゃんにって、買ってきたんだ。よかったら、食べて。」
[そういって紙袋を差し出される。「自分」はそこでようやく振り返って受け取り、]
「雷電堂の柏餅じゃない!
ありがとう。昨日買いに行こうとしたんだけど、売りきれちゃってたのよねー。」
[いくら?財布を出しながら、尋ねる。が、]
「いや。お金はいいよ。本当に。それより、これが俺からって、みーちゃんには言わないでいてくれたら嬉しい。俺からって知ったら、みーちゃん食べてくれないから・・・」
[情けなく笑い、「じゃあ」と手を挙げて去ってゆく。]
「あ・・・」
[物言いたげに、しかし引き留めずただ見送る自分、そして、]
あー・・・相変わらず、控えめで後ろ向き過ぎるんだよなー・・・
[二人の様子を見ながらつぶやいて、そして、ふとトラックの方に視線を転じて、]
―!!!
[こちらの方に射るような視線を向ける「娘」の姿をとらえた。
しかし、過去の「自分」は、去ってゆく「彼」の方しか見ておらず、気付いていない。]
・・・やっぱり、みーちゃんは、彼を嫌っていたんだ。
[それが、彼に対する自分の対応を見続けていたためかもしれないし、自然とそうなったのかもしれない。それはわからないけれど。
証拠だとでもいうように、踏み入れた靴箱の前、「自分」と「娘」が現れる。]
[運動会の帰りなのだろう。運動場には屋根だけのテントが置いてあり、白線が鮮やかに残っていて、あたりには、先生たちが片づけに忙しく動いている。
それをみながら、]
「ねえ、おかあさん。」
[体操服姿でランドセルを背負った娘が、不安そうに「自分」の袖を引く。]
「なあに?」
「再婚なんか、しないよね?」
[その言葉に、「自分」が一瞬息をのむのがわかる。それを見て、「娘」の顔が、いっそう不安そうになるのも。]
「大丈夫。あなたのお父さんはあのお父さんだけよ。これからも、絶対変わらないよ。」
「ほんと?ほんとうに?」
「うん。大丈夫よー。・・・誰かに、何か言われちゃった?」
「ううん。違うの。大丈夫。」
「そっかー。」
[そして、お互いホッとしたような、それでもどこか釈然としないような、疑っているような表情のまま、]
「て、つないでかえろっか?恥ずかしい?」
「ううん。大丈夫。」
[大丈夫と相手に言い聞かせるように、ぎゅっと手を握って、]
「そうそう、雷電堂で柏餅買ってきたんだー。みーちゃんがんばってたから、ご褒美。家に帰ってたべよっか。」
「・・・うん!」
[校舎から外に出ると同時に、薄くにじんで消えて行った]
みーちゃん・・・
[それなのに、なぜ、彼女は急に再婚をせかすようになったのか。
「自分」と「彼」とのやり取りをはっきり見ていたはずなのに、「自分が買ってきた」という嘘に対して何も聞かなかった彼女。確か、家に帰って、二人でおいしく食べたはず。]
・・・行かなきゃ。
[「自分」と「娘」が向かった方へ。後を追うように、学校を後にした**]
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