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[落ちてきた兎の言葉には、何も返さなかった。
今更何か言う必要もないような、そんな気がしていたから。
ただ]
……まーな。
[最後に向けられた言葉にだけは、ぼそり、と小さな答えを返して。
虹色と空色が呼びこんだ陽射しに、少しだけ、目を細めた]
……ま、どーなるかはわかんねぇけど。
このままなんもしないで、また繰り返し、に戻る気だけは、ないっす。
[それじゃ何も変わらない、変われない。
先に進めないし、後ろにも戻れない]
やるだけやるっきゃない、ってのは。
……もう、最初から、わかってんだから。
[───カラン、と男は店の扉を開けた]
…ああ、少しな。
[外に出てたんですか?と疑問を向けてくる店員に言葉少なに返し、男はスタッフルームへと入っていく。
店員は、いつの間に?と首を捻っていたが、男は何も言わなかった]
………少しずつ。
[進めて行こう、と。
男は「夢」の計画を纏め始める。
今はまだ、この小さな店を維持していくので精一杯だろうけれど、いつかは]
[──やがて]
[「夢」の第一歩として、ペットショップの隣に小動物カフェが併設される。
そこはペットショップで売れ残ってしまった仔達が引き取られる『家』としての機能を併せ持つことになった**]
[気付けば随原が、そろそろ戻ると口にして踵を返していた]
あ!随原さん、ありがとうございました!
[彼が狭間に落ちた者を見ることが出来たおかげで、随分と助かった。その想いで、なんとか礼だけは口にしたが、さて、届いたかどうか]
俺達も帰ろう、モミジさん。早く医者に診せないと。肺炎にでもなったら大変だからね。
[モミジに視線を戻してそう促す。彼女が同意すれば、二人一緒に、元の町に戻る事が出来る筈...多分、どこかの人気の無いバス停のベンチに]
[狭間に落ちてきた人々を迎え入れたりしながら、ずっと従兄弟の後ろに引っ付いたままだったので、紅葉の一件も一部始終は見ていたのだが。
なんせ向こう側には触れられないので、騒ぐだけ騒いで大して役に立つこともなかった]
お……おおおおぉ?
[従兄弟が空に向けて怒鳴る。
あれほど降っていた雪の勢いが弱まり、やがて止んだ]
雪止まった!
すっげー、何、兄やんが止めたん?
どーゆー能力!?
[そもそも彼が原因の一端だった、という認識はないようだ。
そうこうしているうちにウサギが現れ、時計が直り、鐘が鳴って、そして――]
[戻ってから後は、結構ばたばたしていた。
一人ではモミジを運べないのでタクシーを捉まえて、救急病院を教えてもらい、着いた病院で、モミジとの間柄を聞かれて、つっかえながら「友人」と答え(何か看護師から生暖かく見られた気がする)
診断は、やはり風邪だったが、一晩は病院で様子を見るという事になって]
俺、付き添います。
[勢い込んで申し出たが、完全看護だから必要ないと、あっさりきっぱり病院に断られた(そして、やっぱり生暖かい目で見られた)]
よいしょーぉ!
[狭間からこちら側へ戻って最初にした事は、目の前にある従兄弟の背中に向けて思いっきりタックルを仕掛けることだった]
[仕方なく、一度マンションに戻り、翌日まだ夜が明け切らないうちに病院に向かった]
[目覚めたモミジが、また全部夢だったのかと思わないように]
おはよう、モミジさん。
[息を切らせて笑いかければ、また彼女の本当の笑顔が見られただろうか*]
……ってと。
[随原を見送って、は、と一つ息を吐く。
それから、意識を向けるのは]
真白のヤツ、どしたかな。
[狭間に落ちてしまったいとこの事。
他の面々と同じく戻ってくるはず──とか、考えた矢先、背後から威勢のいい声が聞こえて。
直後に、衝撃が背中に伝わった]
……どわっ!?
[踏鞴を踏むものの、どうにか転ぶのは踏み止まった。
こんな事をやりそうな相手の宛は一つしかないから、誰、とは問わず]
真白、おま、ちょっとは自重しろ!
[振り返りながら飛ばしたのは、突っ込みだった]
[みんなで何かやるのが楽しくて。
みんなで何かを作るのが楽しくて。
多分、それは、自分の原点。
ひとりでやっても上手く行かない理由の一つ]
……ったく。
ま、こんなに雪積もるのになんて、この先お目にかかれるかもわかんねーし。
いっちょ作るか、でっかいの。
[に、と浮かべた笑みは子供の頃、いとこたちの筆頭として駆け回っていた頃のもの]
よっしやんぞー!
