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レーメフト。
奴ハ一体、何ヲ考えているのヤラ。
[その一件以外にも、いくつかの目撃は届き。
『引き揚げ屋』の行動を、あるいは彼の詳細を、調べる暇は無かったけれど。
それだけの能力を持つ『異形』が、今まで街の中でひっそりと暮らしていたのかと、それが少しだけ可笑しかった。]
[ドン、と、何かが爆発する振動は間近に。
夜に滲むコールタールの香りが。
罪に濡れ堕ちた翼の羽ばたきが。
神経中枢へと到るのは、そう遠い事ではないらしい。]
俺は、極普通の人間だが。
――簡単には死んでやれないぜ?
[鋭い銀を鞘に収め、腰を上げる。]
強いものが生き残るのさ。
何をしてでも、願い叶える為に生き残ってやる。
そのしぶとさこそが――
―― ヒト の 強さだ。
[カウコは、そこで、父親を真似た言葉を捨てる。
この場所を握るのは、誰でもない『自分だ』と言う代わりに。]
――『カレワラ』を守る。
[幼い双子は、一糸乱れぬ頷きを、その言葉に返した。
片方は己の等身ほどもあるアサルトライフルを抱え。
もう片方は、長柄の斧を抱え。]
[もう走れないクレーン車のキャビンから
引き抜かれ持ち去られたシガーライター。
吊るされた肉塊の身元は推測でしかない。
雨水貯蔵タンクの脚部を引き倒した直後に、
行方知れずとなった運転手と思われること。]
[待ち伏せした者の腕を折って火炎瓶を奪う。
火種を抜き取り、粗悪灯油を飲み干して――
火布の端から垂れるしずくまで惜しそうに
舌へ受けた男が、火種ごと其れを喰ったこと。
14人の同行者を失った報告者の肩には、
連結弾帯でなく仲間の腸が斜にかかる。]
[黒い翼で慈悲かける翼人の報告は
果たして『カレワラ』のもとへ届くか。
其の人が両手に掬い上げた蠢く「何か」、
持ち主が斯く成り果てた顛末の全ては。
街で散見された蛇が戻っていった先、
宿に部屋を取っていた筈の娼婦の行方は。
様々に紛れ、カウコへと齎される報は
――――少しずつ数を減らしていく*。]
[コン、コン――
単純かつ常識的なノックが二度。
隠れ得ぬ匂い、クレオソートの刺激臭。
身に染み付いた其れは、真の毒を隠す*。]
[ぴん、と空気が張り詰めるのは、まるで、尖らせた神経の先のよう。
幾度かの争い混じる音もあったか、それが次第に近づき、
それは仕舞に、規則的で単純で、あまりに『普通』のノックの音となる。]
――どうぞ。
[同じく『普通』が、それに返される。
『知覚』を多く失った中枢に、毒を招く。
人ならざる香りが、たった一人を予期させる香りが建物を包み漂っていた。]
[冷たい壁がむき出しとなる部屋。
瓦礫の山や、情報屋の持ち込んだ機材、その他武器など納められる箱も積まれてはいるが、人同士が戦いを繰り広げるには十分な広さと高さがある。]
……こんばんは?
[ドアが開けば、口を開く。
先に分かれてそれほどの時は経っていない気がしたが、久しぶりに会うような、不思議な感覚での、挨拶。
白い帽子を緩く傾ける。
その両脇に、同じ顔が武器を構え、同じ貌が来訪者を睨みつける。]
ふう ゥ…
ああ、
[深く、呼吸。喉鳴りはしない。]
[―――直後、ひるがえす長身は]
[カツン]
こんばん はァ ?
