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「おい、斉藤、どうした?感想を聞いているんだが?」
[少し苛立った調子に、慌てて視線を教卓へ戻す。]
あ、えぇと…
……先生。
病気と…関係無いんじゃないでしょうか…
その… 届かない想い、とか…。
実は恋の歌だったり…。
しません、か、ね。
[ぽかんと口をあけた鈴木先生の顔に
人差し指で頬を掻いて、苦笑するしか無かった。]
……にしても、さっきの……兎?
幻覚にしちゃ、妙にリアルだったよなぁ……。
まあ、幻覚ってそういうものなのかもしれないけど。
[なんて呟きながら、歩いて行く]
……あれ。
[その歩みが止まったのは、覚えがある姿が目に入ったから]
……何やってんだろ?
[視線の先にいたのは、やたらと背の高い人。
主に植物園で見かける事の多い姿に、こて、と首を傾げた。**]
[――靴を履き替えて校門を出る頃には、体育の授業で打ち立てた最遅記録のショックからも立ち直っただろうか。]
どこか、寄ってこうかな。
[此れといってあてがあるわけでも無し。
駅前辺りに向けて歩き出した。]
藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり……
ぅーん。違ったか――
うん、ちょっと急いでてさ。
……………
───あ゛っ、やべっ
[近所のおじさんと会話して、思い出して腕時計を見る。
腕時計の針は規則正しく動き、指定の時間は無情にも過ぎていた]
おっちゃんすまない、また今度!
[慌てて走り出すその様は先程の出来事をすっかり忘れたよう。
後には荷物から零れたらしい木槌が一つ、転がっていた**]
…わたし、寝ぼけているのかな。
[思わず目をこすって。
ふたたび同じ方向を見ても。
てん てん
跳ねるうさぎの姿は、もう*見えない*]
親父っ、悪い遅くなった!
[慌しい様相で辿り着く植物園。
既に診断を始めていた父を見つけ、謝罪を口にしながら駆け寄る]
《ゴッ》
[梯子の上から脳天に拳を食らった]
っ だあぁああぁぁああ〜〜〜
[さっきの余韻も相まって、頭の中がまたくわんくわんと揺れた]
わ、悪かった、って
これでも、急いできたんだよ。
[脳天を押さえながら父を見上げる。
その額はぶつけた名残で赤くなっていた。
上から見下ろす父の表情が呆れたものになる。
それから零される声。
「早めに行動する癖をつけろ」と]
大学の講義もあんだからしょうがないだろ…。
ああもう、今日で3回目だよ頭ぶつけたの。
[家で後頭部をぶつけ、道で額をぶつけ、ここで脳天を叩かれた。
脳細胞大丈夫かな、などと考えながら父を手伝う準備をする]
……と、そうだった。
親父、手紙来てたぞ。
[思い出して鞄から封筒を取り出して、梯子の上の父へと渡した。
封筒の中には手紙と写真が一枚ずつ。
先に写真を眺めた父がそれを友幸へと渡してくる]
お、これってあの藤園?
綺麗に咲いたなぁ。
[写真に写っていたのは満開の藤。
10年程前まで住んでいた街にあった、有名な場所。
花が咲いた時は勿論、診断や治療のために父が訪れる度に着いて行ったのを覚えている]
杏奈も気に入ってたよな、あの藤園。
ずっと行けてないしなぁ…また直に見たいな。
[父が樹木を再生させるのを見て、自分も同じ道を辿りたいと思ったのはあの藤を見てから。
想い出の藤の美しい姿に自然瞳が細まる]
……そーいや。
[この藤園を持つ家に同い年くらいの子が居たよな、と。
記憶を辿るに連れて一つ思い出す。
話をしたことはあまり無かったが、可愛い子だったと記憶は告げていた。
そんなことを思い出していると父の声が頭上から降ってくる]
に、にやけてなんかねーよ!
ほら、作業すんだろ、何やれば良いんだ?
[呆れ顔の指摘に焦りながら返して、話題を打ち切ろうと本来の仕事を父に促した。
道具を一つ落としてきていることに気付くのはもう少し先の話**]
え、俺?
あー……うん、気晴らしに、写真撮りに公園いこっかなって。
[そういや、どこに行くんだい、と。
おじさんに聞かれて何気なくこう答える。
だったら、公園か植物園か、どっちかにいるだろうから届けてやってくれ、と頼まれた。
特に断る理由もないから、頷いて落し物を受け取って]
んじゃ、またー。
[ひら、と手を振って歩き出した。**]
[手のひらで、スマートフォンが震える。
マナーモードの通話機は、震える事で着信を知らせてくれた。]
ひゃっ! …め、メール…?
[画面に表記された文字列で、実家からの連絡だと知るけれど。
急に戻される現実は、心臓にわるい。]
[ロックを解除して、ボックスを開くと。
短い本文と共に、咲こぼれる藤の写真が表示された。
きれいな紫いろは、今年もたくさんの人を満足させているようで。]
――…そういえば昔…、おともだちだったあの兄妹。
今でも元気、かな…。
[ふと、むかしの頃を思い出す。
親の仕事の関係で、家に出入りしていた、しっかりもののお兄ちゃんと、元気いっぱいの妹。
たしか名前は――…]
ともゆきくんと、あんなちゃん。
[藤園の子が直ぐ近くに居るとは露知らず、友幸は父の指示に従い作業を進めていく。
最初に行うのは外観調査。
遊歩道と樹木の位置確認をし、枝や幹が折れていないかを確認。
それから木槌を使って打診をし、危険度の評価をするわけなのだが]
(………ヤベェ)
[友幸はひっそりと焦っていた。
持って来た荷物の中に木槌が無い]
(荷物は全部入れてきたはず…!
