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[―――その研究施設では非人道的な研究が行われていた。其れが、コワレカケタ世界に置ける救済の術であるのか、抗する為の技術を探し出す為であるのか、技術力の高い有翼人と対等に在ろうとする為なのか、真実は研究施設を設けようと考えた者の頭の中にしかない事だろう。]
[研究施設での人体実験は多岐を極めた。試験管>>0:24で人工的に生み出された生命体の結果は、より完成度の高い存在を生み出す為にフィードバックされ、実験体自体は永劫『檻』の中に鎖される侭だった筈だ。]
うぅ……――――
[べたりと瓦礫に血の手形が付く。『縄』の痕は其のままに、頚の傷痕から血の滴りは殆ど止まっている。
其れでも、脳も心臓もなくなれば、死ぬ。]
――――……―――
[そして、餓えても。]
(牽制か、あるいは何かの予備動作か?)
[抜刀するには間に合わない。軽業師の突進を、鞘の横腹で受ける。後じさりながら抜刀。振り抜いた先に軽業師の姿は既に無い。
自由自在に空間を動き回る、曲芸めいたレーメフトの動きはどんよりと赤い軌跡を引いて、油の中の情景のように引き伸ばされて映る。己の剣先が引く軌跡も同様に。妙にゆったりとして見える。
己の剣戟には花や娯楽は無い。ただ純粋に、殺害のためだけに、あるいはその隙を作るために、軽業師を捕らえようと奔る。
神経、感覚が高揚。露光しつづける写真のような情景。軌跡ばかりが増えていく。斬撃。戦闘への高揚ではない。受けた傷の事は意識の外に。出元も不明の薬だが、効果は十分だ。化け物めいた連中と渡り合うには。一時的な覚醒作用のためだ。
軽業師の一種、優雅な挙動が時折認識を遅くする。致命的な一撃の瞬間を待つ。]
[殆ど真っ赤に染まった世界の中、新たな物音を聞く。
男の認識の中では、死体、が、奇妙に蠢く。――死んではいないのか?]
[レーメフトとマティアスの関係性は分からない。マティアスが己の敵か味方かも。]
[一度レーメフトとマティアスを見比べ]
ち。
[剣をおさめる。]
[鞘で金貨を何枚か、軽業師に向けて弾き]
代金だ。君の命とあわせて取っておくといい。
お、ろ、か?
[口元から垂れる血混じりの唾液を指で掬い取ると舌で舐め取る。]
……アルコール?知らない匂い。
何だ、それ。
[2012年というラベルこそ見えないものの、砂塵の地面に置かれた酒瓶へ不思議そうな意識を向ける。合成物ではない、純粋な酒。]
[言うなれば、意識に持ち上がったのは好奇心。
チリ…耳飾りが乾いた音を鳴らす。]
…―――…それは、何?
[問いかけは短く。風の中に消える。
拳が緩み、指の隙間から砂が零れ落ちる。地面に落ちる前に、つむじ風に攫われて何処へともなく消えてゆく。]
……―――
[軽業師に手を向けた時>>0:98のように、
執行人へ向けて手が差し伸ばされる。]
―――…教えて、くれる、かなぁ
[その時と違うのは一点。
男の下向きにした掌に、周囲の砂塵と硝子片と金属片が緩い渦を巻きながら浮かび上がり、集まってゆく。*]
[鈍い音と同時に、白装束が糸の切れたマリオネットのように力無く崩れ落ちる。
手早く衣類を剥がすと、それを羽織った後遺体をゴミ捨て場へと押し込み]
返り血浴びると目立つネ。
ボロ羽織るの気が引けるマスけど、一時の辛抱ヨ。
[くだらない神を崇める連中は想像以上に多いようで、時間短縮と悪目立ちをせぬよう信者に化けることを選んだのだった]
[その後は信者を化かしながら、行く手を阻むなら首をへし折りつつ
着実にターゲットの待つ場所へと向かっていくのだった]
・・・人が多過ぎてなかなか疲れるネ。
コレ終えたら、ビーチでゆくりバカンスするヨ。
[一部始終を得意先の情報屋が垣間見ていることなど知りもせず。
頭に浮かぶのは、バカンスとイケニエの殺害方法のみ]
[尋常ならざる剣速に幾度も断ち割られそうになった。
踏込む折は剣の遠心力が乗切らない柄元、その直下へ
軸足を置くよう薄氷上の立回りをしていた軽業師は、
場が預けられるらしきへ、ひそり黒い呼気を漏らす。]
[声に気を逸らすと、先ごろまで塵に突っ伏した儘
絶えゆく様相だった旧友がもう身を起こしていて。
…カリ、と軽業師は苦く馬銜を噛む。
あてどなき復讐の執行人と、定まらず彷徨う旧友と。
どちらの視線をも此方へ向けさせることは躊躇われ、
双方に警告を示さないまま――屋根上へ身を翻した*。]
[軽業師の道化た衣装はところどころ裂けていた。
常はふたつ揺れる帽子の尾も、左は先端がなく。
垣間見える傷口の黒い滲みは、流れ出すほどもない――
が、馬銜の片側はグルメットが壊れ鎖が垂れている。
剣の柄尻で横面を強かに殴られたのが最大の痛手。]
…うー
[盛大に切れた、口の中。
いってえ、と言わんばかり漏らす声は面白がる態。
コールタールと血反吐の混ざった唾を*吐き捨てる*]
― 祭壇近くのビル最上階 ―
[望遠鏡に覗く鮮やかな手際に、小さく小さく口笛を鳴らす。]
ネーさん流石、伊達に女だてらアンナ商売してネェナ。
ヤルゥ。
[人の多い箇所を通る時には見失いそうになるも、触れ合い離れ、崩れ落ちなかった方だと分かれば視線が追いつくのは容易だった。]
このまま、マジで白装束全滅させンじゃネェ?
