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相応の報い……って。
おい、何を……
[レンがダンケに告げる言葉に、スプレーを噴射しようとする仕草に、当惑したまま間に割って入ろうとしたが、間に合わず。
咳き込むダンケが話す内容を聞き]
……客? 望み、って。
何だよ、それ。ダンケさんが、殺人犯なのか?
レンが……それに関わってたのか?
なあ、どういう――
[零れる言葉は疑問ばかりで。ダンケが吐き出した黒い煙に、続けかけたそれを呑み込む。目を見開いた濡れた姿は、すぐに煙に包まれて]
……っ、……う……
ダン……
[肺に流れ込む煙に、酷くむせて、犯人なのだろうその名を呼び切る事も叶わなかった。遮られた視界で、おぼつかなく壁に触れる。
その言葉から、様子から、ダンケはもう死ぬ気でいるのだろうと、死んでしまうのだろうと、思われた。
レンは何をしていたか、何かを喋っていたか。どちらにしても、少し考える。レンが場に留まろうとしているのであれば、あるいは煙に迷っているのであれば、その手を引くべきだろうか、と]
……
[僅かな猶予での、やはり僅かな思案。手探りでレンの姿を探すと、その腕を掴み]
……行……っ、……ぞ、……
[咳き込みながら、途切れ途切れに告げ、掴んだ腕を引いて駆け出した。煙から離れようと。途中、幾つか窓を開けながら]
[ダイニングの辺りまで来て、足を止めた。ダンケのいるプレーチェの部屋から遠ざかるにつれ、段々と薄くなってきていた煙は、もう一切がなく、視界も鮮明で]
……ああ、やべえ。
なんか、体……重いん……だけど。
[室内を見渡しては、呟く。だるそうに時折咳き込みつつ。その腕は離さないまま、レンの方を見て]
……どういう、事なのか。
教えて、くれるか?
[見慣れたそれとは違う姿をしたレンに向けるのは、真剣な色を湛えた双眸。些か掠れた声で短く問い掛け、その返事を待った*]
……俺は此処にいる。
[レンに、その腕をしっかりと掴みながら応えた]
アンさんと……家族だった、のか。
[アンとの関係は、露にされた姿を見た事で予想ができていた。だが、続けて語られる内容は、全て考えもしていなかったもので]
……
[無言のまま、話を聞いていた。
復讐など――頭に過ぎったお決まりの台詞も、口にする事はできなかった。レン達の悲しみが、憎しみが、苦しみが、辛い決意が、わかったから。無実の者も巻き込む、正しいとは言えない行動だろうとは思いながらも、己が似たような境遇に陥ったとして、復讐の念に囚われないという自信はなかったから。
それ故に、肯定も否定も、発する事はなく]
……そうか。
[短く、ただ一言だけ、相槌を打った。
男は眉を僅かに下げて、微かに、しかし確かに悲しげな、やるせなげな表情をしていただろう]
え、……
[思いに暮れる中で少しだけ浮かんだ疑問は、すぐにレンから説明された。ぱちくりと]
一目惚れ、って。マジで?
てっきり間違いかなんかで呼ばれたのかと。
[驚きから、思わずいつものような調子で言い]
いや、怒りはしないって。……ん、や。
巻き込まれたってのは、怒るべきなんだろうけど……
なんつーか……うん。
まあ、俺は超イケメンだからな。……なーんて。
こんなんでがっかりされたかもなあ。
折角若いのに。……若かったのに。……
[冗談らしい言葉に続けたのは、男にはあまり似合わないだろう自虐の欠片と、沈んだ呟き。俯いて、拳を握り]
……レン?
レン。おい、……大丈夫か?