じゃあどこかで落とした!?)
[大騒ぎしないのは、道具を落としたと父に知れたら拳骨どころか雷が落ちると分かっているから。
大事な仕事道具の管理は技術者の基本だ]
(今から探しに行ったら直ぐバレるしな…)
[打診以外の作業をしながらどうするべきか考える。
このままではバレるのも時間の問題だ**]
ぁ…。プライズ、変わってる。
[駅近くのゲームセンター、店頭に置かれたクレーンゲームの中身に目を留めて]
他のも変わってるかも、しれないし…。
[店内の景品も確認するべく、自動ドアをくぐった]
[静けさを取り戻した部屋には、外からの声がよく届く]
野球部は今日も遅ぅまで練習か。
大変やなぁ……
[窓の外を横目で見ながら、机の上の資料を取ろうと手を伸ばし]
ん?
[ふと動きを止める。怪訝そうに眉を顰めた。
グラウンドには球拾いに走る新入生と、発破を掛ける先輩部員、けれども真昼が見つめる対象はそのどちらでも無かった]
……何、今のウサギみたいなん。
[首を捻り。
けれども少し後には溜息を吐いて、眉間に手を遣る。
さっき見えたと思った“ウサギ”は何処にも見当たらない]
……気のせいか。
気づいてなかったけど、疲れ溜まってんやなぁ。今日ははよ寝よ。
きっとボールかなんか……
[言いながら再び目を遣ったグラウンドの上を、白球が転がっていく]
……にしちゃぁでかかった気ぃもするけど。
まぁええか。
[もう一つ息を吐いて、視線を外した**]
[アニメのキャラグッズや、お菓子のプライズを素通りして、奥へと進んでいく。
『初心者さんも取りやすくなってます!』のポップがつけられたクレーンゲームの前で足を止めた。]
……あ。
今日、ついてるかも。
[運動音痴も極めれば、クレーンゲームでさえ、ほとんど取れた試しは無い。初心者用と銘打たれた物で、ごく稀に成功するくらい。
掬子がコインを投入するとすれば、このポップが付いた物に限られるのだが、今日の景品は以前から気になっていた『専用ウサギ』のストラップ]
[取れそうな個体を捜索中、近くのフォトマシーンから機械的な声がして、思わず目をやった]
『それじゃぁ撮るよ?3・2・1・ハイ』
[閉じられたカーテンの中で一瞬、強い発光。
なんとなしに視線を降ろすと奇妙な物が目に留まった。]
……ぬい、ぐるみ?
[仕切り用カーテンの途切れた下の部分から覗いていたのは、裸足。
それも、ふわふわもこもこ。
まるで…専用ウサギの足みたい。そう思い、プライズにチラリと目をやって、視線をもう一度移した時、足の主は消え、カーテンも開かれていた。]
(……よし)
親父、俺あっち側見てくるわ。
[頃合を見計らい、父の傍を離れる算段をつける。
かけた声に承諾が返り、「番号振り忘れるなよ」と注意が飛んできた]
分かってるって。
んじゃ行って来る。
[チェック用紙やら何やら必要な道具を持ち、平然とした様子で父の傍を離れる。
ある程度離れ、死角になる場所へと来ると、植物園の出入口へと急いだ]
― 商店街 ―
「あら、もうこんな時間!
ちょっと配達行ってきて!」
……はいよ。
[出来上がった弁当を(04)個、銀バッグに入れて肩に掛ける。忙しそうな店頭は避け、裏口から外に出た]
[植物園に踏み込むと、は、と一つ、息を吐く。
植物や動物に触れるのは、子供の頃から好きだったから。
そういう意味でも、ここは気に入りの場所だった]
……さってとー、さっきのひとはー。
[預かりもの片手に、呑気な口調で言いながら、ぐるり、周囲を見回す。
実際、向こうの状況とかは知らないから、こちらは呑気そのものだった]
[出入口へと向かえば植物園へと訪れた人達が行き交うのが見えた]
っと、ごめんよ!
[急いでいたものだから辺りを見回す青年>>52とぶつかりかけ、身を翻してその横を通り過ぎようとする]
「今日もありがとねえ、ギンスイちゃん」
ちゃん付けは止めて欲しいんだけど、オソメさん。
[ギンスイと呼ばれるのはいい。むしろ祖母と読みが同じで、女っぽい名前だと感じてしまう本名より自分でも好きだ。が。
24にもなってのちゃん付けは、いただけない]
「明日もよろしくねえ、ギンスイちゃん」
はいはい、また明日。
[とはいえ、こうしたやりとりも毎度のこと。
ニコニコと変わらない祖母の親友に勝てるわけないので、肩を竦めて流して終わる]
(でっかい?
ん? 俺か?)
[一応でかい自覚はある。
かけられた声>>54に急ブレーキをかけて、少したたらを踏みながらも振り向いた]
俺?
[人差し指で自分を指し示す]
落し物って……あーー!
[青年>>57の手にあるものを見て、思わず声を上げた。
木槌を指差しながら大股で近付いて行く]
それっ、俺のっ!
うわ助かったー、探してたんだよ!
届けてくれてありがとなぁ。
[ホッとした表情で笑い、木槌へと手を伸ばして]
君、名前は?
是非お礼をしたいんだが。
あ、俺は樹村友幸ってんだ。
…あれ、写真撮るんだ?
[安堵の影響かぺらぺらと口が回り、相手へ問いかけまくっていた]
こないだ貰ったの、これか。
[帰り道、ゲームセンターの店先にて。
ふてぶてしい猫のマグカップが箱に入っているのを見つけて何となく止まる。
ちなみに貰った奴は今、店先で割箸入れとして鎮座ましましている]
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