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[返答の代わりに投げ付けた苦内。
無論、それに怯むような相手ではない。
キン、と軽い金属音と共に、苦内は弾き飛ばされ]
あぐぁああああ!!
[絶叫。
地を蹴った左脚、腿がぱっくりと割れ鮮血が飛沫く。
骨ごと断ち斬られなかったのは、先に投げた苦内が僅かに狙いを逸らせた証左か]
よ、くも、地上人、め……
[下ろしていた両腕を上げ、構え直して牽制に一発。
一閃が矢を弾き落とす間に、ふらりと舞い上がる。
力無い羽ばたきで距離を取ろうとするも、相手の手には長大なライフルがあった]
[右手に抜いた矢は四本。
その全てを弦に引っ掛けるように番え、聖痕に宿りし力を送り込む]
これは天より来たる有翼人の……崇高なる、使命。
[視界が霞み、狙いが定まらない。
しかし浄化の力が、矢の速度と威力を高め、何よりある程度の追尾性を持たせる。
それを同時に四つ――最大限に籠められた力が、昇り掛けの陽光にも等しい輝きを放つ]
邪魔をするならば――死ね!
[発射音が響き、白が数枚宙に舞う。
擦れ違うように四条の金色が、絡み合う螺旋を描き賞金稼ぎへ殺到した。
傾き、落下しつつある視界に、穴を穿ち肉を焼く浄化の光が見えた]
[――堕ちる。
ぎこちない受け身で転がり、仰向けになって静止するが、ライフル女からの追撃はない。
横目に見て、広がる血溜りの真ん中、彼女がもう動かぬ事を確認した]
――は、……
[ゆっくりと、胸の内の空気を吐き出す。
地面に展翅の如く広がった翼。
その左側に、ゆっくりと、紅色が染みつつあった*]
―街路―
[遠巻きなざわめきの中、しばらくは天を仰いで倒れていた。
異変に気付いたのは、聞こえて来た異様な音の所為]
[動かなくなった賞金稼ぎの腹を喰い破り、それは現れた。
天の楽園からは追放された、邪なるその生物の名は蛇]
ひっ……
[喉の奥から悲鳴を漏らして、まだ出血も止まらぬ体を必死に動かす。
蛇はこちらには見向きもせず、何処かへ引き寄せられるように這っていく。
動かぬ身を容易く越えられる障害物と判断したか、ぬめぬめとした感触が幾つも体を横断した]
来るんじゃ、ないわよ……。
[体の上の蛇を払い除け、立ち上がる。
持ち上げる事の出来ない左脚を引き摺り引き摺り、その場を離れようと。
白かった左の翼は、ゆっくりと真紅に浸食されつつあり、とても長時間羽ばたける状態ではなかった]
[いつしか蛇の大群も、その場を去ってしまった。
翼を穿たれた有翼人は、地を這うよりも鈍く歩むことしか出来ない]
…………
[その足も、ぴたと止める]
見られ、てる……?
[姿は見えずとも、突き刺し、或いは纏わりつくような視線を肌に感じる。
遥かな高みにあった時には、気に留めることもなかった視線]
近付くな……卑しき地上人ども……。
[低く、唸るような声で視線の主を遠ざける。
或いは、地と瀝青に塗れても尚、その姿は天よりの使者と見えていたのだろうか]
そうね……見た感じ、化け物ではなさそうだわ。
[相手の苦笑に気付けば視線を険しくするが、まだ弓を引く事はしない。
肩を竦め放たれた皮肉にも、激昂はせず]
それは良かったわ。
あたしには、この腕が動く限り、やらなきゃいけないことがあるから。
[賞金稼ぎにより斬り裂かれた場所が、腕でなかったのは幸運であった。
腕が動く限りはまだ、『此処にいる』理由を作れる]
あたしは、聖痕を与えられた。
選ばれし者、力持つ者の証として。
[自分でも驚くほど、饒舌に答えを返していた]
聖痕を持つ者は、地上へ降りねばならない。
楽園を穢されぬよう、穢れた者らを浄化するために。
でも――あたしは穢されてしまったわ。
だから、もっともっと浄化しなくちゃ!
[弓を左手に、矢を右手に、天を振り仰ぐ。
弓矢を番えてはいないものの、その動作は警戒する相手に如何なる印象を与えたか]
もっと穢れを祓わないと、あたしは天に帰れない――!
[口と目を大きく開いた、その表情は果たして笑っていたのだろうか。
――内心では気付いていた。
地上に降りて戦えば、必ず何処かで傷《穢れ》を負う。
つまり、自身に与えられた使命そのものが――]
雑魚が……力もない地上人が群れた所で、
[右手を着き体を起こす]
力を与えられし有翼人に勝てるものか!
[理由が偽りであろうとも、与えられた力は本物。
膝を着き腕のみで構えた姿勢でも、銃を放つ直前の相手を撃ち抜いた。
狙いの外れた銃声が天に放たれる]
はっ……さっきの片言女なら、とっくにあたしの胸に風穴開けてたわよ。
[一般人の手際の悪さを嘲って。
立ち上がり掛けた所に、黒い塊が投げ込まれる]
くっ!
[地面を蹴る。翼を振るう]
ぐ……っ
[引き千切れそうな痛みに脂汗が散った。
直後、爆風が下方から、有翼人の軽い身を吹き飛ばす]
[苦鳴を堪える男の全身を眺めはっとする。
右の足首から先がない。
並の人間にやられる程の男とは思えないが――]
つっ――
[触れていた右手に熱を感じ、反射的にびくりと離す。
その様を見て思わず恥じたような顔になるも、それについては何も言わず]
その、足……。
やはり、この街の人間に……?
[街の中に起きた異変。
それが男にも及んだのかと問う]
…………。
[笑わぬ瞳を向けられ、無言で壁際に至るまでレーメフトから離れる]
誰があんたごときに。
[弓を握り直し、眼差しを冷たいものへと変じて吐き捨てる]
このまま死ぬ訳にはいかない。
[背がぴったりと、支えとするかのように壁に着いている事には気付かない]
――何?
[窓辺へ寄る男に顔だけ向ける。
その視線の先に、求める標的がいるとも知らず]
あ、ちょっと!?
[窓枠を超える男を見て慌てて足を踏み出すも、激痛に呻き動きが一瞬止まる]
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