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[黴と埃の香りしかしないような、日の当たらない路地の奥に
『カレワラ』
という、ボロボロで、蒼いペンキ塗装の剥げかけた看板がある。
風が鳴る度に、辛うじて柱に繋がる釘たちがぎいぎいと軋んだ音を立てる看板の、真下。
看板よりは幾分しっかりと立て付けられた戸が開かれる。
中から出てきたのは、齢20に届かないだろう程度に見える、その『店』の、たった一人の従業員。
三白眼としか言いようの無い目は、常に機嫌悪そうに周囲を探っていた。]
[その店がかつて情報屋として機能していたと、知る者もいるだろうか。
10年ほどの昔、カレワラという名の、銀縁眼鏡をかけた壮年の男が幼い子供と二人で、生きていた頃は。
但し現在では、店の看板だけがそこにそれがあった証。]
……ウゼェ。
[靴音を鳴らし、細い裏路地を抜ける。
眼前に広がるのは、かつての都会。
廃退した町並みを潜り抜けてきた乾いた空気を吸い、不快を吐き出すと、白い帽子の下、短い眉が歪む。
数日前、その店に投げ入れられた『情報を売ってくれ』との短い文章を書きなぐったメモを思い出して。]
[丁寧に、『――支払う、――で待つ』と、大層な金額と場所まで記されていたそれ。]
……チッ。
[その文面を全てそのまま信じるわけではないが、廃業した情報屋を頼ってくる馬鹿の顔を見てみようかと。
きっと、そこに行ってみようとしているのは、そんな気持ちの筈だ。
もやもやとした感情を蹴散らすかのように盛大に舌打ちしても、何も変わらないまま。
生きる人間はもう少ない、壊れかけた世界。
足を向けるのは、書かれていた場所は、壊れかけたビル群を抜けた先**]
[一般人には伏せられ、秘密裏に存在していた某所研究施設の実験体。その研究室は、10年には届かないが5年以上前に、周囲20km圏に汚染物質が蔓延した為に閉鎖・破棄が決定。
研究者達は無事逃げたが、実験体達は、逃げられもせず餓えにもがき苦しみながら、一人、また一人と死んでいった。長い時をかけながら。
―――生き残れたのは、
何も運が良かったからではない。]
[薄暗く、昏く、腐敗臭が充満する中。
部屋の全面に、何処からか這入り込んだ蛆虫達がのたうつ中、同じく蛆のたかる同じ実験体の屍体を食べて生き残った。]
[―――砂塵と強い日差し、容赦ない雨風に晒されたように色素の抜けた色をした頭髪。血は滴っていないものの、両眼に巻かれた布は真新しくはない。]
どう…して……。
[小柄な人影に>>0、向けられた言葉。
会話をしていた訳ではなく、離れた場所から呟かれた独白であり、周囲に人の気配もあった。]
貴方も彼女と同じかしら。
誰かの為に、なんて。安っぽいヒロイズムで自分を捨てられるお馬鹿さん?
[くすくす]
[くすくす]
[風に乗り、嗤う声は遠く何処までも。
こんな時代だからこそ、誰を犠牲にしても生きねばならないのに]
――……本当に、馬鹿な子。
[まるで妹のように可愛がってきた少女へと。
呟く声は酷く苦いものだった]
―――………
[女の声>>8>>9に喚起された、胸中の言葉にならない言葉を音にしようとして、僅かに唇が開きかけるが開くだけに留まる。
鼻腔を擽るのは少女の甘い香り。嘲弄の中に微か遣り切れぬ感情の棘を感じたのは気のせいか。]
[口を開き掛ける男の言葉を待つけれども、答えはなく。
改めてその容姿を見れば、この辺では見ない顔だと気付く]
貴方珍しい格好しているわね。
[目を覆う古い包帯と色の抜けた髪にどうしても目は行きがちになるけれど、その下の服装もまた、この辺ではあまり見ないもの]
ひょっとして――…
[風の噂に聞いた事がある、闇に葬られた施設の話を思い出す]
[特殊な人間を作るための、交配組織。
そこでは非人道的な実験が幾重にも繰り返されたと言う。
そこも今では、何か事故でもあったのか汚染されて廃墟と化したと聞くけれども]
……まさかね。
[膝を突く男の姿を見ながら一人語散る。
生存者は誰もいなかったと、聞いていたから。
こんな話し、今は廃業した情報屋が酔った時に口にした与太話だろうから]
[女の声は今は、風の音と今は同義、女へ返事はない。
少女の前に跪き、たどたどしくも、指先で掌で片足に触れ、そっと持ち上げた。]
…―――。
[少女の足に、口づける。
少女の双眸の色を見る事は出来ない。]
[頭は自重に任せるように垂れさせ、少女を見下ろす格好に。女の視線を皮膚で感じる。]
―――
[やはり言葉は出ないまま。胸中に浮かび上がる綯い交ぜになったものは、自分でも正確に把握は出来なかった。だから、]
可哀相だ……。
[正解と不正解を確かめるように音にした。]
[少女の足へと口接けを捧げる姿は、まるで聖人に額づく殉教者のそれ。
敬虔な仕種にも見えるその姿に、どこか禍々しいものを感じてふるりと身を震わせた]
…………。
[チリ…と、金属の乾いた音が耳元で響く。
風に煽られた耳飾りの音だと気付いたのは、少し経ってから]
ドロテア。
私はもう行くわ。あんたの使ってた部屋も処分しなくちゃいけないし。
……天国で、また逢いましょう?
[もっとも自分が天国へ行けるならば、だけれど。
そう胸の裡だけで呟いて、
殉教者と聖女の二人に背を向けると、塒としている宿へと戻っていく**]
― 壊れかけた ビル街 ―
[地盤ごと歪む舗装に、積もる瓦礫とガラス片。
中ほどの数階層が剥き出しの鉄骨のみとなって、
悩ましく地上へ項垂れる態のファッションビル。]
[かつては威容を誇ったビル街も、
いまでは常に崩落の危険を伴う。
災厄を僅かにも逞しく生き延びた人々でさえ、
物資を漁ろうとした先人たちが建物の倒壊に
巻き込まれるのを幾度か目の当たりにした後は
――繁栄の記憶もいろ濃いその地を捨てた。]
[穴の開いた壁面から、乾いた赤い日差しが差し込んでいる。
吹き込む風も乾いており、風景は見るものに閑散とした印象しか齎さない。
夕暮れ時のようではあるが、思えばいつからか、太陽の色はずっとこんな調子で赤いままで、朝も夕も無いようだ。]
―――ここへ――ば、――を…
[かつてはガラスが外壁一面を形成していたが今はその骨格を残すのみ。人の消えた街並を見下ろす高さのこの建物が、かつて街のシンボルとして栄えていた事を記憶しているものは最早少ない。]
―せると……―――はまだ――――ない
[割れた窓を通り抜ける風が、男の呟きを掻き消す。]
―砂塵の町―
[吹き抜ける風に乗り、天を舞う白い影。
それは手頃な高さの建物を見付けると、ふわりと身を翻しその屋根に降り立った。
腰を掛け、ぶらぶらと両足を揺らしながら見下ろすは、見た目だけなら自身と変わらぬ年頃の少女>>0の姿]
イケニエ、だっけ?
[アハハ、と、笑う声は朗らかとも言える響き]
バッカじゃないの?
