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―― 湖畔への道 ――
[ぽくぽく ぽくぽく]
[荷馬の歩みは遅い。]
[頭巾の男が、荷馬の首を叩いて宥める。]
[ほうい ほうい]
[かけ声は長閑。]
[壷を積んだ荷馬は、慎重に湖畔をゆく。]
[冬越しの間だけこの村の自宅で過ごし
雪のない季節は野を転々とする養蜂家も、
季節ごとの祝祭には人里へ姿を見せる。]
やあ、やあ
[道すがら、
イェンニとユノラフへかける挨拶も長閑。]
[――運ぶ壷の中身は、ヴァルプルギスの夜へ
間に合わなかった時期外れの蜂蜜酒<スィマ>。]
[ほうい ほうい]
[ミツバチの刺繍が施された吹き流しが、
次第に賑わいゆく湖畔の夏風に――*靡く*]
[手を振るユノラフへ応じ返した養蜂家の言は、
今年の若衆頭・エリッキの名を出したもの。
「ホホイ。"ピック・エリッキ"が張り切ったらしいか。」
40過ぎにしては小柄で童顔だが力自慢で肝の据わった
"大エリッキ(ピック・エリッキ)"――親しみと揶揄と、
そして敬意を等分に含む、同年代ならではの呼称。
「それならちっと、手を貸してくるかね」
やりとりはみじかい。
酔いどれと世話焼きの二人連れとの別れ際、顔の前に
垂れた蜂除けのベール…その口元が ふっと揺れた。]
[若衆の手伝いに入った頭巾の男は、
さっそく木槌を担いで櫓へと登った。
下から木材が押し上げられるのを待つ間にと
辺りを見回すと…さまざまに過ごす人々の姿。]
[櫓のすぐ下では、働き者の酒屋の娘イルマが
数少ないしらふ顔できびきびと立ち働いている。
飲食店の天幕を捲って入る二人連れの若者は、
特徴的な後ろ姿から移住組の司書と役人らしく。
野山でときおり遭遇する蝶好きな学者の顔も見える。
珍しくも話して居るのは見知らぬ旅芸人相手にか。]
夏が、きたなあ。
[感慨含みの呟きが漏れる。]
[未だに品の並ぶ様子ない雑貨屋の屋台には、
蜂蜜酒<スィマ>のちいさな壷を置いてきた。
養蜂家が仕込んだ淡い泡の浮くやわらかい酒は、
ウォトカの酒精をゆっくり抜くには良いだろう。]
[やがて押し上げられる木材を受け取って、
頭巾の男はほうーいと長閑な声を響かせる。]
しろい陽射しに (透けて)
かがり火の影に (隠れる)
<ハルティヤ>
あまたの守護精霊に (感謝!)
[若衆頭と養蜂家が、木槌を振るいながら
馴染みのかけ合いで抑揚浅く唄いだす即興歌。]
[ふと視界の端、陽気な盲者マティアスと連れ立つ
写真家がカメラを構えるのがちらりと見えた。
養蜂家は、いかにも辺境の中年男じみた作法で
其れを無視してみせる。――――互いの仕事だ。]
年明けの凍傷は (癒えたか)
トゥオネラの滝は (逆落とし)
<アハティ>
深い水底の水神に (感謝!) …
[こーん こーん と梁を両端から叩いて
締める槌音は、湖の向こう側まで響いた*。]
[やがて、櫓の周囲で歓声が起こり――
かがり火の準備が整ったのが皆に知れる。
若衆らはそのままグラスを手に乾杯を叫ぶ者、
飾りつけやらの手伝いに回る者とさまざま。
それでも大方の人々は、一頻り騒いだ後に
空の荷車を曳いて一旦村へと戻るのだろう。
夏至祭の間はコテージに逗留する予定の
養蜂家は、飲みかけのグラスを手にして
荷馬を繋いだコテージのほうへと歩み行く。]
[汗を拭いながら歩く道行き。
人びとの環を外れた頃合、
かがり火を眺められるよう置かれたベンチに
ひとり居るらしき学者のそばを通りかかる。]
やあ、せんせい
[ニルスがどれほど休息した辺りか…
野歩きで出会う折と同じに、
少し手前から声をかける。
別段に用はなくとも、野獣誤認を防ぐため。]
[初めて学者と顔を合わせたとき、
養蜂家は彼に声をかけなかった。
いばらの花が咲き乱れる薮には
翠斑を持つ美しい揚羽蝶の群生と、
養蜂家が置いたミツバチの巣箱と、
密かに
双方の天敵であるスズメバチの巣があった。
頭巾の男は、薮へ近づこうとする学者を
慎重に片手を上げる身振りで制止した。]
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