[適当に積もった場所で立ち止まると、まず小さな雪玉をつくり、ころころ転がして次第に大きくしていく]
昔みんなで作ったのってどのくらいだったっけー?
多分もっとでかかったよねー。
[そこそこの大きさになった雪玉を尚も転がしながら、尋ねる]
あー、あん時ゃ人数多かったし、結構な大きさの作ったよなぁ。
[もっとも、子供基準で『大きい』だから、実際にはそれなりだったのかもしれない。
でも、みんなで作ったそれは物凄く大きく見えたのは覚えている]
大体……こんくらいだったよーな。
[適当な大きさになった所で、雪玉の回転を止めて、ぽんぽん、と叩く。
頭を持ち上げる事を考えると、ただ大きくはできなかった]
めんどいのはめんどいんだもんー。
[辞書の話はあくまで調べる気はないようだ]
おー、けっこーでっかいねー。
もーちょっと小さいかと思ってたっ。
[自分で作った雪玉を転がしながら、従兄弟のもとへ戻る。
胴体の真横で一度止まって、息を整えるように吐いて。
それからふと思いついたように尋ねた**]
そーいや兄やん、今年は集まり来ないの?
[恒例とも言うべき、親戚の集まり。
家を出てからは、両親と顔を合わせたくないというのもあってずっと顔出しはしていなかったのだが]
……行けるかどうかは、親父次第かな。
[父と文字通りの大立ち回りをして家を飛び出した話は、果たしてどこまで伝わっているのやら。
いずれにしても、まずはそちらとの和解が優先なわけで]
ま、ここから戻ったら、家にも連絡するから。
その結果次第?
[冗談めかして言いながら、軽く肩を竦めた]
さーて、んじゃ仕上げるぞー。
反対側、確り持てよー?
[話題切り替え、頭を乗せるべく声をかける。
今はとりあえず、やりかけている事を。
ちゃんと仕上げたい、という気持ちが強かった。**]
[そうして、暫くして。
届いた随原の声に、視線を送る。
咄嗟に感謝を伝える冬木とは違って、私が口を開いた時にはもう。
彼の姿はなくて。]
……うん。
[帰ろうという冬木に頷く。
でも、やっぱり少し、怖くて。
世界が変わるその瞬間、無意識に。
重ねた手に力を込めてしまったこと、冬木は気付いただろうか。]
-病院-
[戻った場所は、最初に居た通りではなく、人気の無いバス停のベンチ。
冬木の付き添いの元、タクシーで病院に向かった。
診察後、医師より念の為今夜一晩、入院することを勧められる。
その間の、看護師さんと冬木やりとりは知らず、心配気にこちらを見つめる彼に、大丈夫、と笑って、その日は別れて。
でも、きっと、あの時。
私が無理して笑っていたから。]
─────…走って来たの?
[朝一番、こんなに息を切らせて、会いにきてくれたのだと思う。]
…おはよう。
[零れるように笑いかける。
窓から差しこむ朝日。
小鳥の鳴き声。
目に映る何もかもが、綺麗で、優しかった。**]
-昨夜-
……あの時みたい。
[窓に映る自分を見て、呟いた。
淡い桜色の寝衣。
雪にすっかり濡れてしまった洋服はクリーニングに出している。
病院の消灯時間は早い。
眠って、起きたら朝だったら良かったのだけれど。
点滴と薬が効いたのだろう。]
───…
[夜の街。
深夜だというのに、ちらほら灯りが見える。
ガラスの向こうの音は何も、聞こえない。]
…うそつき…
[大丈夫だなんて、相変わらずお姉さん気取り。
子供の頃と何にも変わってなくて、呆れてしまう。]
[ずっと、平気だったのに。
別れて未だ、数時間しか経って居ないのに。
考えなきゃいけないことは他にも沢山、あるのに。]
……逢いたい…
[抑えられない感情が雫になる。
仕舞っていた色んなことが、堰を切ったように思い出されて、声を押し殺して泣いて。
気が弱くなってるにも程がある。]
[でも。だから。
凄く、嬉しかったの。
肩で息をしながらも、おはようって。
名前を詠んで。
笑いかけてくれた。
そのことが、とても。**]
あー。
なんかすごかったらしーね?
[家を出た時の話は全てではないけれども聞いていた]
今度の集まりな、今んとこみんな来れそうっつってるらしーんだよ。
だから兄やんも来たらカンペキなんだけどなー。
……よし、いいよー。せーのっ、
[雪玉の下へ両手を入れて、力を籠める。
特に何も考えずに転がしてきた雪玉は、胴体よりぎりぎりちょっと小さいくらいの大きさになっていた]
……ぅぐ、もーちょ、い…!