[一人の賞金稼ぎが大量に殺しまわるのを、こちらは蚊帳の外から、愉しげに見物するのみ。]
[重力に逆らい浮遊した寄せ集め達が動きを止める。血臭の匂いが強く漂って来たからだった。そして、呟いた、のは、]
お腹が…空いた、なあ。
[個々の物体が互いに隙間を埋めるように咬み合い、何らかの形を作ろうとしていた物は、其処で、ぼとり、ぼと、と地面に落ちる。]
熱気と騒ぎ
[既に軽業師の熱も気配も遠ざかっている。一度認識した熱は、その熱の高さもあって、どちらの方向へ向かったのかは分かっている。]
[夢の中。にいさまは僕の銀色の毛並みを撫でてくれる。
綺麗でしなやかで凶暴な僕の宝物…。
そう言うと、にいさまはうっとりとした表情で毛並みを撫で続ける。掌を触り、肉球が可愛い、と言いながら、掌をぷにゅぷにゅと触る。
僕の一番幸せな時…。]
んあ、寝てた…。ここどこ?
[一度、忘却の彼方に消え去っていた容と記憶は、レーメフトという旧友との出逢いに拠って、忘れ掛けていた自意識を呼び起こしていた。]
俺が、炉、を起動した……―――。
[呟きは僅かに意識を感じさせる音。
生き延びる為、他者を喰った>>0:6弊害は、記憶の混乱とどれが自分の意識で在るのか不明瞭になる事。]
[さっきまでいた街だった場所とは違い、さらに埃っぽい。砂塵が赤い光に照らされ、不安な風景だ。]
ここどこ?
[埃っぽい風に血の臭いが運ばれてくる。]
ごはん、あるかな?
[ずるずる外套を引きずって、血の臭いがする方向へ歩いて行く。]
にいさま、会いたい…。
でも、夢の中の僕は銀色のまっすぐな毛並みなのに…。
[髪の毛をくしゃくしゃいじって、髪を抜く。それは真っ黒い癖毛。
しばし、髪の毛を見つめて…。]
ごはん、ごはん、血の香り、飲み物…。
[いつも通りの虚ろな瞳で、歩き出す。]
― 祭壇近くのビル ―
[乾いた風に髪を躍らせながら、音もなく地上を見下ろす情報屋の後ろから、覗きこむように顔を寄せる]
本当に、ね。
サーディは使える良い子。
[白装束を次々に屠る姿を眸を細めて見やり、くすりと何処か歪に微笑んで見せる]
でもこんな所で覗き見なんて趣味が悪いわ。
サーディに知られたら、くないが飛んでくるかも。
……良い子?
[突如間近に響いた女の声に、肩が驚き跳ねになるのを堪える。
硬い声で一つの単語だけを繰り返し、出来るだけゆっくりと振り返ろうとする。
その顔を確認する事ができれば、相手が顔を見知る人物ある事を知れるだろう。
最も、相手がこちらを覚えているかどうかは分からない程度の関係性ではあるが。]
クナイか。そりゃおっかネェが……
覗き見が俺ノ仕事なんでネ。
ネーさんだって、覗き見にここニ居るんジャないのカイ?
[風がもう一度吹けば、女の身体から、甘い香がふわり漂ってくるのだろう。
嗅ぎ慣れない蠱惑的な甘さが。]
[赤黒く濁る禍々しい空の色も、其れを背景に、白の翼を広げる有翼人の姿も、見えない。
唯、幾十もの熱の塊が群れ、集う気配を感じる。]
「天使」 「おお生贄を」 「……!」
「救済」 「有り難い」 「浄化だ!助か」
[飛び込んで来るのは様々な音。
有翼人に気付いた者から伝播したのだろう。讃える音が大きく、狂騒の態すら為していただろうか。
胸元に血糊がこびり付いたまま、蹌踉めくように歩んでいたが、]
………?