そんなんで誰かが救われる訳ないじゃない。
[嘲笑の声は相手に届いただろうか。
どちらにせよ、少女はこちらを振り向くことなく、粛々と己の使命を果たそうとしている]
可っ笑しいなぁ。ニンゲンって。
[少女を見下ろし嗤うその背には、一対の純白の翼があった]
ーどこかの道端ー
[ここは地獄か煉獄か。草木薫る緑の大地と言われたこの土地も、廃墟以外のなにものでもなく、土埃が舞い上がり、生命の存在も希薄である。
そんな時代に相応しくない小太りの少年が一人、うつろな瞳で歩いている。]
にいさま、にいさま、お腹がすきました。
今日の夕食は何ですか?
[160にも満たない背丈に不相応な、小汚い外套をずるずる引きずって歩いている。]
[はてさて、彼の言うにいさまという存在は見当たらない。
そして彼も虚空を見ながら歩き続けている。]
にいさま、にいさま、僕を置いてお出かけなんてずるいです。
僕は、貴方のたからものなんでしょ?
さては、約束を破って僕の出来の悪い「きょうだいしまい」を見に研究所へ行ったのですね。
[そう呟き、しばらくぼーっとしていたと思ったら、突然目の前に落ちていた鉄棒を拾い上げ、怒りに任せ、そこらじゅうを叩き始める。]
にいさま、にいさま、にいさまのばかばかばか。僕だけのにいさま、あんな試験管から生まれた化け物に構うなんて!
[鉄棒が、あらぬ方向に曲がって棒でなくなった頃、やっと気持ちが落ち着いてきたようだ。]
お腹がすきました。
食べ物…、食べ物…、赤くて柔らかくて…、新鮮な…
[街をずるずる徘徊し続ける。]
ー壊れかかった ビル街ー
けふけふ…、どうして埃っぽいのですか?にいさまと過ごした家はこんなに汚くなかったのに。
[空腹を訴え続けるおなか、埃っぽい街、崩落寸前のビル群。彼の軽い頭では、いつまで経っても理解ができない風景だ。]
ごはん…、食事…、メシ…、エサ!
[ビルの入り口だったと思われる場所に、疲れ果てて動けないのか、行き倒れと思わしき人が横たわっている。]
―廃墟のビル街―
[白い翼は、風の吹くままに空を舞った。
下界の人間たちがこちらを見ていることに気付けば、殊更気持ち良さそうに。
彼らの決して届かぬ高みを見せ付けるように]
あら、
[そうして、荒廃したビル街に差し掛かった頃だったか。
他の人間よりも高い場所から、こちらを見上げる視線に気が付いた]
……地上では流行りなのかしら。ああいう格好。
[崩れかけのビルばかりでは安易に着地する訳にも行かず。
その場で旋回しながら馬銜をくわえた男を眺める]
[そこからの彼は別人と思われる動きで、行き倒れに襲いかかり、外套から取り出した肉切り包丁で襲いかかる。
血飛沫をあげ、声もなく絶命した行き倒れに神の祝福を。]
お腹が空いても、マナーは守らないと、ですよね、にいさま。
[顔についた血飛沫を手で拭いつつ、ぺろりと舐める。手を合わせて食事にありつけた感謝を祈り、じっと今日の食事を鑑賞する。
感謝の心で満ち満ちた後、包丁を使って、食事を食べやすい大きさに切り分けた。
静かなビル街に、ゆっくりゆっくり何かを噛み砕く音が響き渡る…。]
[摂食した恍惚感に満ち足りたとき、ふと空を見上げる。鳥にしては大きいが、飛行機などこの街を飛ぶ事はない。]
ふーん、なんだろう?
[おなかもいっぱいになって、少し頭に栄養が行き渡ったのか?
にいさまも見つからないし、空を飛ぶ何かを追っかけてみようと思い、肥えた体を動かしてみた。**]
[未だ若者と見える後ろ姿は、やがて去り――
見送る視線の主は過ぎった影を目で追った。
あやうくぶら下がる看板の上、立ち上がるのは
長身の…道化た服装(なり)に馬銜(はみ)噛む男。]
ん
[黒い棒状の銜枝をくっと深く噛み込みながら
片手で翻す身は、配線の絡む梁へと跳躍する。
足下では 僅かばかり看板が――ゆら、ゆら。]
[白い翼の其のひとが旋回するさまを暫し観て。
やかてふと――彼女の意識が落ちる先に気づく]
…
目をつけられたんじゃないか?
[銜の片側へ指をかけながら其の翼人へ言うと、
ざらついた声と共に黒い煤煙が幾らか漏れた。]
……共食い?
あーあ、こうはなりたくないわよねー。
[肉を切り骨を噛み砕く音に眉の端をぴくぴく痙攣させながら、これ見よがしの声量で呟く。
有翼人は下界より発達した科学でもって、自分らの食糧問題を解決していた。
勿論、その恩恵に預かれるのは有翼人のみである]
やっぱり人間って、下賤。
[飢えた人間への同情も、犠牲者への哀れみも、一言たりとて口にはしなかった]
ふうん
[聞こえよがしの蔑みが降ってくる。
軽業を為す男は銜へかけた指を一度戻す。
其のひとが羽ばたく風が、道化た帽子の
尾を揺らし…男は首を傾げてみせる。]
したよ、心配
…もうあんまりいないからね、「ただの人間」
[口を開けばまた煤煙の黒が宙へ流れる。]
汚れるの、嫌かい?
[煤を厭う素振りに、ざらついた声がわらう。
捻れた梁を蹴り上がると、その上を歩き
軽業師は見目よき翼人のほうへ歩を寄せる。]
わざわざ、こんなところまで降りてきて
『あーあ、こうはなりたくないわよねー。』
[銜へかけた指を戻す。とん、とん、とん
片手の指を動かしながら片掌へ打ちつける。
――わざわざ、一文字ずつに区切った手話は]
へーぇ、そうなんだ。
バケモノばっかりってこと?
[首を傾げる男に目を細める。
有翼人も、元を辿れば人間から枝分かれした「人間以外」なのだが、地上のそれらと己を同類とは見做していない]
そこの変な格好したあんたもそうなのかしら。
――ま、どっちでもいいわ。
一応感謝しといたげる。
[高度を落とし、それでも煤煙が翼に触れぬ程度の距離を保ったままホバリングし]
どうも、あ・り・が・と。
[目を細め、唇の端を片方釣り上げた、気品の欠片もない表情で言葉ばかり礼を言った]
嫌に決まってるでしょう。
地上人みたいなみすぼらしいカッコなんて。
[ホバリングのまま男を睨み付ける。
そうしているうち、梁を歩く男に接近され、空中で僅かに身構えた]
わざわざ、って――
[苦虫を噛み潰した顔で男の声を聞き、手話の文字を読み取る]
あ、あの、
あたしは、ねぇ――
[男を睨み反論しかけるが、それより男の跳躍が早く。
宙空で擦れ違った長身を、はっと息を呑んで振り返る]
[互いに芽生えぬ殺気の故か、
読ませる態な指動きの故か。
銜噛む男は、其の人の留まる高みへ僅かに至る。
振り返る動作は男も同じこと――視線は交錯し]
…
[有翼人を観る目元は、眩しげに細められる。]
― 壊れかけたビル街 中心地 ―
[ゴム製の厚底が、ざりり、と踏みしめるのは、砂であり細かく砕けたガラス片であり。
自然に発生したものでは無い香りと上から眺めてくる視線には、薄ら気付いても気付かぬ振り。
漸く、とそちらに視線を向けたのは予測する場所から気配が消え、遥か遠くなった後だった。]
……狙われてンのかね。俺は。
[誰に向けるでもない問いと目付きの悪い睨みを残し、再び目的地へと足を向ける。
不意な崩壊に巻き込まれるのを避け辿り着く先は、街の中心地。
とはいっても、それは繁栄した頃の話。
今はこの街の中でも、建物の損傷が酷く、普通の人間ならば立ち入ろうともしない場所。]
うん
[跳び移るさきは、向かいのひしゃげた窓。
割れた硝子を儘に掴めば、じわり滲む黒。
険しい視線が刺さるかの如き、益体もない傷]
うん 違うらしいか
[背に叩きつけられた台詞を、暫し咀嚼して]
[曰く、]
違ってもいいから、
汚されてみたくなったら 俺と遊んで
[真白い羽を抜き取り損ねた空き手を、
ふらり揺らして 暗い窓へと姿を消した*]
やア、待たせたカイ――……?
