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─あの後─
[既に物言わぬイェンニと交わした、触れるだけの口づけの後。
窓から差し込む光に照らされた彼女の亡骸は、男の腕の中で泡沫となって消えた]
イェンニ…
[肩の怪我による失血のせいだろうか。
愛しい者の名を呼びながら、男の意識は途切れた]
─数日後─
[目を覚ましたとき、男は診療所のベッドの中にいた。驚いた事に、ニルスが医者を呼び、コテージから助け出されたのだという。
あの時、刺された傷が元で酷い熱を出し、2日ほど眠り続けていたと見舞いに来ていたマティアスに聞かされた。
…窓の外から、夏至祭の喧騒が聞こえる。しかし、今年はこの祭に参加することは出来ないだろう。もしかしたら、これからも。
ニルスに刺された左肩。その時に筋を傷つけたのか、男の左腕は、ほとんど動かなくなっていた]
[あの一件の後、いつの間にか右手の中に握りしめていた、青い石を光に透かす。
深い湖の底を彷彿とさせる、イェンニの髪の色によく似た青い石。
その色に、男は妙な懐かしさを感じる。目の前に広がる、きらきらとした深い青に。
泡沫と消えた彼女は、石になったのだろうか――]
…もしかしたら、
ずっと昔、湖に落ちた俺を助けてくれたのは――
[男の口元に、少し寂しげな笑みが浮かんだ**]
―クレストの部屋⇒廊下―
[ニルスの涙>>5:110ユノラフとイェンニの想い>>5:+66>>5:114
すべてを見届け、そっと部屋を出る。
窓の外を見れば、コッコに炎が灯っているのが見えた。>>5:104
すべてが終わったようだ。
相棒の無事を見届ければ、自分も行くべきところへ行くのだろう。
炎を見ながら、確信していた。]
[やがて、イェンニが動かなくなってもぼんやりと室内を見渡していたが、
窓から差してくる光にようやく全てが終わったと悟ると]
ああ。終わったん、だね。長かったな。
そういえば私の未練、わかっちゃったよ。
何も遺せなかったことが残念だ、とか、すっごく今更だよね。
生きてるうちから頑張っておけって話だよ。ホント馬鹿馬鹿しい。
[矢継ぎ早に独り言を呟くと、深くため息をついた。]
まあ、分かっただけでもよかったかな――
[そのときゆらりと姿が揺らいだ。
そうだ、どうしようもないことであんまりこっちに居座るのも迷惑だろうから、そろそろあっちに行かなきゃね。
きっと皆と同じところへは、行けないだろうけど**]
―全てが終わった後―
[あの後>>5:115、まるで魂が抜けたかのようにぼうっとしていたニルスはあまり働かない残りの思考を巡らせ、この場所には自身以外の生存者が居ることを思い出した。
そしてそれだけ把握すれば当初は通じる事がなかったコテージの通信機器を使い、何とか繋がるのを確認すれば救急を呼ぶ。
自身が肩を刺したユノラフの傷は深かろうとも致命傷ではなかった筈だが、このまま何も無かった事のようにコテージを一人後にするのも、この時は何故か気が引けた。
そして被っていた帽子をクレストの部屋でユノラフと取っ組みあった時に落としたのを思い出せば、それを取りに部屋に戻った際にそこに居たマティアスに救急を呼んだことを簡潔に伝えた]
[意識を失ったであろう床に倒れているユノラフを見つければ、彼を馬鹿にするというよりも自嘲めいた笑みで言う]
……本当に、馬鹿な男だよ。
[その呟きは近くに居たマティアスには聞こえただろうか。床から拾った帽子の埃を払えば、それをいつもの様に被りニルスは部屋を出て、コテージからも出て行った。
―――馬の嘶きが聴こえる。
山中で出会えば挨拶を交わしていたあの長閑な養蜂家ももう居ない。
救急が来れば、この馬も誰かが連れて行くだろうとニルスは一人、その場を*後にした*]
─夏至祭から数日後─
[外の喧噪も聞こえなくなり、穏やかな日常が戻ってきたことを、男は病室から知った。
退院の目処が立った頃――
男は、見舞いにきた友人に告げる]
…マティアス。
俺な、村を出ようと思うんだ。
[友は、どんな顔をしただろう。
顔も見ずに言葉を続ける]
…左腕が、ほとんど動かない。指先だけはどうにか…といったところだ。
南下して大きな町に行けば、治せる医者がいるかもしれないと先生が言っていたが…元通りになる確率は低いそうだ。
[それは半分本当で、半分は医者の気遣いだった。
男には自覚がなったが、あの一件以降、ぼんやりと宙を見たり、青い石を眺めることが多くなっていた。
一度村を離れた方が良いと判断しての医師の助言を、男はそうとも知らずに受け入れた]
マティアス。
お前も一緒に村を出ないか?
もしかしたら、お前の目を治せる医者がいるかもしれないし…。
それに――
[ひとりは、つらい]
…いや、なんでもない。
[言いかけた弱音を飲み込む。
一度は友と別れ、イェンニの元に向かっていながら、なんて虫のいい話だろう。
マティアスはなんと答えるだろうか。ちらりと、その顔を見た]
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