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[ こつ こつ こつ 靴音は空気を震わせず
然し聴こえて。
Knockerは失人の背後を抜け次の扉へ向かう。]
思い出したことが真実かも、確かめられない。
[擦れ違いざまの呟きは彼に向けた其れでなく]
[然し *聴こえて*]
[すれ違った見知らぬ……のは当たり前だが、男に声をかけられてビオトープを眺める。膝を曲げ、何かを見つめる人の姿を認めた。あれは、オンナという生き物らしい。カナメがそう教えてくれた。失人は、ふらりそれに近寄ってみる。見知らぬ男は何処へやら去ったようである。]
何をしているんだい?
あり?
[声の降る方を見遣る。
すん、と鼻を鳴らして、人差し指の腹を見せた。
しかし蟻は既に吹き飛ばされている]
[鏡で己の姿を確認した後、また室内を見回した。くすんだ白色の壁に貼られた何枚かの紙。空を飛ぶ超人や派手な衣装を纏った青年が描かれている紙、中央に赤いバツマークが描かれた黒い紙、破れ掠れたそれらの絵を一望して]
君。
ふと思ったのだが、私の正体は正義の味方だったりはしないかね。
悪に改造をほどこされてしまった、というような……
あるいは逆に封じられた何か悪しきものでもあるか。
[それに「声」があしらうように返せば、眉を下げ]
……
冗談だ。そう冷たく否定しないでくれたまえ。
だが、私が何者かと聞いても……
君は答えてくれないのだから、色々と想像してしまうのも道理というものだろう。
哀れだとは思わないかね、君は――事情を知っているというなら、尚更!
今自分が使っている言葉が何という言語であるかすらわからない私を……
ああ、まるで迷い子のような気持ちだよ、私は。
[額に手をあて、ふらりとよろめいてみせる。はたと気が付いたように己の袖を見、そこから身に纏った服をざっと見て]
……改造というのは冗談としても……
これでは本当に実験体か何かのようだ。
[実験体のようでも、囚人のようでもある灰色の服。その箱を開けてごらんなさい、というカナメに、床の隅に置かれた木の箱を見やり]
着替えかね。
よもやびっくり箱などではないだろうね?
……いや、これも冗談だ。
全く、君は親切だが……
どうにも生真面目なようで困る。
[ぼやきつつも木の箱まで歩み、しゃがんでその蓋を持ち上げ横に置く。中には薄い色のシャツと黒っぽいズボン、地味な色のコートが畳んで重ねられ、その上に皮のロングブーツが置かれていた。どれも共通して大きく]
ふむ。丁度良さそうだ。
[それらに着替えると鏡を覗き、前髪を指で軽く梳いて。膝下まであるコートを前はしめないまま、マントのように翻して部屋の外へ出た]
とりあえず、ありはわかった。
ありってなんだ?
[あり、とだけ語るそれに呟くが。視線は小さな黒い生き物へ注がれる。視線でそれを追うが、何をするでもなく。]
……おお。
[まず見えたのは白く、広い景色。向こうには木々らしきものがあり]
あそこまで、何kmあるだろうか?
[こつりこつりと足音を鳴らし、緩慢な歩調でそちらに向けて歩き始め]
[何度目かに巡る、幾つめかの扉。鍵穴は見つからない。
左手に鍵を握りこむ。温かいか冷たいかはわからない。
やがて、ドームに沿い弧を描く通路の向こう、軽い足音。
蒼みを帯びた髪を揺らす少女の姿を見とめ、丁寧な会釈。]
…おはようございます?
[目元だけで笑みかける。初対面の少女へと、口数少なに
自らの名を告げて…彼女の名と、部屋の位置とを尋ねる。]
不躾に、扉を叩いてしまいたくはないので。
[そして、ルリの肩へかけられたブランケットを
暖かに掛け直そうと両手を伸ばしかけるが…留めて]
……。
どうか、お風邪など召さぬよう。
[今度の笑みは、どこか諦観の滲むいろを*口元に*。]
>>30
なんだ?
[聞こえる言葉を繰り返し、首を傾げる。
ぬいぐるみを地面に置いて、樹へ昇ろうと裸足を幹に付けた]
[が、一番下の枝にさえ手は届かない]
[やがて木々らしきものがはっきり見えてくる。ビオトープと思しき場所。一度足を止めてから、ぐるりと回るように歩き]
……おや?
おや。君達も……此処の人かね?
ん、いや。此処の人、という言い方は少々妙だな。
ひとまず一人きりでなかったというのは僥倖だ。
[前方の二つの人影に、声をかけた。最後などは独り言のような調子だったが]
[差し出された手を見て、どうすればいいかわからないから。とりあえず、自分も手を伸ばしてみる。]
俺の名前か。そうだな。
獏って呼んでくれたらいい。
夢を食う生き物の名前なんだそうだ。
俺は夢を喰われた方だけれど。
獏、か。
夢を喰う方ではなく喰われた方である。
何だか詩的な言葉ではないかね。
[伸ばされた手を握り、軽く何度か上下に振る。それからふと、木の頂点よりも遥かに高い天井を仰ぎ]
本当に此処はドームのようだが、……
そういえば、君達の他にも人はいるのかね?