[崩壊を僅か持ちこたえるビルの中。
待ち合わせる場所に居たモノに、特徴的な訛りを含む声で問いかける。
その表情は、歪な微笑み。
こちらに向けられる銃口は、待ち伏せた男の両手に二つ。
『カレワラの秘匿文書を渡してもらおうか』
脅しと言う名の歓迎の言葉に、ハッ、と息吐く嘲笑を返す。]
ンなもんねェよ、タコ。
アッたら俺が旨く利用シテやるっての。
[死を見せ付けられても、若い三白眼が動じる事は無く。]
[振り返った先、硝子を掴んだ手に滲む色が見え]
はっ。
気が向いたら遊んでやったっていいわ。
[揺らされる手に同じ動作を返すことはしない。
男の消えた暗い空間を、空中から睨んだまま]
でも汚されはしない。
――あたしが、浄化してやるのよ。
[呟く声は既に独言。
すう、と冷徹になった声は、恐らく誰にも届かなかっただろう]
[鳥のような何かを探して歩いてみたものの、建物だったようなものが邪魔して途中で見失ったようだ。
血で汚れた外套をずるずる引きずって、あてもなく歩き続ける。]
僕はここで何をしていたんだっけ?
ここはどこ?家に帰りたい。
なぜ、洋服が血で汚れているの?こんな服、格好悪いし、僕の趣味じゃないし…。
[瞳を潤ませて、あたりを見る。人の気配があれば、そこに走って行くだろう。]
[懐から するり と一対のナイフを取り出し、構える。
今度は待ち伏せる男が笑う番だった。]
ナニが可笑しいンだい?
[機械仕掛けの飛び道具と、短い刃物が対する。
二発の銃声は、どこまで響いたか。
その後に、立っていたのは待ち伏せ られた 側だけだった。]
銃……。
[少し距離はあるが、同じ街区内から聞こえてきた音]
その程度の武器はあるってことね、下界にも。
[舌打ち一つし、ビルの陰になるよう飛行高度を下げる]
[手向けの言葉は、静かに響く。
ピクピクと痙攣する普通の人間の頭に、ざっくりと刺さった一つのナイフを引き抜くと、それに付いた粘着質を温もりある相手の服で丁寧に拭い、腰につけたナイフポーチに仕舞いこんだ。
それから、当然のように手際よく、相手の持っていた金目のものを漁り始める。
ずしりと重みのある漆黒の二丁のハンドガン、それからそれの予備弾。綺麗な石が付いた指輪。
それらをポケットから取り出した布袋に突っ込んだ。]
儲けさせて貰ったゼ、アリガトよ。
[感謝の言葉は感謝の意味無く上辺だけ。
にやりと笑んで、赤くもう動かないものに背を向けた。]
[それ程遠くではない場所から聞こえた銃声に、しばしその場でうずくまる。
音は二発?]
もうやだ、おうちに帰りたい。
[半泣きになりながらも、銃声が聞こえた場所へ、吸い込まれる様に歩いて行くだろう。
何故なら、おいしい匂いー血の香りーがするから。]
…匂いがする……。
何処か、懐かしい、匂い、と血の匂い。
鉄錆た、……――――――…
[手を、ゆっくりと持ち上げ口元に這わせる。]
[その場を去ろうとしたその時、自分に向けられた視線を感じる]
……ん?
[振り返り、それは錯覚だと知った。
視線の先にいる男の、両眼は布で覆われ隠れている]
なーんだ、さっきの薄汚れたニンゲンね。
[こっちの声は聞こえていたか。
先程の嘲笑と同じ声とは気付かれただろうか。
翼はためかせ、ビルの隙間を縫うようにすると、男に確実に声の届く距離まで近付き]
どうしたの?
さっきの女の子の傍にいなくていいの?
[掛ける声にはからかいの響きがあった]
[大気の流動。小気味良い翼の羽ばたきの音が耳朶を打つ。起こした風か元から街に吹く風か、その双方かが前髪を揺らす。]
……何故?
[有翼人の嘲笑も、先の音>>22が遥か高みからだとしても――何らかの意識が向けられる切っ先を感じていただろう――、何処か自意識から遠い所で、間近の存在と同一のものであると感じられた。]
傍に、何故?
[問いに、問いを返す。有翼人の位置から、地べたを這う生き物の声は聞こえるのだろうか。]
[何故? と問い返す声。
かつては街燈だったであろう柱の上に足を乗せ、羽音を止めると、目隠しの男に向き直る]
べーーーっつにー。
あの子、イケニエでしょ? 死んじゃうんでしょ?
可哀想に思うなら、見送ってあげればいいのにーって。
[男と供犠の娘がどんな関係なのかは知らない。
からかいの種さえあればいいのだ]
それとも、あんたも「救い」とか信じて彼女を捧げたクチだったりする?
[にたにた、と口の端を上げ意地悪く笑う。
相手には見えぬだろうが、口調から伝わるものはあるだろうか]
[>>54 何だと問われ、身体をビクンとさせる。]
あ…、あの。その人たち、死んでいるの?
あなたが殺したの?
[泣きそうな表情で、相手を見る。怖い目、訛りの強い喋り方、すごく怖い。]
[既に口元のそれは会話により消えている。]
見送る。 [否] 送る
[音をリピート。胸中の容にならないものが型をとる。残りのもの>>46全てが、この型ではなかったが]
……――――
[沈黙は一拍、二拍、そして三拍目の合間。]
仲間じゃないよ、この人知らない。
[質問には即答で答える。]
僕はベルンハードって言うんだ。
お家に帰るはずなんだけど、お家がどこか分からなくて歩いていたら、銃声が聞こえた。
あなたもお腹が空いたから、この人殺したの?
[澄んだ目で問いかける。人はお腹が空いたら人を狩る事を疑問視していないから。]
ふうん?
[三拍を空けて同意した男に、半目の視線を送る]
人を食ってみたり、哀れんでみたり……。
ニンゲンにとって、同族って何なのかしら。
[前者は眼前の男を指して言ったことではないが、どう伝わろうが気には留めない]
ま、あんたもじゅうぶん「かわいそう」よ。
アッハハ!
[言葉とは真逆に高らかに笑う。
そして、しばし遠巻きに男の様子を眺めているだろう]
[帰ってくる答えに、驚きとそれ以上に呆れを向ける。]
家ェ? 迷子って、お前……
[しかし、最後の言葉には、息を詰まらせた。
そうして、それを自分なりに理解する。]
……そうダナ、俺は、生きるタメに殺す。
[冷えた声が肯定する。
澄んだ瞳は、この世界に狂う証。
それを哀れむ事も、拒絶する事も、賛同も勿論、しない。
それは逃げた弱さであると同時に、順応した強さでもあると思うから。]
俺はモウ、十分頂いタ。
残りが要るならやるガ?
[こちらに敵意が今のところだけでもないのなら、軽い警戒を解いて。]
[高らかな笑いに反応なく、有翼人の遠慮ない視線にも、緊張する様子はないようだ。]
おちて、何しに、来た?
