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......理由、知りたいなら、海に行くといいかも。
あそこに沈んでます、きっと...
[あの歌は、あの海の底から聞こえているから*]
[夏神という男と一緒に、海岸の方へと戻る道を歩き出す。
俺はもう、確信し始めていた。
「鍵」と「螺子」それが、人の中にあるのなら、それはきっと...]
[懐に手を入れた夏神の仕草に、自分の懐にある手紙を思って、俺は、なんとなく笑ってしまった。
ああ、多分そうなんだろう。
懐に隠したものは、捨てたくて捨てられなくて、忘れようとして、決して忘れられないもの]
俺はね、海と朝顔に思い出があるんだ。
[言葉は、隣の男に聞かせるためか、海の底に隠れる何かに向かって落とすのか、俺自身にも判らない]
好きな女に、初めて出会ったのが夏の海で......彼女の好きな花が朝顔だった。
[朝顔は、夜に見た夢を朝に咲かせる花のようだと言った彼女は、眩しいくらいに真っすぐに、自分の夢を追いかけていて......俺は]
俺は、意気地が無くて、彼女を攫って来れなかった。
[都会で、同じ専門学校に通って、彼女はデザイナーを、俺はメイクアップアーティストを目指して......でも、俺は自分の限界を見てしまった。
1人で田舎に帰る、と告げた時、彼女の見せた悲しげな顔は、今も忘れられない]
そらのあお うみのあお
あしたさくはな あおいはな
[俺は歌を口ずさむ、波間に聞こえる声に重ねて]
[絵描きで詩人だった男は、肖像を頼まれた資産家の娘と恋に落ちて、駆け落ちした後病に倒れて.........娘とは別れさせられたんだという。
けれど、それでも]
『それでもきっと、ずっと好きだったのよ。
逢いたいって、思ってたの』
[彼女は確信している顔で、俺に、そう言った。それはきっと命の消えた後までも、と*]
黒歴史?
[黒歴史てのは、正直意味不明だったけど、何かに納得したような顔と、だから探したくないと思った、という言葉は、なんとなく予想の範囲内だ]
もしかすると、ここに迷い込んだ人間は、みんな同じようなものなのかもって、思ったんだ。
[いつの間にか、言葉が外向けから、また素に戻っちまってるな......まあいいか]
で、あんた、今も同じかい?
[やっぱり、探したくないのか?と、聞いてみた。答えは無くてもかまやしないんだけどな。]
あはは、そりゃそーだ。
[知りたいなら、見なきゃダメだ。あったりまえの答えに俺は笑う]
しっかし、相手は海の底かあ、潜ってみるか?
[見つけようと、そう思った、けど、さて、どうするか、と波打ち際にしゃがみ込んだ。
綺麗な海だよな...水も澄んで、色とりどりの、朝顔が水底で揺れ......朝顔?]
さすがに非常識だなあ...
[ゆらゆらと海藻のように揺れる朝顔に、思わず呆れた声が出た*]
そうだな、なーんかここが現実じゃねえって、改めて判った気いするわ。
[今まで、そこんとこあんまり疑問に思わなかったのが不思議だけど、それは多分...]
え?
[ふいに、ゆらと水の中の朝顔が一斉に揺れた]
なん...え??
[突然しゅるしゅると、水の中から伸びてきた朝顔の蔓に、俺は腕を絡めとられて]
お......わあっ!?
[気付けば、海の中に、引き込まれていた]
そらのあお うみのあお
[歌が聞こえる。
不思議に、溺れるような苦しさはない。
ただあおの中、朝顔が揺れて...]
(泣いてるのか?)
[ぽう、とあかるい光が顔を照らした。懐の中に隠した手紙が、金色に光っている**]
[揺れるあおと朝顔の向こうで、うずくまるように泣いている娘がいる。]
『探さないで』
(どこにいるの)
『見つけないで』
(もういちどあいたい)
『だって、見つけられたら』
(あえたらきっと)
『また離れなければいけないから』
(ずっと いっしょに...)
[うん、わかるよ、俺にも判る。
でもきっと、そこにうずくまっていたら、だめなんだ]
[懐に入れた手の中に、固い感触がころりと落ちた。俺はそれを引っ張り出して、やっぱりな、と笑う]
(金の、螺子かあ...)
[螺子の放つ光に気付いたのか、うずくまっていた娘の顔がすこし上がったように見えた]
そらのあお うみのあお
[ふたつのあおが混ざり合えば、いつか海も空もひとつに......なる?**]
[海の藍に染まった鍵が空に浮かび、陽の光のような金色の光を放つ螺子が辺り照らして、やがて時は動き出す。]
会いに行こう。
[俺は、繋がった、そらとうみの底で、いつのまにか、立ち上がっていた娘に手を差し伸べた。
会いに行こう、君の会いたい人に、俺の、会いたい人に。]
きっと、それが、俺たちの最適解ってやつだろ?
[青い朝顔柄の浴衣を着た娘は、ふわり微笑んで光に溶けた。差し伸べた手には、深い青の朝顔の花一輪]
だいじょーぶ、生きてるぜー
[無事を問う夏神に、そう応えて、俺は朝顔を手に砂浜へと歩いて戻る。いつのまにか砂浜には人影が増えていた]
あんたらも、見つけたかい?最適解てやつ。
[答えはどうだったか、どちらにしても、俺の心は決まってた]
俺はそろそろ帰るよ。やんなきゃならないことが出来たしな。
ああ、もし、気が向いたら、ネットで「化粧師夏生」って検索してみてよ。そのうちブログに近況報告するからさ。
[じゃあな、と手にした朝顔を、挨拶代わりに振って…]
うっわあ、あっさりしてんなあ。
[気づけばもう、俺は美容室の前に居た。手の中には青い朝顔、うん、夢じゃない。]
よし!
[気合いを入れてまず最初にしたのは、懐の中の速達を引っ張り出して開くこと。そして]
ただいま、かーさん。俺、ちょっと明日店休んで出掛けてくるから。
[なんなの急に?と呆れ顔のお袋には構わず、朝顔をコップにいけて窓辺に飾る]
絵を見に行くんだ。
[速達で届けられたのは、ひとつの小さな新聞記事のコピー。長年行方知れずだった画家の絵が見つかったこと、それを記念する展示会が、明日から開かれること。
その場所は、絵が発見されたその建物。
若き日に、画家と駆け落ちしたという娘が、晩年を過ごしたという海辺の別荘だった]
あと、出来たら嫁さん連れて帰る。
きみをたづねて いつまでも**
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