[少しよろけつつ、頭の部分を一生懸命持ち上げる]
[凄かった、という言葉に滲むのは苦笑。
うっかり互いに本気になった挙げ句、二人揃って母に廊下で正座されられた、というオチまではどうやら伝わっていないらしい]
あー……そっか。
久々に全員揃えそうなのかぁ……。
[大分会っていないいとこも多い。
もし会えるなら……と。
そんな事を思いながら持ち上げる手に力を入れて]
……っせい、っとお……!
[気合と共に、頭を持ち上げる。
ちょっとずれそうになったが、強引に真ん中に寄せて落ちつけた]
……おま、バランス考えろよ、って、昔から言ってんだろーが。
[なんとか固定した所で、突っ込み一つ飛ばして、それから。
淡い陽射しと空色を覗かせる空を見上げて]
……さて、と。
他はみんな帰ったっぽいし。
俺らも帰るかあ。
[雪玉ころころしている間に、冬木たちの姿も見えなくなっていたから。
ごく軽い口調で、そう言った]
退院の手続きは回診の後だって。俺が家まで送るから、安心して。
[自由業はこういう時便利なんだ、と笑う]
それと……これ。
[抱えていた茶封筒を、差し出す]
昨夜、書き上がったんだ、ずっと筆が止まってた小説。
徹夜で一気に書いたから、誤字とかあるかもしれないけど。
[少し紅い顔で、そんな風に説明を加える]
モミジさんに、最初に読んで欲しい。
[貴女の事を思いながら書いた、貴女が居たから完成出来た物語だから……そう言って、照れくさそうに笑った]
[壊れた筈のノートパソコンは、何故か持って帰ると何事もなかったかのように起動した。
確かに外装の一部は砕けているのに、中身はデータも全て無事で。
でもなんだか、そんな不思議も当たり前のように思えた。
最初の小説を、一部の評論家に「甘いだけで個性も現実味も無い」と批評されて、それが引っかかって書き上がらずにいた続編が、今なら書ける、と何故か確信できて]
[それは、最初の物語の主人公だった騎士と姫君の子供達の話。
いくつもの冒険を乗り越えて、仲間を作り、新しい世界を見て、やがて大切な幼馴染みと幸せに結ばれる…そんな、おとぎばなし]
んー、そーだねー。
[ぱたぱたと手で雪を払いながら立ち上がり、空を仰いだ。
それからくるりと振り返り]
皆で集まる日にさ、こんくらい雪積もったらいいのにね。
そしたらまた雪だるま作ろーよ、これよりもっとでっけーの!
[まるで既に彼が来る事は決定事項であるかのように言う]
よっしゃ、じゃー帰ろー!
[右手を突き上げた**]
……転がして来る間にまた膨らむだろ。
[そんな突っ込み重ねつつ、顔を作るのは任せて。
頭の上に乗せられた飛行機どっから出てきた、と思いながらも突っ込みはせずに]
ん、ああ、そーだな。
ばーちゃんとこなら、結構降るだろ。
[決定事項のようにいわれる言葉に苦笑しつつ、空を見上げる。
雪色に染まった街は、少しずつ少しずつ、溶けていくようで。
──きっと変われる。
根拠はないけれど、そんな気がした]
ん、じゃ、行くかぁ。
[右手を突き上げての言葉に同意して、雪だるまを転がしている間はおろしていた相棒をまた、肩に担ぐ。
それから、一歩を踏み出そうとして]
…………。
[ずっと、上手く纏まらなかった言葉。
それが、掴めそうな気がして。
早く帰って、捕まえないと──なんて思いつつ、一歩、踏み出した。**]
[一歩目は、まだ雪道だった。
二歩目は、なんか妙な壁を潜るみたいな感触があって。
三歩目で、足元の感触が変わった]
……ここ……。
[ぐるり見回せばそこは、見慣れた駅前。
行き交う人は忙しなくて、こっちの事なんて気に留めた風もない]
……戻って来た……んだ、なあ。
[呟いて、空を見上げる。
目に入ったのは、曇った冬の空]
[時計を見る。
バイトの時間まで、まだ余裕はある。
飯は中華まん押し込めば何とかなるだろうから、と。
一度畳んだ装備を開いて、相棒を掻き鳴らした。
お気持ちお願いします、のボードは出さない。
だって、今は、自分が弾きたいから弾いてるから。
そんな気持ちで奏でた音、響きが少し違うかもなんて事には、思いも寄らないまま。**]
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