[何時か聞いた言葉の記憶を、
指先でなぞるように、たどたどしく問いかける。]
生きるために殺す、じゃあ僕と同じだね。
でも、僕はお腹いっぱいだから、それはあなたにあげる。あなたの獲物だもの。
[相手も食べるために殺したと思っている。]
にいさまがね言ってたよ。お腹が空いたら食べてもいいけど、無闇矢鱈に殺したらだめだよって。
食べ物が減るし、狩ろうと思って返り討ちに遭う事もあるから。だから、あなたも気をつけてね。
[相手の事を怖いと思っていた事はすでに忘れた。この人は美味しいかな?今はお腹が空いてないから関係ないけど。]
[亀裂の端へ片掌を置く仕草は無造作のようでも、
指先を吸い付かせ、見えない罅を宥める手つき。
階段の途切れる下階から体を引き上げながら
男が空き手で放るのは、封切らぬ酒瓶が一本。]
( ― 2012年 ― )
[ラベルに書かれた年代を、相手に確かめて。]
( ― それ なにがあった年? ― )
[尋ねたいような空惚けたような面持ちで紡ぐと、
暫し執行人の横顔を眺め…ふしと煤煙を漏らす。]
[幾らかの沈黙――
応えは待たず、長居せぬ態で片手を振ると]
( ― せっかくの品 ― )
( ― 割っちまうのも、なんだし ― )
( ― お代は、またね ― )
[崩落寸前の危険な廃墟に取り残された物資を
身ひとつで運び出す「引揚げ屋」を営む奇人は、
今度こそ無造作に、窓から外へ飛び降りた。]
ぼく、お家に帰る。
あなたもおうちに帰った方がいいよ。
狩の後って疲れるよね。お腹もいっぱいになるし。
[相手ににっこり微笑む。かと思いきや、虚ろな表情でゆっくりと反転する。外套を引きずりながら、出口の方へ歩き出す。]
ぼくの家…、どこだろう?白くて大きくて綺麗な、にいさまとぼくだけのお家。
[途中から、自分の世界に入ってしまい、話しかけられなければ、そのまま去って行くだろう。**]
何しに?
[問われ、小さく舌打ちの音を響かせる]
どうしてそんなこと聞きたがるのかしら――
ま、いいわ。「かわいそう」だから教えてあげる。
[言って、爪先で街燈の柱を軽く蹴る。
高さにして約5m、常人なら触れ得ぬ高さまで舞い上がり]
イケニエ――
いえ、そんなお綺麗なものじゃないわね。
[唇の端を歪め、男を見降ろす]
間引き、よ。
お腹を空かせたニンゲンたちが、こっちへ群がってこないようにね。
[そう言い残すと同時、翼を打ち振るい、男から大きく距離を離す。
羽音が自身の言葉を掻き消したとしても、気にすることはない]
『堕ちた有翼人は学術的上興味深い。』
[>>65何時かの言葉の記憶と違う?と問うように小さく首を傾げた。
翼で起こされた風により、大きく粉塵が舞い上がる。有翼人はその粉塵に触れえぬ高さだろうか。]
[そのまま。]
――――……
[有翼人の言う「浄化」は行われぬまま、相手は去ってしまった。]
[ナイフを血に染めたカウコの戻り道には、
今度は煤煙の匂いも件の視線もありはせず。
姿見せずの当人は、かつてのランドマークを
後にしてひとり。砂塵の街で傷の黒を舐める。]
… しろい 翼の――
[舌に粘つく苦さと呟きを、口腔へねとり玩ぶ。]
供儀がアレなら、面白かったかも な
[ざらついた声と共に漏れるどす黒い煤煙は、
砂塵混じりの渇いた風に細く流されていった。]
[男の背からゆっくりと刀を引き抜くと
滴り落ちる紅を拭いながら、女は無線機の釦を押して
何処ぞに向けて喋りかけた]
―――…仕事、終わたネ。
金と食糧は、いつも通り裏路地で受け取ることにするデスヨ。
[返答を聞けば、拭い終えた刃を鞘へとしまい
トボトボと歩みを進めて行った]
[ざわめき…遠く、近く、曖昧、明瞭、塊としての熱さ・生き物の発する熱、酷く乾いた匂いをベースにした都市の匂い。
身体に絡みつく糸が簡単に断ち切れるように、つぷつぷと種々の感覚は身体に纏いついては消えてゆく。
安全な路を、―心地良い感覚を辿る事によって―歩いてゆく。]
[硝煙やら泥やらの混ざった臭いの漂う
小汚い裏路地。
雇い主の従者であろう男から物を受け取れば
一言二言、言葉を交わして帰路につく]
[荒廃した世界では、人の命は金より軽い]
――…あら、少し多いネ。
手間賃として貰ておくデスヨ。
[予定より多かった報酬に微笑んだ]
[地の匂いにむせる路地の一角で、壁に背を預けて女は立っていた。
背後からこちらへと向かってくる足音の方へと顔を向けて]
はぁい。
久し振りに、遊んで行かない?
[紅で濡れる唇で弧を描いて。
仕事を終えたばかりの女へと声を掛ける]
[不意に聞こえた声に警戒するも、
見慣れた相手からと察すればそれを解いた]
……アンタんとこ、ぼったくりネ。
定価で遊ばせてくれるなら付き合って
やる、良いデスヨ。
[笑いながらそう応えれば、ウルスラへと近付いた]
ぼったくりだなんて、酷いわ。
それだけのモノは、ちゃんと提供しているはずよ。
[近づいてくる女へと腕を絡ませて、嗤う。
紅を思わせる赤い舌をちろりと出して、舌舐めずりするように唇を舐めて]
最近あがったりなのよ。
お得意様を誰かさんが磨り潰してくれるから。
……どうしてくれようかしら?
[上目遣いで見上げて、それから腰の日本刃へと視線を移す。
まだ血の匂いがするそれをうっとりと見詰めた]
[唇を舐める舌が目に止まる。
汚れ役を人に押しつけつつ、甘い汁を啜る
そんな蛇のような女だと思い、苦笑いを浮かべた]
……今日の仕事のおかげで、アンタの懐も
だいぶん潤う、違うカ?
[絡んだ腕を振りほどくことはせずに。
細い指先を女の太股へと這わせ、そう呟いた]
[内股をなぞる指の動きに、熱い溜息を耳元に零すと、
柔らかな耳朶を甘く唇で食みながら]
……それは、んッ。否定しない、けれど。
[女の言葉に頷く様に笑う]
でもそれは……ギブアンドテイクでしょう?
貴女も私も。美味しい蜜は訳合わなくちゃ。
[ね?と吐息交じりに囁くと、
細い指がサーディの唇を撫でて]
……もう一つ、私のお願い。
聞いてくれる、かしら?
その通りネ。
アンタは私の上客、それはYESヨ。
…でも…そっちの啜る蜜の方が、甘く見えるね。
[指先をゆっくりと付け根へと這わせるが
続く言葉が聞こえれば、動きを止めた]
……聞くだけ、なら。
[そう言葉を返せば、場所を変えるよう提案した]
蝮は美食家なの。
[ふわりと笑んで、身体を離す]
……この近くに私のヤサがあるの。
詳しくはそこで。
[こっちよ、と誘い背を向ける。
黒い髪と帽子に結んだ飾り紐をひらりと靡かせながら、何処か据えた匂いとそれを隠すかのように焚かれた甘い香の香りがする部屋へと、サーディを招くだろう]
其処、シャワーちゃんとあるカ?
さっき殺ったロメオの血、落としたいネ。
[招かれた場所は荒んだ街に似つかわしくない程
小奇麗な部屋であり。
身体を洗い流した後、今回の依頼の内容を待った]
私の仕事、知っているでしょ?