[双子の好む無着味のポップコーンの如く、
一度床を弾き――カウコの目前まで疾走した。]
[風圧は軽業師に遅れてやってくる。]
脇を抜かれた双子の面持ちは如何か――
振りかぶる片腕、五指は掴むかたち*。]
[紅く粘つく指を男の身の内から抜き取る。
体内の温もりを存分に堪能したその手は、手首まで染まっていた]
ああ、あたし、こんなにも愛されてる。
[指に柔らかく絡み付く臓物の感触を思い出し、うっとりと目を細める。
そうしている間にも、鉛玉が頬を掠めていき]
あらあら、どうしたの?
危ないからそんなものは置いておきましょう?
[弓を構え放たれた一撃は、慈悲深くも相手の利き手の手首から先を喪わせるだけだった]
――もしかして、
[腹を貫くべく下段に構えられた大振りのナイフを、弓で上方に弾き防ぎながら]
「かんげい」してくれているの?
[天青石色の髪を揺らし、小首を傾げる]
それなら、挨拶に行かないとね。
この街の「頭」に――
[肯定の返事はなかった。
愛すべき同胞となった地上の住民に微笑みかけると、地上の流儀でこちらも挨拶を返す。
残念ながら、その声を中枢まで届ける者はごく少数だったが]
[炎に踊る乾いた実の様に弾く跳躍は、瞬く間に距離を詰め。
『情報』以外を口にしない双子は手にする獲物をそれへと向けた。
砂塵の街を渡る子供から生まれる、刃の風切る音と、火薬の破裂音。
風圧が中枢の主へと届く頃、
白い帽子は僅かに身を屈め、振りかぶられる片腕に掴ませようと鞘に納められたままの大降りのナイフを突き出す。
人の人でしかない反射がそれに間に合うか。]
[>>2すぅ、と開いたのは――――……、]
[いろのない眸。硝子珠でもない、無窮の眸。
布の合間、暗渠の谷に在りて、軽業師がその眸に気付く事はなかったか。嗚呼何時かの記憶>>4:41、あの自縊を試みた日にも覗いた眸は。]
[熱さと痛さ、生と死の境を渡り、『とびこえて』――――。]
[歌を歌わぬ世界の果てで、
狂夢すら死に絶えさせん意思が芽生える。
命と熱と粗全ての細胞が奪われ、
生命のくびきから開放される。]
[男の身体は骨のみとなっていた。
耳朶に付けられていた耳飾りは肉がなくなった事で地面に落ちていたが、其れがひとりでに浮かび上がり、打ち鳴らされた。]
[レーメフルトに渡された番号>>4:39は、
わざわざ用意したものではない。
『番号』は在ったが、名前を削らざるを得なかったのだ。]
[身体を持てぬが故に。]
[鼻先をつき合わせる紙一重、永遠が過る。]
… 痛かった、 よ ?
[瞬くひと駆けの終わり、僅かな対空時間――]
[掴みかかる手より、真上への腕がより疾い。]
[体ごとの旋風めいて襲い来る斧の刃を横殴る。
ゴ、と弾かれる斧身が傾いて降り注ぐ銃弾を弾く。
――跳弾の幾つかは、部屋中に火花を散らす――
掴まされる「鞘」へ、ずぶり 沈む五指は
其処から伸びる柄につながる刃をも掴んで。
軽業師の男は、抜いてもいいよとばかりに
刹那、薄うい笑みを広げた*]
―街の「中枢」―
[黒と紅、穢れた双翼で空を飛ぶことはあたわず。
周囲からの「歓迎」を受けながら、街を彷徨う事になった。
――その場所に辿り着いたのは、如何なるタイミングであったか]
あのぉ…… こんばんは?