[足が止まる。また、匂い。]
[風に踊る髪を手で押さえながら]
私は良いの。
これも私の仕事だから。
女は色々と大変なのよ。
[身体にしみついた甘い香りは、男を誘う毒花の香り。
地上から目を離し、改めて情報屋を見る]
ね……貴方なら知っているかしら。
最近この街に見ないれない顔が増えている理由。
うあ、なにあれ、人がいっぱい。
ごちそうの匂いがする。
[白装束の人達が、救済を求めている様子など理解できない。理解できた事は、この時代に人=食糧がたくさん集まっている、という歓迎すべき状況のみ。]
んあ、どうしたんだろ?
[目隠しした男が、胸を血で汚しているのに気づく。]
おにいさん、どうしたのー。
目隠しして、何かの遊び?
胸から血の臭いがする。
それじゃ、食べてくださいって言っているようなものだよ。怪我したの?
[こちらを向いている男に話しかける。]
へエ……仕事、ネエ?
[相手は娼婦ではなかったか、それは一面かと。
探りいぶかしむ感情を隠すこと無く、三白眼は女を見やる。
問いかけには、一つ鼻を鳴らすような頷きを。]
見慣れない顔カ、確かに最近多いナ。
理由ハ……しらネェガ。
そこの『儀式』以外に理由ガあるとすれば……
得体の知れない何かガ起こっているのカモな?
[からかうような声音は、そこに興味が無いからだ。
自分に降りかかる火の粉なら、自らの手で振り払えばいいだけだと、思っているから。]
― 挿話・秘された研究所の… ―
[――其処は、床も壁も緑一色に彩られた部屋。
安心させようとする意図の見え透いた、配色。]
…痛い?
『いたくない』
…痛い?
『いたくない』
…痛い?
『…いたくないよ』
[部屋の中央には、
二つの人影が向き合って椅子に腰かけている。]
匂い?僕は臭くないよ!
[目の前のお兄さんに近づいて、鼻をヒクヒクさせてみる。
血の臭い、のはずだが少し違うような…。でも嗅いだ事ある匂い、あまり好きじゃない匂い、何処で嗅いだんだろう?]
お兄さん、僕の事知っているの?
―イケニエの祭壇傍―
[儀式が行われる祭壇の上空。
ビルの屋上より高い位置を悠々と横切り、手近な建物の屋上に着地する。
既に信者らの一部は有翼人の登場に気付いている様子だが、まだ「降臨」の時ではない。
生贄がその尊き命を犠牲にした時、天使はそれを哀れみ救いの手を差し伸べるのだ]
――おや?
[舞台袖から登場の時を待つ心持ちであったが、ふと舞台の端から中央に向けて、異変があることに気が付いた。
白装束の信者らが、不自然に倒れ、或いは押し退けられていく]
まあ随分と派手なシナリオじゃないの。
今宵の主役は誰かしら?
[くくっと喉の奥でくぐもった笑い声を立てると、今はショウの成り行きを見守る心算で祭壇を見下ろした]
[短い問を向け続けるのは、道化たなりの青年。
回らぬ舌で返答するのは、白い貫頭衣の青年。]
…ん、なに
[ふと、道化の青年が扉の方へ視線を向ける。
――扉は細く開いている。
其処から室内を覗く陰、艶やかな銀の毛並み。]
ベルンハード
ひとり?
… そんな はずないか
[コツリ、床を踏む足音。遅れ来た態の人影。
癖と思しき手つきで、先に居た銀毛を撫ぜる。]
もう終わるよ
[視線を戻しながらの声に
頷いたのは…誰だったか。]
[白い貫頭衣の青年が、狭い卓に載せている腕は]
[…捲った生皮を大小の鈎針で捲った切創、
尺骨に沿って切り開かれた筋繊維の狭間に、
剥き出しの神経を、毒虫にかじらせるさまを晒す]
[過日の記憶。]
― 挿話・秘された研究所の… 終了 ―
[訝る顔にくすくすと笑う。
まるで楽しくて仕方がないと言う様に]
女はいくつもの顔を持つ生き物よ。
それになぞが多いほど良い女だって、良く言うでしょ。
[茶目っ気たっぷりにウィンクを一つ贈る。
問いかけへの答えには、少しだけつまらなそうに、髪を弄りながら]
……情報屋でも判らないのね。
困ったわ。あまりよそ者に大きな顔されるのは、好きじゃないのに。
[よそ者に暴れられて大事な客をすりつぶされては大変と、肩を竦めた]
知るカ。良い女に興味はネェナ。
[女の嘲笑が鼻に付き、素っ気無い言葉を返す。
ウィンクを向けられ顰めた眉は、帽子の下に隠れるか。
『情報屋でも』の言い方に内心イラつきもあったが、ほぼ休業中のわが身を思えば、それも拙く隠して。]
じゃあネーさんも、アッチのネーさんみたく、余所者を捻って行ってみるカイ?
[ゆるく視線を向ける地上、サーディの通った後には幾つもの動かぬモノが残される。]
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