ちゃんとお湯も出るわ。
[サービスにしておいてあげると笑う。
まだ濡れた髪の侭、バスルームから出てくる女へとタオルを一つ放り]
……ある人をやって欲しいの。
期限は明後日までに。
お願いできて?
[放られたタオルで濡れた身体を拭いながら
吐かれた依頼に眉を潜める]
明後日……随分と急ネ。
相手次第じゃペイを倍にしてもらうヨ?
[裸のまま室内をうろつき、冷蔵庫からビールを。
栓を抜きソファに掛ければ、依頼の内容を伺った]
[真黒いコークスをスナック菓子めいて幾つか
口へ放り込んだあとは、またきつく銜を噛む。
行き交う人は疎らにも、軽業師の男が地上を
歩いている珍しさに軽く冗談など投げてくる。
それらへ道化た黙礼で応えつつ、男は何件かの
―宿には客から娼婦宛ての― 配達を済ませた。]
[優れた感覚で安全な路を選っていた実験体と、
常には建物の屋根伝いが道代わりの軽業師が
つむじ風吹く辻に行き会ったのは――稀な偶然。]
……、っ
[男が咥える銜は、黒い煙の何割かを無害なものと
変えるが、その携帯性ゆえに効果は高くない。
異常な芯熱を抱く男が、驚愕する態で立ち止まり
目を瞠ると…漏れた呼気にクレオソートが*香った*]
[指を三本立てる。
付き合いの長いサーディならば、それが破格の報酬である事は見てとれるだろうか]
……ターゲットは、ドロテア。
今度の生贄に選ばれた、私の可愛い妹。
[ソファに座るサーディを後ろから両腕で包むと、素肌の肩に頬を乗せて]
あの子を神なんていもしないものにはあげない。
………ねえ。お願い、できて?
[天井に向けられた三本の指が眼に入れば
小さな口笛を吹き、ビールの缶を置く。
女の表情からも、それが稀に見る額であることが推察出来るか]
それ、頂きマスネ。速やかにヤルヨ。
[絡んだ腕をほどいて立ち上がると、
愛用している小太刀を手に取り女を見る]
……でも、小娘独りに破格の報酬は警戒するマス。
何か裏がある、違うカ?
[鞘をウルスラの胸元へ。
言葉が発される前に、それは膨らみをゆっくりと撫でる]
裏……?
随分と用心深いのね。
[膨らみを撫でる小太刀を手に取り、その先へと舌を這わせて見上げて]
これは私の意地。
あの子の命を神だなんて胃もしない者の為に遣いたくないの。
それならいっそ……私があの子に死をあげる。
[小太刀を這う舌はゆっくりと登り、何時しか柄を握る指先を擽る様に舐める。
ぬらぬらと唾液の糸を引き、蝮の舌は愛撫するようにその指先を濡らしながら]
………サーディなら判るでしょう。
私の、気持ち。
いっつも友人割引使うアンタが3本…
払い過ぎも良いとこ、ネ。
[続く言葉と這いあがる蛇の舌に、淡い溜息を洩らす]
……余計なこと聞いて悪かたネ。
アンタの気持ちは分かりたくもないけど
世の中『金』ネ。
神さんよかよっぽど役に立つヨ。
満足出来るペイ貰えるなら、喜んで受けるネ。
[柄を落とさぬように人差し指を彼女の口内へ。
ネットリと絡みつく舌に、下卑た笑みを浮かべた]
……んっ。
[口内へ潜り込む指を甘く食み、見上げる眸に滲むのは情念の炎]
……大事なものは、お金。ええ、その通りよ。
神なんていやしない事、あの子に教えてあげて。
そして私に見せて。あの子が赤く染まる所を。
[指を口から離し、その手を胸へと誘い笑う。
下卑た笑みを浮かべる唇に己が唇を重ねて。
それを始まりの合図代わりに、甘い香りに満ちた部屋の中で二つの熱い吐息を幾重にも重ね合うのだろう**]
殺り方にリクエスト、あるカ?
苦しまずに天国逝き…
心の臓を刺して、もがきながらゆっくり地獄逝き…
破格のギャラだから、其処はサービスするネ。
[その問いにウルスラはどう返しただろうか。
蛇の誘いには微笑みを返して
部屋中を女の香りで包みながら、
報酬の前払い分を身体で払ってもらったか**]
[ビル街だった所を、さまよう様にずるずると歩いている。
知らない人が、にいさまの事を褒めてくれた。>>73]
そうだよ、にいさまは素敵な人だもの。
早く会いたいな。でもあの人も親切そうな人だったな、顔ほど怖くなさそうだし…
ピンピンしているから、新鮮で美味しい。きっと。
[この街には、生きている人が他にもいそうだし探検しようかな、家に帰りたい、少し眠い、など色々な希望欲望が頭の中でぐるぐるしながら、さらに歩き続ける。]
[巨大な熱の移動。香る、人工的な臭い。
ナイトウォーカー《みみず》のように地を這い歩いていたが、巨大な熱の接近に一歩早く足を止め、驚愕する態の軽業師を小首傾げるようにして感覚する。]
暖かい。
[まるで、目の前に見えない壁があるのを表現するパントマイムのように、大気に放出された熱を感じ取ろうとしているのか、目の前の空気に手を触れさせる。]
押し潰す圧……
[右手を、人差し指と中指と薬指の三本を、操り人形のように前方へ差し出す。親指と小指は重力に任せるまま垂れさせて。軽業師の事をそう評する。]
[長い感傷]
[男にとってはいつの間にか、軽業師が消えたあとの虚空に向けて言う。]
総てが狂ってしまった年。
狂い始めた都市に、私の愛するものが奪われた日。
私はその日の感傷に囚われ、あてのない復讐を執行し続けている。
それだけの事さ。
君もあるいは、私の復讐の対象かも知れない。
しかし、礼代わり
今はそれを問わずに置こう、ね。
[酒瓶を拾いあげ、そっと片腕で抱く]
代金はいずれ。
― 砂塵の街 ―
[赤い空が、執行人が感傷馳せた
其れよりもいろを深く沈めた頃合。
摺足めいた足跡を連れた人影に立ち尽くす儘、
軽業師は相手の仕草にじわり表情を歪ませる。]
[実験体の彼を目にして――浮かぶ感情は苦い。
奥歯が馬銜を噛み込んで、かりと音を立てた。]
…
[『押し潰す圧……』届く声に躊躇う間を置いて、
遣り切れぬ態で緩く頭を振り…彼へ歩を寄せる。]
[トン、トン …トン
ひとつずつ、文字をわからせる緩慢さで
相手のてのひらへ手話綴るを指を触れさせた。]
( ― "それ"は、だれだった? ― )
[あたたかく][おしつぶす…]
[変わらない評に苦り切った面持ちを浮かべて。]
( ― マティウス ― )
[「檻」の底に見知る相手が呼び返すのは、
「番号」かそうでないものか――――
反応と同時、軽業師は鋭く長身を屈めながら、
労いさえ籠めて触れ合わせた旧友の手を弾く*]
[先の銃声で幾らか、崩落の危険が瓦礫と化していたか。
その中を、さした感傷無く再び歩いていく。
先を歩いていた小太りの影は別の道を行けば見えなくなり。]
……アッチのほうガ、俺は好感が持てるナ。
[その道すがら、『恵みを』と、地を這いずる骨と皮だけの物体の声に、耳を貸す事など当然のように無かった。
食料無くして已む無くだろう、探して迷い込んだ、力を持たないモノの言葉など、何の意味があろうか。
必要な分以上を捕食していそうな体格を思い出す。
鈍そうだと思いながらも、人を喰らい生き延びているのであれば、決して弱くは無いのだろうと予想しながら、口端をあげた。]
おうち、とり、眠い。
お家まで鳥が運んでくれたら、すぐ眠れるのに。
[色々な希望欲望が合算した結果、都合のよい妄想が完成した。そんな都合のいい事は起こり得ないので、まだ歩き続けている。]
んあ、建物が崩れたのかな。
[遠くない場所で、瓦礫が崩れ落ちる音がした。混濁していた思考に刺激が与えらる。]
いってみようかな?