[ドアを細く開け、隙間から覗き込むようにして控え目に声を掛ける。
その身体は既に白と呼べる場所がほとんどなく、中でも片翼の黒がより異彩を放っていた]
ご挨拶に伺ったんですけどぉ……。
[控え目に口元へ手をやる視線の先に、疾駆する見知った男の姿があった]
――そうかい。
[呟くように、問うように、
ふいごの先に落とされる言の葉に、三白眼は冷えて返す。
弾かれ傾く幼い子供たちのように、
情報屋は刹那の笑みを目前に、その刀身から手を離す。
『炉』より離れられるのは、人の身体におそらく数歩。
手馴れるままに、ポーチより抜いた3本の投げナイフが部屋の中を煌き舞い踊る。]
――あんたも。
[来たのか。と。
黒い翼を視界の端に、にたりと哂う中枢。
『目』や『耳』から、上がる情報は少なくなってきていたが。
この二体が、街の中、大きく暴れていたと報告の上がる二つが『ココ』にいるなら]
俺は今、俺の願いを叶えるしかないよな。
[ゆっくりと、情報屋の指先は、己のベルトに備え付けられる一つの装置へと伸びる。]
[
今までの街中の紛争の境に落ちるどれよりも
派手な爆発音が。
むき出しのコンクリートを揺らす。
]
[其れは、実験体0331号の人格の揺らぎとして最終的に研究施設に認識された。だが、事実は――――。]
[舞い踊る三本のナイフ。
ためらわず渦中へ差し出した腕は躍る。
カッ 肘で跳ね上げる
カッ 手首で捻り落とす
――ざくり。ひとつは二の腕を抉った。
視界掠める翼人の黒に目を瞠りながら男は、
倒れた双子の"実"を抱えに血飛沫く腕を伸ばす。
閃光が、奔る*]
[何時の間にか、
其れは周囲の景色を屈折させながら其処に居る。]
― とある二階建てのビル ―
[霊体とほぼ同義である其れは、
完全に純粋なる意思存在そのものだ。
その姿は、屈折率から、かろうじて分かるのみ。
誰かが気付けば、こう口火を切るだろう。]
『アス』と名乗っておこうか。
あの2012年の日、
全ての都市が沸騰し、
死が撒かれた日、『私達』は生まれた。
異形も人間も変わりない。
全ての命は、生と死の狭間でダンスを踊り、
生きぬけし《とびこえた》者こそが、この世界を生きるに相応しい。
それこそが、新たな世界の「いきもの」。
[見えない犬歯を舌で触ってから、朗らかにこう言った。]
[――、―――――。
鼓膜破るほどの深く響く強震の後。遠く高くまで、中枢から立ち上がる不完全燃焼のどす黒い煙。
それは誰のものか。
鮮やかに溜まる紅の上に、対照的な真っ白い帽子が、強い風に舞い上がっていたそれが、
ふう わり 、
花弁の如く舞い落ちる。
愛を知らず遣われるだけだった双子が、愛を口にする黒い翼が、『運び屋』に引き揚げられたか、
『情報屋』はそれを見届けることは、無く――*]
あたしは――
[爆発の衝撃の中。
レーメフトの背が見えたなら――もしかしたらそれは届かぬかもしれぬが――手を伸ばす]
生きる《愛する》の。
――ここで。
[それは生死の狭間、刹那の間に見た永遠の夢。
天人は、堕ちて穢れた故に知ったのだ。
――生きる《死ぬ》理由を**]
―― カア ――
―― カア ――
[中空に響く、鳥の声。
カラスかハゲワシか、いずれにせよ奇形。
死体積れば集るもの、そういういきもの。
光が射しはしないが、明けゆく。
燃え上がらず燻る尸達の山で男は見遙かす。]
[片鎖の切れた馬銜の端から、どす黒い煙。
葉巻でも吹かす態で上向けば――
天空に舞う翼の黒さと融け合った。
尸に腰下ろすまま、振り返る。
眠る赤子を抱く女。…子守唄。
視界に確かめ、男は"頭巾"をかぶり直す。]
…
懐かしかったんだよ。
[何かへささやく。気安さの所以を。
遊ぶ双子。
思い出に出来ないものは、何処かへ眠る。
いずれ迎えに来るか引き揚げるかする…
*星の巡り音*]
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