[思い立ったよう、二人に*聞いてみて*]
[大きすぎたブランケットを引きずる有様。
二歩三歩と、いくつ進んだろうか。ふいに響いたは――叩かれる音。
反応して回転しルリの視線が男を捉えた]
おはようです。
こんにちは。
こんばんは。
ごきげんよう。お元気ですか。
はい、おかしいですか、カナメ?
[最後のは声に。
向きを変える
小さな身体のバランスは危なっかしい。
[頭に浮かんできた挨拶を並べたのに、
「声」から注意をうけたか、それでも静かな笑みのまま、男に]
ルリは、ルリといいます。
あなたは、どなたですか?
[テンマと聞けば頷いて。その名を唱える。
問いには、ルリの部屋の方へ人差し指が向いた]
ルリのおへやは、あっちでした。
あっちだったかな。あっちでしょう。
あなたのおへやは、どっちですか。
音は、あなたでしたか?
たたいていたのですか?
ルリは、聞きました。
よい音でした。
ありがとうございました。
[男の手中の鍵には目は留まらず、
男の会釈の真似か、首を縦に振る]
かぜとは、なんだったかしら。
あー。
ぐずぐずで、ずびずびで、へっくしょい!かしら。
テンマもおかぜなどめさぬよう。
[音の響きが気に入ったのか、
「めさぬよう」を幾度も繰り返し。
笑顔で、掌を向けて。
またブランケットを引きずりだしたのだった]
[ルリと名乗る少女が、目の前で『カナメ』と話す。
憶える既視感は束の間遠くなる視線に表われるが、
並べられる挨拶に、ゆるり目許を和ませた。]
お蔭さまで… 元気にしています。
こんにちはとこんばんはは、適当な時間に。
[彼女の『カナメ』の補足でもするかの様に添える。
そして、自らの部屋を聞かれると困惑げに笑み]
私の部屋は… わからなくなってしまいまして。
…音は、私です。
お尋ねしようにも、皆さん長くお休みのご様子でしたが。
ああ。ご迷惑でなかったのなら、よかった…
[扉を叩く音を聞いたと口にするルリへと恐縮するも、
続く言葉へ安堵して…少しばかり背が丸くなる。]
そう、ぐずぐずでずびずびは、いけません。
へっくしょい、は愛らしいですから、機会があれば。
…。
有難うございます…私は大丈夫なので。
[幾分堅苦しくさえある丁寧な会釈でルリに感謝する。]
御機嫌よう、ルリさん…また。
[彼女の笑顔へ僅かに感慨を浮かべるも詮無く――
大きなブランケットを引き摺り歩む姿を*見送った*。]
――カナメさんに宜しく。
ルリはルリといいます。
おはようです。おかぜなどめさぬよう、です。
[子供のわりにルリには起伏が少ない。
そのまま静かな風情で順ぐりに見回し、プレーチェで止まった]
のぼりますか?
のぼってどうしますか?
[木登りを理解しないらしく、こんな問がとぶ*]
[こつ こつ こつ 足音は空気を震わせずただ聞こえる。]
[目覚めた者等が、1本の樹へ集い在る様子が見えると
気づかれずともとか、其方へ向けて丁寧な辞儀をひとつ。]
……
[目覚め始めた人々。己が目覚めた際もこんな光景を見た。
先刻、ルリと言葉を交わした折>>55に…穏やかなKnockerは
「もう1度、長い眠りを得たいのです」とだけ答えた。
そして自分も部屋を探すと言ってくれた心持へ、感謝を。]
[蒼みがかった髪の少女へ再度の眠りを勧めるのはよした。
彼女の『カナメ』はきっとそうはさせないのだろうから。
左手の中に、白く軽い鍵をじわりと握りこむ。]
…友人が仲間とは、限らない。
[各々が交流するさまを暫し見詰めて――口の中で呟く。]
[やがてKnockerはビオトープ内の小道を抜け…*墓碑群へ*]
詩ってなんだろう。
よくわからないが、俺は本当の事を告げただけ。
俺は夢を喰われた。夢を失った。
それだけは、覚えている。
[手を掴まれ、上下に振られて。首を傾げたが、カナメによりそれは補足される。それは、握手と言うらしい。人間の挨拶の一つで、それには色々な意味があるらしい。仲良くしよう。約束した。仲直り。色々な時、人は手を握りあうらしい。]
もう一人、男に会った。他は知らない。
俺が知ってるのは、三人だけ。
ライデンと、その男と、こいつ。
[隣にいる、女という生き物を指差して。背中から、カナメの声が聞こえ。人を指差すのは失礼だと習った。]
失礼って、なんだろう。
登ると高い。高いと気持ちいい。
気持ちいいと嬉しい。だから登る。
お前も登るか?ルリルリ。
[彼女が答えるまで、失人はただ見つめ続けて*]
ライデン。バク。ルリ。
[人々の名乗りを繰り返し、枝の上に立って幹を抱きしめる]
プレーチェ。
[口にしたのは、ワンピースのタグにプリントされていた文字。
カナメは、その意味までは教えなかった]
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