ー建物の中ー
うわー、すごいね。
[建物の中は瓦礫の山が出来ていた。土埃がもうもうとしていて、状況が分からない。
人がいるのかいないのかも、少しわかりにくい。]
誰か、死んでませんかー、死んでいたら返事してみてー。
[根本的におかしい呼びかけをしてみる。]
―建物の中(ビル・1F?)―
[土煙の中から姿を現し]
死んでは居ないが……。
観光。という訳は無いか。
こんなところで何をしている。
[右手で頭巾を直しながら、左腕で酒瓶を抱いたまま。]
[世間知らずで間の抜けた問いに応えた。]
―ビル街―
[崩れかけたビルの上を、鳥のように苦も無く渡り歩く。
時折ブーツの下で砕けた混凝土がぱらぱらと音を立てた]
ぼろっちい建物ばっかり。
寝床になりそうな場所なんてありゃしないわね。
[長居をする気こそないが、浄化の任務を済ませてからでなくては、『天』へ帰る面子が立たない。
その任務こそ体のいい厄介払いだったのか――真実がどうであれ、既に堕とされた者が知る術はない]
――あ、あの音。
あーあ、折角の建物壊しちゃって。
鈍重な地上人はこれだから……。
[誰かうっかり下敷きになっていたりはしないだろうか?
その間抜けさを笑ってやろうと、音のした方向へ飛ぶ]
わっ、生きていた!
死んでいたらって返事してって言ったのに…、でも無事で良かったですね。
[びっくりしたが、気を取り直して…]
僕はベルンハード、お家に帰る途中なんだけど、場所が分からなくて…。
おじさんは、ここで何しているの?
何、持っているの?
[左手にある瓶に興味を示したようだ。]
[掌に一文字ずつ書かれてゆく文字。]
( ― "それ"は、
[全ては綯い交ぜで判然としない。]
だれだった? ― )
( ― マティウス ― )
…っ
[ビクリ、と手が想定外のものに触れたように跳ね上がった。或いは、灼け融けた鉄に触れたように。]
これか。
純粋な酒だ。
合成されておらず、麻薬の類でもない。
過去の遺物。
[あいている手で襟元を払う]
家は、遠くなのか?
あ……あぁ、
ぁ
[長い間呼吸する事を忘れていたように、ひゅっと喉が鳴る。綯い交ぜになったものが、曖昧模糊として容を取らずに居たものが、恐るべき構築力を持って、整然とした情報として組みあがり]
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
[両腕で頭を抱え込み、絶叫した。]
家が近いか遠いか、どっちなんだろう?
白くて大きくて綺麗な家なんだ、こことは大違いだよ。
[瓶について説明され…]
酒?それ、僕知らない。
麻薬は食べないけど、あれは良くないって、にいさまが言っていた。
[食べ物、飲み物ではないと思い、興味は失われたようだ。]
うーん。過去の遺物?
おじさんは、過去が大事なの?
[ぼーとした表情で問いかける。]
過去か。そうだな。
大切だ。何よりも。
私にとっては、この酒のように美味なもの。
[襟元を直す。]
兄が居るのか。
……一つ問う。
少年。お前は人を殺した事があるか?
ふーん、そうなんだ。
過去が美味しいって初めて知ったよ。
僕にも美味しい過去があるのかな?
[思い出すのは、血塗れになった自分の毛並を愛おしそうに撫でる、にいさまの顔]
人殺し?あるよ。
あるけど、不必要には殺さない。だって、お腹が空いた時しか殺さないもの。
[あっさりと、しかも不必要に殺さない自分って偉いでしょう、という雰囲気も漂わせて答える。]
[欲に爛れた情事を終えれば、あられもない姿の女を
そのままに、ひとり部屋を出た]
[数か所ある隠れ家の一つへと潜ると
苦内など適当な暗器を取りそろえ、
ドロテアの首を狩りに街を彷徨い歩く]
ただの小娘に3本は破格ネ。
ちゃちゃ終わらせてバカンス行くヨ。
[小太刀で肩を叩きつつ、上機嫌にボソリ。
途中誰かに出くわすかもしれない]
ふふ。
違うな。舌で味わうものではないのだよ。
[何処からか絶叫が響く。その中を打って、鳥とも思えぬほど大きな羽ばたきの音。
そんな情景を日常のように会話をする。
男は、身を屈めて足元に酒瓶を置く。]
さて。
この問いは何度目か。
少年。
君は私の大切な人を殺した者か。
いや、答えは構わない。
君も、殺した人間のことなど逐一覚えてはいないだろうからね。
[空中を飛ぶ間、髪の毛が舞い上がり、布で一部隠れていたが、額に赤い徴――研究施設で使われていた――が顕となった。
頭上からコンクリート片が零れ落ち、瓦礫に背を預けた男の頭にぱらぱらと乗る。]
ちが……違う、俺は、マティウス、なんか、じゃな………い
「こんな街」……は、知ら……ない。
俺……俺は……、
[筋肉の痙攣だろうか、無意識に肩が跳ねた。]
……。
こう落ちてくるものが多いと、おちおち寝られんな。
[帽子が動き、その下から顔が覗いた。
精悍な男とはとても呼べぬ、童子のようだ――己をからかった同僚がどうしているかは、最早あずかり知らぬ所ではない。
ばらばらと降る瓦礫の滓を不快そうにねめつけ、重い腰を起こした]
まったく、世も末だ。
いや、既に末ですらなく、終わっているのか……。
[呟いた声は空虚に溶けて]
ッ――
[懐から、小振りのナイフを2本、抜き払う。
短く鋭く息を吐き、身を低くして、世間知らずな少年の胴目掛けてナイフを投擲する]
うーん、覚えていないよ。
でも、無意味に殺したりはしない。他の人は知らないけど。
おじさんの大切な人は、殺されたの?
殺した人が見つかったら、おじさんはどうするの?
[外が騒がしいが、今は目の前の人間に興味を示している。]
おじさん、強そうに見えないけど。
そういえば、先ほどのアレは何だったのだ?
まあ、こんなご時世――叫ぶモノもあらんや、か。
[叫び声について考えを巡らせていた。
生く宛も、行く宛も定めぬままに流れている。
自然と叫び声の方へと足を向けたが]
――はてさて、他には何が在ることやら。
[口元が、歪んだ]
え、なに?
[強そうに見えないおじさんが、身を低くしたかと思うと、ナイフを投げてきた。
この人、お腹空いてなさそうなのに…]
いたっ!
[ナイフは、身体を反らせて避けようとしたが、外套がじゃまして、尻餅をついて倒れてしまう。
ナイフは、乾いた音を立てて壁にぶつかった。]
何するんだよう、人殺し?
[崩落したビルから少し離れた場所。
彫像の残骸のようなものを、軽く足先で踏み付ける。
如何なる芸術家の作品か、それに興味を示す者は既にない]
……ん、
[しばらくはそこから崩落した建物の方向を見ていたが、ふと視線を感じて振り返る]
『おお……天使様……』
[それはむせび泣くかのような、恍惚とした声だった]
『天使様……我らをお救いください……』
[しかしそいつ――男だ――は跪き、祈るようなことはしなかった。
もう少しで手の届く位置にいる翼人を、引き摺り下ろさんと手を伸ばしていた。
男の眼に欲望の色を見て、ひいっと悲鳴を漏らし飛び上がる]
穢らわしい、なんと穢らわしいんでしょう!
