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― アトリエ ―
[父は絵を描く以外に脳の無い人間だ。
物心ついた時から、母は居なかった。逃げたのだと叔母に聞いた。
だから彼が物心つく頃には、家庭の仕事はすべて彼の役割となっていた。
父一人、子一人。
毎日がこうやって続いていくものだと思っていた。
この日、アトリエに弁当を届けた彼は、父の邪魔にならぬように、床に落ちた物を片づけていた。
戸を叩く音に、父は目を向けない。
絵を描いている時はそういうものだと知る息子は、彼の代わりに、自分への客とは知らず、戸へ向かった]
星詠みで、……そうですか。
[警備員が広げた書には、村に伝わる話が書いてあった。
否、その当事者なのだと、書いてあった。
しばらく書面に目を落としていた彼は、振り返る。
アトリエの中、父の言葉は無い。筆の走る音だけが聞こえてくる。
嘆息すると、窺うように警備員を見た]
お断りする事は、……出来ないのでしょう。
ならば僕は、行きます。
父に手紙を書いて、食事を作り置きしたら、向かいます。
何せ父は何もできませんし、描いているものを考えれば女性を招くのも、いけません。
[大きめの鍋に具沢山のスープを作り、パンを机の上に置く。
幾ら人を呼べないとはいえ、そこまで多くのものを作る時間があるわけでもない。
数日分で良いのだ。
そうして用意を整えた後、彼は手紙に文字を連ねる。
スープを温めて食べる事、下手なものに触らない事、パンが足りなくなったらあの家に買いに行くこと。菜園のトマトは自由に食べて良い事。
最後に、自分は星詠みにより外れの屋敷に行く事。
机に置くと、漸く自分の外出の準備を始める。
小さなバッグにそれは収まった。
アトリエを覗くも、声をかけることはない。
音を立てずに戸を閉めて、いってきますと口の中で呟いた]
[屋敷へ向かう道すがら、誰が呼ばれているのだろうと考える。
誰が呼ばれていても、それは嫌な想像にしか繋がらず、顔を歪める]
――お伽噺だろう。
[何も起きない、と。
願うように、小さな声を落とした**]
―屋敷―
[収穫祭を前にした賑わいの中、誰に声をかけるでもなく屋敷に辿り着く。
準備も長くかかってしまったと、足は少し急ぐよう。
外に警備員の姿を見る。頭を下げて、玄関の戸をあけた。
玄関先には二人の女性の姿はない。
人の声のする方へ、まずは足を向けた。
居間には人の姿がある。知る人ばかりだ、挨拶は声にせず、小さく頭を下げた]
[中にいる人たちは、何の話をしているのか。
ここにいるからには、彼ら彼女らもまた、星詠みで示されたのだというのだけは確実。
ニルスが笑みを向けてくるのに、彼も、少しこわばってはいるものの笑みを返す。
居間から出ようとしていた人、アイノ。見た事はある。
元より村で、自分から望んで若い女性に声をかけることもほとんどなかったから。
こちらもまた、周りの様子を伺っていて。
だけれど、彼女の様子に気付くと、少し躊躇った後、声をかけた]
君も、呼ばれた……の。
名前、聞いてもいいですか。僕は、レイヨ。
[こちらへ向くアイノの視線。
力の篭る手に僅かに此方の視線はずれたけれど、彼女の名乗りと肯定に、そっか、と小さく声が落ちた。
言葉がすぐには続かない。
少し躊躇うような間の後、アイノ、と名を呼んで]
荷物、重くないですか。
持とう、か。
[敬語なのか、それともタメ口がいいのか。
判断つかずにやっぱり迷い口調]
僕も、呼ばれたから。
少しの間、よろしくお願いします。
[持てる、というアイノの言葉に、頷いた。
ぎこちのない会話であることは、本人理解はしている。
が、どうしてもそうなってしまうのだから仕方がない。
問いかけに、何を、と問い返そうとして、すぐに思い至る。
唇を軽く噛んで、それから、頭を振った。横に、二度]
それでも、来ないといけないから。
早く帰らないといけない……ですけど。
人狼なんて――この中に、なんて。
いるなんて、事は。
君、…アイノは?
[言葉を選びながら、ゆっくりと、彼女へと問いを返す]
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