[居場所がばれたと知れば、あとの行動は皆早かった。
それぞれがそれぞれの方法で店を抜け出し、この街を目指したろう。目的の、ミル・シティへと繋がる街――アン・シティへ]
ま。逃げそびれるようなおマヌケさんは居ないわよね。
[無事かどうかをいちいち確認するような間柄でも職業でもない。ただ当然と、そう呟くだけだ]
[憚ることなく、アン・シティ駅のホームへ降り立つ。
歌姫としての顔は知られすぎているから、変装はしている。簡単なものだが、下っ端警察官に気づかれることはないだろう**]
[女の支度は時間がかかる。
それが他人になりすます変装だとしても、同じ事だ。
先にゼロ・シティの店を抜け出せば、他の誰が何をしたのか――例えばウミが仕掛けた攪乱なども、当座知りようもない]
[セミロングの黒髪。
グレーのスーツ姿。
サングラスなどすればかえって目立つから、少しそばかすを効かせたメイクで印象をごまかして、アン・シティのメインストリートを歩く。
自分を探す人間がいるかどうかを見極めるには、全くの別人になってしまっては意味がない]
ハロー。
あら、ホワイトラビット。
[有名なアリアを流し始めたスマホをとる]
どうやってこの番号調べたの? プライベートなのに……って、ちょっと、大福食べながら電話しないでったら。
……。
そうね、居るわね。あっちもブラックキャットが狙いなのかと思ったけど、どうやら本命は私たちの方みたい。
[警察に追われている。
聞こえた忠告に、小さく頷く]
囮作戦……? ああ。
[ネギヤの言葉に小さく噴き出す]
悪いこと考えるわねえ。
[言えば惚けた答えが返ってきた]
いいわ。わかった。そうしましょ。じゃあね。
[通話を切る]
[通信をオフにして、すぐにひとつ、電話を掛ける]
DよりEへ。
一人生贄が出るわ。確実に掴まえてね。
[ごくごく短く、伝える。
本来なら電話などしなくとも、自分を見ている警察が、通話の内容も自分の行動も把握しているだろう。
だが自分の頭の仲間では解るまい。必要のない電話を掛ける意味を、知ろうともしないだろう]
[スマホに登録されている電話番号を呼び出す]
繋がるかしら、プロフェッサー。
[いささか昔のものだ。
セキュリティを気にしていれば、とうに使えなくても、おかしくない*]
[コール音は続くが応答がないスマホを一度切る。もし気が向けば向こうから連絡することも可能だろう]
ホワイトラビットはユウキって言っていたけど……
[スマホのダイヤル、別のものをコールする]
……私よ。
[呼び出した先が応答すれば、笑みが深くなる]
ええ。『大福』をばらまいてくれる?
とびきり美味しいっていう噂で良いわ。
[とある符丁を呟く。
ダイヤル先として示されているのは『ファンクラブ』だ**]