そのような穢れた手で――
[背から左手で引き抜いたのは短弓。
同時に右の手指に三本の矢を挟み、一本目を番えた]
触れることは許しません!
[放たれた矢は、男の伸ばしていた右腕を、付け根からふっ飛ばした。
何処かで響いた絶叫に、男の声が続くか]
―砂塵の街―
[舞い上がる砂埃に、廃墟の壁土の色が混ざる。
ざ、と尖った靴先を踏み出す軽業師は、石塊の
落ちる音の合間にマティウスの呟きを拾って…]
…違うのか?
[常より乱暴な手つきで、銜の片側を引き下げる]
…そうかもな?
"檻"を黒く沈めたのは…俺だもんな?
[僅かに犬歯が覗く。見えずともざらついた笑み]
お前は――
俺の「炉」を 起こしただけ
[肩ごと身をひくつかせる態のマティウスへと
顔を近づけて屈み――囁きながら覗き込む。]
…あのあと、何人死んだ?
なあ、
( ― マ・ティ・ウ・ス ― )
[痩せた頬へやさしく打ちつける文字のかたち]
[背に手を回し、やや大振りのサバイバルナイフを抜く。
「殺した人が見つかったら、おじさんはどうするの?」
そんな気の抜けた問いに答える代わりに、少年へ向けて駆け出し、]
そうだ。
私は人殺しさ。
[見上げる少年の瞳へ向けて突き出す]
[何かが風を切る音と、男の悲鳴。
先ほどの叫び声よりは近く、そしてはっきりとしている。
自然、興味はそちらへと向いた。
ゆったりとした足取りで、翼人の女と腕をなくした男の前に現れ]
……。
神罰の代行者、とでも言ったところか。
おい、こいつは何の罪を犯したのだね?
[男を助けるでもなく、皮肉げに声をかけた]
『檻』……
[地面に置いた右手を、
砂を握るようにゆるく握り締める。
自分に軽業師の影が落ちているのを感じる。
クレオソートの臭いが濃くなる。]
[聞き慣れた声を耳にすれば、歩みを止める。
この稼業は情報が命であり、
カウコからも数度か情報を買ったものだ。]
イイ仕事入たからネ。
報酬に向けて、頑張るマスデスヨ。
…それはそうと、公の場で殺し屋言う、良くないネ。
[口元に指を伸ばして、彼を注意した]
そういえば、一件知りたいことあるヨ。
ドロテアという娘のこと、何でもイイから知てるカ?
[ぶっきら棒に尋ねる。
私怨とはいえ、たかが小娘独りに大枚を叩く
ウルスラへの警戒は、未だ解けずにいた。
何かネタがあるなら、事前に掴んでおければと]
僕、知らないって言ったのに…。
おじさん、悪い人。
[サバイバルナイフをこちらに向けられ…]
僕、お腹空いてないけど、おじさん悪い人なら殺してもいいよね。
[そう呟き、普段の虚ろな声とは違う咆哮をあげると、身体がミシミシという音とともに変化する。
手が伸び、胸筋が発達し、顔が変化する。口は裂け牙が覗き、目は赤く、体毛がなくなった代わりに皮膚が黒ずんでいる。]
死ねよ、人殺し!
[1mはゆうに超えるだろう右腕を尻餅ついたまま、男に振りかざす。]
[犬歯の白さが幻視出来るようだった。
弾力のない肌にえがかれる「名前」
文字が綴られる度に、気付かぬ程微かに頭部が揺れる。]
レ……、レーメ、フ、ト。
[軽業師の耳元に囁き返すように、音が漏れ出る。]
[万が一にも返り血の届かぬ距離まで離れると、即死はせずとも出血で長くはない男を眺め]
ざーんねん。
天使様は下卑た野郎に救いの手など差し伸べないのでした。
あ、でも、こんな所で生きなくて良くなったんだしある意味救われたかな?
[キャハハと笑う声を聞く意識は、男にまだあっただろうか。
と、そこにゆっくり近づく足音>>134があり、死に掛けの男はそのままに振り向いた]
神罰ぅ? あたしらって神様の代理なのぉ?
[大袈裟に語尾を上げ、口を横に広げて歯を見せ嗤う]
こいつはねぇ……汚いから。
汚い手で触られそうになったら、その手を払うのは当然でしょ?
触りたくもないから撃ったけど。
天使といえば神の遣いだ。少なくとも私はそう習った。
……君は天使ではないのか?翼人ではあるようだが。
[嗤う娘に、小さく眉を潜めつつも淡々と返した]
確かに汚いな。淑女に触れるならば、もう少し身なりを考えるべきだった。
だが、君も物好きだな?翼があるのに、わざわざこんな地上に降りてくる意味があるのか?
今の地上は汚いぞ。こんな身なりの男ばかりがうろついている。
[懐から一丁の拳銃を取り出し、男に銃口を向ける。
感慨もなく、彼の頭に向かって引き金を引いた。高い銃声。
男が避けられたかどうかまでは、気にしていない]
――ゴミ溜めと相違あるまいよ。ここは。
[その後を追うように黒い腕が唸る。
異形の腕が叩きつけられた衝撃で、残っていた床材が粉砕されて舞い上がる。
遅れて。轟音と衝撃に建物全体がびりびりと震える。]
[男はいつ確保したものか、左腕に酒瓶を抱え]
[今、これ以上の武器を携行して居ない事を思い出す。]
ち。
[腕だけは低くナイフを構えたまま]
復讐などというものは君には分からないのだろう。
―砂塵の街―
…ああ、
[喩えた『檻』にか呼ばれた名にか、
旧友の頬へ触れたままに浅く応える。
彼へ俯く軽業師は、
尖らせた舌先を僅か覗かせて…どろり。
黒く灼けた、コールタールのひと雫を
マティウスの頬へ向けて垂らす―――*]
[>>136情報屋として殆ど機能して見せてはいないものの、極稀にこちらを頼る人間がいる。
幾つかの取り引きをした事のある変人の一人に、僅かに肩を竦めた。]
ソりゃ、失礼。
まア、こんなゴミ溜めノ中じゃ、気にしてモ変わりゃネェと思うガ。
ドロテア……ドロテア、ね。
どっかデ聞いた名ダナ――
[似て非なる言葉の訛りで、記憶を探り、到る答えに一つ瞬いた。]
ああ、思い出した。
話題の『イケニエ』ダロウ?確か――…
[この街のどこでだったか、神にか何にか、捧ぐ供物になろうとする人間がいること、それはそれなりには有名な話。
知りうる限りの知識を口に、けれど胸糞悪い話のため、話は早く切りたいと、情報料など請求することなくひらりと手を振り。]
俺はンなモンに縋るような弱い人間にゃ興味ねェガ……そいつがバカンスの種カイ?
殺スなんてタダの手間ダト思うゼ?
[おじさんが間合いを広げて、剣の構えを緩めた。
戦意は消えたかな?この格好はお腹が空くから、あまり好きじゃない。床を壊した腕を胸元に置き、いつもの身体に戻す。]
復讐…、にいさまを誰かが殺したら、そういう気持ちになるかも。
でも、僕はおじさんの大事な人を殺していない、と思うよ。
だって、その人のそばには、きっとおじさんもいたと思うしね。大事な人を一人にしたりしないよね。
[ゆっくり立ち上がって、外套についた埃を手で払い落とす。]
残念ながら神とやらに会ったことはないわね。
ま、地上人からすれば同じじゃない?