……って、俺もあんま、大丈夫じゃないかもだけど……
[虚空に――そこに死んだはずのアンがいるかのように――話しかけるレンを見て、はたと、困ったように問い掛けてから、また咳き込んだ。
男の声に、応える声はあったか。いつの間にか足元に来ていた猫が、にゃあ、と小さな声で鳴いた*]
[ミケは首を傾けてから、レンの手にすりよって]
え、俺以外だったら即懐くとか。なにそれショック。
マジで、出島、マジデジマ、な感じだし。
[その様子を見ながら、冗談らしく言ったのには、この状況を紛らすためというのもあったかもしれない]
だから俺はボケじゃないっての。
ってか……何だよ、どうしたんだよ。
そこに誰か……――アンが、いるのか?
[呟くように問いかけ――レンが血を吐いたのを見て、はっとした。傍らに片膝をついて座り]
大丈夫……じゃ、ないよな……
どうしたら……
ち、待ってろ、とりあえず、水取ってくるからな!
[どうするべきかもわからず。ただ大声で呼びかけて、レンの側を離れた。駆ける足取りは少々重たげに]
[やがて紙コップを二つ手にして戻ってくる。その片方には水が。片方には、ダンケの作った甘酒が。
ふいに、ダンケの遺した言葉と、甘いのが好きだと言っていたレンの言葉とを、思い出した故に。もしかしたら毒なのかもしれないとは考えたし――仇である相手の酒など、飲まないかとも思ったが。
それでも。水にしても、甘酒にしても、望むものを与えてやりたいという思いから]
……ほら、
[少しの眩暈を覚えながらも。レンの手の近くに紙コップを並べて置き、その側に座って*]
[指さされた紙コップをレンに差し出した。中身は――甘酒。それを、男は単なる甘酒だと思っていたが]
美味い?
[レンが甘酒を飲んだならそんな風に尋ねてみて]
……本当、どうすりゃいいんだか。
携帯は、持ってたな……忘れてたけど。
電波が届くとこまで行って……
[そこでごほごほと咳き込む。口元を押さえた掌には、微かに血が付着していた。うえ、と零し]
……その前に死んだりして、なあ。
したら、マジ俺どんだけーっつか。
見た目ただの遭難者? てか、マジ遭難したりして。
[独りごちながらも、男も甘酒を紙コップに注いで口にした。ダンケの言葉に込められていた裏の意味には気付かないまま、気合いを入れるために、偶然に。
何かとついていなかった男は、同時に何かとついている男でもあったのかもしれない]
……さて、と。
じゃ、行ってくる。……戻る前に、死んでるなよ?
[倒れるレンにそう告げると、男は山荘を後にした。嵐はいつの間にか過ぎ去り、外は静かな雨上がりの午後の様相を呈していた。弱くも眩しい光に目を細め]
……っし。
頑張れ、俺……!
[ぐ、と拳を握り締めると、山の中を駆け出した。嵐の後で、悪い足場に時々転びかけ、というか転びながらも。体調は先程以上には悪くならず、むしろ回復していっていた。その理由を男は知らなかったが]
……よ、しゃー!!
[<19>分程いった頃か、届いている携帯の電波に、泥と水で汚れた姿でガッツポーズをとった]
じゃあ、とにかく、早く電話を……
[と、携帯のボタンを指で押しかけて]
……
[木々の間から見える崖に、ふと、思い出したように胸ポケットに触れ、その中にあるそれを取り出した。
くすんだ真珠の付いた、銀の指輪]
……もう十年、なんだもんな。
[呟いては、崖の縁に歩み寄り]
[その手の内の指輪を崖の向こう、開けた空中に向かって投げた。指輪は超豪速球のように飛んでいき、すぐに消えて見えなくなる。それを確認してから、溜息を吐き、小さく笑った。どこか寂しげに、だが清々しげに]
じゃ、電話するか。
[そして、男は目的を果たした。……通話する途中で何かが背後を通った気がしたが、気にしない事にした。例のハリセンも山荘の部屋に忘れてきてたし。]
[男が山荘に戻ってきた時、レンの姿はそこにあったか。どこかに消えてしまっていたのかもしれない。
嵐の中で起きた嵐のような事件は、静かに終わっていく。静かとは程遠い性格の男を*残して*]
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