神の遣いだろうと決して手の届かぬ場所の住人だろうと。
[淡々と答える男に目を細め]
物好き――ね。ま、好きで降りてる訳じゃないけど。
[銃声に、微かに弓を握る左手を緊張させつつ、溜息混じりに答える]
ゴミ溜めもたまには掃除しなくちゃ、どんどんゴミが溜まる一方でしょ?
嫌々ながらでも手を突っ込まないと。
[たった今片付けたゴミは、既にただの物体と化している。
血肉は貴重な資源となるかもしれないが、廃棄物の処理など知ったことではない]
いいや、彼女は一人だったんだよ。
だから私は下手人の顔も知らない。
[刃は向けたまま、睥睨するように細めた目で]
ここで君を私が殺したら、君の兄は怒るだろうか。
ゴミ掃除か。
なるほど、崇高な使命だな。
こうなってしまった以上、神の手でも借りなければ、地上は片付くまい……。
[娘が持つ弓に視線を向けながら、銃口に軽く一息を吹きかけた。
胸元のホルダーに戻して]
だが。
娘さん一人には、少々荷が重い仕事ではないかね?
[軽く揶揄する風]
レディに物騒な肩書言う、良くないヨ?
せめて賞金稼ぎと言て欲しいネ。
[女が気にするのはあくまで其処。
彼女が殺しを稼業にしていることは、
隠すまでもなく吐き溜めの街では知られている]
ん、情報ありがとネ。
信仰心の犠牲になた可哀想な娘ネ。
[礼は言うものの、掴みたい情報は他にある]
ドロテア、誰かが守てるとか、ないカ?
宗教団体、家族、その他……
何でも、何か情報あるなら買うヨ?
[ドロテアを殺しにいくとでも言いたげな程に
彼女に関する情報を求めた。
懸念材料を無くすため。不要な警戒を解くため。
不安感が消えねば、仕事に集中できない]
それはどうも?
[崇高、の言葉に唇の端を持ち上げて返し]
フン、荷が重いですって?
天を翔ける翼と浄化の弓持つこのあたしに、地上人の抹殺がどれだけ容易いか――
[足先で彫刻を蹴り、身を宙へ。
手にした弓矢を番えれば、キリリと弦の鳴る音と共に、金色の光が迸る]
――確かめてみる?
[鏃を銃を仕舞った男の額へ向け、躊躇なく右手を離した]
一人だったんだ、おじさんが悪いよ。
大事な人は一緒にいないと…
[続いた質問には、しばし沈黙する。
にいさまは僕を宝物と言い、そのくせ一人にする。大切な人はずっとそばにいるはずなのに…]
分からない…、難しい事は分からないよ。もっとも、にいさまは僕が殺される事を想像していないと思うけど。
それより、僕、機嫌が悪い。僕に刃物を向けるのやめてくれない?
[むくれた表情で、相手に言う。]
……ふむ。
有翼人の力は、人間のそれを上回っていると考えたほうがよさそうだな。
[金色の光を見据えながら口の中で呟く。
光が放たれると同時、男の死体を突き飛ばして地に伏せた。帽子を手で抑える]
死んでしまっては、確かめられたかどうかがわからなくなってしまうと思うのだが……まったく。
[腰に提げていた閃光弾を、虚空へと投げる。
瞼を閉じていても、目が灼けるかと思われるほどの光――]
[一度は整然と組み上げられた情報は砂上の楼閣のように、容が直ぐに崩れている。それでも尚、元の容の輪郭を僅かなりと留めてはいる。]
難しいことは分からない、か。
幸せな生き方だ。
[非難されても、刃は向けたまま]
[その目前に、衝撃を受けた天井が落ちる。]
一人で居る事が危険でも何でもない、そんな時もあった事も、知らないのだろうね。
さっさと兄のところへ帰ることだ。
それで兄にでも慰めて貰うがいい。
[塵埃の中に*姿を消す。*]
[ぽつり]
[艶やかな光沢を持つ黒の液体が、
頬に印を付けるように落ちた。]
[黒い雨、――曇天の空から零れる雨と蒸気、芯熱の開放――]
[男は銃を持っていた。
一撃で仕留められなければ全力退避するつもりで、矢を放つと同時後退かつ上昇していたが]
――くっ
[突き飛ばされた死体。
やり損なったと思う同時、目を灼くほどの閃光が放たれる。
目を閉じ右腕で覆う動作も間に合わず。
上下感覚のみを頼りに、只管高く高く翼を打って舞い上がる]
ま、運が悪かたネ、彼女。
でも私がそれから救てやるから、オールOKヨ。
直ぐ楽にしてやるマス。
[カウコからの詫びには気にしてないといった風に
手を振り、ぶっきら棒にコインを彼の手元へと放った]
それだけ有名人なら、きと情報ダダ漏れネ。
追加で情報入たら、すぐ教えるとイイヨ。
[そう告げると、再びトボトボと歩きだした]
―路地―
[翼の音を聞きながら、目を瞑ったままその場からかけ出した。
どこか細まったところに飛び込んで、そしてようやく息を吐く]
……末恐ろしい。
いずれ決着をつけねばならぬというなら……。
[爆弾も銃弾も使えばなくなる。銃弾ならば行き倒れから巻き上げることもできるだろうが、爆弾はそうもいくまい。
溜息は知らず深くなった*]
[土埃に消えたおじさんを見て、機嫌はますます悪くなる。]
なんなのさ。あの人嫌いだ、人殺しだし。
慰めてもらうって、美味しいの?
あの人は味のないものばかり言うから、嫌いだ。次に会った時、お腹が空いていたら、生きたまま食べてやる!
[普段はやらない、残忍な捕食を思い浮かべ、それでも機嫌が戻らないまま外に出た。**]
―ビル街上空―
はあ、はあ……。
[久し振りの本気の飛翔に息が切れていた。
白く霞む視界に何度も目をしばたかせつつ、無理矢理にでも息を整える。
追撃はなく、視力が回復したなら既に黒い帽子の姿がないこともわかる]
まさか、あれで避けられるとは……。
しかも、こんな武器があるとはね。
[警戒の意識を強くする。
既にビルよりも高い位置に居るから、多くの者に姿を晒すことになっているかもしれない。
それでも視力が不完全なまま崩れかけのビルの間を飛ぶ訳にはいかなかった]
―砂塵の街―
[粘りつく黒の雫は、
マティウスの頬の上から容易に垂れ落ちず。
拭いもしない彼の様子に、男は憮然として]
お前が生きてる ッてことは うん
あれもまだ… か
[実験体たる彼の首へ二重に残る吊縄の痕に
五指の爪を立て――みちりと喰い込ませた。]
…切るんじゃなかった、
お前の縄を
………?
ぐっ…う……
[気管が圧迫され、摑まれた皮膚が白くなる。軽業師の指へ、脈拍がダイレクトに伝わるだろう。「容易く」首を掻っ切る事も出来る程に、抵抗はない。]
[軽業師の指下で、マティアスの動脈が蠢く。
爪の間へ血が染むほどに掴めば鼓動が混ざる。
己が指の骨が軋む。彼我の境が曖昧になる。]
いつから、彷徨ってた…?
[抵抗の無さは男の意に介するところでなく。
やがて――其処からみじかく濡れた音がして、
軽業師の五指が、旧友の首の皮膚を破り
第一関節までぐじゅりと深く潜り込む。]
かっ……
[押し潰した呼気が漏れる。ぐじゅと湿った音と痛みの次には、零れ落ちる自らの熱い液体。血が、軽業師の指を濡らし、男の胸元へ、つぅと流れ落ちてゆく。]
覚え…っ……てな、い……
…がはっ……
[思考の明滅、ー喰らい昏いクライくらい暗い―]
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